第8話

「後に、卵になった黒龍がナイトってわけだ」


クロはお茶を飲んだ。


「お母さん。大変な思いしてたんだ…」


明楽はショックを受けていた。


「なぜ、ナイトが先に生まれたかは、叔父さんでもわからなかったそうだ。流産、死産、早産はどの種族でもあり得るし、原因不明が多いからな」


「その…叔父さん?ライトさんは、お母さんのライダーになったんですか?それと、私のお父さんって…」


「これから話すよ」


クロは真剣な表情になった。






ライトはそれからも、日中は大学の講師に励み、夜にはシルビアの元へ行った。大学の授業が終わり、廊下を歩いていた時だった。


「ライトさんじゃないですか」


見ると、見覚えのある顔が入ってきた。


「谷川さん。どうしたんですか?」


「いや〜。隠さないでくださいよ」


「何のことですか?」


谷川はニヤリとした。


「ライトさん。いいことあったでしょう」


「何のことですか?」


谷川はさらに詰めた。


「龍の保護活動なんて、所詮クズ。弱い龍がいても、何にもならないじゃないですか。まさか、弱い龍のライダーになりたいとでも思ってるんですか?」


ライトは谷川を睨んだ。


「龍は素晴らしい生き物。個体数や生態も不明が多い。それを、乱雑に扱い、数を減らすのはどうかと思います。ましてや、龍達は私たちに危害を加えてもないのに、殺すは違うでしょ。それに、ライダーなんて、人と龍の信頼関係ですよ。強い弱いも関係ありません」


