第10話
「かなり日が経ってますね…」
夜中の校長室。谷川は工藤に話しかけた。
「はい。裏でも情報が出回ってないので、難航です」
明楽がいなくなってから、数ヶ月が経っていた。
「何か、ヒントさえあれば…」
谷川は深いため息をついた。すると、工藤の携帯に電話がかかった。
「失礼。はい」
工藤は電話に出て、やりとりをした。数分で電話が終わった。
「どなたからですか?」
「とある夫婦?ですかな。懸賞金の情報で電話したと。ただ、三日月さんを連れて来れる自信もあるお電話でした。まぁ、詐欺情報だと思ったので、聞き流していたんですが」
「ふむ…」
「懸賞目的の詐欺電話、多いんですよ」
谷川はふと思い出した。
「その夫婦。名前を名乗りましたか?」
「すいません。聞き取れませんでした。ただ、外国の方なのか少し片言でした」
「そうか…」
「一ヶ月以内に連れてくるとか言ってたんですが。まぁ、当てにできませんよね?」
谷川は少し悩んだ。
「少し、思い当たる人物はいるにはいるんだが。その人とは断定できない。ましてや夫婦とは…」
「まぁ、一ヶ月様子見ましょう。その間にも、有力な情報が出てくるかもしれないので」
工藤は校長室を出た。
「レイ。アイツではないよな。あの戦争で死んだはずだし」
レイは何も言わず、眠っていた。
「明楽。まだまだだぞ」
クロは余裕な表情でニヤニヤしていた。
「くっ…」
汗だくになりながらも、クロの動きをかわし続けた。
「最初より動きは良くなっている。だが」
明楽の隙ができた。クロはそこめがけて木刀を振った。
「もっと最小限に動かないと、当たるぞ」
明楽に当てるフリをした。
「今日はここまでだ」
明楽は疲れてその場で座り込んだ。
「大丈夫か?」
クロが手を差し伸べた。明楽はクロの手握った。
「大丈夫。ちょっと、疲れただけよ」
明楽は笑顔を見せた。ここ最近、毎日激しい稽古を続けていた。
「そうか…」
明楽をクロに部屋へ連れて行き、シャワー室を貸した。そして、クロはウルフを呼んだ。
「クロ。どうしたの?」
「明楽を少し休ませようかと思う」
「いいんじゃない?ここ最近ずっと稽古だったし。明楽ちゃんも疲れ溜まってるよ」
「それじゃ、頼みがある」
頼み事をウルフに伝えると、ウルフは急いで準備しに走った。
「シャワー終わりました」
明楽がシャワー室からでてきた。
「明楽…髪の毛、ブラッシングしてもいいか?」
「え?いいけど…」
椅子に明楽を座らせ、明楽の長い黒髪をといだ。
「綺麗だな」
髪を高く縛った。明楽はふと思った。
「クロって、女性の扱いに慣れてるんですか?」
少しドキッとしたが。
「まぁ、な。ウルフからも教わったし。色々あるんだよ」
そう言うと、明楽の手を取った。
「今から連れて行きたいところがある。ここから離れてるから、移動するぞ」
「え?」
有無も言わさずに、クロの部屋を出て外に行った。
「クロ〜」
ウルフが手を振っていた。そこには一頭の黒馬が馬装していた。
「ありがとう。明楽。前に乗れ」
「え…馬に乗った事ない」
「大丈夫だ」
明楽は前に乗り、クロは後ろに乗って手綱を握った。
「数日留守にする」
「わかったわ。明楽ちゃん。楽しんできて」
「え?どこいくんですか?」
そう言うとクロは馬を走らせた。明楽は鞍にしがみついた。
「ナイトと全然乗り心地が違う!」
「しっかりしがみついてな」
しばらくすると、明楽も慣れたのか顔を上げれるようになった。後ろを振り向くと、城が見えなくなっていた。
「全然違う…」
「馬だからな。でも、どうだ?ナイトと違うだろ?」
