月に恋した男
三日月明楽
第1話
目を覚ますと、サファイア色の大皿が目に入った。激しい呼吸でいかにも苦しそうだった。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
月の光がその正体を照らした。白銀色の胴体に、大皿だと思っていたのは目だった。そして私の顔を舐めてくれた。
「さようなら…」
そう言うと月の光の方へ飛び立った。しばらくして辺りに断末魔が響き渡った。すると視界は真っ暗になった。眠ってしまったのか?わからなかったが記憶にない。しかし、あの白銀色の者はなんだったんだろうか…
冷たい雫が頬にあたり目が覚めた。薄暗い岩の天井。遠くから滝の音が聞こえてきた。横を見ると黒い物体が寝息をたてていた。時折呼吸と一緒に煙がでていた。ゆっくりと体を起こし、滝の方に歩いた。滝の水飛沫が眠気を覚ましてくれた。すると、黒い物体が体を起こした。
「おはよう。明楽」
大きな口を開けてあくびをしていた。
「おはよう。ナイト」
黒い物体は滝の方に歩いた。太陽の光が黒い物体を照らした。サファイア色の大きい目に二つの角。そして黒色に輝く巨体に体の倍以上にある翼。龍だ。
「今日から高校生だろ?」
滝の辺りで水を飲んでいた。
「…行きたくない。どうせ理不尽な事されるだけだし」
渋々ながらも準備を進めた。
彼女の名は三日月明楽。額に入っている青い三日月を黒い鉢巻で隠した。長い髪を束ね高く縛った。
「俺…学校でなにするんだ?龍だし」
「多分小さくなって、私の頭か肩にいるだけかも?魔法高校だし」
「じゃぁ、基本はずっとそばに居るんだな」
ナイトは顔を近づけてきた。
「私は学業しないといけないけどね」
ナイトの顔を撫でてあげた。黒い和服に袖を通して帯をしめた。ブーツに履き、大きな鞍をナイトにつけた。
「教科書忘れるなよ」
明楽は持ち物を全て鞍のポケットにしまった。鎧に足をかけナイトに跨った。
「それじゃ、行きますか」
「お願いね」
大きな翼をめいいっぱいに広げ、滝を割って飛び立った。
林の一角に広がる草原にナイトは着地した。
「やっとついた」
「ありがとう」
明楽はナイトから降り、鞍を外した。鞍から教科書などを出し、鞍を消した。
「少し歩くけど、もう小さくなる?」
「あぁ。明楽の頭の上で寝てるわ」
明楽は何かを唱えると、ナイトは小さくなった。ナイトはサッと明楽の頭の上に乗った。校門へ歩くと何人かの生徒が見えた。
え…ライダーなの?
あれが噂の…
などヒソヒソが聞こえた。この世界では、魔法を使える人種と、龍と共に生活している人種がいる。龍と生活している人種を別名、ライダーと言われている。しかし、ライダーはかなり少ない。
「なぜライダーは嫌われるんだ?小学中学から疑問だが」
ナイトは耳を後ろにたたみ怒っていた。
「危険だから?まぁ、私が普通の人ではないはみんな知ってるし。もう慣れた」
気にせずに歩き、教室についた。人は少なかったが、やはりヒソヒソが聞こえる。自分の席につき、教科書などを片付けた。
…
何も考えず、先生が来るのを待った。ナイトは相変わらず寝ていた。
「おはようございます」
男の先生が入ってきた。
「今日から担任の工藤です。よろしくお願いします」
工藤は生徒にプリントを渡したが。
「三日月さんは要らないですよね?ライダーですから、透視してくださいね」
「…」
工藤は教団にもどった。
「先生は英語を担当しています。プリントには、先生の自己紹介を英文で書いてみました。よかったら読んでください。では、この後の日程は、一時間目は先生と英語の授業を。二時間目は武闘体育です。
秋山先生が担当するので、しっかりと受けてくるように。午前の残りは自習となるのでお願いします」
するとチャイムがなった。
「では一時間目。先生の英語の授業しましょう」
授業が始まった。
広い廊下にヒールの音が響いた。しばらく歩くと目的の場所につき、大きな扉にノックをした。
「入れ」
男の声が聞こえた。
「失礼しまーす」
決めポーズをし、部屋にはいった。机に沢山の本が積み上げられ、分厚い本を読んでいる男がいた。
「そんな決めポーズしても興奮はせんぞ。それに、お前は男でも女でもないだろ」