谷川は鼻で笑った。


「まぁ、いいでしょう。あなたの活動が良い結果になるといいですね」


谷川は去っていった。


「全く…」


ライトは予定帳を出した。


「もう、仕事はないのか…よし」


ライトは書類や本を片付けて、山へ向かった。洞窟に着く頃にはあたりは薄暗くなっていた。


「シルビア」


声をかけると、シルビアはヌゥっと洞窟から出た。


「おつかれ。ライト」


顔を近づけた。ライトは優しく撫でた。


「体調は大丈夫か?」


「えぇ。大丈夫」


こうしてみると、恋人のような関係にお互いが信頼しあっていた。


「ライト。私と空飛ばない?」


ライトはこれまで、シルビアに乗ったことがなかった。


「いいのか?」


シルビアは翼を下ろした。


「乗って!」


ライトはシルビアに跨った。鞍なしだからか、鱗でよく滑る。


「いくよ!」


シルビアは思いっきり地面を切り上げ、高く飛んだ。ライトは必死にしがみついた。


「シルビア!すごいな!」


そのまま上空をゆっくり優雅に飛んだ。


「どう?龍の背中は」


「最高だよ!もう信じられない…」


ライトは興奮して、言葉が見つからなかった。


「シルビア…本当にすごいな…」


「えっへん!」


シルビアは鼻を鳴らした。


ライトは上を見上げると、三日月龍の群れがいた。ただ、シルビアが下に居るのに、気にかけても来なかった。


「君が下に居るのに、なぜ来ないんだ?」


シルビアは悲しそうに答えた。


「群れから逸れてしまった者は、死んだも同然な扱い。今更戻っても、逆に殺される…」


「厳しい世界だな…」


「私は、もう群れには戻れない…」


「でもシルビア。私が居るじゃいか」


ライトはシルビアの首を撫でた。断崖でシルビアは着地した。翼を下ろし、ライトを下ろした。


「いい景色だな」


「ここ、私のお気に入り。月の光もよく当たるから、好きなのよ」


「今夜は三日月か」


ライトは胸ポケットから、シルビアの子供をだした。


「まだ、生まれないのね…」


シルビアは寂しそうだった。


「大丈夫。この子は強い。それに、お腹の子供も大きくなる。生まれてくるタイミングで、この子も孵化するといいな」


ライトは卵を三日月に照らした。


「ねぇ、ライト」


「どうした?」


「歌を聞いてほしい…」


シルビアは三日月に顔を向け、祈った。そして、大きく息を吸い込んだ。吐き出した声にライトは驚いた。


「なんと…」


雄叫びではない。山全体に優しい声が響いた。まるで、教会に居るようなそんな感じにライトは心を打たれた。


「美しい…」


「ありがとう。私達の一族は月に祈るを捧げてるの。それと、飛んでる時に、よく歌を歌うの。何処に行くとか、早く飛ぶを歌で伝えてるの」


「すごいな。君達はすごい種族だな」


ライトはシルビアを褒めた。


「私はもう一族でもなんでもない。でも、嬉しい」


シルビアはライトに顔を押し付けた。


「私は、君に出会えて嬉しいよ」


ライトは抱きしめた。しかし、この後悲しい悲劇が起きた。


さらに数ヶ月後。シルビアのお腹は大きくなっていた。もういつ生まれてもおかしくない。


「ライト」


大きいお腹で呼吸も肩でしていた。


「どうした?お腹空いたのか?」


「ううん。大丈夫。ちょっと苦しいだけ」


ライトはシルビアのお腹に耳を当てた。


「うん。鼓動もしっかりしている。むしろ、力強い」


シルビアもお腹を見た。


「早く、子供に会いたい」


「頑張ろう」


ライトはシルビアを撫でた。外を見ると、薄暗くなっていた。


「そろそろ戻るよ。今日は少し遅くなると思う。ごめんな」


「ううん。大丈夫。ありがとう」


ライトは大学へ向かった。


大学へ着くと、まだ誰も来ていない。自分の教授室に入り、生徒が来るまで休んでいた。すると、誰かが入ってきた。ライトはとっさにナイフを忍ばせた。


「誰だ」


「これは失礼」


谷川だった。


「何のようだ」


「あなたが書いた龍たちの生態の本が気になってね」


「悪用するつもりですか?だったら見せませんし、そもそもこの部屋から出て行ってください」


谷川は鼻で笑った。


「弱い龍の生態なんて、意味ないでしょう。まぁ、近々いいことがあるので楽しみにしていてくださいよ」


谷川は部屋を出て行った。


「…警戒する必要がありそうだな」


ライトは休む気にもなれず、部屋を片付けて本を読んでいると、生徒たちが来た。


「さてと。今日も授業しますか」


教科書や本を持ち、部屋を出た。




「ライト…まだかな?」


夜になっても、ライトが来ないことに少し心配をしていたシルビア。すると、あたりが一変した。


「なにか…嫌な感じが…」


すると、山全体に断末魔が響き渡った。


!?