馬はさらに走った。一面灰色の地面を数時間走り続けた。すると、灰色の崖が見えてきた。
「あれが、目的地だ」
崖に近づくと、一枚の扉が目に入った。しかし、扉だけで建物も一切ない。クロは扉の近くで馬を止め、明楽を下ろした。
「この扉に入るぞ」
そう言うと、ポケットから鍵をだした。
「でも、外だよ?」
明楽が不思議がっていると、クロは扉を開けた。すると、外に繋がっていると思ったら、とある家の玄関につながっていた。
「もうすぐ夜になる。入れ」
「でも、馬は?」
明楽は後ろを振り向くと、馬はいなくなっていた。
「大丈夫だ」
明楽とクロは扉の向こうへ入った。そこには、木のいい匂いが漂う落ち着いた部屋だった。暗い部屋かと思ったら、月の光で部屋全体が明るい。
「ここは?」
リビングにシャワー室。寝室には円型の窓があった。
「ここは、俺のもう一つの部屋だ。大学の頃に作って、ここで住んでいた。たまにこの部屋来てリラックスしたりするんだ。城だと、部屋も広いからな。こう言う狭い落ち着いた空間も悪くないだろ?」
リビングに行き、お茶を作った。明楽はベットに座った。
「この窓、いいな。月がよく見える」
しばらくすると、マグカップにお茶を入れてクロが持ってきた。
「この部屋は自然の光で部屋を照らしている。電気はない。俺がそう設計した」
「すごいですね…」
「明楽もそうだろ?電気のない生活を、ずっと続けてたじゃないか」
「学校では、電気ありますよ。でも、なんだかこの部屋、落ち着くな」
明楽はお茶を飲んだ。
「実は明楽。この前明楽達の話しただろ?」
「うん」
「明楽達はいつからあの洞窟に住んでると思う?」
明楽は考えてもなかった。子供の頃からずっとあの洞窟で、ナイトと過ごしていたから。
「わかんないです」
「実は、叔父さんは。明楽達が普通に育って欲しいと思ってたから、信頼できる人に預けてたらしい。叔父さんもよく見に来てたそうだ。だが、明楽達が活発になってから、自分達で洞窟で過ごしたそうだ」
「え!?」
「驚くだろ?急に居なくなって、預け先の人と叔父さんが手分けして探したそうだ。で、叔父さんがふと思い出したんだ。シルビアがいた洞窟かもって。行ったら二人で生活してたのを見て、見守る事にしたそうだ」
明楽は思い出そうにも、全く記憶になかった。
「そうだったんだ…」
「ほんと、すごいよな。叔父さんも何でこう言うふうになったのかもわからなかったそうだ。龍の本能なのか、明楽達の能力なのか。見守っていても、誰にも教えてもらってもないのに、狩や生活ができていたんだって」
「全然気づかなかった。それが当たり前だと思ってた」
「だから、何も言わずに見守るだけにしたそうだ。子供ながら、俺も参加してたんだがな。明楽達が成長するに連れて、学業も忙しくて、カラス達に頼んでたけど。でも、成長していった事が叔父さんの喜びだったんだ。だけど…」
クロは寂しい表情になった。
「実は、二年前戦争があって、叔父さん亡くなったんだ」
明楽は驚いた。
「え…」
「俺は、叔父さんを見殺しにしたんだ。実力不足で、助けれなかった」
「でも、二年前って私中学生ですよ?そんな情報聞いた事ない…」
「極秘の戦争だったんだ。まぁ、明楽が行ってた校長の谷川が仕掛けた戦争だが」
クロは語り出した。
二年前。
「クロ。すまないな。大学卒業したばかりなのに…」
戦地に立っていた。
「いえ。叔父さんの手助けしたいですし。それに、何も危害を加えない野生の龍を絶滅させるのは、おかしいですよ。生き物を何だと思ってるんですか!あいつらは…」
クロも怒りで震えていた。
「全く。谷川のする事が最低行為すぎる」
