第22話
クロは夢を見ていた。大学一年の頃の夢だった。
「龍とは危険な存在!」
廊下を歩いていると、授業中の教室から声が聞こえた。
「人を襲い危害を加える!ましてやライダーなんて一般市民を…」
すると、ライトがクロの方に向かってきた。
「クロ。探してたぞ」
「叔父さん。あの方は…」
ライトは寂しそうな表情で授業を見ていた。
「あぁ、我々の考えを否定しておる先生じゃ。さ、こっちへ来なさい」
ライトの後を追った。ライトは自分の教授室に入った。
「普段は生徒の立ち入りは禁止だが、君だけはアポさえ取ればいつでも来ていいぞ」
「ありがとうございます」
クロは椅子に座った。叔父さんの教授室はクロにとって憧れだった。龍の模型や本などがたくさん置いてあった。
「クロ」
ライトはクロにお茶を渡した。
「まさか、封印学部に行くとは思ってもなかったよ」
ライトも椅子に座り、お茶を飲んだ。
「俺…あの子の事が気になってるんです。もし俺にも何かできる事があればって。それにこの大学は、他の学部の授業も受ける事ができるので、叔父さんの授業も行きますし、医療系も勉強しようと思っています」
「クロは本当に勉強が得意だよな。あと、あの子は私が主体で見守っている。だから、無理をすることはない」
クロはお茶を一口飲んだ。
「わかってます。基本は大学優先しますよ。社会勉強もしたいので、四年生になったら短期のバイトもしてみたいと思ってます」
「うむ。いい心構えだ。クロ…」
「はい?」
ライトは立ち上がり、クロの肩に手を置いた。
「君が立派に育った事に、私は誇りを思うよ。これからも、頑張ってな」
「はい!」
クロは元気に返事をした。
目を開けると、あたりがぼやけて見えた。
「もう朝か…」
メガネをかけ横を見ると、明楽がいなかった。
「明楽?」
すると、奥の方で何かを焼く音がした。ベットから出て、音のする方に向かった。
「おはよう。クロ」
明楽はフライパンで何かを焼いていた。
「おはよう。昨日はごめんな。あと、楽しかったぞ」
「気絶したように眠ってたよ?大丈夫?」
明楽は皿に焼いた何かを乗せた。
「あぁ、大丈夫。ところで…これは?」
クロは不思議そうに見た。
「ん?お肉にかぶりつきたいなって思って、チキンステーキ作ってた」
朝から…重い…。
クロは心で思った。
「この前丸鳥食べたばかりだが。どれどれ…」
クロはフォークとナイフで食べた。
「柔らか…丸鳥の時と違う…」
明楽も座り、ステーキを食べた。
「うまぁ…」
幸せそうに食べていた。
「明楽って、料理うまいな」
「クロには敵わないよ。でも、クロと料理するのも楽しくて好き」
「よかった…そういえば…」
「なに?」
「俺らの距離さ、縮んでるよな」
クロが顔を真っ赤にした。
「え…」
明楽も顔が真っ赤になった。
「最近さ。もう恋人関係みたいだなって。この部屋にきてから、何処にでもいる同棲カップルだよな…」
「う…うん。それに…ね?」
明楽はもじもじと答えた。
「あぁ…でも、俺さ。面と向かって明楽に言ってないな。明楽の力の一部をもらって、明楽と楽しい時間を過ごしてるのに、明楽の事が好きって言葉を言ってないなって…多分」
明楽は首を傾げた。
「そう?クロの行動が好きを表してると思うよ。私は、クロのことが好きだから、あなたに力の一部をあげた。人間を好きになったのがクロとウルフさんがきっかけだけど…人を愛するって思ったのはクロだけだよ…」
少し沈黙になった。
「私は、クロが好きだよ。ライダーとしても、恋人としても」
「俺も、明楽が好きだ。人間の姿も、三日月龍の姿も大好きだ」
明楽は笑顔になった。
「私達、朝から何言ってるんよ」
「ほんとそうだな…ごめんな」
「ううん。クロ。これからもよろしくね」
クロも笑顔になった。
「俺のほうこそ、よろしくな」
「さて、片付けて城へ戻るんでしょ?」
「そうだった。忘れてたよ。明楽。またこの部屋に来ような」
「うん!」
二人は片付けと身支度を済ませ、玄関を出た。
「ルナの馬装を頼むよ」
「うん」
明楽は手際良く馬装を整えた。
「それじゃ、帰ろうか」
「うん」
二人を乗せ、ルナは走り出した。
「あ、見えた。おかえりー」
