第3話
また同じ夢を見た。
「行かないで!」
明楽は走り続けた。
「お願い…ナイト!」
そこで目が覚めた。
「明楽。大丈夫か?酷い汗だぞ」
心配そうに明楽を見つめた。
「ごめん…」
明楽はゆっくりと体を起こした。
「イテッ…」
左胸に痛みが走った。見ると赤い痣が浮かび上がってきた。触ると熱がある。
「なんだろ…」
ナイトも覗き込むと、嫌な予感を覚えた。
「まさか…もしかして…」
「ナイト?ただの虫刺されでしょ」
明楽は学校へ行く準備をした。しかし、胸の痛みが少しずつ増してきた。ナイトに鞍をつけ終わり、跨った。
「大丈夫か?」
心配そうに明楽を見た。
「平気よ。大丈夫」
ナイトは大きく羽ばたいた。しばらく飛んでいると、明楽に異変があった。
「明楽?」
…
「大丈夫か?」
…
何も喋ってくれなかった。ナイトは疑問に思いながらも、学校の近くの草原に着地した。明楽は鞍を外さず、校舎の方に歩き始めた。
「明楽!」
…
流石におかしいと思ったナイトは、明楽を追いかけた。すると、明楽の方に向かってくる男がいた。
「三日月さんですね?」
「はい…」
「明楽!」
ナイトは吠えたが、明楽には届いてはいなかった。
「すみません。停学明けで本人確認が必要なので、そこの建物まで来てもらえますか?」
見ると、校舎の入り口に小さな小屋が設置されてた。
「わかりました。ナイト。そこで待ってなさい」
ナイトは何も言えず、明楽が小屋へ入っていくのを見ていた。
「ごめんなさいね。こちらへ」
明楽を席へ座らせた。
「あれ…ここ…」
明楽はなぜここに居るのかわからなかった。そして、ナイトがいないことに気づいた。
「っ!しまった!」
「もう遅い」
後ろを振り向く前に誰かに殴られた。
「ぐっ…」
立ち上がる前に別に角度からお腹を蹴られた。
「殺すなよ。ただ…楽しもうじゃないか」
見ると複数の覆面を被った男達がいた。明楽は立ちあがろうとするが、何故か力が入らない。
「なんで…」
「お前の力はこの部屋では使えない。この部屋に入った時点で封印してる」
明楽を複数人で押さえつけた。
「何するの…やめて…」
一人の覆面が明楽の髪を持ち上げた。
「だから言ったろ?楽しもうじゃないかって」
明楽の顔をまた殴った。
「おい。脱がせてもいいそうだ。好きなようにしようじゃないじゃ」
「やめて…」
明楽は激しく暴行にあった。次第に意識もなくなってしまった。
「明楽…遅いな…」
ナイトは焦っていたその時。
「ナイト!死ね!」
上空から急降下して向かってくる者がいた。
!?
ナイトはとっさによけた。
「お前は…」
ナイトの前には、ナイトより数倍以上体格が大きい黒い龍がいた。血のような色の瞳でナイトを睨んだ。
「お前は…校長の…」
しかし龍は何も言わず、ナイトに襲いかかった。ナイトは上空に飛んだ。
「クッソ…」
上空に逃げても、ナイト以上に龍が早い。今度は急降下を試みたが。
「さっさと死ね」
そう龍は呟くと、ナイトを捕まえた。
!?
