第32話

目を覚ますと、ぼやけて何も見えなかった。メガネをかけると、横で明楽が寝息を立てていた。


「可愛いな」


明楽の頭を優しく撫でた。


「明楽さん…」


体を起こし、ベットから出た。着替えをし、机の上に置いてある本を手にした。


「明楽が起きるまで、読むとするか」


しばらくすると、明楽が体を起こした。


「クロ…?」


「お、起きたか。おはよう」


「おはよう…」


「ご飯食べるか?」


本を閉じ、明楽の方へ向かった。


「うん。ねむい…」


目を擦り、大きなあくびをした。


「明楽。今日は稽古しような」


明楽の横に座った。


「うん。あ、ナイフの斬り合いしたいな」


「あぁ、いいよ。相手するよ。その前に、ご飯食べるぞ」


フライパンに卵とベーコンを乗せ、カリカリになるまで焼き、トーストの上に乗せた。


「美味しそう。いただきます」


明楽はトーストにかぶりついた。


「美味しい」


「手抜きもしないとな」


クロはお茶を一口飲んだ。朝食を終え、食器を片付けた。


「クロ」


「どうした?」


明楽はクロを覗き込んだ。


「なんか、表情がいいなって」


「えぇ…いつもと同じだろ?」


「うーん。まぁいっか」


明楽は稽古の準備をした。


「絶対に守ってみせる…」


明楽を見つめながらそう思った。




稽古場に行き、クロは明楽にナイフを渡した。


「同じナイフでやろう。もちろん斬れるぞ。ルールはナイフ一本だけ使用可能。それ以外の武器の使用は禁止だが、打撃はやってもいいぞ」


稽古場の中央に立ち、明楽は構えた。一瞬静寂が走ったが、音もせずクロが飛び出した。明楽はナイフで受けた。


「チィッ!」


火花が飛び散り、ナイフと逆の手でクロの顔面を殴ろうとしたが、クロは横へ避けた。


「なかなかいい」


明楽も飛び出し、ナイフを向けるフリをしつつ、蹴りを回したがクロが手で止め、その足を掴んだ。


「やばい!」


抜け出そうにもクロの握力が強かった。


「吹き飛べ!」


クロは思いっきり明楽を投げた。明楽はとっさの判断で空中で回転し、激突の威力を弱めた。


「斬り合いと行こうか!」


クロが飛び出し、ナイフを向けてきた。明楽も応えるように、お互い一歩も譲れないナイフの斬り合いをした。


「明楽。強くなったな」


「クロの方が強すぎるわよ!」


斬り合いの隙に蹴りを入れても、クロは華麗にかわした。クロも殴り込みを入れたが明楽もかわした。


「避けれるようになったな」


何度も攻撃を仕掛けてきては、明楽は避けていった。譲らない戦いは数時間かかった。


「やってるねーって…」


ウルフが稽古場に行くと、クロと明楽は大の字に倒れていた。


「あんたたち。大丈夫?」


明楽に駆け寄ると、汗と湯気で体が熱かった。


「勝負が…決まらなくて…」


なんとかクロが体を起こした。


「ひさしぶりだ。こんなに夢中になったの」


上の服を脱ぎ、上半身裸になった。


「明楽。体が冷えるから、一緒に風呂入るぞ」


「はーい」


明楽もゆっくりと立ち上がった。


「もー。真剣になりすぎ!」


「夢中になってたんですよ…あはは…」


「で、ウルフはなぜここへ?」


「見にきただけ。だって部屋行ってもいなかったし」


三人はクロの部屋へ向かった。


「明楽ちゃん。強くなってた?」


「あぁ…強い。こんな短期間でここまで強くなった。すごいよ」


部屋に入ると、明楽は椅子に座った。ウルフはお茶を入れて、明楽に渡した。


「まだ息が上がってるから、ゆっくり飲んでね」


「ありがとうございます」


クロは浴槽にお湯を入れていた。


「私、そろそろ部屋戻るねー」


ウルフは部屋を出た。

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