第37話

「今日はここまで。みんな、気をつけて帰るんだぞ」


チャイムと共に、生徒は続々と帰っていった。


「工藤くん」


谷川が廊下に立っていた。工藤は生徒を見送り、谷川に近づいた。


「今日も君の生徒は元気ですな」


「はい。で、今日は?」


「実はな、レイが歪みの磁場を読み取れたと思うんだ」


工藤はわからなかった。


「どう言う事でしょうか」


「実は私にもわからないんだ。ただ、レイがあの時の歪みを見た途端気付いたそうだ。龍の特殊能力だと思う」


「ほう…」


「明日休みだろ?もう一度探しに行かないか?明日は日帰りだが」


工藤は少し考えた。


「確か、何もなかったと思います」


「ありがとう。明日はレイを自由に飛ばそうと思うだけだ。見つけたら見つけたらだが…」


谷川は廊下を歩いた。


「あの人も忙しい人だな。さて、最近動いてないからトレーニング行きますか。と、その前に…」


工藤は胸ポケットから容器を取り出した。蓋を開けると注射器があった。


「トレーニングする前にキメないとな…」


工藤は腕に注射を打った。


「あぁ…いい…」


工藤は学校を後にし、トレーニングセンターへ入った。工藤の目つきは異常だった。トレーニングマシンの重さをマックスにし、持ち上げた。


「まだだ…」


全てのマシンを終えると、地下へ歩いた。そこには、稽古場があり、複数人が稽古に励んでいた。


「誰だ?」


一人の男が工藤に話しかけた。


「とりあえず、全員かかってこい」


工藤は挑発した。すると、続々と男達が立ち上がった。


「今の俺は強いぜ…」


一斉に工藤に目掛けて襲いかかった。しかし、数分で工藤は全員を倒した。


「俺は短期で強くなれるタイプ。クロ…待ってろよ」


工藤はそう呟き、トレーニングセンターを後にした。




翌日、工藤は学校へ向かった。すると、上空にレイに乗った谷川が見えた。学校に到着し、谷川とレイの方へ歩いた。


「おはようございます」


「おはよう。昨日は派手に暴れたそうだな?」


谷川は工藤に注意した。


「すみません。ただ、あいつと戦闘になると思うと血が騒いじゃって…」


「まぁ、ほどほどにしてくださいよ。さて、行きましょうか」


谷川と工藤はレイに跨った。


「お前の勘が頼りだ。好きに飛べ」


「…チッ」


レイは嫌々飛んだ。


「今日は日帰りだ。レイが感じ取れなかったら、次回に持ち越しだ。ただ、今日見つけたら行こうと思っているんだ」


「ただ、帰りはどうするんですか?」


谷川はハッとした。


「あ…忘れてた…」


「でも、あの歪み自体発生後しばらく居続けるんですよね」


「じゃぁ、今回は見つけ次第タイムを測ってみましょう。突入は次回にしましょう。確実に三日月さんを捕獲し帰ってくるを目標にしましょう」


「そうですね」


レイはマイペースに飛んでいた。


「…感じない」


「焦らなくてもいい。不規則に出るものだ…」


すると、レイは何かを感じた。


「あん?」


レイは速度を上げた。


「工藤くん。しっかり捕まって」


「はい」


レイは一気に加速した。雲を抜けると、地上が霧で覆われていた。


「霧か…このまま上空を飛んでた方が…」


すると、飛んでいる目の前で歪みが現れた。


「あ…」


工藤はすぐにタイマーをスタートさせた。谷川は歪みを観察した。歪みは黒く渦を巻いていた。時折、何かの悲鳴が渦から聞こえた。


「空間の亀裂みたいな感じだな。恐ろしい…」


数分が経つと、歪みは消えていった。


「短いですね…」


「二分しか時間がないですね…」


「とりあえず今日が帰りましょう。レイ。よくやった」


レイはそのまま帰路の方向へ飛んだ。






深夜。明楽は眠れなかった。


「怖い…」


明楽は震えた。それに気づき、クロも起きた。


「大丈夫か?」


メガネをかけると、明楽は丸くなって震えていた。明楽の背中を優しく撫でた。


「クロ…ごめん。起こしてしまって。怖くて眠れない」


クロは明楽を優しく抱きしめ、頭を撫でた。


「大丈夫。俺がついているから」