龍はナイトの首にかぶりついた。
「グハッ…」
さらに深く噛む。ナイトは呼吸ができない。龍はそのまま急降下し、ナイトを地面へ叩きつけた。骨が砕ける音が響いた。ナイトはもう動けなかった。地面にナイトの血が広がった。
「これで終わりだ」
ナイトは龍を睨んだ。龍の胸にある赤い痣が赤く輝いた。
「ナイト。お前は用済みだ」
龍はどこか飛び去った。
「明楽…ごめん。一緒にいてあげられなくて。ありがとう…」
ナイトは涙を流し、目を閉じた。一部始終を見ていた複数のカラスが何かに取り憑かれたように、急いでその場から飛び立った。
どのくらい時間が経ったのだろう。
「…っ」
目を開けると、誰もいなかった。身体中が痛く、痣だらけ。和服が脱がされ、髪も乱れていた。明楽は体を引きづり和服を羽織った。
「…!?ナイト…」
ドアの出口を探し、小屋から出た。校舎の入り口へ走ると、最悪の光景が目に入った。
「ナイト!」
明楽は駆け寄ったが、もう冷たくなっていた。つけっぱなしの鞍はナイトの血にしまっていた。
「目をあけてよ…ナイト…」
明楽はひたすら泣いた。
「おい!初日からサボるとか、いい度胸だな」
聞き覚えのある声がした。
「今日はもう夕方だからもういい。ただ、その死体は片付けろよ」
工藤がそう言い放った。何も言い返せないでいると、工藤はそっぽを向いて去っていった。
「ナイト…夜になったら…帰ろう」
明楽は鞍を外しナイトの側から離れず、夜になるのを待った。日が沈み、月が登ろうとしていた。
「ナイト…今連れてくからね…」
明楽は鉢巻を外し、月に祈った。すると、額に入っている三日月が青白く輝きだし、明楽を青白い光が包んだ。そして、明楽は龍になった。白銀の鱗に月光が反射し、白く見えた。大きな翼は月光の光で透き通っていた。サファイア色の瞳でナイトを優しく見ていた。
「連れて行くよ…」
明楽はナイトを抱き抱え、大空を飛んだ。明楽は飛びながら泣いた。
「ナイトにこの姿…見せてあげたかった。一緒に夜空飛びたかった…」
山々を飛んでいると、断崖にたどり着いた。ナイトをゆっくり地面に置いた。
「ナイト…ゆっくり休んで。本当に…ごめんなさい…」
明楽はナイトの顔を舐め、少し距離をとった。深く息を吸うと、ナイトにめがけ青白い煙を吐き出した。ナイトの体が輝きだし、次第に薄れていき天に帰った。明楽は終始泣いた。
「ごめん…これしかできなくて…」
明楽は飛び立ち、洞窟へ帰った。ナイトが寝ていた寝わらに丸くなった。まだナイトの匂いが残っていた。明楽は暴行の傷と、ナイトを失った悲しみと疲れから眠りについた。
「うまくいきましたね…」
校長室で工藤をたたえた。
「その…三日月さんはどう言う状態だったんですか?」
工藤は疑問に思っていた。谷川は寝ているレイを撫でた。レイは機嫌がすごく悪そうだった。
「三日月さんを少しの時間、操ることができるんです。なぜなら、三日月さんの父親ですから…」
工藤は驚いた。
「え…三日月さんって…」
「君にはまだその話は早いと思います。明日、三日月さんは必ず来ます。来なければ、レイがまた操ってくれます。三日月さんが誕生日来るまで監禁します。人間では子供でも、龍では大人になります。そのタイミングで私のもにします。その時に話しましょう」
「なぜ、あまり話したくないのですか?」
工藤は首を傾げた。
「少し、難しくなるのでね。でも、本人がいると、説明が楽になるので」
「なるほど。わかりました。では、明日以降に話の続きが聞けるのですね」
「今日はありがとう。ナイトと三日月さんを離してくれて」
谷川に頭を下げ、校長室を後にした。
「クロ…」
ウルフはクロの部屋に入った。
「ウルフ…事情は…わかってる…だが…ナイトが」
クロは怒りに満ちていた。
「明楽ちゃんも…本当に、酷いことを」
ウルフも怒りで震えていた。
「カラス達もあまりの衝撃にすぐ帰って来たくらいだ。酷い惨状だったんだろう。ウルフ」
クロは立ち上がった。
「今すぐ兵士を集めろ。明楽の誕生日にナイトと一緒に迎え入れる予定だったが、予定変更する」
ウルフは走って兵士を稽古場に集めた。ものの数分で兵士たちは稽古場に集まり、クロも入った。
「夜遅くにすまない。明日、戦闘になる」
兵士たちは驚いていた。
「場所は魔法高校だ」
驚いている中、一人の兵士が手を挙げた。
「高校だと、子供達もいますよね」
その答えにクロは答えた。
「もちろんだ。ただ、殺さなくていい。未来ある子供を殺してはいけない。時間を稼いで欲しいだけだ」
クロはウルフと話をしていた、内容を話し始めた。
「亡くなった叔父さんと俺で見守ってきた大事な人だ。だが、傷を負っているので説得に時間がかかると思う。明楽を説得している間、向こうが攻めてくるのを抑えていて欲しい。もし、致命傷の傷を負うことになっても、自動でこの城に戻ってくることになる。ちなみに、城に戻ると無傷に戻るので安心して欲しい」
兵士たちは安堵していた。
「明楽を説得したら、俺が一気にまとめてこの城にみんなを連れ戻すから、それまで頑張って欲しい。よろしくお願いします」
兵士たちは一斉に声を上げてた
「よろしくお願いします!」
