第44話

「…っ。ここは…」


明楽は目を覚ました。鎖で身体を縛られ身動きが取れない。暗い部屋に冷たい床。唯一ある小さな窓を見ると、夕方になっていた。手を動かそうにも、鎖が食い込んで動けない。すると、扉が開く鈍い音が響いた。


「目が覚めたかね?三日月さん」


谷川と工藤が入って来た。谷川の肩には、レイが乗っていた。


「久しぶりだね。元気にしていましたか?」


谷川の言葉に、明楽は無言で目を逸らした。その態度に、谷川は明楽の頬を叩いた。


「随分と生意気になりましたね…」


明楽は谷川を睨んだ。


「さて、ここへ来た理由…わかってるよね?」


「わからない…」


明楽は小さく答えた。すると、工藤が明楽を殴った。


「声が小さい!」


明楽の口が切れたのか、口から血を流した。


「わかる分けないでしょ」


震えながら答えた。


「工藤くん。一応、三日月さんは女だ。丁重に扱いなさい」


すると、谷川は明楽の頬を掴んだ。


「うっ…」


「さぁ、私に君の力の一部を譲りなさい」


すると、明楽は口角を上げた。


「無理よ…」


谷川は手を離した。


「は?どう言うことだ」


すると、レイが口を開いた。


「谷川。気づかなかったのか?ここへ連れてくるまで時間あったろう?」


「はぁ?どう言う…」


レイは明楽を睨んだ。


「お前…力の一部を誰かにもう譲ったな?」


その答えに明楽は頷いた。それに谷川は激怒した。


「お前を生かしたのは私だぞ…?お前は何をやってるんだ!」


明楽を蹴り続けた。


「ぐっ…」


明楽は必死に耐えた。疲れたのか、谷川は激怒蹴るのをやめた。


「はぁ…はぁ…」


すると、明楽が口を開いた。


「だったら…殺せばよかった…じゃない…?」


小さくそう言った。


「何を言う。お前の力さえあれば、世界を支配できる。それが欲しかっただけだ。お前を操り、この世の龍を全滅させ、安全な世界を気付き上げれると言うのに…」


明楽は鼻で笑った。


「安全な…世界…馬鹿げてる」


「君がそう思うなら、そう思ってなさい。さて…工藤くん」


谷川は工藤を見た。


「当てが外れてしまった。だが…追手が来ると思いますが…」


「はい。そこは大丈夫です。あと、あいつは俺一人でやらせてください」


「いいだろう」


谷川と工藤は部屋を出て行ったが、レイだけが明楽の前に出た。


「お前…誰と契約した?」


明楽は無言だった。痛みで歯を食いしばっていた。


「まぁ、いい。お前が決めたことだ。だが、いくらお前がそうしても、俺がいる限り俺がお前を操れるんだぞ?」


明楽は弱く答えた。


「先生たちに…あげるくらいなら、マシだと思った。それに、私を大切に…してくれる。そう思った」


「大切に…か…」


レイは考えた。自分はどうなのだろうと。すると、扉が開いた。


「レイ。早く来い」


谷川の呼びにレイは部屋を出た。扉が閉まる直前、レイは明楽をみた。


「レイ。準備をしてくるから、ここにいろ」


谷川と工藤は校長室をでた。


「…もう、いいか」


レイはどこか開き直った。そして、夕陽が沈むところを眺めた。


「まぁ、どいつもこいつも要らない。殺せばいいだけ」


そう言い、丸くなった。






深夜。静まり返った学校。柔らかい風が木々を鳴らした。月明かりがあたりを照らした。校門の前にある木々の影からクロが現れた。


「今夜は三日月か…」


そう呟き、校門に向かって歩いた。校門前で一度だちどまった。


「…待ってろ」


一歩足を踏み入れ、学校に入った。クロはポケットから、何かを地面に落として行った。広いグラウンドを歩いていると、向こうから誰かが歩いて来た。


「久しぶりだな。誘拐犯、クロ」


声で誰だかわかった。


「お前の方こそ、クソな事してるだろ。強姦野郎」


低い声でそう答えた。


「はぁ?なんのこと?俺はそんな事してません」


ヘラヘラと工藤は答えた。クロは工藤を睨んだ。


「以前、お前が雇ったであろうクズをめった斬りにした。その時に、そいつらがゲロった。お前の指示でやったって。教え子をレイプとか…お前、それでも教師か?」


すると工藤は笑った。


「三日月さん…いや。あいつはライダーだぞ。カースト下の奴だぞ。その扱いでいいじゃないか。勉強もできない、先生に反抗する。そのくらいしていいだろ。それにさ、あいつの龍が死んだ時あいつボロボロでさ。もう、笑いを堪えるのに必死だったよ」


