第2話
月日は経ち、八月下旬を迎えた。
「クロ〜」
ウルフが稽古場に入ってきた。
「なんだ。俺は今稽古中だ」
三本の長い刃がついた手甲鉤で、丸太を粉々にしていた。
「ただ粉々にしてるだけじゃない」
するとウルフの横を丸太が通り抜け、クロに向かっていった。瞬時に気づき、手甲鉤で丸太を刺した。
「遊んではいない。稽古だ」
丸太を投げ捨て、ウルフの方に歩いた。
「で、なんのようだ。カラス達もまだ帰ってないだろう。明楽の見守り隊」
「そうじゃないよ。明楽ちゃん。もうすぐ誕生日じゃない?ナイトくんも。ケーキどう言うデザインにしようかなって」
「…本題はなんだ」
手甲鉤をしまった。
「も〜。たまにはこう言うのもいいじゃない」
モジモジしながらも、書類をクロに渡した。
「ほう…兵士が二十人ほど入るのか」
「まぁ…色々あったのよ。この世で。たぶん、また増えるわよ」
「なら、兵士たちのところに行くか。本人たちを見てみたい」
書類を片手に、フードを羽織った。長い廊下を歩き、とある大広間についた。
「さてと…」
大きな扉をガチャリと開くと、そこには複数の兵士たちが稽古をしていた。
「すまんが…手を止めてくれ」
クロの合図に、皆手を止めて注目した。
「新しく入った新人。前に出てこい」
そそくさと書類に書いてあった二十人が前に並んだ。
「ようこそ!我が城へ。君たちは一度死んだ事は自覚しているかね?」
俯く二十人の中の一人が手を挙げ、ポツリと言った。
「はい…ここに来て、先輩方から教えてもらいました。正直、信じられません」
その兵士はどこか悔しそうだった。
「確かに、君達はここに居る先輩方と同じ、悔しみや悲しみで死んだ者が多い。戦争で死んだ。何もしてないのに殺された等で。だが、君達はここに来れて良かったと思えるように、私はしていきたい」
クロは二十人の前を歩いた。
「死んだ魂は、この城の背後にある世界。あの世へ送らなければならない。ただ、あの世は残酷で苦しみを味わうことになる。君達は悔いを持っているのに、あの世に送るのも可哀想だと思って、ウルフに厳選に調査して、こうやって兵士として活躍している。仲間と共に励み、いざ戦闘となれば戦い、この世ではできなかった事をやり遂げ、また生まれ変わる事を俺はしていきたい」
すると、別の新人が手を挙げた。
「僕達は、またこの世の世界で生まれ変われるのでしょうか…」
クロは微笑んだ。
「あぁ。今度生まれ変わる時は、不幸のないように配慮はしてある。だから、今は稽古に励み、仲間と共存をしてほしい。絶対に報われる」
新人達は皆納得をしていた。クロは一人一人に握手を交わした。
「わからない事があれば、先輩達に聞きなさい。絶対に答えてくれる。ただし、イジメ等があればウルフが始末するので、絶対にしないように。だが、ここにいる皆んなは同じ境遇から来てるから、イジメは聞いた事がない。だから、安心して過ごしてもらって大丈夫」
すると、先輩達は新人達を迎えた。
「今日から一つ屋根の下で頼むぞ!」
そう声をかけられ、新人達は元気よく挨拶をしていた。
「頼もしいわね〜」
ウルフも嬉しそうだった。
「あぁ。これから戦争も始まる可能性もある。頼りにしたいよ」
クロは兵士達の稽古場を後にした。
真夜中。誰もいない校舎の廊下を工藤が歩いていた。そして、校長室の扉の前に立ち、ノックをした。
「入れ…」
「失礼します」
またあの漆黒の龍は丸くなって寝ていた。谷川は工藤に視線を向けた。
「もうすぐ、三日月さんが帰ってきます。ナイトも…」
「校長先生。三日月さんは私が相手してもいいですか?」
工藤は谷川に計画を説明した。
