第19話

真夜中。レイはハッと目が覚めた。何かが起こったと思った。でも、よくわからなかった。体を起こし、大きな翼を広げた。庭を歩き、飲み水の池で喉を潤した。


「あいつ…こんな綺麗な月の下でも、一人で飛んでいたな」


レイは月を見て、懐かしそうにしていた。すると、風が吹いてきた。


「もうすぐ冬か…」


レイは寝床へ歩き、丸くなった。






夢を見た。


「またここに来たのか…」


満点の夜空の下を明楽は歩いた。どのくらい歩いただろう。向こうにまた人影が見えた。


「今度こそ…」


明楽は走り、人影の所へ近づいた。すると、明楽の方を向いた。


「大きくなったな…」


男の声が聞こえた。


「え…?」


明楽は男を見た。白髪のメガネの人。どことなくクロに似ていた。


「あなたは…」


男は優しい表情で明楽を見た。すると、男の背後から銀色の大きい翼が出てきた。


「っ…!」


そして、三日月が入った大きな顔を出し、サファイアの様に輝く瞳で明楽を見た。


「明楽。クロをよろしくな」


男は背を向けた


「待って!あなたは…」


男は立ち止まり、明楽の方に振り向いた。


「私は、ライトだ」


そう言うと、光に包まれた。




「う…うん…」


明楽は目を覚ました。陽の光が眩しい。


「クロ…?」


すると、遠くから音楽が流れていた。それと同時に、人ではない足音が外から聞こえた。明楽はベットから出て、玄関を開けた。


「おはようございます…」


明楽がそう言うと、ルナに乗っていたクロがルナを止めた。


「起きたか。おはよう」


「何やってるんですか?」


「馬場馬術の練習だ。たまには昔の大会を思い出して、動かしてみたいと思って」


クロはルナの首を愛撫した。


「見てみたいな」


「いいぞ?ルナ。頑張れるか?」


その声に、ルナは鼻を鳴らした。


「よし。じゃぁ、定位置に着くから、着いたらそこのレコーダーに針を入れて欲しい」


明楽はレコーダーの方に行った。ルナは定位置に到着した。


「じゃぁ、音楽鳴らしてくれ」


明楽は針を落とした。すると、音楽に合わせてルナはクロの指示の元、軽やかな足捌きをした。


「馬って、こんな動きするの!?」


明楽は驚いた。数分の出来事だが、曲がゆっくりになればそれに合わせた足取りで動く。激しくなると、力強い動きになる。人馬一体集中して演技をした。


「ふぅ。よくやった」


また愛撫をした。


「すごい…」


クロがルナから降り、馬具を外した。


「馬も、悪くはないだろ?」


馬具から解放されたルナは、砂浴びをし、またどこかへ走り去った。


「いつもの事だ。朝食にしよう」


馬具を片付け、クロは朝食の準備をした。


「手伝えることある?」


「じゃ、食器の準備頼むよ」


明楽はサラとコップを並べ、箸とフォークも準備した。


「今日は簡単だがいいか?」


「うん。充分」


クロは皿に目玉焼きとベーコンを乗せた。明楽はコップにお茶を入れ、パンを出した。


「食べようか」


「いただきます」


明楽はパンを食べた。


「そういえば明楽。今日クリスマスイブなんだ」


クロがお茶を飲んだ。


「なんですか?イベントですか?」


「知らないのか?」


「うん…」


クロは少し驚いたが、簡単に説明した。


「まぁ、俺も詳しくは知らないが。木をデコレーションしたり、丸鳥やケーキなどみんなで食べる行事だ。で、みんなでプレゼント交換なんかもして、とても楽しいんだぞ」


「へー」


「よかったら、ケーキ一緒に作るか?」


「いいの?」


「もちろん。得意分野だ」


朝食を済ませ、食器を片付けた。


「よし。じゃぁ、明楽は何味食べたい?」


「何味って?」


クロは一瞬何言ってるんだ?と思った。


「あぁ…じゃぁ、俺がチョイスするよ」


そう言うと、果物を出してきた。


「ベリーとかオレンジなどあるが」


「全部食べれるから大丈夫」


「わかった」


それらを食べやすいサイズにカットしていった。


「明楽。生地作るから、粉をふるってほしい」


