第13話

目を開けると、もう夜になっており、自分の部屋ではないベットに寝かされていた。


「…メガネ…」


体を動かそうとすると、激痛が走りメガネを探すのを諦めた。いつから気を失っていたのだろう。すると、ノックがして、ウルフと明楽が入ってきた。


「クロー。大丈夫ー?」


「あぁ。俺のメガネは?」


明楽はクロにメガネをかけてあげた。


「ありがとう」


「ご両親を…ごめんなさい…」


明楽はクロに謝った。


「いや。むしろこっちが謝る方だ。明楽を連れて行こうとしたんだから」


「一応、遺体安置所にご遺体持っていったわ。で、どうする。私は反対よ」


ウルフが言った。


「それはわかってる。おじさんと…うん。同じ所には埋葬しない。母さんの故郷の所で適当に埋葬しよう」


「そうね」


ウルフは納得した。


「今日は休むよ。ウルフ。明楽を頼むよ。それと、明楽」


「なに?」


「強かったぞ」


「…ありがとう」


「明楽ちゃん。行こうか」


ウルフに連れられ、ウルフの部屋へ入った。


「明楽ちゃん。何か飲まない?」


「え…お酒以外なら大丈夫ですよ」


ウルフは明楽に座るように促し、ジュースを出した。


「今日の明楽ちゃん。かっこよかったわ」


「ウルフさんも大丈夫ですか?」


「私は、クロみたいに油断はしないわ。でも、ほんと腹が立つわ」


ウルフはワインをボトルごと飲んだ。


「クロのご両親。特に母親が最低だったのよ。ライトさんの事が気に入らなくてね。親の敷かれたレールをひたすら走ってたの。でも、ライトさんが功績など残して優秀で。ライトさんが稼いだお金等をこっそり盗んで行ってたのよ。あいつ…」


「そんな、酷い人だったんですか」


「クロ自身もそういうの目にしてるの。父親も母親が悪事してる事放置だしさ。最悪の夫婦なんだよ。でも、クロはそういう親の背中見ずに、ライトさんの背中見て育ったからいいんだけどね」


ウルフはワインを飲み、机に置いてあったパンを食べた。


「ウルフさん。実は疑問があるんですが」


「なに?」


「ウルフさんって…人間?」


ウルフは舌を出した。


「えぇ。元だけどね」


「…どういう」


「私ね。生きていた頃、明楽ちゃんと一緒でいじめられてたの。もう何十年前の話かな」


「え…」


「一応、生きていた時はちゃんと性別は女だったのよ!学生でも、社会人になってもずっといじめられてた。二十四歳の時だった。仕事帰りに襲われたの。夜に人気のない所で複数人に…」


ウルフはワインボトルをテーブルに置き、足を組み直した。


「何も抵抗できなくて、やられるがまま。最後はズタズタに切り裂かれて死んだ。酷かったらしい。私の亡骸は、どうなったのかも知らない」


明楽は何も言えなかった。


「で、魂がなぜかこの城に来たんだ。あの当時、ライトさんが一人でこの城作ってる途中で、めっちゃ若いイケメンでさ。当時はクロがまだ生まれてなくて。ライトさんが、私に言ってくれたの。『君…辛かったね。よく頑張ったね。痛い思いしたね』て。それ言われた時もう号泣でさ。ライトさんずっと励ましてくれてて」


「そうだったんですか」


「それで、ライトさんが力を貸してほしい言われて、今に至るの」


「ウルフさん…すごいですね」


「慣れた頃に、ライトさんに聞いたの。どうして私は地獄へ行かなくてよかったんですかって。そしたらさ。『君が辛い思いしか経験がないのに、地獄へ行くのは納得ができなくて、ここへ呼んだ。君は才能があり、強くなれる。君の可能性を私は見てみたいと思ったんだ。私の右腕として付いてきてくれないか?』てさ。それから、ライトさんの事は心から信頼してた。稽古も一から教えてもらってさ。私、死んでるんだけど生きていた頃よりずっと楽しくて、ライトさんには感謝してるのよ」


ウルフはまたワインを手に取った。


「今日はワイン進むわー」


またワインを飲んだ。


「ウルフさん。かっこいいですね」


「そう?まぁ、私はもう死んでる。死んで楽しい思いしてるの変態でしょ。でも、明楽ちゃんは生きてる間に楽しい思いしてほしいなって思う。死んでしまうと、何も残らなくなる。実際、見た目は女だけど性別がなくなっちゃうし」


「うん…」


明楽はジュースを一口飲んだ。


「おまけに、ウルフって名前。ライトさんがつけてくれたの。生きていた頃の名前はもう忘れたわ。狼のように強い存在でいて欲しい意味でだって」


「かっこいい…」


「でしょ!お気に入りなのよ」


「ライトさん…名前つけるセンスいいですよね」


「わかる〜」


ウルフと明楽は笑った。


「もう女子会じゃん!生きていた時もしてなかったし、初めてよ。ありがとう」


「私も初めてですよ。ウルフさん。ありがとう」


ウルフは窓を見た。


「やだ!遅くなったわ。もう寝ましょ。明楽ちゃんは自分の部屋に行く?」


「はい。そうします」


「じゃ!おやすみ〜」


「おやすみなさい」


明楽は自分の部屋へ行き、久々に部屋のベットに横になった。


「やっぱ…寂しいな…」


毎晩、クロの横で寝ていたので一人で寝ることに寂しさを覚えながらも、いつのまにか眠ってしまった。






「あれから、何か情報はあるかね」


真夜中の校長室で、谷川は工藤に聞いた。


「いえ…あの夫婦?あれから連絡は来ていません」


「そうかー」


ふと工藤は思い出した。


「そう言えば…あの夫婦。変なこと言ってたような」


「どんなことだね」


「灰色の…すみません。覚えていません」


「灰色…どこかで…」


考えていたが、うまく思い出せない。


「まぁ、わかりました」


「では、失礼します」


工藤が出て行った。


「レイ。魔法大学に行くぞ。抵抗する奴は、黙らせればいい」


レイは谷川を睨んだ。


「機嫌が悪いのはわかってる。でも、ヒントになることがあると思ってな」


谷川は背もたれに深くもたれた。






夢を見た。見たこともない満天の夜空が美しかった。


「ここは…」


明楽は草原に寝かされていた。起き上がりあたりを見渡すと、一面草原が広がっているだけ。明楽は月を探した。


「…行ってみるか」


月を頼りに、歩き始めた。どこまでも続く草原をひたすら歩いた。


「…あれは?」


どのくらい歩いただろう。奥の方に人が立っていた。遠すぎて顔が見えない。よくみると、人ではない何かもいた。明楽は近づいた。すると、奥にいた人の笑い声が聞こえた。


「あの…」


明楽は声を出そうとした時、明楽の方に振り向いた。男の人だった。男の横にいた何かも明楽の方を見た。


「えっ…」


明楽は驚いた。男の横にいた何かは、明楽と同じ三日月龍だった。男は明楽にニコッと笑うと、指を鳴らした。すると、明楽の視界が暗くなった。

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