第21話
「失礼します」
真夜中の校長室に、工藤が入ってきた。
「どうしましたか?」
「いえ…減給処分中ですので、お金ないのできました」
「君にやる金はないが、君の同級生にルーマスって人いましたか」
工藤は少し考えた。
「あぁ。いましたよ。クロ・ルーマスですか。でも、あいつはあの戦争で死んだと思いますよ?」
「どうして言い切れる」
「あいつは俺に攻撃を仕掛けたんだが、何者かに射殺されました。俺は見ていました」
谷川は納得していなかった。
「もし、生きていたら…」
「生きていたら、俺が殺しますよ。あいつのせいで同級生を失ってしまったんだ。やり返したいですよ。今の俺はまた強くなった。あいつを超えてると思うので」
「そうですか」
谷川は大きなため息をついた。
「多分だ。あいつの甥がクロ・ルーマスだったら、灰色の世界や三日月さんの情報も知ってるはずだ。三日月さんを連れて行った犯人だったら、大変なことになる」
「ただの少女誘拐じゃないですか。最低野郎ですよね」
ふと、谷川は何かに閃いた。
「灰色の世界…この世とあの世の境目…もしや」
「なんですか?」
工藤は不思議そうに眺めた。
「死人を送ればいいんだ」
「はい?」
「君に頼みたいことがある。工藤くん。誰でもいい。人を集めて欲しい」
谷川は閃いた様に言った。
「灰色の世界は、生きてる人間は入れない世界だ。だが、死人なら行けれる」
「ですが、魂?がどこへ行くかわからないじゃないですか…」
少し沈黙が入った。
「あぁ…そうか…」
「それか、その世界へ我々が行けれる方法を探したほうが良さそうでは?数分だけでも」
谷川はまた悩んだ。
「はぁ…難しいですね…」
工藤は時計を見た。
「もう遅いので。では」
工藤は校長室を後にした。
「一時的にあの世へ行けれる方法…そういえば」
谷川はとある雑誌を探し、見つけた。
「聞いてみる価値あるな」
そこには、別世界への異動を簡単に出来ることを開発した人と書かれていた。
工藤は車に乗った。
「減給ほんときつい。最近物価高だし…」
エンジンをかけた。ラジオを入れ、車を走らせた。
「あいつ…生きてるんか?もし生きてたら絶対…」
“さて、君たちは異世界に行ってみたくないか?”
ラジオ番組が変わった。
「ん?」
“私は、異世界へ行く研究をしていました。この世界と何が違うのか。しかし、どうやって行くのか。研究までに数十年かかりました。もし、私の話にご興味があれば是非ご連絡を”
「明日校長に聞くのもありだな」
工藤は夜道を走った。
「明楽。姿勢が丸くなってるよ」
朝。明楽はルナに跨がり、クロの指導を受けていた。
「太ももでしっかり挟まないと、落馬するぞ」
ルナの早足の動きになかなか着いていけれなかった。
「っ…」
しかしバランスを崩し、明楽は落馬した。
「大丈夫か?」
クロが手を差し伸べた。
「大丈夫…」
「もう結構時間がたったから、今日はここまでにしよう」
明楽はルナに愛撫した。
「ありがとう」
ルナは鼻を鳴らした。馬具を外し、片付けた。
「明楽は偉いぞ」
「なんでですか?」
「努力してるからだ。乗馬って、すごく難しいんだ。馬にもよるし。それに、普段使わない筋肉を使うから、結構筋肉痛になるが…」
明楽は平気そうな顔をしていた。
「明楽は普通じゃないんだった…」
明楽は可愛くテヘッとした。
「朝食にするぞ」
「うん!」
クロは早速調理した。
「今日の朝ごはんは何ですか?」
「今日は、オムレツだ」
卵をかき混ぜ、フライパンにさっと入れ巻いた。皿に盛り、ケチャップをかけた。明楽はパンを出し、皿に置いた。
