第6話
夜中のグラウンドに工藤がきた。
「珍しいですね。外で話したいなんて」
「たまには、いいでしょう。痕跡があるか、探していたんですがね…」
谷川は報告書の収穫ゼロだったことに、気持ちがが下がっていた。
「急いで三日月を探さなくていいんですか?」
「しばらくは大丈夫ですが…」
谷川は月をみた。
「まだ、大丈夫そうですね…」
「校長。前から気になってたんですが」
工藤は切り出した。
「三日月さんをどうするんですか?」
谷川は工藤に向き直った。
「三日月さんには、莫大な力を持っている。この星を滅ぼす力があると私は思う」
工藤は驚いた。
「どう言うことですか」
「三日月さんは、三日月龍とレイの間にできた子だ。三日月龍自体、生態が不明だが、強大な力を持っていると言われている。そして、レイの血も入っている。あの晩…」
谷川は思い出した。十六年前、明楽が暴走した事を。
「校長?」
「いや。昔を思い出していた。私は、三日月さんの力が欲しいのです。無理矢理にでも、私が三日月さんのライダーとなって、この魔法を使える世界を変えていきたいと思う。工藤くんは、二年前の戦闘を覚えているかね?」
「はい。参加していたので」
「あの戦いは、はっきり言って相手がクズだったんだ。何が野生の龍を保護したいだ。龍は強い者が残り、弱い者は処分で当然の扱い。その方が、戦闘面でもいい戦力になるんだ」
「確かに、おっしゃるとおりです。野生の弱い龍がいても、邪魔なだけですし。強い龍が我々に手を貸してくれたら、戦闘なんてあっという間ですもんね」
「その強い龍のトップに、三日月さんがいたら支配ができます。たった一匹で支配ができるのは効率がいいでしょう。もし、そうなれば工藤くんは私の横にいてもらおう」
工藤は驚いた。
「本当ですか?」
「君は、三日月さんの担任だからな。三日月さんに教育をするのも君の仕事だからな」
谷川はニヤついた。
「だが、三日月さんは一体どこへ行ったんだろうか…」
「私にもわかりません。こうなれば、情報提供なり、裏でやりますか?」
谷川は悩んでいた。
「三日月さんの情報が知られてしまう可能性も出てしまうんですが、仕方がないですね。見つけた者には、懸賞をかけることにしましょう」
「私もできる範囲で探せれるように頑張ります」
「今日は遅くまですまなかったね」
「では」
工藤は帰って行った。
「明楽ちゃん!おはよー」
あれから数日がたち、明楽も体が動けれるようになった。
「おはようございます」
自分で体を起こした。
「朝食持ってきたよ。今日から食べてみようね」
見ると、すごく美味しそうに盛り付けがされていた。
「クロの手作りよ。朝からお腹に優しい物にしてあるから」
「この、白いのは?」
「白米よ?食べたことないの?」
「はい…」
明楽は箸で白米を一口食べた。
「おいしい…」
次に汁物にも明楽は興味を持ち、飲んでみた。
「ウルフさん。これは?」
「味噌汁よ。で、小鉢に入ってるのはおひたしよ」
あまりの美味しさに、明楽は涙が溢れた。
「明楽ちゃん。普段…何食べてたの?」
「鹿や猪。魚も取っていました。たまに山を散策して、山菜も取っていた程度です…」
明楽はあっという間に平らげた。
「美味しかった…」
「よかったね。そうそう、今日の夜ね?楽しみにしててね」
ウルフは食器を下げ、部屋を出て行った。
「夜…?何があるんだろ…」
そう考えていると、クロが入ってきた。
「おはよう」
「おはようございます」
「朝食、完食したんだって?」
「とても美味しかったです。ありがとうございます」
明楽の笑顔に、クロも嬉しかった。
「今日は、城を歩かせようと思うが」
明楽はベットに座り直した。