「うーん…」
谷川は悩んでいた。
「どうでしょう。三日月さんも言う事を聞く子にもなるし、ナイトも消す事ができます」
谷川は閃いた。
「よし。君の案に賛成しよう。ただその案だと、三日月さんは警戒をします。そこで…」
谷川は漆黒の龍を撫でた。龍は血のように赤い瞳で谷川を睨んだ。
「うちのレイを使おうじゃないか」
「レイ?誰ですか?」
「この龍さ。名前は、レイ・ブロートだ。別名…闇の帝王」
すると龍は谷川に向けて吠えた。
「あぁ、わかったよ。眠りの邪魔をして。すまないね。全然私に懐いてくれなくてね」
「いえいえ。ただ、どうやって三日月さんを?」
谷川は口角を上げた。
「レイなら、三日月さんをどうにかしてくれます。さて、もう遅いので今日はもうお開きです。三日月さんが帰ってくるまで準備をお願いします」
「わかりました。失礼します」
工藤は校長室を後にした。そして、明楽が帰ってくるまで必死に準備を進めてた。
夢を見た。
「行かないで!ナイト!」
暗闇をひたすら走り続ける明楽。奥にはナイトが居たが、どんなに走っても追いつけなかった。
「待って!行かないで…」
そこで明楽は目が覚めた。目の前にはナイトの顔が目に入った。
「明楽。大丈夫か?かなりうなされてたぞ」
心配そうに明楽を見つめた。
「大丈夫。悪夢見ただけ」
ゆっくりと体を起こした。心臓が重い。
「ナイト…」
「どうした?」
「今日で休み終わりだね。あっという間」
明楽は寂しそうだった。
「明楽。湖行かないか?ここから一時間ほど飛んだらあるところだが」
「珍しいね。ナイトが湖行きたいって言うの」
明楽はベットを出た。いつもの黒い和服に着替え、ナイトに鞍をつけた。
「ついでに、着替えも忘れるなよ?」
ナイトがそう言ってきた。
「泳ぐの?いいわね。水泳で競走しようか」
明楽も少しテンションを上げながら、荷物を鞍に収めていった。ナイトに跨り、ナイトに愛撫した。
「お願いね」
大きな翼を広げて、洞窟を飛び立った。夏の暑さを感じないほどに風が心地いい。もうすぐ秋だからか、所々山々の木々が黄色くなっていた。
「もう秋か。早いね」
「もうすぐ、明楽の誕生日じゃないか」
「もう十六歳か。色々あったな…」
「俺らも二人で十六年共に生きてきた思えば、早いよな」
そんな昔話をしていると、もう湖が目の前に入ってきた。湖の辺りに着地すると、明楽は鞍を外した。
「明楽。乗れ」
「え?鞍なしで?」
明楽はなんとかナイトの背中に跨った。鱗が滑ってうまくバランスを取るので精一杯。しっかりナイトにしがみついた。
「いくぞー」
そうナイトが吠えると高くジャンプをした。
っ!?
翼を広げ、少し上昇すると湖の中央目掛けて急降下した。
「ナイト!何してるの!」
そのまま一気に湖にダイブした。明楽はしがみつくことで精一杯。ゆっくりと上昇をし、海面に上がった。
「もー。いきなりのダイブこわいよ」
でもどこか楽しそうだった。
「なら、今度は深く潜るぞ」
ナイトは一気に浸水していった。湖の水が透き通っているのか綺麗に見える。そして、どこか心地いい。ナイトと明楽は思いっきり遊んだ。
「楽しかったな」
ナイトは全身を震わせ、水をぬぐった。
「ありがとう。本当に楽しかった」
満足そうに答え、ナイトを撫でた。
「もう夕方だな。そろそろ帰ろう」
明楽はナイトに鞍をつけ、跨った。
「ナイト。頼むよ」
黒い大きな翼を羽ばたかせ、いつもの洞窟に戻っていった。これが、ナイトと過ごす最後の夜とも知らず。
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