第15話
明楽はベットに横になった。
「疲れた…」
クロは部屋の電気を消し、明楽の横に寝た。
「大丈夫か?」
「うん…」
「ウルフから聞いたぞ。明楽。すごいな」
「でも、やっぱり刀が使いやすいかな?」
「俺なんて百発撃ってもゼロだから」
明楽はびっくりした。
「え!?」
「驚くだろ。ほんと、命中率がゼロなんだ…」
「それもそれで、ある意味すごいんじゃ」
「まぁ、明楽のレパートリーが増えるのはいいことだ…」
「うん」
すると、クロは明楽の手を握った。
「どうしたの?」
「ごめん…少しだけいいか?」
さっきより、クロは暗くなった。
「何があったの?大丈夫?」
クロの表情が変わった。
「今日のことが、どうしても許せなくて。明楽…本当に…ごめんな。悔しくて…」
クロは泣き顔を、もう片方の手で顔を隠した。
「クロ…」
明楽はクロを抱きしめた。
「ありがとう。私を大事にしてくれて。私のために悔しい思いしてくれて。私は、あなたに連れてこられてよかったと思ってる。私のためにありがとう」
クロも明楽を抱きしめた。
「本当にごめん!明楽をあんな奴らから守ってやれなくて…」
少しすると、クロは落ち着いた。
「久しぶりに泣いたな…」
「そうなの…」
「情けないよな。男が泣くなんて…」
「そうですか?私なんて、学校にいた時は感情がありませんでした。唯一感情を出せるのがナイトといる時だけした。でも、クロとウルフさんにも、いつの間にか感情を出してる事に気づいて、いい人に巡り会えてよかったと思ってますよ」
「そう言ってくれると、ほんと嬉しい。さてと、そろそろ寝るか。ありがとう。明楽」
クロは明楽の頭を撫でた。
「おやすみなさい。クロ」
明楽は布団に潜った。クロはそのうち眠りについた。
「…この人なら」
明楽は悩んでいた。そのうち、明楽も眠りについた。
真夜中。ウルフは地下へ繋がる階段を降りた。ヒールの音が響き渡っていた。
「どんな悪ガキかしら…」
大きな扉が見えた。鍵を取り出し解除すると、鈍い音と共に扉が開いた。部屋へ入ると、牢獄が左右にあり、中央の通路を歩いた。中は暗く、持ってきた蝋燭が頼りだった。
「居たわ…」
ある牢獄の前に止まり、蝋燭を向けると、クロが殺した三人組が鎖に繋がれていた。
「おい…ここは。あ…手足がある…」
「ほんとだ…」
男たちは鎖に繋がれながらも、手足があることに感動していたが、自分たちの置かれている状況がわかっていなかった。
「こんばんわ〜」
ウルフは声をかけた。
「あんたたち。この世界へようこそ〜」
「は?俺たちは生きているんだろ?」
「ここから出せや!」
男たちは抗議したが。
「え〜。あんたたち死んでるのよ〜」
男たちはまだわかっていなかった。
「しょうがないわね」
ウルフは電気をつけた。牢屋を開け、ウルフはボタンを押した。すると、鎖が勝手に動き出した。
「おい…何する気だ」
宙に繋がれた鎖は牢屋を出て、奥の部屋へ自動で動いていった。抵抗しようにも、鎖が解けなく引きずられながら男たちは奥の部屋へ連れて行かれた。
「これから、楽しいことするわよ〜」
ウルフの手にはいつもの鞭が持っていた。
男たちは恐怖のあまり、震え上がっていた。その時、一人の男が声をだした。
「おい…恐怖で失禁しそうになったが…出ない」
「なんだと!」
「あぁ…やっと気づいたのね。あんたたちのアソコは、もうないのよ。それどころか、トイレという概念もないわ。人はね、死ぬとアソコがなくなるのよ。よかったわね。女の敵が減った事に、私は嬉しいわ」
奥の部屋には、数々の拷問道具が置かれていた。
「それに、あんたたち死んでるのよ。ずっと痛みを与えることができるのよ。私楽しみだわ〜。もちろん、休憩なんて論外よ。あんたたちがしてきた報い取らないとね」
ウルフの表情は悪魔のように微笑んでいた。
「私一人じゃ飽きるから〜」
ウルフの背後から黒い影が三体出てきた。
「よろしくね!」
影たちは男たちを取り囲み、拷問器具に装着していった。
「頑張ってね〜」
ウルフは悲鳴を無視して扉をしめ、自分の部屋へ戻っていった。
目を覚ますと、ぼやけていた。メガネをかけると、明楽の顔がよく見えた。
「かわいいな…」
明楽の頭を撫で、起こさないようにベットをでた。軽くシャワーを浴び、着替えた。部屋に戻ると、明楽が起きていた。
「おはよう」