「自分一人で立ってみてもいいですか?」
「あぁ。倒れそうになったら支えるから大丈夫」
明楽は柵を握り、ゆっくり下半身に力を入れ、立ち上がった。一歩ずつゆっくり歩いた。
「足に力が入る…」
スラスラ歩けるわけではなかったが、部屋を一周歩くことができた。
「順調だな。あまり無理はするなよ。と言っても明楽の怪我、ほぼ治ってるんだよな」
「え?」
「三日月龍は怪我を負っても回復が早い言われているんだが、ここまで早いとは思ってもなかった」
クロは驚いていた。
「そうなんですか。だから、いじめられても次の日に傷がなかったんだ」
「自覚なかったの?」
「これが普通かと…」
明楽のノー天気にクロはポカーンとしてた。
「明楽…こんな重傷を、半月ほどである程度回復することが異常なんだ」
クロは扉を開けた。
「とりあえず、散策に行こうか」
明楽はゆっくりと廊下を歩いた。
「久しぶりに歩くの、なんだか変だな…」
「たくさん歩こう」
廊下を往復するだけでも、明楽は疲れた。
「体力落ちてる…」
「寝たきりだったからな。これじゃー勝負にならないよ」
クロはニヤニヤした。
「早く元の体力に戻りたい…」
「大丈夫。明楽の回復力は異常だ。心配いらない」
しばらく歩き続け、明楽とクロは部屋に戻った。
「今の所、痛みはないか?」
「大丈夫です」
明楽はベットに座った。
「俺、これからやる事があるから失礼するよ。そうそう。今日の夜、楽しみにしてて」
そう言うとクロは出て行った。
今日の夜、何があるのだろう。そう思っていると明楽は眠気に襲われ、眠ってしまった。
気がつくと、夜になっていた。
「もう夜なの…」
時間が早く経っている事に驚いた。すると、ノックがした。
「どうぞ…」
ウルフが入ってきた。
「明楽ちゃん!いいもの見せてあげる!」
ウルフは明楽の手を引っ張り、部屋を出た。
「ウルフさん。どこ行くんですか?」
日中の疲れもあったが、なんとかついて行った。ウルフはクロの部屋へ連れて行った。
「明楽ちゃんも、きっと喜ぶよ!」
扉を開けると部屋でクロが待っていた。
「いらっしゃい」
クロは本を閉じ、立ち上がった。
「明楽。今日は何の日かわかるか?」
「…もしかして」
クロは部屋のダイニングに明楽とウルフを座らせた。
「まぁ、みてな」
クロは大きな皿を置き、大きな籠を被せた。そして、クロは籠に火をつけると、籠は一瞬で燃えてしまった。すると、皿の上にはなかった大きなケーキが乗っていた。
「これ…」
ケーキにはこう書かれてあった。
『誕生日おめでとう!明楽!ナイト!』
「こう言うお祝い、今までなかっただろ?」
クロは蝋燭を立て、手をかざすと蝋燭に火がついた。
「朝から作ってたんだ。ナイトが亡くなった事が残念だが、今日は二人の誕生日を祝いたい」
「明楽ちゃん。願い事を頭に思い浮かんで、蝋燭の火を消して」
明楽は少し考え、蝋燭の火を消した。
「おめでとう」
クロとウルフは拍手をした。
「クロ…ウルフさん。ありがとう…」
明楽は泣きそうになった。
「主役が泣いちゃダメよ。ケーキ切るから、食べよ?明楽ちゃん」
ウルフはケーキをカットし、明楽に渡した。
「ケーキ食べるのも、初めてです…」
明楽は一口食べた。あまりのおいしさに、どんどん口に入っていく。
「良かった〜」
クロはホッとした。
「すごく美味しい!」
食べてる姿がとても幼く感じた。
「明楽ちゃん。おかわりあるから、食べてね!」
「うん!」
明楽は幸せでいっぱいになった。この幸せが続くことを明楽は願った。
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