それと同時に、何かが落ちた音も響いた。それも、一回だけじゃない。断末魔が響いては落ちる音が続いた。


「何が起きてるの…うっ…」


シルビアが産気づいた。シルビアは洞窟の奥に身を潜めながら、陣痛に耐えた。


「痛い…」


陣痛で苦しい中でも、断末魔が響いた。


「早く…産まれて!」


シルビアは歯を食いしばった。すると、水の音と共に産まれた。


「はぁ…やっと産まれた」


シルビアはすぐに産まれた子を舐めた。すると、それに反応して子供が動いた。


「よかった…」


シルビアはさらに舐めた。すると、子供は目を開けた。シルビアと同じサファイア色の瞳だった。


「生まれてきてくれて、ありがとう」


すると、断末魔ではない低い鳴き声が響いた。


「さようなら…」


シルビアは子供を残して飛び立った。上空には大きな黒龍がいた。背中には人が乗っていた。


「俺の子、奪いにきた。差し出せ」


黒龍は低い声でそう言った。


「ふざけるんじゃないよ!腹を痛めて産んだ子を、あんたなんかに!」


シルビアはふと気がつき、下を見た。


「なんてこと…」


そこには、三日月龍の亡骸が一面に広がっていた。


「君の一族全員を殺した。あとは、あなただけです」


今度は人間がしゃべった。シルビアは逃げた。


「追え!」


黒龍はシルビアを追った。


ライトは走った。


「遅くなったな」


ひたすら走ると、目の前に三日月龍が横たわっていた。ライトは驚き駆け寄ったが、息はもうしていなかった。


「なんてこと…まさか!」


上空を見ると、シルビアが必死に逃げていたがとうとう黒龍に噛み付かれた。シルビアは悲鳴をあげた。


「シルビア!」


そのまま黒龍はシルビアを地面に叩きつけた。砂埃が舞い、ライトは腕を覆った。


「シルビア…」


ライトは駆け寄った。シルビアはもう致命傷だった。


「すまん。遅くなって…」


「ライト…会いたかった…」


シルビアは涙を流した。ライトは上空を見ると、まだ黒龍がいた。


「あれは…闇の帝王レイ。まさか!」


よく見ると、谷川が乗っていた。


「あいつ!」


すると、レイが雄叫びを上げた。それは、誰もが暗い気持ちになる恐ろしい声だった。


「レイ。本当に作ったんだろうな。まさか、お前も弱い龍が好きだとは…」


谷川は呆れていた。だがその時。


「なんだ…」


谷川とレイの方へ、黒い点が向かっていた。だが、何かおかしい。レイは黒い点を見つめた。近くに来ると、それは黒い小さな龍だった。


 コ・ロ・ス


何処からか声が聞こえた。それは、ライトの耳にも入った。


「まさか…あれは」


レイは龍にめがけて炎を吐き出した。しかし。


「効かない…」


レイは驚いた。すると、龍は目を見開いた。赤い血のような目でレイを睨み、オーラを放った。


「殺す!」


龍は高い声でそう叫ぶと、レイがいつのまにか地面へ叩きつけられていた。


!?


谷川も一瞬の出来事に、ただしがみつくしかできなかった。


「あの龍…お前の子か!」


谷川はレイにそう言った。レイはまた、上空を飛んだ。しかし、何かの力なのかレイは殴られた衝撃を喰らった。


「ぐっ!」


反撃しようにも、龍に指一本近付くこともできなかった。


「レイ!無理だ!やつは暴走状態だ」


「じゃぁ、どうするんだ!」


「無力化すればいいだけだ」


谷川は何かを唱え、龍に手を向けた。


「さぁ、お前は私のものだ!」


龍の体が白く光った。すると、龍は人間の赤ちゃんになった。


「これで無力化したぞ。人間の赤ん坊は何もできない」


谷川の方に赤ちゃんは向かっていた




「谷川のやつ…なんて事を…」


「ライト…」


シルビアはライトに叫んだ。


「あの子を守って!」


ライトは頷き、地面を蹴り、上空も蹴り谷川に近づいた。


「谷川!」


そう叫び、銃を抜いた。


「ライト…」


ライトは谷川の方へ向かう赤ちゃんを抱き抱え、レイの翼に銃を撃った。


「人間が!」


レイはバランスを崩し、谷川も落ちそうになった。もう一発銃を打とうとしたが。


「レイ!引くぞ!」


「なぜだ!」


「いいから!」


レイはバランスを取り直し、去っていった。ライトも地面に着地した。


「シルビア…君の子供だ…」


スーツの上着で赤ちゃんを包んだ。


「私の子…かわいい…」


「女の子だよ」


額にはシルビアと同じ、三日月が入っていた。


「育てたかった…」


「まだ諦めるな!」


すると、太陽が出始めた。朝日がシルビアをはじめ、他の三日月龍にも照らした。


「ライト…ずっと見守ってる。どうか…この子と卵の子をお願い…」


そう言うとシルビアは砂のように消えた。他の三日月龍も砂のように消えた。


「シルビア…」


すると、赤ちゃんが泣き始めた。


「君は、朝の光を浴びても大丈夫なんだな。よしよし」


ライトは赤ちゃんをあやした。すると、胸ポケットから殻を破る音がした。


「まさか!」


出してみると、黒龍が産まれた。


「君たちは、本当に兄弟だな」


ライトは赤ちゃんと黒龍を抱きしめ、自分の屋敷がある灰色の世界へ去った。

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