第31話

「ほう…初めて白夜を見ました」


レイの背中に、谷川と工藤が乗っていた。


「にしても…寒いっすね…」


厚着をしていたが、工藤はガタガタ震えていた。


「歪みを調査するため…今世界中を回っているんですが。まだ、見つけれませんな」


レイは白い息を吐いた。


「いつまで飛べばいい?」


「そうですね。そろそろ休憩しましょうか。もうすぐ、街があるはずです。そこで休憩しましょうか」


街が近づくにつれ、吹雪がひどくなった。地面に着地し、レイは小さくなり谷川の肩に乗った。谷川と工藤は街へ歩いた。


「見えなくなる前に、急ぎましょう」


建物へ近づき、扉をノックした。しかし無反応だった。


「白夜だから、今は夜中と言うことですな…」


「なんか…人いない感じするんですが…」


工藤が心配し、谷川も辺りを見渡した。


「夜中ということも…」


谷川は不意にドアノブを回すと、扉が開いた。


「あ…」


中を見ると、使われていないのか、部屋全体霜だらけだった。


「これは…」


「工藤くん。入ってみましょう」


二人は中へ入った。外と変わらぬ寒さ。床を踏むたび新雪を踏んでいるかのような感覚になった。机の上や、棚などをみた。


「もう…数年使ってなさそうですな…」


工藤は机の上に置いてあった、霜だらけの本を手に取った。霜を拭き取ると、ここの家主らしき人の日記だった。中を開くと、霜で読みにくくなっている部分もあるが、かろうじて読める部分があった。


「谷川先生。これ…」


谷川も日記をみた。




…月…日


今日も広間に龍たちが挨拶に来てくれた。おはよう。龍たちは撫でて欲しいのか、顔を擦り寄せてくる。撫でてあげると、とても喜んだ。街の人が皆そうしている。言葉はわからないが、私は龍が好きだ。




…月…日


仕事で魚を取りに行ってる時に、吹雪に遭った。道がわからなく、迷子になり彷徨っていた。もうだめだ。そう思い、地面に座った。すると、吹雪が止んだ。そして、暖かい。顔を上げると、龍が顔を覗かせた。翼で私を吹雪から守ってくれた。ありがとう。額を撫でてあげると、龍は喜んだ。吹雪が止むまで龍は私を守ってくれた。吹雪が止むと、龍は飛び立って行った。目の前には街があった。近くまで来ていた事に驚いたが、龍には感謝。




どれも似たような文面だが、最後の日記は違った。




 …月三日


龍たちが突然いなくなった。朝、広間に龍たちが挨拶に来てくれてたのに。街のみんなが探しにいったが、見つからなかった。明日、奥の方へ探そう…




日記はここで終わった。


「これって」


「この辺りで人が襲われたと情報が入ってね。私を支持する人に殺処分させました。まさか、龍を支持している人達がいたとは。面白くない」


工藤は日記を閉じた。


「しかし谷川先生。なぜ人々がいなくなったんでしょうか…」


「そこは、わかりません。何か原因があるのか…」


すると、一気に吹雪が強くなった。建物が揺れ、冷気が隙間から容赦なく流れてきた。


「なんだ!?」


冷気が床を凍らせていた。


「さっきから寒かったんですよ!」


谷川が地面に手を置いた。すると、凍った床が一気に溶けていき、きた時以上に部屋が暖かくなった。


「なんですか。今の吹雪…」


「異常現象なのかも知れません。ただ、長居は厳禁みたいですね。次へ行きましょう。まだ空間の歪みを見つけられてないので」


吹雪が止んだ隙に、谷川と工藤はレイに跨り飛び立った。






夢を見た。


「クロ…ありがとう…」


クロは食器を洗っていた。しかし、自分の部屋ではなかった。


「どうしたんですか?」


顔を上げると、明楽ではない明楽がいた。そう。ここはもう一人の明楽の家だった。


「私の事、覚えていてくれて。嬉しいな」


顔色も良く、あの頃より綺麗に見えた。


「覚えていますよ。むしろ、忘れられません。あなたみたいな強い人、見たことがありません」


「クロったら。そうそう、あの世に行ってさ、死んだ仲間達に会えたんだ」


「よかったですね。そういえば、どうして私に会いに来たんですか?」


明楽はクロに近づいた。


「私を呼んだでしょ」


クロは少し考え、思い出した。


「あぁ…明楽さんにそっくりでつい…」


「あと、会いたいな思っただけ。久しぶりに。死んでないかなって」


「死んでたら、あの世で会えるじゃないですか」


「まぁね。でも、あの頃よりあなた成長したね」


「恐縮です」


明楽はクロの胸に手を置いた。


「もう一人の明楽。ちゃんと守ってね」


クロは明楽の手を握った。


「もちろんです」


明楽はニコッと笑った。


「また、夢だけどさ。会いにきていい?」


クロも笑顔になった。


「もちろんです。いつでも来てください」


明楽は去り際振り向いた。


「私の事、綺麗に扱ってくれてありがとう…」


そう言い残すと、あたり一面白くなった。

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