第18話
稽古場では、木刀のぶつかり合う音が響いた。
「くっ…」
「まだ行けるだろ!」
クロが激しくぶつかってきた。
「負けてたまるか…」
明楽は何とか抑えた。
「やるじゃん」
クロは蹴りを入れようとしたが、明楽はバックステップし避けた。
「だいぶ視野が広がったな」
「まだまだですよ…」
今度は明楽が飛び出した。木刀を突き立て、クロに一騎打ちを仕掛けた。クロは構えたが、予想を外れた。突き立てた木刀を瞬時に持ち帰え、地面スレスレに木刀を下に向けた。
「袈裟に切り替えるんか?」
だが明楽は木刀で攻撃しようとは思っていなかった。刀を離し、拳を込めクロの顔面に目掛けて構えた。
「っ!?」
クロは瞬時に木刀でガードしたが、明楽はクロの右腕にストレートを打った。
「ぐぅ…」
クロの中で何かが割れる音がした。クロは距離をとった。
「やるな…」
右腕がダランとしていた。明楽は我に帰った。
「あ…ごめんなさい。ムキになってた」
「大丈夫だ。これくらい」
そう言うと、クロは応急処置をした。
「出会った時より、動きが早くはなってる。だが、なぜストレート?」
明楽は木刀を拾った。
「何となく」
「気分屋だな。にしても、痛いよ」
「ごめんなさい」
「とりあえず、今日はここまでだ。明楽。行く準備をするぞ」
「でも…大丈夫?」
「大丈夫だ」
クロのサポートをしつつ、明楽は準備をした。
「クロの準備。私するよ」
「ありがとう。流石に利き手をやられると、どうも動けない」
「いや…私が力加減間違えたから…」
「気にしてない。それに、成長してるって感じてるから、俺的には嬉しいよ」
荷物を整え、城の外に出るとあの時の黒馬が馬装を整えて待っていた。ウルフもそばにいた。
「明楽。先に乗って」
黒馬に跨った。
「ウルフ。いってくる」
「はーい。明楽ちゃんも楽しんできてね」
「ウルフさんも、ゆっくり休んでください」
クロは黒馬を進めた。黒馬は灰色の世界を駆けていった。
どのくらい進んだのだろう。
「クロ」
「どうした?」
「腕大丈夫?」
「あぁ。大丈夫だ」
「前から気になってたんですが、この黒馬って?」
「この馬か?この馬は、俺が大学時代に乗ってた馬だ。この馬で大会も出てたんだ」
「すごい」
「だが、怪我で安楽死をしたんだ」
明楽は驚いた。
「え…でも、ここに」
「あぁ。俺がここに呼んだわけではない。自分から来たんだ」
そう言うと、黒馬は鼻を鳴らした。
「ちなみに、名前はルナだ。この子は元々真面目だが、いい成績残せてなくて大学が見放そうとしたところを、俺が担当して大会で一位取ったんだ。偉い子なんだぞ」
「すごいですね」
「この灰色の世界は面白いことに、生きてる者は夜になると影が襲ってくるけど、ウルフや兵士達みたいに死んでる者は何も襲って来ないんだ。だから、ルナが外にいても平気なんだ」
「だから、この間のは大丈夫だったんですね」
そうこう言ってる間に、目的のところについた。
「もう夕方だ。急ごう」
明楽は荷物を解き、クロは扉を開けた。ルナはまたどこかへ去っていった。
「ルナは意外と一人の時間が大好きなんだ」
「そうなんですね」
部屋へ入り、荷物を置いた。
「明楽。お茶でも飲むか?」
「やりますよ?」
「大丈夫だ。これくらい平気だ」
片手でヤカンに水を入れ、火を入れた。
「で、何で二人っきりになりたかったの?」
クロの問いに、明楽は少し赤くなった。
「実は、前から悩んでいたんだ」
「うん」
「城だと、なんか落ち着かなくて。ここの方が落ち着くから…」
すると、ヤカンが鳴り火を止めた。マグカップにお茶を入れ、明楽の方に置いた。
「私の、力の一部をクロに譲りたい」