弱い龍の消滅を支持する谷川派と、龍の保護活動に支持するライト派でぶつかりがあった。
「十数年、あいつは何もしていなかった。だが、なぜこんな事に…」
谷川が戦争まで発展させた事にライトはわからなかった。
そして戦争が始まった。ライト派は三百人に対し谷川派は五百人。差があった。
「クッソ…多い…」
手甲鉤で敵を次々と切り裂いていった。
「クロ!今日で終わりだ!」
工藤が剣を片手に走ってきた。
「ウッセーな」
クロが攻撃を避けようとしたら、工藤と同期の後藤と藤巻に捕まってしまった。
「なに!?」
もがいた所だった。
「死ね!」
背中を斬られてしまった。
「うぐっ…」
クロは倒れてしまった。
「後藤!藤巻!今だ!」
そう呼びかけに二人もナイフでクロをとらえたが。
「痛いだろうが…」
殺気を纏い、目にも見えない速さで後藤と藤巻を切り裂いた。
「なっ!?」
手甲鉤で工藤を切り裂こうとしたその時。
「ぐっ!」
銃声と共に、クロの横腹を銃弾が貫ぬきその場で倒れた。
「今のうちに逃げようと…」
工藤は走り去っていった。
「誰だ…」
すると、クロの元に二人の姿があった。
「アラ…ワガムスコ」
「本当に弱いな」
剣をクロに突き立てた。
「クッソ…」
身体を動かす事ができなかった。
「待てーい!」
大声と共に強風が吹くと、二人が飛んでいった。
「クロ!大丈夫か!」
ライトが飛んできた。
「すみません…叔父さん」
「クロ!君は逃げなさい。灰色の世界へ」
「でも…」
すると、あの二人がこっちに向かって来るのが見えた。
「私は大丈夫。クロ。あの子を頼んだぞ…」
いつの間に用意していたのか、灰色の世界へつながる異空間へクロは沈み始めた。
「叔父さん…」
ライトは飛んできた二人に対抗したが、背後を取られ斬られてしまった。
「叔父さん!何で…」
そのままクロは灰色の世界へ消えていった。
「俺の叔父さんを殺したのは、俺の親だったんだ」
お茶を飲んだ。
「なんで…」
「叔父さんの行動が嫌だったんだろう。それと、息子である俺もいらない存在だったんだろう。あの後、灰色の世界へ着いても動けなくてな。ウルフに治療してもらったが、今だに傷跡がある」
そう言うと、クロはシャツを脱いだ。
「っ…」
「安静にして治せば良いものを、当時の俺は無理だった」
またシャツを着た。
「後日、叔父さんの遺体をウルフが連れてきたんだ」
「え…」
「あの戦争自体、数日続いてたんだが…俺と叔父さんがやられたのは初日だったんだ。情けない話だろ。ウルフが戦争中の遺体回収で、叔父さんが相手側に回収される前に回収したんだ。俺は、毎日泣いて悔やんだ。自分が弱いと思って、動けない身体を無理やり動かして稽古をしたんだ。傷口が何度も開いて、出血もしてさ。生死を彷徨った時は流石にウルフに叱られたけど。だけど、強くなかった俺のせいでってのが離れなくて、稽古した」
「そうだったんだ…」
明楽はかける言葉がなかった。
「ごめんな。暗い話で」
「ううん。その…ライトさんのご遺体は?」
「城の近くで埋葬したんだ。だけど、顔に傷が無かったからか、いい顔していた。叔父さんらしいよ」
「今度…手を合わせにいってもいいですか?」
クロは明楽を見つめた。
「構わないよ。むしろ、叔父さん喜ぶよ。赤ちゃんだった明楽がこんなに大きくなったんだから。ありがとう」
明楽の頭を撫でた。
「今日はもう遅い。ここ最近一緒に寝てるが、今日も一緒に寝るか?」
「うん。クロと寝てると、落ち着くから」
二人は布団に入り、眠った。
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