第5話

目を覚ますと、もう朝になっていた。


「おはよー。明楽ちゃん!」


ウルフが横で薬を変えていた。


「おはようございます…」


「ごめんねー。昨日クロがさ、ここで寝てたみたいで。重くなかった?」


「え…そうだったんですか…」


「叩き起こして自分の部屋で寝させてるから。ったく!怪我人が寝てるベットで普通寄りかかってねる!?ありえないわー」


ウルフは呆れていた。


「いえ…クロが私に付き合ってくれてたんです…」


ウルフはニコッと笑った。


「だと思ったよ。昨日、見回りにここきたんだけど、明楽ちゃんの表情よくなってたもん。ホッとしたよ」


ウルフは部屋を出た。そのまま廊下を歩き、クロの部屋のドアに立ちノックをした。が、返事はなし。


「も〜。いつまで寝てるんやら」


ウルフは勢いよく扉を開けた。大きいベットでまだ眠っているクロ。


「クロ!いい加減に起きなさい!」


クロをバシバシと叩いた。


「ん〜」


イヤイヤながらも目を開け、メガネをかけた。


「明楽ちゃん。ちゃんと起きてるのに、あんたったら…」


「あぁ、ごめん。ちょっとシャワー浴びてくるよ」


クロはベットから出て、着替えを片手にシャワー室に入り服を脱いだ。鏡に映った背中の大きな傷跡が目に入った。


…。


そのままシャワーを浴び、タオルで体を拭き着替えた。


「ウルフ。明楽の容体は?」


ウルフは少しウキウキしていたが、服を着て出てきた姿にガッカリしていた。


「え〜。なんで服着てるの〜」


「お前を襲ったところでどうする。そもそも、お前の裸を見ても興奮はせん」


「失礼ね!」


「で、容体は?」


「大丈夫そう。今日は傷口確認するんでしょ?」


クロは部屋にある棚からコーヒーを淹れた。


「あぁ。だが、俺がいきなりだと明楽も嫌だと思うから、ウルフがメインでしてくれ。俺はカーテンの向こうにいるよ」


「そうだよね。わかったわ」


ウルフとクロは明楽がいる部屋に向かった。


「ごめんね〜。入るよ〜」


ウルフとクロは部屋へ入った。


「明楽。どうだ?」


「おはようございます…今は痛くないです…」


「よかった」


「あの…」


「ん?」


「昨日は…ごめんなさい…」


明楽はクロに謝った。


「大丈夫だ。明楽こそ、話してくれてありがとう」


ウルフは準備を整えた。


「明楽ちゃん。今日は傷口の処置をするから、服脱がせるからね。クロには見えないようにするから大丈夫。もし、辛くなったらすぐ言ってね」


カーテンの向こうにクロは移動した。ウルフはそっと明楽の服を脱がせ、包帯を解いていった。


「ウルフさん…」


「なに?」


「私…ボロボロですか?」


ウルフは傷口に当てたガーゼを全て交換し、また包帯を巻いた。


「大丈夫。傷跡にならないようにしてるから。骨折もしっかり治してるから大丈夫。年頃の子だもん。配慮するよ〜」


明楽を励ました。


「ありがとうございます…」


「ウルフ。どうだった?」


ウルフはカーテンを開け、クロを入れた。


「心配ないよ。順調よ」


「よかった」


ウルフは片付けをした。


「一つ聞いてもいいですか?」


明楽は疑問をクロに投げた。


「なんだ?」


「私は一体どこにいるんですか?」


クロとウルフは顔を見つめた。


「クロ…言ってないの?」


「ウルフが言ったかと…」


ウルフは片付けの手を止めた。


「まぁ、いずれ言わなければならないし。明楽ちゃん。ちょっと体起こすね」


ウルフの支えもあってなんとか体を起こした。明楽は窓を見て驚いた。


「ここは…一体…」


クロは説明をした。


「ここは、この世とあの世の境目の世界。別名、灰色の世界だ。なお、この城の背後にあの世がある」


「ちなみに。空はこの世の空だよ〜」


ウルフは可愛く答えた。


「だから、昼も夜もある。この世と遮断されてるから、君を狙う奴らもそう簡単にはここには来れない」


明楽はもう一つの疑問を聞いた。


「じゃ…私とナイトを見守っていたのって、クロ?ウルフさん?」