「やだ!クロひどーい。性別は無くても、見た目も心も女だよ」
男の名前はクロ・ルーマス。
「それでウルフ。何のようだ?」
彼女?の名はウルフ・ブエナ。
「あの子達。今日から高校生よ。可愛くなったのかな」
クロは本を閉じた。
「早いな。もう高校生か。話をしても大丈夫な年頃だな」
「あーもう!早く会いたい!」
「まてまて。俺らの事はあの子は知らないはずだ。まぁ俺の事はナイトは知ってると思うが」
「え?会ってるの?」
クロは立ち上がり窓を見た。
「一応その場に明楽もいた。だが多分覚えてないだろう。でも、ナイトは龍だ。龍は記憶力に優れている」
「まぁ、明楽ちゃん一応人間?だしね」
「先にナイトに話をしておこうかな」
すると一羽のカラスが近づいてきた。窓を開け、カラスを腕に乗せた。
「ウルフ。ちょっと出かけてくる」
するとカラスは飛び立った。
「気をつけてよー。いってらっしゃい」
クロは指を鳴らすと消えていった。
「これより、武闘体育を始めます」
堀の深い顔の秋山が竹刀を持っていた。
「まず、ウォーミングアップしてもらおう。体育館を五分間走れ。あー三日月さんは授業終了の5分前まで走ってもらうぞ。その後先生が指導してやる」
みんなの視線が明楽に向かった。
「…」
無言で俯いた。
「それでは始め!」
一斉に走り始めた。五分後、明楽以外体育館の中央に集合した。準備運動や組手などを秋山から習っていた。
「…」
「明楽…大丈夫か?」
「うん…」
明楽は走り続けた。
「三日月さん。もういいよ。ここにきなさい」
明楽は呼吸を落ち着かせながら歩いてきた。次の瞬間。
バシィーン!
!?
明楽は打たれた勢いで倒れた。
「なぜ駆け足でこない!」
秋山の鼻息が荒かった。周りの生徒もクスクスと笑っていた。
「また怒られてるよ」
「でも強いんでしょ?反撃出来るでしょ?」
ナイトが明楽の所に駆け寄った。
「明楽!大丈夫か!」
「大丈夫…でも…」
明楽が立ち上がった瞬間、凍りついた殺気が体育館を包んだ。周りの生徒はただならぬ空気に怯えた。
「かかってきな。先生…」
「偉そうな態度だな。しつけ直してやる」
秋山が踏み込んでいった。だが…
「遅い」
秋山の腕を掴み、投げ飛ばした。
「えっ。ぐっ!」
気づいた時には遅かった。もう地面に叩きつけられた。
「それから」
明楽は秋山の目の前にナイフを突き立てた。生徒達は悲鳴と驚愕で混乱していた。
「私はライダーであり、普通の人間ではない。あんたみたいなクズは殺せれる。これで教師とか笑わせるわ」
ナイフをしまい、ナイトを頭に乗せた。するとチャイムがなった。
「教室に戻ります」
明楽とナイトは体育館を後にした。
「三日月!何やってくれたんだ!」
工藤が怒鳴りながら教室に入ってきた。
「お前、教師に手を出すとは何事だ!」
明楽の胸ぐらを掴んだが。
「先生。勘違いしないでください。先に手を出したのはあっちです」
明楽は工藤の手を握りつぶした。
!?
あまりの痛みに胸ぐらから手を離した。
「先生も知ってますよね?私が普通ではないと」
工藤を睨んだ。
「もういい。校長室に来い」
言われた通りに校長室に向かった。
「先生も腐ってやがる」
ナイトは怒っていた。
「別にどうでもいい…」
校長室の扉の前にきた。二回ノックをした。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開けると、白髪の眼鏡をかけた男が窓から外を眺めていた。机にはナイトよりもドス黒い龍が丸まっていた
「谷原だ。三日月さん。秋山先生を投げ飛ばしたって?」
ドス黒い龍が顔を上げ、赤い血のような目で明楽とナイトを睨んだ。
「それがなんですか。朝からおかしいですよ。必要なプリントはくれない。授業をろくに受けれない。それをなんで校長は何もしないんですか?」
明楽は谷原を睨んだ。
「よし、わかった。きみとナイトは九月まで停学にする。先生の言うことを聞かない生徒は来なくて結構」
谷原は椅子に腰掛けた。
「きみは、あまり私に逆らわない方がいいですよ?君はわかってると思いますがね。君は普通ではない。ましてや…ね?」
冷酷な視線で明楽を見つめた。
「わかりました。失礼します」
明楽は校長室を後にした。
「やれやれ…どこで間違えたんでしょうね…」