「うん…おはよう…」
寝起きなのか、目を擦っていた。
「昨日はごめんな」
「ううん。大丈夫ですよ」
明楽もベットから出て、着替えた。その間にクロは朝食を作っていた。
「今日は、ホットケーキでいいか?」
「え!いいの!?」
明楽はここに来てから、甘い物も好きになっていった。
「もう出来上がるから、皿の準備頼むよ」
明楽は皿を並べた。すると、ウルフが部屋に入ってきた。
「おはよ〜」
「ウルフ。お前の分も焼いたから、食べるぞ」
「わーい」
ウルフは席についた。明楽はメープルシロップをかけ、ウルフに渡した。
「で、ウルフ。どうだ」
クロはホットコーヒーを飲んだ。
「バッチリ〜」
ウルフはホットケーキを食べた。明楽もホットケーキを食べた。
「美味しい」
「よかった」
すぐに平らげてしまった。
「今日は、俺が稽古に着くよ」
「よろしくお願いします」
「ウルフは…」
「わかってるわ。二人とも、怪我せずに頑張ってね」
ウルフは出ていった。
「ウルフさん…何するんですか?」
「あいつ的には趣味みたいなことだ。さてと、俺らも片付けたら準備するぞ」
食器を片付け、稽古場へ向かった。
「今日はガンガン攻撃して来い」
明楽は木刀を手にし、クロに攻撃を仕掛けた。
「うん。だいぶ力も出てきたな」
クロは攻撃を木刀で受けた。
「もっと来い!」
明楽はさらに攻撃を仕掛けた。しばらく攻撃を続けると、木刀が折れた。
「え!」
「おー。強くなったな。今日は、ここまでだな」
クロは明楽から折れた木刀を回収した。
「でも、クロみたいに強くなりたい」
「明楽なら、俺以上に強くなれる。むしろ、俺が強くならないと…」
汗を流し、クロの部屋に戻った。
「さて、久しぶりに勉強でもするか。今日は時間があいてるから」
「いいの?」
「もちろん。明楽はまだ学生だ。勉学は必須だぞ」
あっという間に時間は過ぎていったが、教科書半分ほどを終わらせた。
「ほんと、明楽は覚えが早い」
「全然ですよ。私、馬鹿の部類ですよ」
「いや。教え方が悪いんだ。でも、丁寧に教えたら良くなるんだ」
すると、ウルフが入ってきた。
「クロ〜」
「どうした」
「あぁ、お勉強中ごめんね」
「もう終わった」
「いや。もう夜ご飯かなーと思って」
見ると、外は暗くなっていた。
「あ…ほんとだ」
「もうそんなに時間が経ってたのか」
「クロ〜何か作って〜」
ウルフは椅子に座った。
「私手伝いますよ?」
「ありがとう。なら、二人で作ろっか」
明楽も慣れてきたのか手際がよかった。
「ウルフさん。できましたよ」
「お!」
「オムライスです」
「いいね〜」
クロはお茶を入れた。
「いただきま〜す」
ウルフは勢いよくオムライスを食べた。
「うっま〜」
「よかったです」
「ありがとうね〜」
明楽も食べ始めた。
「ウルフ。そっちは順調なのか?」
「もう、バッチリ!」
明楽は不思議そうに二人のやりとりを見ていた。
「明楽ちゃんは、大丈夫よ。何も心配いらないわ」
「…クロ。ウルフさん」
「どうした?」
「多分ですが、私を襲った人…何かしてるんですよね?」
クロとウルフは顔を見つめた。
「まぁ、簡単に言うと、地獄以上のことはしてるな。明楽に言ったかは覚えてないが、ここの兵士たちは皆この世で死んでここに来てるんだ」
「うん…」
「で、明楽を襲ったやつは俺が殺した。そして、この城に来ている」
「え…」
明楽は震えた。
「大丈夫。明楽には会えないから。むしろ、地獄の方がよかったと言われるほどのやばい事はしているけどね」
ウルフが口を開いた。
「それをやってるのが、私の仕事兼趣味。この世で最低行為をした奴らは罰則よ。死ぬ以上の後悔を味わってもらってるわ。悲鳴を聞いてるだけで、興奮するの〜」
「え…ウルフさん…趣味怖い」
「だから、明楽は何も心配はいらない。会いたいんだったら会わせるが、あいつらは共犯者だ」
クロが足を組んだ。
「共犯者?じゃ、主犯者いるの?」
クロは大きくため息をついた。
「工藤だ」
明楽は驚いた。
「えっ!?」
「驚くだろ。自分の生徒だぜ。だから…悔しかった」
クロの顔が曇った。
「大学の時もあいつはクソな事をしてたが、落ちるところまで落ちたもんだ。ましてや、教師が生徒を強姦だぜ。ありえないだろ」
「そんな…酷いことされたけど、ここまで…」
衝撃な事を聞いて明楽はふらついた。ウルフはすぐに明楽を支えた。