「では、明日は早いからしっかり休むように」
皆、稽古場を後にした。クロとウルフはクロの部屋に戻った。
「クロ」
ウルフは赤い液体が入った試験管をクロに渡した。
「龍の動きを止める薬よ。いざって時に使って。ただ、龍からしたら猛毒だから、服用したらすぐに治療が必要だけど」
クロは試験管をしまった。
「今の明楽ちゃんの状態は最悪よ。それに、私たちの事知らないから、襲ってくるかもだし」
「そうなれば、止めるまでだ。俺が止める。ウルフは城で待機してくれ」
「わかったわ」
クロは手甲鉤を手入れした。
目が覚めると、人間の姿に戻っていた。外はまだ薄暗かった。昨日負った傷がかなり痛む。
「うぅ…」
それでも身支度をした。いつもはナイトが連れてってくれていたが、今日は一人で学校に向かわないといけない。ふと明楽は鞍を出した。血が渇いて黒くなっていた。鞍から刀を二本出した。
「もう…誰でもいい…」
殺意を剥き出し、刀を収め荷物を持ち、洞窟をでた。木々を抜け、坂を降りていった。
「歩くと時間かかるんだな…」
ナイトのありがたみを感じながら、学校に向かった。着いた頃にはもう周りは明るくなっていった。校門をくぐり、教室に入ったが誰もいない。荷物を整理し、皆が来るのを待っていた。しばらくすると、次々と入ってきた。
「あ、三日月だ」
「謹慎明けなのに、昨日来てない子じゃん」
「こいつとまた授業とか絶対殺されるー」
等心無いことを次々言われた。生徒が揃うと、工藤も入ってきた。
「皆、おはよう。今日から三日月さんが戻ってきました。まぁ、昨日からだったんだがな!」
明楽以外、みんな笑っていた。明楽は無関心だった。
「ナイトもいないし、これからは人間だけで授業ができるぞ」
と工藤がそういうと、明楽は工藤を睨んだ。
「では、授業を始めよう。その前に明楽。校長がお呼びだ。今すぐ、校長室に行きなさい」
「お断りします」
明楽は答えた。
「は?校長命令だ。行きなさい!」
工藤は強い口調で言った。
「嫌です。みんな私やナイトのことを馬鹿にして。もう今日でこの学校に来ません」
「なんだと!」
工藤は無理やり明楽に掴み掛かろうとしたその時。
ドドオォーーン!
強い揺れが学校を襲った。生徒達は悲鳴をあげた。
「みんな落ち着け!すぐに避難するぞ!」
工藤は生徒の無事を確認しながら、避難準備をした。明楽は外をみた。すると木々の一角に黒いモヤがかかっているところがあった。
「なんだ…?」
しかし、皆パニックになっているのか気づいていなかった。皆と外に出、先生方が避難に対して指示を出している中、明楽は黒いモヤの方へ走った。工藤は皆の点呼をとっている最中に明楽の走っていく姿を見た。
「三日月!どこ行く!」
明楽がモヤに入った途端、姿が消えた。だがそれと同時に、無数の兵士がこちらに向かってきていた。
「あれ何!」
生徒達はさらにパニックになった。すると、谷川はレイに乗って現れた。
「落ち着きなさい!一年生は避難を優先しなさい。先生方、指示を的確に。二、三年生は自信がある人だけ、戦闘に参加するように。自信がない人は避難しても構いません。命を優先しなさい。さて、行きますよ」
谷川は剣を向けた。
黒いモヤを通ると、異空間に入ったのか、景色が違うところに来た。草原が広がってたところが、何も生えてない地面。空は分厚い黒い雲に覆われていた。明楽は歩いた。すると、明楽に向かってくる男が一人きた。
「あなたは…?」
明楽は問いかけた。
「初めまして…と言えばいいのかな」
男は明楽に向かって礼をした。
「俺の名はクロ・ルーマス。君に話をしにきた。争うつもりはない」
明楽は二本の刀に手をかけた。
「こんな大掛かりなことして話がしたい?どういうこと?それに、私はあんたなんか知らない」
やはり覚えてはいないか…クロは思った。
「話は簡単だ。私のところに来て欲しい」
クロは手を差し伸べた。
「ふざけないでよ…なぜ私を狙う。私が何したっていうんだ!」
明楽は刀を抜いた。
「あんたも私を狙うんなら、殺す!」
明楽は一気に飛び出した。クロにめがけて刀を振り上げたが、クロは華麗にかわした。
「動きが鈍いぞ」
もう一本の刀がクロめがけて飛んできたが、これもかわした。
「武器を出したんだったら、俺も武器を出していいってことだよね?」
明楽はまたクロにめがけて刀を振り上げた。クロは一瞬の隙を見て、手甲駒を指にはめ、明楽の攻撃を受け止めた。一瞬、刀と手甲鉤から火花が出た。
「力はあるじゃないか。だが!」
クロは明楽の攻撃を弾き返した。
「えっ!?」
明楽は一瞬怯んだ。
「本気でぶつかるんなら…」
明楽にめがけてクロは飛んできた。明楽は急いで防御しクロの攻撃を止めた。だが、力が圧倒的にクロが上だった。
「別に争うつもりはないと言ったろう」
クロはそう言うと、明楽の刀を弾き飛ばした。
「グッ…」
明楽はとっさに距離を取り、腰に備えてたナイフを抜いた。
「まだ戦う気か。根性は褒めよう。だが、力の差が大きい」
「うるさい!」
明楽はまた飛び出した。
「仕方がない。一度痛い目を見させた方がいいな」
明楽が突き出したナイフをタイミングよく蹴り上げた。
!?
