第7話
それから数日が経ち、明楽は自由に動き回れるようになった。
「本当にすごいわね…」
「これが、三日月龍の回復力か。恐れ入った」
クロとウルフは呆気に取られていた。
「クロ。私、強くなりたい」
明楽はそう答えた。
「じゃー今日から稽古しようか」
クロとウルフは明楽を稽古場へ連れて行った。
「いきなりやると、体が追いつかないから今日は優しめでいくよ」
そう言うと、何も持たずにクロが前に出た。
「今日は武器を持たない。ただ、前に詰めたり、背後を取るからそれを避けろ」
明楽は身構えた。
「なら、始めるぞ」
そう言うとクロは一瞬で明楽に詰めた。
!?
「遅い」
明楽の額にクロが指を立てた。
「突かれるぞ」
明楽は距離をとった。
「ポイントは音も大事だが、相手の動きを見るのも大事だ」
するとクロは、色付きの紙を腰につけた。
「これを追ってみろ」
またクロが一瞬でいなくなった。明楽は音を聞きながら、クロの動きに注目した。色付きの紙が目印になるので、さっきより動きがわかりやすいが、早い。
「どうやって…」
明楽は考えた。すると、ある一定のリズムで動いてることに気づいた。一瞬色付きの紙が背後に行った。明楽はそこに目掛けて拳を向けた。
「そこか!」
だが、クロは拳を手で受け止めた。
「やるじゃなか」
明楽の拳を離した。
「学校では習わないからな。高速で移動する相手を避けるってことを」
「授業に参加させてもらえなかったんです」
明楽は寂しそうに呟いた。
「ライダーって、何で嫌われるんですかね…」
「はぁ?最低じゃん」
見学していたウルフが言った。
「差別する奴まじ地獄行ってよ思うわ」
「普通科以外の授業は基本受けさせてもらえれませんでした。その時はひたすらランニングさせられてて。普通科も、空気な扱いでした」
クロが口を開いた。
「明楽。ここで強くなってさ。あいつらを見返そうぜ。先生もアワアワ言いそうだしさ」
「いや…実は…」
明楽は始業式の事を話した。武闘体育で先生を脅した事を。
「…先生のレベル低」
ウルフは唖然としていた。
「担任もクズじゃん。てか、明楽。担任誰だ?」
「工藤先生です…」
その名前を聞いてクロは真顔になった。
「工藤だって?」
「はい…」
ウルフもその名前に覚えがあった。
「クロ…」
「あいつか。あのクズか」
クロが怒りで震えそうになった。
「工藤先生って、クロと知り合いなんですか?」
「知り合いも何も、あいつは俺の大学の同級生で喧嘩売ってくるアホなんだ。まぁ、撃退してたが懲りないやつでな。工藤が教師…」
クロがハッとした。
「もしかして…校長はなんて名前だ?」
「え?谷川だったような…」
クロとウルフは顔を見つめた。
「明楽。すまない。俺の部屋に来てくれ」
三人は稽古場を後にし、クロの部屋へ向かった。部屋に入るなり、明楽を椅子に座らせた。
「クロ…まさか…」
「繋がっている可能性はあるな。最低野郎どもだ」
「クロ…ウルフさん。どういうことですか?」
ウルフは明楽の横についた。
「いずれ話をしないといけないと思っていたんだが、もう話すか。ナイトには君たちが兄弟だって事、君が強力な力を持っている事だけ話をしたんだ」
「うん…」
「ウルフ…何処から話した方がいいかな」
「全部でいいんじゃない?」
クロは明楽を見た。
「空気重くなる話だが…」
「どのみち知ることになるんだったら、お願いです。話してください」
クロはウルフに頼み、三人分のお茶を用意させた。
「長くなる。まずは、明楽が生まれる前の話からしよう」
十七年前。クロの叔父さん、ライトは三日月龍について研究をしており、夜には山へ行き高台から観察をしていた。
「今日も美しいな。群れの数も減少していないし」
ライトは群れの数を記録している時だった。三日月龍の群れに向かって赤黒い何かが飛んできた。
「あれは…」
三日月龍の群れは混乱に入った。すると、赤黒い何かが一匹の三日月龍を捉え、地上に一緒に落ちていった。落ちた瞬間地響きがなった。他の三日月龍はその場をさるように、高速で飛んでいった。
「何が…」
ライトは落ちた方へ急いで向かった。ただ距離があり、しばらく移動すると赤黒い何かは飛んで行った。現場に着くと、一匹の三日月龍が酷く怪我を負っており、横たわっていた。
「大丈夫か?」
ライトはその三日月龍の顔を撫でた。三日月龍は目を開け威嚇をした。
「何もしないから安心しなさい」
ライトはそう言い聞かせると、ゆっくりと三日月龍は体を起こしたが、翼を怪我したのか飛べなくなった。
「朝日を…浴びたくない…」
三日月龍はそうライトに言った。
「喋れるのか。よし、わかった。この近くに洞窟がある。君の大きさでも入れる洞窟だ。そこで休もう」
ライトは三日月龍を滝がある洞窟に案内した。枯れ葉や魔法で出した敷き藁で寝床を作り、三日月龍を休ませた。
「人間よ…ありがとう」
三日月龍はライトに顔を近づけた。
「君も、大変な思いしたね。良ければ、君の怪我の具合を見てもいいか?」
三日月龍は大人しくした。ライトは怪我の具合を見、その場で手当てもした。
「君は…メスなのか?」
「そうよ?」
尻尾を一瞬持ち上げた。
「通りで美人だなと思ったよ」
…。
「私はライトだ。毎晩、君たちを観察していたんだ。ただ、こんな間近で見れるのははじめてでね」
ライトは嬉しそうに言った。
「私達は、朝日を浴びると死んでしまう…」