谷原はため息をついていた。
「…」
横にいた黒い龍は何も喋らず、また丸まった。
教室に戻り、荷物を全てまとめた。
「おい三日月。どうした」
「え?帰っちゃうの?」
皆興味津々だったが無言で支度をし、教室を走って出た。
「明楽…大丈夫か?」
「もう…帰ろ…疲れたよ…」
草原のところまで走っていくと、ナイトはまた大きくなった。
「グググ…」
翼をめい一杯伸ばした。ナイトにサッと鞍をつけ跨ると、ナイトは羽ばたいていった。
「やっぱナイトの背中が落ち着く」
明楽はそう呟いた。
「俺はどっちでもいい。俺は明楽のそばにいるだけでいい」
さらに加速し家である洞窟に近づいてきた。滝を豪快に翼で割って入り、明楽を下ろした。
「お疲れ様」
明楽は鞍を外し、まとめていた荷物の片付けをした。ナイトは滝の水を飲んでいた。すると、一羽のカラスに目が入った。
「ん?」
ナイトはカラスの方に顔を向けると、カラスは不気味な鳴き声をあげ飛び立っていった。
「…明楽」
明楽は片付けの手を止めた。
「どうした?」
「ちょっとでかけてもいいか?」
そう呟くと、大きな翼を広げてまた飛び立っていった。
お腹空いてたのかな?狩に行ったのかな…
そう思いながら片付けにまた取り掛かった。
ナイトは山々の上空を飛んでいた。
「…この辺りか」
木々の中にポッカリと空いた空間があった。そこにめがけて下降を始め、着地した。
「いるのはわかっている」
牙を剥き出し、警戒モードに入ると、一人の男が現れた。肩にはさっきのカラスが乗っていた。
「初めまして…の方がいいのかな?ナイト」
男は深く礼をした。
「なぜ俺の名前を…会ったことがある?名前は」
男はナイトに近づいた。
「俺は、クロ・ルーマス。まぁ…初めて君たちに会った時、俺も子供の頃だったから、覚えてるはずもないだろう。でも、俺のおじさんは覚えてるかな?」
ナイトはしばらく記憶を探した。
「メガネ…白髪…横に小さい子?」
「多分それだと思う。その白髪の人が俺のおじさんだ。まだ俺のことが信じれないなら警戒していてもいい」
ナイトはクロの匂いを嗅ぎ、その場にゆっくりと座り、羽をたたんだ。
「匂いを思い出した。お前…あの時の…」
クロは人差し指を立て、口に当てた。
「今は別に記憶の話はしなくてもいい。ただ君に話したい事がある。ナイト、君と明楽は実は兄弟だ」
ナイトは少し驚いたが、どこか納得するところがあった。
「そうか…どこかで思っていたんだ。だが…俺と明楽違うよな?」
ナイトは首を傾げた。
「実はその話をしに、君に会いに来た。ただ明楽にはまだ言わないでほしいんだ」
「なぜだ?」
「明楽は誕生日を迎えてから話そうと思ってるんだ。人間ではまだ子供だが、龍だと大人だ。大人になってから話そうと思う」
ナイトは納得した。
「だが俺らが兄弟だったら…俺もまだでは?」
「今からその話をする。そして、明楽も大人になったら、俺の所に来てほしいんだ」
クロはナイトにこれまでのことを話した。
「なるほど…そうか…」
どこか寂しそうに呟いた。
「俺のおじさんは君達を見守ってきたんだ。おじさんが亡くなってから、俺が見守っていた。そして、君達は立派に成長してくれた。本当にありがとう」
クロは再度深く礼をした。
「俺らは相棒だし当然だ。兄弟ってわかった今なら、さらに守ってやりたい」
シャンと翼を広げた。
「明楽の誕生日を迎えたら、君達を迎えに来る。それまでナイト、明楽を頼む」
「お前は嘘を言ってる感じがしないから、信用する」
ナイトはクロを見つめた。
「では、今日はこれで失礼するよ。ここに着いた時にちょうどいたから君にあげるよ。手ぶらで帰ると、明楽が不自然に思うだろ?」
クロは草むらに隠していた鹿の亡骸をナイトにあげた。
「では、半年ごろにまた会おう」
指をパチンと鳴らすと、クロは消えていった。肩に乗っていたカラスは不気味に鳴きながら、どこかに飛び立っていった。
「わざわざご丁寧に…」
前足で鹿の亡骸を掴み、ナイトも飛び立った。
明楽は武器の手入れをしていた。数本のナイフに二本の刀。刀のうちの一本は特殊だった。
…
いつものように砥石を使い、綺麗に磨いていた。
「…お母さん」
不意にそう呟いた。すると刀が青白く光だした。
っ!?
