第4話

遠くで誰かが喋っている声が聞こえた。


「……ぶ?」


「…ない…」


意識が遠くなった。




「クロ。大丈夫?」


「問題ない」


明楽の治療に専念していた。出血も多く、体もボロボロ。


「明楽ちゃん。よくこんな体で…」


ウルフはあまりの酷さに絶句していた。


「俺が刺した傷以外にも、骨折に内出血。暴行で負ったんだろう。だが、こんな体で俺に挑むとは、たいした子だ」


クロもここまで酷いとは思っていなかった。すると、ウルフは明楽の体を見て気づいた。


「クロ。明楽ちゃんの胸に、変な痣が…」


見ると、虫刺されにしては異様な形の赤い痣があった。ただ、かなり赤黒い色になっていた。


「…やはりか。ウルフ。この痣を見たことはまだ明楽には言うな」


「当たり前でしょ!私ならともかく、クロは男でしょ!」


クロは顔が赤くなった。


「俺は…治療目的…」


「まぁいいわ。場所が場所だもん。明楽ちゃん、年頃の女の子だもん。絶対に言わないわ」


ウルフとクロは遅くまで明楽を治療した。




次に目が覚めた時は激痛が襲った。とても苦しい。


「グッ…!」


明楽は必死に痛みに耐えた。汗が滲み出る。すると扉が開いた。


「大丈夫?今痛み止め打つからね…」


女の声だった。しばらくすると、痛みが治った。


「ごめんね。遅くなって。ゆっくり休んで」


明楽は眠りについた。




次に目が覚めると、白い天井が目に入り、明るかった。窓が開いているのかカーテンが揺れていた。首から下が全く力が入らない。


「…ここは」


「目が覚めたか」


声のする方に向くと、クロがいた。


「丸五日眠ってたんだぞ。心配したよ」


「…なぜ、殺さない」


明楽は生きている事に後悔していた。その時、部屋の扉が開いた。


「クロ〜。明楽ちゃん起きた…って!キャー!やっと起きたのねー」


露出度が高い服を着た、赤い髪をした女が入ってきた。


「こいつはウルフ・ブエナだ。性別がない」


「ちょっと失礼ね。性別はなくても、見た目も心も女よ。よろしくね」


明楽は目が点になっていた。


「二人の関係って…」


「私はクロの秘書してるの」


ウルフはピースしていた。


「改めて、挨拶するよ。俺は、クロ・ルーマスだ。明楽。俺のところに来て欲しかったのには理由がある」


明楽はクロを見つめた。


「君は、街…いや、世界を滅ぼす力を持っている。君が誕生日を迎えると、その力はさらに増す。その力を手に入れたいがために、皆が君を狙う。だが、俺は守りたい。ボロボロにしといて、何言ってるんだと思うが」


明楽はわからなかった。


「私を守りたい…?赤の他人に」


すると、カーテンの隙間から1羽のカラスがやってきた。クロを見つけると、サッと飛びクロの方に着地した。


「実は、会ったこともあるし、君が赤ちゃんの頃にも会っているんだ。覚えてないだろうけど…」


カラスがクロの耳元で口を動かした。何かを報告するかのように。


「明楽。少しだけ考える時間をやる。君が死を選ぶなら、それでも構わない。俺が殺してもいい。ただ、もう少しだけ生きる希望が持てたら、俺とウルフに付き合ってほしい」


クロは扉の方に向かった。


「すまんが、用事ごとができた。部屋をでるよ。それと、明楽…ナイトを守れなくてすまん」


そう言い残し、部屋を出た。


「え…なんで、ナイトのこと知ってるの…」


明楽は驚いた。


「明楽ちゃん。実はね、ずっと明楽ちゃんとナイトを見守っていたの。クロの叔父さんから、あなた達が子供の頃から、危険に晒されてないか見守ってほしいって。ただ、ナイトが殺されたこと。明楽ちゃんが暴行された事は予想外で、私たちも対応できなかった。本当にごめんね。だから、クロは何としてでも、明楽ちゃんを守らないとと思い、急遽予定を変更したの。クロも私も、明楽ちゃんを利用するために連れてきたわけじゃない。それだけは忘れないでね。クロったら、肝心なこと言うの忘れてるんだから〜」