「うん…」


しかし、明楽は眠れない。


「クロ…ごめん。温かい飲み物飲んでもいい?」


「もちろんだ。俺も喉が渇いていたから、一緒に飲もう」


明かりをつけ、明楽と一緒にキッチンへ向かった。


「ホットミルクがいいだろ?」


「うん」


鍋にミルクを入れ、温めた。


「今日はどうした?珍しいね」


「稽古で疲れているのに…」


「でも、そんな時もあるさ。気にするな」


マグカップにホットミルクを入れ、明楽に渡した。明楽は椅子に座り、ホットミルクを一口飲んだ。


「美味しい」


クロも明楽の横に座った。


「よかった」


明楽が落ち着いてることに、クロもホッとした。


「お父さん達が近づいてる感じがして…」


明楽は俯いた。クロは明楽の背中を撫でた。


「大丈夫だ。俺がいるからな」


「うん」


「寝れるか?」


クロの問いに、明楽は首を傾げた。


「うーん…」


「その様子だと眠れないだろ。よし。これ読むか」


そう言うと、クロはデスクへ向かった。そして、一冊のノートを取り出した。


「これ、読んでみるか?」


持ってきたノートは、アルバイトの日記だった。


「これ…この前言ってた、明楽さん?のところでバイトしてた日記?」


「そうだ。実は、明楽さん。この前夢に出てきてさ。久しぶりに読み返してたんだ」


明楽は日記をペラペラとめくったが、明楽さんが死ぬ手前のところに目を向けた。


「明楽さんって、クロが看取ったの?」


クロは少し悩んだ。


「看取ると言うんかな?うーん。言い方はわからないが、明楽さんがやりたかった事を叶えてたって言えばいいんかな?」


明楽は首を傾げた。


「どう言う事?」


「明楽さんは、苦しんで死にたくはないとおっしゃってたんです。でも、それを叔父さんに相談したら、それだけでいいか?となって、最後は明楽さんが喜んでくれるような事をして送りました。魔法は便利だが、とても怖かった」


クロは明楽の横に座った。


「もう瀕死状態だったから、明楽さんの魂に魔法で入り、いい思い出を作ってました。しかし、かなり強力で自分もあの世へ行くこともあるらしくて、おじさんの看守の元で送ったよ」


「そうだったんだ」


「と言っても思い出作りは一日していたと思ってたが、実際は一時間だけでさ。終わった後驚いたよ。明楽さんはもう冷たくなってたし」


クロは何処か寂しそうだった。


「明楽さんの事、好きだったの?」


明楽はクロに質問をした。それに対し、クロは悩んだ。


「好きと言うより、尊敬する人だな。だけど、今こうして守らないといけない人もできたし、明楽さんに言われたよ。もう一人の明楽をちゃんと守ってねって」


「そうだったんだ。クロって色々経験してるんだな…」


「まぁな。でも、あの時めちゃボロボロになっててさ。明楽さんを守るあまり戦闘に巻き込まれて怪我してさ。明楽さんを看取った次の日、大学の卒業式で大変だったよ」


「えぇ…」


明楽は引いていた。


「ほんと、あの時はしんどかった。で、卒業式から数日で戦争でまたボロボロ。あの時くらいだよ。死ぬほど追い込まれたの」


クロは大きくため息をついた。


「クロってさ、本当に優しいよね」


「そうか?」


「だって、日記読んでてさ。普通、好きでもない相手の介助とかスキンシップって難しくない?」


クロは少し悩んだ。


「普通はそうだろうな。だけど、その人が求めている事は基本答えたいが、俺のスタンス。それに、弱っていたら見離せない。だから、一度も明楽さんの事を恋愛対象で見た事はなかったな」


明楽はクロの事になんとなく理解した。


「優しい人だな…」


クロに寄りかかった。


「そろそろ眠くなったか?」


「うん。クロ。ありがとうね」


明楽の頭を撫でた。


「こっちこそ付き合ってくれてありがとうな」


二人はベットに入った。


「また、眠れなくなったら声変えていいぞ」


「うん。おやすみ」


「おやすみ。明楽」


二人は眠りについた。

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