ウルフが城の入り口で待っていた。
「ただいま戻りました」
「ごめんね。休みだったのに」
ウルフはルナの手綱を持った。二人が降りると兵士が現れ、ルナを連れて行った。
「いえいえ。とてもリフレッシュできました」
「ウルフ。何があったんだ?」
「大したことじゃないんだけど、実は…とりあえず部屋にきて」
三人は城へ入って行った。
「この本が出てきたんだ…図書室から」
ウルフは古い本をクロに渡した。埃が被っており、はらってあげると三日月龍と書かれていた。
「これ…叔父さんの本じゃない」
クロは席に座り、本を開いた。
「叔父さんが作った本は手作りだが、これも手作りだ…でも、字が違う。誰が書いたんだ?」
「三日月龍を研究してた人が、過去にいるってことよね?」
明楽はよくわからなかった。
「あの…三日月龍って、昔から居るってのは聞いたことあるんですが、なんで研究?生態?が不明なことが多いんですか?私が言うのもアレですが…」
「うーんどういえばいいかな…」
クロは頭を掻いた。
「龍自体を研究する事が少ないんだ。理由はわからないが、凶暴性と危険性があるからだと思う。ライダーなら、自分の龍を研究できるが…やりたくないだろ。自分の龍を実験体にするなんてあんまり考えない。ましてや、何かがあったらお互いに死ぬ事にもなる。他の龍のライダーとしての契約はその種族によって違うが、三日月龍はどっちかが死ぬと相手も死ぬから、明楽を実験体にはしたくはない」
「そうなんだ…」
「でも、この三日月龍についての本は…誰が書いたんだ?」
クロは隅々までみると、古い文字があった。
「ルーマス…」
「クロの先祖?」
「上は読めないが、ルーマスは読める」
クロはペラペラと本をめくった。
「書いてある内容は、叔父さんと変わらないが…ビクター?」
「ん?」
明楽とウルフは覗き見した。
「このルーマスさん。オスの三日月龍のライダーにはなってないが、仲を共にしたと書いてある。三日月龍の名前がビクター」
「へー」
「三日月龍って、結構難しいのかな…私が言うのもアレですが」
クロは本を閉じた。
「明楽は人間として生きているから、三日月龍の群れとしての生き方を学んでないから仕方がない」
「でも、なんでこんな本が図書室に?この城建てたの、ライトさんだし…」
「たまたまおじさんが見つけて、ここに保管してたんだろう」
クロは本を引き出しにしまった。
「もう遅い。夕飯にしよう」
「そうだね」
「明楽。手伝ってくれるか?」
「うん!」
二人で夕飯を作るった。ウルフはそんな二人を後ろから見ていた。
「もう…二人ったら。いいコンビね」
ウルフは優しく二人を見ていた。
「せっかくの休み、本当にごめんね」
ウルフは夕飯中に明楽とクロに謝った。
「別にいいですよ。クロとの時間を過ごせれたし」
「ウルフは何してたんだ?」
ウルフはニヤッと笑った。
「趣味…よ?ウフッ」
悪魔のような怖い笑みだった。
「で、二人は何してたの?イチャイチャしてたの?」
明楽とクロは顔を赤くした。
「なんで黙るのよー。あんた達顔真っ赤よ。何してたのー」
ウルフが詰め寄ってきた。
「アハハ…」
「ウルフ。飯早く食え」
クロは黙々とご飯を食べた。
「えー。聞かせてよー」
「ウルフさん。クロから実は…」
「なになに?」
「鞍作ってもらったんです。クロ。ウルフさんに見せてあげて」
「あぁ。それならいいぞ」
そう言うと、クロは明楽の鞍を出した。
「意外と大きいわね。でも、明楽ちゃんがそれだけ成長した証だね」
「乗り心地も最高だったよ」
「え!乗ったの!?」
ウルフは驚いた。
「ウルフさんにも、今度乗せますよ。いつもお世話になってるし、感謝しているので」
「明楽ちゃん…あんなにちっちゃかったのに。もうこんなに立派になって…」
ウルフは感動していた。
「私さ、生きている時に感謝なんてされた事なかったわ。明楽ちゃん。ありがとう」
ウルフは明楽を抱きしめた。
「ウルフさん…私のほうこそ、ありがとうございます」
女子二人が抱き合ってる横で、クロは優しく見守った。
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