クロは深く息を吸い、吐くと同時に工藤に接近した。


「お前みたいな奴は…死ぬ以前に地獄を味わう必要があるな!」


手甲鉤を工藤に向けた。すると、工藤は持っていたナイフで手甲鉤を受け止めた。


「でもさ、俺は強くなった。あの戦争の後、肉体を改造してな。まさか、またお前を殺せるチャンスが来るとはな!」


ナイフ一本でクロを弾き飛ばした。クロは飛ばされながらも、冷静にバランスをとり、着地した。


「改造じゃないだろ。ドーピングだろ」


クロは手甲鉤を構えた。


「でも、これで強くなれるんだ!」


今度は工藤が距離を詰め、激しい斬り合いが始まった。


「お前、弱いな。俺なんてナイフ一本だぜ?」


「チッ…」


ナイフ一本で、手甲鉤の攻撃を受けていた。すると、ナイフが手甲鉤の隙をついてクロのこめかみを切った。


「…!」


手甲鉤で工藤を弾き、距離を取った。


「あぁ…めんどくさい」


「昔は、俺はお前より弱かった。だが、あの戦争から立場が逆転したんだよ!」


また工藤が距離を詰めた。クロは考えた。弱点があるはずだと。工藤の素早いナイフ捌きをクロはなんとかかわして行った。


「ほらほら!夜は長いぜ!」


「お前、ドーピング歴何年だよ…」


隙を見て、工藤に足蹴りをしたがかわされた。


「あの戦争の時からだよ。もう、最高だぜ」


工藤の目つきがギラギラしていた。工藤のナイフの突きを手甲鉤で受け止めた。


「完全な薬中だな。でもな」


クロは唾を工藤の右目に目掛けて勢いよく吐いた。それは見事に命中した。


「ぐあ…」


目を押さえた隙に、クロは工藤のナイフを持っている腕を切った。


「なに!」


「お前は昔っから一方的なんだよ。特に、一人だと」


しかし、薬でイカれているのか腕を斬られても痛みを感じていなかった。


「今の俺は無敵!」


もう片方の手を地面に当てた。すると、地割れが発生した。クロは地割れを避けていった。


「はぁ…めんどくさい」


「今の俺は接近戦は無理だから、遠距離でお前を殺す!」


すると、割れた地面から巨大な手が伸びて来た。


「…!」


手はクロを捕まえようとして来た。


「ハハハッ!逃げても無駄!」


クロは地面を思いっきり走った。


「ここら辺に…」


そして、目的の物を手にした瞬間。巨大な手がクロを捕まえた。


「グゥ…」


「捕まえたぜ!」


巨大な手はクロを強く握り締めた。


「イッ…でもな…」


クロは手に握った物を強く握りつぶした。ガリっと高い音が響くと、巨大な手が崩れた。


「は?」


工藤は呆気に取られていると、工藤の影から無数の何かが伸びて来た。


「え!?」


逃げようにも、なぜか金縛りにあって逃げられない。無数の何かが工藤にしがみついた。


「はぁ…間に合ってよかった」


クロは工藤に近づいた。


「てめぇ…何を…」


「俺の唾付いただろ?。事前にコレに俺の血を塗った。まぁ、血でも唾でもなんでもいい。俺がピンチになった時に、俺の一部がついた相手を無力化する魔法だ。ただ、地面に一時的に置いておかないといけないのが難点だったが」


そう言うと、丸い種のようなものを見せた。


「そんな物、習った覚えは…」


「いやいや。コレは俺がお前を殺すために独自に開発したんだ…」


そう言うと、手甲鉤を構えた。


「あの時、お前にやられてからな。自暴自棄だったよ」


瞼を閉じ、目を見開くとサファイア色の瞳になっていた。


「お前…まさか…うっ…グァァッ!」


工藤は怯えた。それと同時に激しい激痛が工藤を襲った。薬が切れてしまった。工藤は雄叫びを上げた。


「だがな、俺は変われた。そして、守る者もできた。お前は変われなかった。むしろドン底に落ちた」


手甲鉤を振り上げた。


「あの戦争の借りを返そう」


「待て…謝るから…」


クロは工藤を豪快に切り裂いた。工藤は叫びながら地面に倒れた。


「俺はまだいい。だがな、自分の生徒に一生消えない傷をつけ、挙句に侮辱とは。腐ってる」


薄れていく意識の中、クロを見た。


「あ、言っとくがな。お前は死んでも苦しみを味わって貰うからな。地獄以上の…」


また瞼を閉じ、目を開けると元の色に戻っていた。クロは校舎を目指した。

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