「なんで?」


「粉がダマになって混ざらないんだ。だからふるっておく事で、ダマ防止にもなるし、混ざりやすくなるんだ」


粉の分量を測り、ふるいにかけた。卵と牛乳も測り、粉と混ぜていった。型に生地を流し込み、オーブンに入れた。


「その間に、クリーム作るぞ。明楽は生クリームを泡立ててくれ」


そう言うと、ボウルに生クリームを入れ、泡立て機を明楽にわたした。


「頑張って!」


明楽は必死に泡立てた。


「クロ…ケーキ作るのって大変なんだね」


「そうだよ?」


なんとか泡立てた。明楽はヘロヘロだった。


「おつかれ」


「クロって、すごいね。なんでもできるじゃん」


明楽は椅子に座った。


「ガキの頃からしてたからなー」


泡立てたクリームを冷蔵庫に入れた。クロは切った果物の一部を片手で絞った。


「え…そうするの…」


「洗い物増やしたくない」


氷をコップにいれ、絞った果汁を入れ、明楽に渡した。


「酸っぱい!」


かなりの酸っぱさに、明楽は目を見開いた。


「そうか?それだけ新鮮ってことじゃ…」


「まだ果物が若いんじゃ」


そうしているうちに、ケーキが焼き上がった。クロが取り出し、冷ました。


「いい匂い」


「冷ましてあげないと、クリームがダメになってしまうんだ」


「そうなんだ」


「だから、ケーキはほぼ一日作業になるんだ」


クロはベットに向かった。


「ちょっと休むわ。朝からルナに乗ってたから」


クロはベットに横になった。明楽も横に座った。


「どうした?」


「いや。一人でいるのが寂しかったから」


「ふーん」


クロは起き上がり、明楽の横に座った。


「明楽って、寂しがり屋だよな」


「うん。一人っきりになったの、ナイトが死んだあの晩と、治療中の時だけだったな。夜もそのくらい。こっちにきてクロと一緒に寝てたけど、クロのご両親との戦いでクロが怪我したじゃん?あの時、久々に一人で寝てたけど、眠れたけど寂しかったな」


「ごめんな」


明楽の頭を撫でた。


「あ、そういえば」


明楽は思い出した様に言った。


「ライトさんに会った。夢で」


「え!?」


クロは驚いた。


「でも、クロをよろしくなってだけ言っていました」


「そうか…」


「ライトさんの背後に、多分ですが私と一緒の三日月龍いたんです」


「それは多分。明楽のお母さん、シルビアだと思う。叔父さん、シルビアと一緒に居るんだ…よかった」


クロはどこか安堵していた。


「そろそろ粗熱取れた頃かな?明楽。冷蔵庫に入れてくれないか?」


明楽はケーキ生地の粗熱を確認し、冷蔵庫に入れた。


「だいぶ冷めてたよ」


「ありがとう」


明楽はクロの横に座った。クロは明楽を優しく抱きしめた。


「怖いなら無理にしない。お互いがいい思い出になる様な時間にしたい」


明楽はクロの方に向き、クロを抱きしめた。


「私…醜い体だよ?」


クロは一瞬不思議がった。明楽をベットに寝かせた。


「明楽は美しいよ」


クロと明楽は熱いキスをした。クロは片手で明楽の着物を少しずつ脱がした。すると、胸にあの赤黒い痣があった。


「この痣、目立つよね…ナイトと最後の朝に出来てたの」


明楽は悲しそうに言った。


「そうだったのか。明楽を治療した時に見たんだけど、大きくもなってないし、形も変わっていない。それに、この痣は明楽のお父さん、レイの証だからなくなることはまずない」


明楽は驚いたが、納得もしていた。


「だからあの時…」


「でも、俺は気にしない。俺なんて、背中に大きな傷跡が残っている。それに、痣があるからって醜いって思わないよ。逆に、明楽の体が美しい」


明楽の首筋にキスをした。


「明楽。綺麗だ。俺を選んでくれて、ありがとう」


明楽の耳元で囁いた。


「クロ。私の体、あなたに預けるわ」


明楽はクロをぎゅっと抱きしめた。


「明楽。この時間を幸せにしてやるよ」


明楽はクロのエスコートで幸せに満ちた時間をすごした。

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