「冷めないうちに食べよう」
「いただきます」
クロのオムレツはトロフワで美味しい。
「うま…」
「よかった」
クロはお茶を飲んだ。すると、カラスが窓に止まった。
「ん?」
クロは立ち上がり、窓を開きカラスを入れた。カラスはクロの肩に上り、耳元でクチバシを動かした。
「そうか…わかった」
カラスにオヤツを与えた。
「明楽…」
「なに?」
「急なことでもないが明日、城に戻る事になった。まだここに居たいか?」
明楽は少し考えた。
「ううん。大丈夫。私のやりたかった事はもう終わったから」
「ごめんな。その代わり、今日は明楽の好きなように過ごしていいぞ」
「えぇー。特にないんだよな…」
明楽は食器を片付けた。
「あ、でも…」
「でも?」
クロは首を傾げた。
「夜って、外出ダメですよね。クロを乗せて飛んでみたいなって」
クロは驚いた。
「え!いいのか?」
「え…だって、姿は見せたことあるけど、乗せたことないじゃん?てか、人を乗せて飛んだことが無いんですよね…」
クロは考えた。
「できなくは無い。ただ、長時間はできない。持って一時間だがいいか?」
「うん!十分!」
明楽は笑顔で答えた。
「わかった。明楽。夜頼むぞ」
「うん!だけど、クロ…」
明楽はナイトの鞍を魔法で出した。鞍には、ナイトの血だと思う血痕がついていた。
「これは…」
「ナイトの鞍。もうボロボロでさ。私には合わないの。裸で乗る?」
「龍の鱗は硬いと言われているから、皮膚が裂ける恐れがある。明楽の鞍作るぞ?ナイトの鞍を参考にして」
「できるの?」
「この前の振袖と同じように作れるよ」
そう言うと、クロはデザインを描いた。
「形は…こんなのでどうだ?」
見せてもらうと、ナイトの鞍よりしっかりとした形のデザインが描いてあった。胸当てと肩当ての所には三日月が書いてあった。
「カラーはまだだが、どうだ?」
「すごい…」
「そして、鞍につけるゼッケンもっと」
ゼッケンにも三日月が描かれていた。
「明楽。色はどうしたい?」
「色…クロに任せるよ」
「わかった。じゃぁ…」
クロは色を塗り始めた。濃いブラウンの鞍に、三日月は明楽の額と同じ青色。ゼッケンは白色だった。
「クロってほんとすごいよね…」
「全然だよ。ただ、明楽が三日月龍になって鞍をつけるときに、苦しく無いようにとか、飛行の妨げにならないようにしないとなーて」
クロは色を塗り終えた。
「できた」
「夜が楽しみだな」
クロは振袖の時と同じように、デザインに呪文を書いた。
「明楽…多分大きいから離れてろ」
デザインを地面に置き、唱えた。すると、デザインが光だし少しずつ出てきた。
「え…でか…」
少し時間がかかったが、全部出てくるとナイトの鞍の二倍の大きさの鞍とゼッケンが出てきた。
「ナイトの鞍は小さいってことは、このくらいのサイズが明楽にはピッタリだと思う。ベルトの調節がしやすいから、大きくなっても長く使えれる鞍だ」
明楽は鞍を持ち上げると、意外と軽かった。
「軽!」
「軽量型の方がいいだろ?」
「うん!ありがとう。クロ」
「明楽の事だ。明楽の負担にはなってほしく無いしな。さて、まだ時間はあるが」
クロは鞍を片付けた。
「一緒にお昼寝したい」
明楽の発言に、クロは驚いた。
「ん!お昼寝!?」
「ダメ?」
「急にどうした…」
「朝からルナに乗ってたら、ちょっと疲れちゃった」
二人は寝室に向かった。
「初めてじゃ無いか?二人で昼寝って」
「ですよね…それに、私が寝ていてもクロは本ばっか読んでるじゃん」
ベットに横になると、クロは大きく息を吐いた。