三日月龍は悲しそうに答えた。
「そうなのか」
ライトは手当を終え、三日月龍の顔に近づいた。
「欲しいものはあるかね?」
「ここまでしてくれて、欲しいものはありません。本当にありがとう」
すると、三日月龍のお腹がなった。
「お腹空いてるじゃないか。用意するよ。所で君たちの主食はなんだ?」
三日月龍は恥ずかしそうに答えた。
「え…いいんですか?じゃぁ…鹿が欲しい」
「よし。今から捕まえてくるから休んでなさい」
ライトはそう言うと走って洞窟を抜けた。数時間で鹿を仕留め、洞窟に帰ってきた。
「これでどうだ?」
仕留めた鹿を三日月龍に近づけた。
「いいの?」
あまりの空腹だったのか、涎が垂れていた。
「遠慮せずに食べなさい」
三日月龍は鹿を丸呑みした。
「豪快だね。実はもう一匹いるんだけど」
「ほしい!」
目を輝かせていた。ライトはもう一匹も三日月龍にあげた。やはり丸呑み。
「ライト…ありがとう」
「どういたしまして。所で、君はなんて名前だ?」
三日月龍は首を傾げた。
「名前?ないですよ?」
「君に名前をつけてもいいか?」
「どんな名前?」
「シルビアだ」
三日月龍は少し嬉しそうだった。
「素敵ね。ありがとう」
そうしていると、空が明るくなった。シルビアは震えていた。
「大丈夫。この洞窟には日の光は入らない。ただし、外には出ないことだ」
ライトはシルビアの顔を撫でた。
「シルビア。毎晩君に会いに来てもいいか?この洞窟で」
シルビアは嬉しそうに鼻を鳴らした。
「嬉しい。ありがとう…」
それから、ライトは日中に大学の講師、夜はシルビアに会いに行く日々を過ごしていた。
しかし、数ヶ月後にシルビアが急変した。いつものようにライトは洞窟へ入ると、シルビアはもがいていた。
「シルビア!」
シルビアに駆け寄った。シルビアの尻尾の付け根が血で染まっていた。
「今見てみるから」
ライトはシルビアがもがいた拍子で蹴られないように、尻尾の付け根に近づいた。
「なんてこと…」
そこには血の塊がシルビアから流れていた。
「まさか…あの時に…」
ライトは血の塊を持ち上げた。すると、かすかにそれは動いた。
「シルビア!」
シルビアは顔を持ち上げた。
「赤ちゃんだ…」
シルビアは驚いた。ライトは丁寧に血の塊を拭うと、小さな黒龍の赤ちゃんがいた。
「私…」
「赤ちゃんを見る限り、超未熟児だ。長くは生きていられない」
黒龍は弱っていく一方だった。
「ライト…この子を守って!」
シルビアは吠えた。
「いいのか?ただ、私はこれしかできない」
ライトは黒龍を地面に置き、祈りを捧げた。子守唄を歌うように呪文を唱えると、黒龍は卵になった。
「この子が自活できるようになると、卵を破って出てくる」
ライトは卵を抱えた。
「ありがとう。うっ!」
シルビアは痛み出した。ライトはシルビアのお腹に手を当てた。すると、かすかにシルビア以外の心音が聞こえた。
「もう一匹いるぞ…」
「え…?どう言うことよ」
「双子か。ただ…」
シルビアの痛みが引いた。
「この子はまだ産まれなさそうだ」
「私の体…どうなって…」
「わからない。そもそも、三日月龍が卵から孵るんじゃなく、母親から出てくる事に驚いたよ」
シルビアは疲れていた。
「シルビア。よく頑張った」
シルビアを撫でた。シルビアは泣いた。
「シルビアは偉いよ。よく産んでくれた」
シルビアが泣き止むまで、ライトはずっと撫でていた。しばらくすると、シルビアは落ち着いた。
「ありがとう…」
ライトを舐めた。
「シルビア。辛い思いもするかもしれないが、お腹の子供と卵の子を大事にしよう。私に出来ることがあれば言って欲しい」
シルビアはライトを見つめた。
「ライト。あなたが良ければ、ライダーの条件の一つである、私の力の一部をあげたい」
ライトは驚いた。
「どう言うことだ?」
「私達一族はライダーになる条件があるの」
シルビアは説明した。三日月龍はお互いの力の一部を譲り合うことて初めてライダーになれる事。ライダーになると、その若さから永遠に老化しないこと。どちらかが死ぬと、相手も死ぬ事を教えてくれた。
「本当は、ライトに私のライダーになって欲しいと思った。でも…」
シルビアはお腹を見た。
「私は、この子を産んでから、ライダーになって欲しい」
ライトは疑問だった。
「私は、ライダーになるのが夢だった。まさか憧れの龍からそう言われると、とても光栄だ。そんな条件があったのは驚きだ。だが、なぜ力の一部を今私にくれるんだ?」
「私は、一族から嫌われている。ここ数ヶ月、あなたといて本当に楽しいの。今日出産したこの子を守ってくれたことも。その恩返しをしたい。ただ、次の出産で命を落としたら、ライトまで死ぬのは嫌。だから、私の力の一部だけ、受け取って?」
シルビアはライトを見つめた。
「シルビア…」
ライトはシルビアを撫でた。
「君の気持ち。受け取っていいんだな」
シルビアは頷いた。ライトはシルビアにキスをした。すると、感じたことのない力がライトに走った。
!?
ライトは驚いたが、その力は静かになった。
「今のは…」
「私の力よ。ありがとう」
「シルビア。君のライダーに私は絶対になるから、子供を無事に産んでくれ」
ライトはシルビアを抱きしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます