第9話

明楽は呆然としていた。


「その赤ちゃんが、お前だ」


クロはまたお茶を飲んだ。


「あの時、叔父さんが帰ってきたタイミングでちょうど俺もいたんだ。今でも覚えてるよ。赤ちゃんとちっちゃい龍連れてきた時は驚いたよ。それで、叔父さんは明るく楽しい子に育って欲しい。そういう意味で明楽。ナイトは、騎士のように強くなって欲しい意味でつけたそうだ」


「そんなことがあったんだ…」


「それと、明楽が持ってる刀で、一本特殊なのがあるだろ?」


ウルフは明楽の刀を持ってきた。


「ここに連れてきた時に、預かってたの」


明楽は一本の刀を抜いた。シルビアと彫られた刀を。


「叔父さんは、シルビアの事を忘れないため。明楽が大きくなったら、使って欲しい。そういう意味で、時間をかけて魔法で鍛えた刀なんだ」


明楽は思い出した。


「この刀…不思議なんです。一度、頭の中で映像が流れたんです。多分…お母さんだったのかな。産まれたばかりの一部の映像が流れたんです」


クロは考えた。


「もしかしたら、シルビアの力の一部が少し入ったんだろう。そこら辺は俺もわからない」


窓をみるともう暗くなっていた。


「話が長くなったな。夕飯作るよ」


クロは立ち上がった。


「クロ〜何作るの?」


ウルフはニヤニヤしていた。


「明楽は何食べたい」


「さっきの話を聞いてたら、久しぶりに鹿食べたいです」


クロは部屋のキッチンに向かい、食材の本を開いた。


「鹿肉あるぞ。それで美味しいもの作るよ」


そう言うと、クロは鹿肉のページに手を当て何か唱えた。すると、皿に盛った生の鹿肉がでてきた。


「どうなってるんですか!?」


明楽は驚いた。


「魔法使いは、なんでもできるから本当便利」


次々と食材を出し、食べやすいサイズにカットして煮込んでいった。


「クロって、なんでもできるんだ…」


「クロの料理は本当に美味しいの!」


ウルフが笑顔でそう答えた。しばらくすると、料理が出来上がった。


「鹿肉をワインで煮込んでみた」


出された皿には、美しく盛り付けされていた。明楽は一口食べた。


「美味しい…」


「よかった」


クロは胸を撫で下ろした。明楽はスプーンが止まらなかった。


「明楽ちゃん。いい食いっぷりだね」


「いつも、焼くか干してしか食べたことがなかったので。こんなに美味しい鹿肉初めてです」


あっという間に食べ終わった。


「おいしかったです。ご馳走様」


「どういたしまして」


食器を片付け、クロとウルフは明楽の部屋を案内した。


「ここが、明楽の部屋だ」


ベットと机と椅子とクローゼットがあり、シャワー室もあった。


「ありがとうございます…」


「何かあったら遠慮なく来ていいからね。私の部屋は隣だから」


ウルフがそう言った。


「俺の部屋でもいいぞ。ウルフはイビキがうるさいから…」


「なんですって!?」


ウルフはムスッとした。明楽はクスッと笑った。


「ありがとうございます」


初めて一人っきりの空間になった。だが、とても寂しく感じた。


「ナイトがいてくれたらな…」


そう言いながら、明楽はクローゼットを開けた。何着か服が用意されていた。どれも明楽にぴったりのサイズだった。明楽は寝巻きを出し、シャワーを浴びて着替えた。窓を見ると、もう外は暗くなっていた。


「もう寝よう」


明楽は灯りを消し、ベットに入った。しかしなかなか寝付けれなかった。




クロはシャワーを浴び、寝巻きに着替えて本を読んでいた。


「ふむ…」


机の灯りだけがついており、部屋は真っ暗だった。


「今度、明楽に食べさせてあげようかな」


すると、ノックが聞こえた。


「入れ…」


すると、明楽が申し訳なさそうに入ってきた。


「どうした?もう夜は遅いぞ」


「ごめんなさい。どうしても眠れなくて。ウルフさんの部屋に行ったんですが、廊下からイビキが響いて、とても入れる感じがしなくて…」


クロは呆れた。


「ごめんな」


「それで、一緒に寝てもいいですか?」


クロはドキッとした。


「え?俺と?」


「うん…」


「まぁ、いいよ」


クロのベットに明楽は横になった。


「もう少し、本を読みたいから。安心して眠っていいぞ」


クロはまた本を読んだ。明楽はクロがいる事に安心したのか、眠ってしまった。しばらくして、本を読み終わると、クロはベットに向かった。


「あの方に似てるな…明楽さん…」


明楽の寝顔を見るなりつぶやいた。クロもベットに横になり、明楽見た。


「よく寝てるな。よかった」


メガネを外し、眠りについた。


朝日が明楽を照らした。目を開け、体を起こすとクロはもう起きており、朝食の準備をしていた。


「おはよう。明楽」


「おはようございます」


席に着くと、卵料理が皿に盛られていた。横には、パンもあった。


「こういう朝食、食べた事ないだろ?」


クロも席に着いた。


「いただきます…」


明楽は食べ始めた。


「美味しい…」


「それはよかった」


クロはコーヒーを飲んだ。


「私、あまり朝食は食べないんですけど。クロの作ってくれる料理、すごく気に入りました!」


明楽は嬉しそうに言った。


「照れるな…」


クロの顔が赤くなった。すると、部屋の扉が開いた。


「おっはよー。て、クロ!何明楽ちゃんを寝取ってるの!」


明楽は頭の中がハテナだらけだった。クロは呆れながら答えた。


「襲ってもないし。そもそも明楽から聞いたぞ。廊下までイビキが響いてたとか」


「ちょっ…クロ…」


明楽は止めたが。


「仕方がないじゃない!自分で直せれないもん!」


ウルフは開き直っていた。


「まぁ、襲ってないならいいわ」


クロと明楽は同時に思った。


 まさか、襲うつもりなのか!と。


「俺は、同意なしはしない主義なので」


「あ…ははは…」


明楽はどう答えればいいのかわからなかった。


「でさ、今日はどうする?明楽ちゃんの稽古」


ウルフがそう問いかけた。


「しばらくは身体を作ってから基礎を開始する。まぁ、明楽ならすぐに身体作りは終わりそうだ」


クロは食器を片付けた。明楽はウルフに問いかけた。


「あの…服って、どれを着たらいいですか?」


「一緒に部屋行こうか」


ウルフは明楽と部屋に行き、クローゼットを開いた。


「これが、稽古でも動きやすい服よ。明楽ちゃんが、いつも着てた着物でもいいならそれでもいいよ」


「着物の方が締まってくるので、着物にします」


「うん!その方がいいわ」


明楽は着物に着替え、稽古場へ向かった。

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