「読書は趣味や勉強のこともある。兵士の束ね方や龍の事。医療系も本を読んで学ぶことがいっぱいあるんだ」
「クロって、すごいよね。なんでもできるの」
「でも、こうやって明楽と一緒に寝るの、俺は好きだな。落ち着くんだよ。隣で安心して眠ってる明楽みてたら、今日も守れたって」
クロはメガネを外した。
「さて、昼寝するか」
「うん…手を繋いでいい?」
「いいぞ」
明楽はクロの手を繋いだ。疲れが出てきたのか、睡魔に勝てず眠ってしまった。
あっという間に夜が来た。
「クロ…?」
明楽は目を覚ますと、横でクロはまだ眠っていた。
「疲れてるんかな?」
すると、クロが目を覚ました。
「もう暗いな…」
クロは明楽を見た。
「起きたか」
「うん。クロ。飛ぼ?」
クロは明楽の頭を撫でた。
「頼むぞ」
身支度を整え、玄関に立った。
「明楽。ここから出たら、影が襲ってくる。そうならないように、今から俺と明楽にシールドを貼る。だが、結構体力使うから持って一時間が限度だ」
「わかった」
クロは呪文を唱えた。すると、大きな泡が下から出てきて二人を包んだ。そして密着し消えた。
「これでよし」
クロはドアを開けた。地面を踏んだが何もならない。
「今度、特訓がてら影と戦うか?」
「今度ね。今日は空を飛ぶから」
そう言うと、明楽は鉢巻を解き月に祈った。すると、明楽の体が輝き三日月龍の姿へと変わっていった。明楽は月に向かって鳴いた。その鳴き声はまるで癒しを与えるような声だった。
「どう…?」
明楽は翼を軽く広げた。クロは初めて三日月龍としての明楽の身体を触った。
「魚でもない、サメでもない。すごく硬い鱗で覆われてるな」
クロは明楽にゼッケンと鞍をつけた。胸当てと肩当ての三日月がよく似合っていた。
「どうだ?」
「苦しくない。軽いから、動きやすいかも」
クロは明楽に跨った。
「すごい…」
翼や腕の動きが鞍ごしでも伝わった。
「しっかり捕まってて」
クロは鞍の持ち手を握った。明楽は翼を大きく広げ、後ろ足を思いっきり蹴った。
「うっ…」
あまりの衝撃に、クロは必死にしがみついた。翼を水平に保ち、上空を安定して飛んだ。
「どう?」
明楽の問いに、クロは唖然としていた。
「すごい…俺…夢だったんだ」
明楽は鼻を鳴らした。
「明楽。ありがとう。昔から、龍と空を飛ぶのが夢だったんだ。俺は幸せだ」
明楽の首を撫でた。
「どういたしまして。もっと楽しんで!」
明楽は小さく鳴いた。
「明楽。いいか?」
クロは歌った。あの時に歌った歌を。明楽は徐々に心が癒やされていくのを感じた。
「クロ。素敵ね」
歌が終わりに近づくと、元の場所に近づいていった。明楽は静かの着地をし、クロを下ろした。明楽はゴロゴロと喉を鳴らし、鼻先をクロに近づけた。
「明楽。ありがとう」
明楽の鼻先を撫でた。
「クロが喜んでくれてよかった」
ゼッケンと鞍を外すと、明楽は光と共に人間の姿へ変えた。
「明楽。戻ろうか。そろそろ限界だ」
「ありがとう」
部屋に戻り、シールドを解くとクロは糸が切れた人形の用にベットに倒れた。
「クロ!?」
「すまん。これ、本当に体力使うんだ。一晩寝れば大丈夫だ」
体を起こそうにも、石のように重く無理だった。
「ごめんね…」
「いや。むしろ貴重な体験をしたんだ」
睡魔がクロを襲った。
「明楽…ダメだ」
「うん。無理しないで」
クロは眠ってしまった。明楽もクロの横に入った。
「おやすみなさい。クロ」
明楽も眠った。
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