「大丈夫よ。明楽ちゃんには、私達がいるから」
「明楽。俺は絶対に許さない。工藤を地獄以上の苦痛を味わってもらう必要がある。俺が絶対にやるから、明楽は待ってて欲しい」
クロの怒りは相当だった。
「わかった。でも、クロ」
「なんだ?」
「ナイトを殺した奴も、私絶対に許さない」
明楽は真剣だった。
「それはもちろんだ。地獄以上の苦しみを味わってもらわないとな」
「明楽ちゃん。拷問は私に任せてね!」
ウルフは笑顔だった。
「よろしくお願いします」
明楽はそう答えた。
夜中。誰もいない魔法大学に、どうやって侵入したのか不明だが、谷川が図書室を漁っていた。
「これも違う…」
ライト・ルーマスの書籍を片っ端から漁っていた。数時間が経過した。
「…これだ」
一冊の古い本が出てきた。谷川は本を開いた。
「これは…」
そこには、灰色の世界について書かれていた。一旦本を閉じ、大学を出ていき自宅に帰った。疲れていたのか、椅子にドッカリと座った。
「さてと」
先ほどの本を開いた。すると、レイが不思議そうに谷川を見たが、また丸くなった。
灰色の世界。この世とあの世の境目の世界。空はこの世のもの。地面はあの世のもの。日中は特に何も起きないが、夜になると影が襲ってくる。自分の影から無数の黒い何かが私に襲いかかった。私は影が複数人になって現れてると思い、必死に抵抗し朝を迎えた。全身ボロボロで大変だった。影の対処法については調査中。
さて、なぜ私はこの世界に来れたのか。理由は謎だ。龍の観察中に、足を滑らせて滑落したが、気がついたらここに居た。音も生物の鳴き声すら何もなかった。果てしない灰色の地面が広がっていた。不気味だった。そして、なんとか影に打ち勝ち、朝を迎えた時、私はまたこの世界に来れるようにペイントをつけ、魔法で帰れることができた。あの世界は興味深い。
そこから古いのか、文字が擦れて読めなかったが、何ページか進むと、読めるページが出てきた。
灰色の世界に来て半年。たくさん歩いたが、初めて別の景色を見た。崖などは所々にあったが、山らしき所から煙が上がり奥にはマグマなのか、赤い何かが見えた。時折、断末魔のような悲鳴が薄く響いた。私は直感した。あの世だと。薄い悲鳴を聞いてるうちに、気がついたことがあった。悲鳴の一部に屈辱の声が響いたのだ。私は考えに考え、あの世へ足を運ぼうとしたが、何者かにそれを止められた。
「なぜ生きている人間がこの世界に入ってきた。ここ最近、出入りの音がよくするなとは思っていたが…」
ソレは大きな剣を身構えた。
「待ってください。別に悪いことはしていません。たまたま滑落した時に、この世界に迷い込んで以来、この世界とこの世を行き来し、調べていました。夜にあんな恐ろしいこともあるのも初めて経験しました」
ソレは驚いた。
「一晩耐えたのか?」
「はい」
ソレは話した。
「ちなみに、ここに何しにきた」
「屈辱の声が聞こえたので、気になったんです」
ソレは難しい顔をした。
「あの世。善悪関係なしに、死んだものが来る場所だ。罪人にはもちろん地獄を見てもらう。善人はまた、生を受け誕生する。だが、全部が全部そうではない。善人が罪人と間違われる。真逆もある。我々も、そこの改善を目指しているが、この世の死亡人数が多いのか、追いついていないのが現状。だから、悲鳴が聞こえるんだ…」
私はソレにある提案をした。
「もし、よろしければな話ですが…」
「なんだね」
「この世界に城を作り、屈辱を味わってる人…と言えばいいのでしょうか。を、私の兵士や部屋住として管理し、いずれ天へ召される。どうでしょうか。一人でも多く苦しんで死んだものを、死んでも屈辱を味わい続けるのは、私としては辛いのです」
ソレは少し悩んだが。
「いいだろう。ただし、万が一のことがある。あの世の近くに城を建てろ。そこの土地周辺は影が襲ってこないようにする。我々も、見てくれる人がおると助かる」
私はソレと握手をした。これから、ここに城を建て、苦しんで死んだ者を育て天に返す使命を。
そのほかのページは全部読めなかった。
「手がかりは少しだけか…」
谷川は時計を見た。
「まぁ、探すか」
朝日が登ろうとしてるところを、窓越しに見ていた。
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