ウルフは呆れてた。


「なんで、そんなことまで知ってるんですか?」


明楽は驚いていた。


「ふふっ。明楽ちゃんとナイトをどうやって見守っていたのか、元気になったら教えるよ。ストーカーはしていないからね。ただ、ちゃんと生きているかの確認だけだからね!。あら、薬が切れそうだね。持ってくるね」


ウルフも部屋から出て行った。


…。


明楽はまた眠りについた。そのまま夢を見た。


「ナイト!」


暗闇の中から、ナイトが現れた。


「明楽…」


ナイトは寂しそうに言った。明楽はナイトの顔に飛びつき、泣いた。


「ナイト…ごめん…私」


「明楽…俺も、守れなくてごめん。お前を置いて…」


ナイトは悔しさのあまり、涙を流した。


「明楽。実は、話しておきたいことがある…」


ナイトは明楽を見つめた。


「実は、俺達は兄妹なんだ…」


明楽は一瞬驚いたが、どこか納得していた。


「ナイトが兄妹だろうが、ただのライダーの関係だろうが、私たちの絆じゃない。兄妹なら尚更。大事にしたいし…もっといたかった…」


「俺もだ…」


お互いにもう居られない事に、悔しがっていた。


「明楽。今クロって人のところにいるだろ?」


明楽は驚いた。


「どうして…知ってるの…」


「実は、半年前に教えてくれたんだ。俺らが兄妹って事も。それに、クロは信用できる人だ。明楽、俺はもう、お前のそばには居られない。お前がクロを信用できる思ったら、ついていきなさい」


どこか悔しそうだった。


「ナイト…私は、ナイトを絶対忘れない。私の心の中にずっといるから。ナイト、見守ってて」


明楽はナイトを抱きしめた。


「明楽…ごめん。そろそろ行くよ。ずっと見守ってるから。本当に、今までありがとう」


ナイトの体が輝き始めた。


「ナイト…」


「さよなら…」


天に帰って行った。


目を開けると夜になっていた。相変わらず体は動かない。


「…ナイト」


するとノック音がし、扉が開いた。


「起こしてしまったようだな。すまない」


クロが入ってきた。明楽の涙を流した後を見て驚いた。


「痛み止め切れたかのか!大丈夫か?」


「…痛くて泣いてるわけではない」


「よかった」


クロはホッとした。


「…ナイトに会った」


明楽はボソッと言った。


「そうか…」


クロも寂しそうにしていた。


「クロ…?」


「なんだ?気分が悪くなったか?」


「いや…私、思い出せないって言えばいいのか、あなたに会ったことあるの覚えてない」


クロは椅子に座り、ポケットから包み紙を出した。包を開くと、中からたくさんの飴玉が入っていた。明楽はその飴玉に見覚えがあった。


「今の明楽は治療のこともあって絶食絶飲だが、これなら大丈夫だろう」


そう言うと、飴玉を一つ持ち明楽の口の中に入れた。明楽は思い出した。飴玉は一瞬で溶けていくが、優しい甘さが広がり、心が幸せになって行った。


「これ…」


クロは照れくさそうに言った。


「俺…お菓子作りとか、料理好きでさ。よく作るんだ。あの時学校帰りで、たまたま君たちがいじめられてた所を見て、放って置けなくて。あの時は、俺の叔父さんがメインで、君たちを見守ってたんだ。久しぶりに見れて、大きくなったなって思ってたんだ」


「そうだったんだ…」


「明楽達に初めて会ったの、明楽がまだ赤ちゃんの頃でさ。叔父さんが、明楽たちを連れてきてくれてさ。俺は当然ガキだったんだけど、初めて赤ちゃんが近くにいる事に驚いてさ。ナイトもちっちゃくって、すごく可愛かったの懐かしいな」


