第29話

真夜中。明楽は夢を見た。


「やめて…」


暴行を受けている時だった。


「いい体だな…」


「もったいないよ」


複数の男達に激しい暴行で薄れていく意識の中叫んだ。


「やめて!」


明楽はそこで目が覚めた。呼吸も荒く、汗も酷かった。明楽は震えていた。明楽の声にクロも起きた。


「どうした?大丈夫か?」


「クロ…」


明楽は大声で泣いた。クロはそっと明楽を抱きしめた。


「怖い夢みたな。大丈夫」


明楽の頭を優しく撫でた。クロは明楽を落ち着かせるため、耳元で優しく歌を歌った。すると、明楽は落ち着きを取り戻し、震えが止まった。歌を歌い終え、明楽はしゃべった。


「あの時の暴行が…夢に出てきて…」


「怖かったな…ごめんな」


初めて明楽が悪夢でうなされた事に驚きつつ、明楽を守れなかった事で明楽に一生消えない傷を負わせた事に、謝ることしかできない自分に悔しかった。


「クロが謝ることはないよ。ごめんね。起こしてしまって」


「いや。こっちこそ守れなくてごめんな」


明楽を横に寝かせ、布団を掛けてあげた。


「横にいるから、安心していいぞ」


「ここにきて初めてかな。こんな悪夢にうなされるの…」


「安心して過ごしてる時に、奴らが明楽を狙いに本格的になってるからな。緊張が出たのかな」


クロは明楽の頭を撫でた。


「おやすみ。クロ」


「おやすみ。明楽」


明楽は深い眠りについた。




目を覚ますと、もう朝になっていた。メガネをかけ、明楽を見た。


「よく寝ているな」


優しく明楽の頭を撫でた。ゆっくり起き上がり、着替え席に着いた。


「どうしようかな…」


今日の予定について悩んだ。考えるのをやめ、手甲鉤を取り出した。


「手入れでもするか…って、刃がボロボロだな」


最近稽古でもぶつかり合う事が多いのか、かなり刃にダメージがあった。丁寧に研いで行き、磨き上げた。すると、明楽が起きた。


「クロ…?」


「お、起きたか。おはよう」


「おはよう」


「調子は大丈夫か?」


「うん」


明楽は目を擦っていた。


「今日の予定だが、稽古はお休みにしよう。その代わり、武器の手入れに当てようと思う」


明楽は軽く頷き、着替え、朝食の準備をした。クロがキッチンに来た。


「今日は何作るの?」


クロの問いに明楽は答えた。


「目玉焼きかな。パン焼く?ご飯にする?」


「ご飯もいいな。俺は米を洗うから、明楽は卵よろしく」


「うん」


二人で作る事で早く終わった。


「いただきます」


明楽は暖かいご飯を口に運んだ。


「美味しい」


「よかった」


夜中の事もあったのか、明楽は疲れているように見えた。


「クロ…ありがとう。今日は、どうしても稽古をお休みしたい気分だった」


「そんな時もあるさ。体調が良くても、調子が上がらない時もある。二人で武器の手入れしよう。警護は兵士がいる。大丈夫だ」


「うん」


「それにさ、遠慮しなくていい。負けず嫌いはわかるが、調子が乗らない時に稽古してもいい動きが出来るとは限らない。怪我するリスクも上がる。全然言ってくれていいよ」


「ありがとう」


明楽は安心していた。食器を片付け、明楽は刀を出した。


「二本とも、ボロボロ…」


「まぁ、最近ぶつかってたし。俺の手甲鉤もボロボロだったよ。いいメンテナンス日和だ」


砥石をもらい、明楽は刀を研いだ。


「クロー。おはよう」


ウルフが入ってきた。


「おはよう。どうした?」


「ウルフさん。おはようございます」


「明楽ちゃん。おはよう」


ウルフはクロに近づいた。


「暇だったから来た。珍しいね。武器のメンテナンス」


「ぶつかり合ってたんだ。俺の手甲鉤もボロボロだった」


「そういえば…前の手甲鉤どこやったの?」


ウルフの問いに明楽が声をかけた。


「クロの武器ってそういえば、その手甲鉤しか見た事ないですね」


クロは手甲鉤を見せた。刃が黒く、手の甲の部分には返しがついていた。


「これが、今使ってる手甲鉤だが」


クロは立ち上がった。明楽は研いだ手を止め、ウルフと一緒にクロについていった。部屋の奥に武器庫があった。そこの鍵を開けると、ナイフなどが収められていた。その中に一つだけ手甲鉤があった。シンプルな作りで、シルバーの刃に返しがついていなかった。


「これが初期に使ってた。あの戦争の後、今のを作った。これには世話になったが…」


所々欠けており、メリケン部分もすり減っていた。


「ワイヤーを引っ掛ける返しが欲しくて。今のを作った」


「接近戦得意ならさ。ナイフの斬り合いも得意んじゃない?」


ウルフの問いにクロは微妙な表情をした。


「ナイフ…最近触ってもない…」


「え…」


「だって、これだったらはめるだけでいいし。ナイフだと落とす事もあるだろ?弾き返された時に」


「でも…一回クロとガチでナイフの斬り合いやってみたいかも…」


明楽がモジモジと答えた。


「別に構わないが。勝負したいなら、いつでもいいぞ」


「じゃぁ、明日やりたい」


「いいぞ」


クロは武器庫に鍵をかけた。


「さて、武器の手入れの続きをするか」


「あー私も鞭に油入れないとな。自分の部屋でやるわ。じゃーね」


ウルフは部屋をでていった。

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