体制を崩した明楽にめがけ、右の手甲鉤で明楽を貫いた。
「グウッ…」
「自分の手に負えない思ったら、逃げるも戦いの手段だ」
そのまま明楽を地面に叩きつけた。手甲鉤についた明楽の血をなぎ払った。
「俺は、ただ話をして君にきて欲しいだけだ」
明楽は立ちあがろうとした。
「明楽。お前は…」
「殺す…殺す…」
明楽はブツブツと呟きながらゆっくり立ち上がった。
「…空気が変わったな」
「殺す…殺す…みんな…消えればいい」
クロは身構えた。
「あんたに…私の事がわかるか!」
明楽は吠えると、目の色が血のように赤くなっていた。
!?
クロは驚いた。明楽の体を地面から這い上がってきた闇が覆った。
「まさか…闇の帝王に…」
すると地響きがなった。それと同時に明楽は漆黒の龍に姿を変えた。血のような色の目でクロを睨んだ。
「…厄介だな…仕方がない」
クロは走り出した。明楽は翼ではらったり、尻尾でクロを攻撃した。なんとか攻撃を避けたが、動きが大きく、攻め方を考えていた。
「ワイヤーで封じさせるか」
手甲鉤にワイヤーを絡ませた。タイミングを見計らい、明楽の片方の翼にワイヤーを引っ掛けた。そして、もう片方の翼にもワイヤーを引っ掛けた時、明楽は暴れ出しクロを振り払った。クロはバランスを崩し、明楽から落ちた。そのタイミングで明楽は尻尾でクロを叩き飛ばした。
「ぐぉ…でもな…」
クロが飛ばされたことでワイヤーが締め付け、翼が締め付けられた。あまりの痛みに、明楽は吠えた。
「お前…龍になった事がないから、うまく体を使いこなせないんだろ」
尻尾が当たったところを抑えながら明楽に言った。
「明楽。これだけは使いたくはないが、今のお前を止めるのはこれしかない」
クロはウルフからもらった試験管を取り出した。クロは何かを唱え、走り出した。
「少しは黙って落ち着け!」
地面を蹴り飛ばし、宙を蹴って明楽に近づいた。明楽はクロをそのまま飲み込もうとしたのか、口を大きく開いた。クロは試験管を明楽の口にめがけ、投げ飛ばした。クロはまた宙を蹴って、地面に着地した。
「どうか…効いてくれ」
祈る気持ちで一杯一杯だった。すると、明楽の様子が変わった。体に痛みが走り、断末魔を上げた。
「よし…」
しかし、あまりにももがき苦しむ姿に、クロは心配した。明楽はそのまま人間の姿に戻った。血を吐きながら。
「殺せ…私を…」
掠れた声で明楽は訴えた。
「明楽。もう大丈夫だ」
クロがそう言うと明楽は気を失った。尻尾が当たったところを庇いながら、明楽を抱き抱えた。
「さてと。兵士たち、帰るよ〜」
クロは指を鳴らした。すると異空間ごと消えていった。
「先生!兵士が多すぎる!」
先生生徒一団となって、兵士と戦っていた。谷川が乗っているレイは、強烈な炎を吐き一気に兵士の数を減らすが、次から次へと湧いてくる。
「キリがないですね…」
谷川も困惑していた時だった。突然、兵士が砂のように消えた。そして、いつものグラウンドや校門が目の前に広がった。
「これは…一体…」
先生生徒は困惑していた。
「…先生方!生徒の安否確認を!」
谷川は叫んだ。直ちに生徒全員の安否確認をとった。報告が上がるにつれ、怪我人はいるものの、死亡者がいない事に谷川はホッとした。だが。
「すいません。三日月さんがいないです」
工藤が申し訳ないように谷川に話した。
「なんですって…レイ」
谷川はレイに跨った。
「学校周辺を飛んでください」
レイは低空飛行で学校を飛び回った。
「…いないですね」
「…」
レイは無言だった。元の場所に戻り、動ける先生に指示を出し生徒を帰らせ、怪我した先生と生徒は病院へ搬送した。
「工藤くん」
谷川は工藤に話しかけた。
「いましたか?」
谷川は残念そうに首を横に振った。
「やられました。とりあえず、この事態を片付けてからにしましょう」
工藤は片付けに戻った。
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