どこか懐かしそうにしていた。


「おっと、ごめんね。話し込んでしまって。ゆっくり休んで」


クロは部屋を出ようと立ち上がると、裾を掴まれた。


「…ごめんなさい。もう少し居て…」


どこか寂しそうだった。クロはまた椅子に座った。


「明楽。無理はしなくていい。自分のタイミングでいいから、俺は待ってる」


しばらく沈黙が続き、明楽が語り出した。


「私は、何もできなかった…」


涙がこぼれそうになっていた。


「ナイトのそばに居なくちゃいけなかったのに、何故か離れてしまって。気づいたら取り囲まれてて…怖かった…」


クロは頷いて聞いていた。


「何回も殴られて、服脱がされて、気づいたら部屋にひとりぼっちで。急いで外に行ったらナイトが…」


涙が堪えれなかった。


「私…ナイトを…見殺しにしてしまった…」


大粒の涙が溢れ出した。するとクロは明楽の頭をそっと抱きしめた。


「辛かったな。早く打ち明けていれば、こんな事にはならなかった。明楽だって、こんな傷を負う必要もなかった。危険に晒されないように見守って欲しいって言われた叔父さんに、顔向けができない。明楽、本当にすまない」


明楽は大泣きしていた。クロは泣き止むまで明楽を抱きしめた。


数時間が経過し、ウルフが見回りに来た。


「全くクロったら。どこで道草食べてるんよ」


怒り心頭だった。明楽が寝ている部屋の前につき、ノックして入った。


「…ったく。ここにいたのねー。でも…いっか」


泣き疲れて寝てる明楽と、ベットに寄りかかって寝ているクロがいた。


「明楽ちゃん。表情良くなってるな。よかった」


ウルフは静かに部屋を出た。






生徒も帰り、夜の学校の会議室では、怪我をしてない先生方が集められていた。


「あれから数日経っています。バタバタしていて、報告会を開催できなかった事にお詫び申し上げます。それでは、報告会をします」


谷川は冷静に言った。


「今回の戦闘では、幸いに死者はいませんでした。だが、先生生徒含めて重症者が十数名。軽傷が多数です。この戦闘で心に傷を負った生徒も多数います。まずは、生徒のケアを優先してください」


すると、一人の先生が手を挙げた。


「どうぞ」


「工藤先生のクラスの生徒が行方不明と聞きましたが…」


すると工藤は挙手をし、立ち上がった。


「私のクラスの三日月さんが、あの戦闘以降、行方不明になったのは事実です。ですが、その事は校長先生や上層部に報告済みです。今、行方を追っています」


すると、別の先生が手を挙げた。


「どうぞ」


「この戦闘で、不登校になった生徒がいなかったことも幸いです。ですが、生徒及び先生方の技術力をもっと磨いた方がよろしいかと思いました」


谷川は納得していた。


「確かに。それは、検討します。しかし、戦闘に自信がない子がいる事も事実です。そう言う生徒は無理にやる必要はないと私は思います。本当に興味がある生徒などに限定して強化していく事も検討しましょう。先生方の方は、調整をけんとうしましょう」


その後報告会はスムーズに行われ、解散していった。会議室には、谷川と工藤が残っていた。


「まさかの手がかりはゼロ…」


外部からの調査報告書を谷川は開いた。


「あいつ…一体どこへ消えたんだ」


「まぁ、いいでしょう。三日月さんももうすぐ誕生日を迎える。大人の龍になります。三日月さんが暴走でもしたら、すぐにわかります」


工藤はある提案をした。


「校長先生の、龍は…どうなんですか?」


校長はため息をついた。


「レイは無理です。実は、明楽を操り、ナイトを殺した事で体力を使い切ってしまって、寝込んでいます。しかし、レイ自身も明楽がどこに居るのかもわからないと言っていました」


「そうですか…」


「レイの体力回復はどのくらいかは未定ですが、復活したところでどこで、三日月さんがどこに居るかわからない状態では、難しいと思います。だから、レイは論外で」


谷川と工藤は悩んでいた。


「しかし、今回は相手に取られましたね。証拠も一切残らないなんて」


「工藤くん。今日はもう遅いから帰りましょう。証拠や手がかりが無いのに無闇に考えても無駄です。まだ、外部の調査が終わったわけではありません。調査報告書が届き次第、君にも連絡を入れます。しばらくは生徒達のケアをしていきましょう」


谷川と工藤は会議室を後にした。

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