クロは驚いた。
「え…なぜ俺?俺は明楽を傷つけてしまったし、ナイトを守れなかった。俺には、そんな資格はない。それに、明楽はまだ若い。明楽を狙う奴さえ居なくなれば、明楽は自由の身になれるんだぞ?」
「実は、人を好きになったの、クロが初めてなんだ」
明楽は俯いた。
「ナイトには言えなかったけど、多分気づいてた。私は早く死にたかった。生きていても、差別や虐めで嫌だった。生きてる意味って何だろうなって。ずっと思ってた」
「明楽…」
「あの時に、もう死のうと決めてた。学校を崩壊して、みんなを殺してさ。襲われるし、ナイトは殺されるし。もういいやって」
明楽はお茶を飲んだ。
「でも、クロに出会ってから人生が変わった。できたら褒めてくれる。楽しませてくれる。稽古と勉強にも付き合ってくれる。暴走したら止めてくれる。そして、守ってくれる。そんな人とこれからも一緒にいたい」
少し沈黙が入ると、クロが口を開いた。
「明楽。俺でいいのか?俺は、弱い人間だ。後悔だってする時もある。それでも、俺を選んでくれるなら、俺は守ってみせる」
クロの真剣な表情に、明楽は答えた。
「よろしくね。クロ」
すると、月がのぼった。今夜は三日月だった。明楽は鉢巻を解いた。
「どうすればいい?」
クロの問いに明楽はクロを抱きしめ、クロを見つめた。明楽の目はサファイアの様に青く輝いていた。クロは片方の腕で明楽を抱きしめた。
「怖いことはないと思う。私も初めてだから」
「明楽。俺を選んでくれて、ありがとう」
唇を重ねた。明楽の額の三日月が輝いた。すると、クロの体に熱い何かが流れてくるのを感じた。それと同時に、右腕の痛みが嘘のように引いてきた。
「明楽…これって」
クロは右腕が動けれることに気づいた。
「成功ね」
しかし、明楽はふらついた。クロは明楽を抱えた。
「大丈夫か?」
「ごめん。こんな強力だとは思ってなかった。でも、ありがとう」
椅子に座らせた。
「クロ。お腹空いちゃった」
「腕も治ったし、俺が作るよ」
「じゃぁ、クロの得意料理が食べたい」
クロは少し考えた。
「ビーフシチューにするか。パンも添えて」
「いいね!」
クロは早速調理した。いい匂いが漂うと、明楽はテンションを上げた。
「楽しみ」
「待ってろ。本当は時間かかる料理だが、魔法で短縮してるから」
皿に盛り付け、テーブルに置いた。レンジの音がなると、こんがりと焼き上がったパンを皿に乗せた。
「熱いうちに食べるぞ」
「いただきまーす」
明楽は勢いよく食べた。
「美味しい」
「よかった」
クロはパンにビーフシチューをつけて食べていた。
「この食べ方が俺は好きだ」
明楽も真似た。
「うま…」
「だろ」
あっという間に平らげ、満足した。
「ご馳走様でした。クロ。ありがとう」
「どういたしまして。明楽。先にシャワー浴びてこい」
「うん」
クロは食器を片付けてる間に、明楽はシャワーを浴びた。明楽がシャワーを終えると、入れ替わるでクロが入った。明楽はベットに座り、月を呆然と眺めていた。三日月は一番上までのぼっていた。
「今夜は綺麗な三日月だな」
上がりたてのクロが明楽の横に座った。
「明楽。俺の力の一部、受け取ってくれるか?」
しかし明楽は首を横に振った。
「今はその時期じゃないと思う。でも、絶対に受け取るから待ってて欲しい。ごめんなさい」
クロは明楽を抱きしめた。
「わかった。俺も待ってるから、いつでも言ってくれ」
「うん」
「今日は遅いから、寝ようか」
「そうだね。おやすみなさい」
「おやすみ」
クロは明楽の頭を撫でた。
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