するとクロは窓を開けた。どこから飛んできたのかわからなかったが、一羽のカラスがクロの腕に止まった。


「この子達を使って、君たちを見守っていた」


カラスは不気味に鳴いた。明楽はふと気づいた。


「そういえば、春にナイトが一人で出かける前にこの鳴き声聞こえた」


「俺のカラスだな。カラスは数十羽いる」


「そんなにいるの!」


「全部が全部明楽たちを見守れって指示はしてない。この世の状況、野生のカラスと俺のカラスが共存できているかなど。カラスだと、わかりにくいし何より頭がいい」


クロはカラスにオヤツを与え、また外に放した。


「さてと、明楽。調子がいいなら、この城の散策にでも行くか」


ウルフは車椅子を持ってきた。


「ずっとベットだとしんどいじゃん?気晴らしに行こ?」


明楽はゆっくり地面に足をつけた。力が入りにくい。ウルフとクロに支えられながら、車椅子に乗った。


「足は動くか?」


クロの問いかけに、明楽は足に力を入れた。だが、少しだけしか動かせれなかった。


…。


「落ち込むな。意識不明だったんだ。動かなくて当然だ。これからリハビリも入れるから。後遺症は残ってないのが本当に良かった」


ウルフが車椅子を押した。部屋を出ると、長い廊下が目に入った。廊下を移動していると、兵士たちが次々と挨拶をしてきた。


「ここの人たちって?」


「俺の兵士たちだ。みんな仲が良く、和気藹々だ。もし、城で迷子になったら兵士に聞くといい。みんな教えてくれるよ」


武道場や兵士たちが使っている食堂、寮。たくさんの本が詰まっている図書室や広いシャワールーム。色々ありすぎて、明楽は覚えきれなかった。そして、ウルフの部屋についた。


「本当は、クロは出入り禁止だけど。明楽ちゃんがいるから、特別よ!」


扉を開くと、目に入った光景に明楽とクロは同じ表情をしていたかもしれない。


「どう?女の子っぽいでしょ!」


床やベットの上は、下着や破廉恥な服。化粧台は化粧品でいっぱいだった。何より、床と壁がピンク色だったことにドン引きした。


「すごくかわいいですね…」


「ウルフ…もうちょっと綺麗にしとけ」


ウルフは反省していなかった。最後にクロの部屋に来た。


「クロだって、汚いじゃん〜」


扉を開けると、大きなガラス窓が広がっていた。机には本が数冊乗っているだけで、それ以外は綺麗だった。


「俺の部屋は綺麗だぞ。部屋にシャワーもあるし、キッチンもある。兵士たちの伝達事項や、カラスたちの報告も、ここで行う。まぁ、仕事兼自分の部屋だな」


明楽はクロの部屋にどこか見覚えがあった。


「私…一度ここに来たことある?」


そう問いかけた。


「ここ、元はクロの叔父さんの部屋だったんよね。明楽ちゃんとナイトが赤ちゃんの頃、ここで叔父さんが育ててたのよ。あなたたちのこと」


「俺はまだガキの頃だった。でも、よく覚えているんだ」


明楽は不思議に思っていた。


「なんで…覚えているんだろ…。赤ちゃんの記憶なんて、普通ないよね?」


「そんな事はないよ。ナイトは覚えていたよ」


クロが答えた。


「え?」


「俺の匂いを嗅いで、思い出していたぞ。まぁ、龍は記憶力に優れていると言われているけど、人間も、思い出になる事はどこかで覚えているんだろう」


「明楽ちゃん。そろそろ戻ろっか」


「お願いします」


また廊下を移動した。


「明楽」


クロが口を開いた。


「なに?」


「これから、どうしたい」


…。


明楽は悩んだ。すると、明楽が寝ていた部屋についた。クロとウルフに支えられながら、ベットに横たわった。


「大丈夫?」


「はい…あの…」


明楽はクロを見た。


「私…ナイトを殺した奴を殺したい。ナイトの分まで生きたい」


強く答えた。


「わかった。まずはしっかり怪我を治そう。そして、俺が戦い方を一から教える」


「私も手伝うよ!私も強いから、頑張ってね〜」


ウルフはウキウキしていた。


「明楽。頑張ろう」


クロは明楽の手を握った。


「はい!」


明楽は強く答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る