すると頭の中で映像が流れた。明楽は涙を流した。
「あの時の…」
映像の最初は暗闇だった。目を開けると、サファイア色の大皿が目に入った。月光の光がはいって大皿の正体がわかった。龍だった。大きな顔に鋭い角。額には青い三日月が入っていた。白銀色の美しい体と鋭い爪。大きな翼が、月光の光で透けて見えた。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
どこか寂しく龍は呟いていた。そして明楽を舐めた。
「さようなら…」
そう呟くと龍は飛び立った。しばらくして、断末魔があたり一面に響き渡った。
コ…ロ…ス…
明楽の見ている風景が血のように真っ赤になったが、映像はここまでだった。
目を開けると刀は元に戻っていた。どのくらい涙を流したのだろうか。
「うぅ…お母さん…どうして」
明楽は堪えたが、涙が溢れ出した。すると、風が吹いてきた。
「お待たせ。明楽」
ナイトが帰ってきた。
「ナイト…私…お母さん」
「どうした?お母さん…?」
状況が飲み込めず、明楽を見つめていた。
「私が、お母さんを殺したようなもんだよね…」
「何があった。誰か来たのか」
「違う。刀が…教えてくれた…」
明楽は刀をナイトに見せた。だがナイトはすぐに理解した。
「明楽。今日はもう休みな。外も暗い。学校でのトラブルもあった事だし。明日話しよ?」
ナイトは明楽をベットに促した。
「ごめん…」
明楽はベットに座った。ナイトは焚き火用に貯めていた枝を咥え、明楽の近くに置き火を吐いた。
「いつもここではしないが、今日は炎を見て寝な?眠ったらちゃんと火を消すから」
腰を下ろし、明楽を優しく見つめた。
「ありがとう。ごめんね…」
明楽もベットに入ると、すぐに眠りについた。
「やはりか。俺ら…同じ腹から生まれた兄弟なんだな」
ナイトは刀を見た。刀にはシルヴィアと彫られていた。
「明楽が見落としてたのか…それとも…」
ハッと我にかえり、持ってきた鹿の亡骸にかぶりついた。
「明楽の分も残しておくか」
皮を剥ぎ取った肉の一部を残した。
「よし…寝るか…」
焚き火の炎消し、寝藁に丸くなった。
真夜中の廊下に、革靴の音が響き渡った。月光の光が革靴の正体を照らした。
「校長も珍しいな。直接お呼び出しとは…しかも真夜中に」
工藤だった。しばらく廊下を歩き、校長室の扉に立っていた。軽くノックをした。
「入れ」
「失礼します」
中には谷川がいた。机には谷川の黒龍もいた。
「すまんな。こんな真夜中に呼び出して」
「いえいえ。ただ…これは時間外労働ですか?」
谷川の近くに来た。
「まぁ、今日はサービス残業だが。その代わり、君の給料をあげようと思う。理由はあるんだが…」
谷川は椅子から立ち上がった。
「三日月さんを…ナイトから引き離したいんだ。停学明けにね」
工藤は首を捻った。
「なぜです?そんな必要あります?別に三日月の援護をしているわけではありません。そもそも、三日月はいうことを聞かない問題児でもある」
谷川は口角を上げた。
「ナイトが目障りなのです。ナイトは特別、強い個体でもありません。普通に要らない龍なのです。龍として生きる価値がありません。しかし、三日月さんは違います。三日月さんはいずれ、私の手元になる龍です」
「どういうことでしょうか…」
「まぁ、いずれわかります。君も、三日月さんが元は龍だとわかってますよね?」
工藤は持ってきていた資料をみた。
「はい。入学式前の時にこの書類見た時は驚きました。まさか、あの全滅した種族の生き残りだとは…」
「その強大な力を、私は欲しいのです。どんな手を使ってでも。だから、ナイトが邪魔です。そのために、君に少し力を借りたいのです」
谷川窓を見た。
「わかりました」
「この話は、また後日しましょう。時間はいくらでもある」
「では、私はこれで失礼します」
工藤は校長室を後にした。
「どうだった?」
クロの部屋でウキウキにウルフが聞いてきた。
「思っていた以上に成長していた。だが…他の龍に比べたら小さいな…」
クロはとある本を眺めていた。
「明楽ちゃんには会ってないんか…」
「直接会うのは早いだろ。でも、ナイトの状態を見る限り、いい感じになってるだろう」
「で、もう生態について調べてるのね」
「生き残りは、明楽だけだからな。ただ、元々の情報が少ないゆえ、明楽自身も普通じゃない。それにこの本自体も叔父さんが作ったものだ」
本の表紙には三日月が入った龍が描かれており、タイトルには『月光のカナリア 三日月龍』と書かれ下には『ライト・ルーマス』と書かれていた。
「美しいんだろうな…明楽も」
「まぁ、あなたの叔父さん。ライトもある一匹の三日月龍に恋してたからね〜」
「俺は…別に恋はしていない…」
少し顔が赤くなった。
「明楽ちゃんからしたら、あんたはただの知らない人よ。いきなり襲うとかサイテーよ」
なんでそっちに行くのかな…
「襲う勇気もないし。おまけに、俺が殺されるだろ…」
「クロが逆に襲われてるところ、想像するだけで…もう…」
どこか楽しそうなウルフ。本を閉じ、ベットに潜り込んだ。
「わるい。今日はもう寝る」
「一緒に寝ても…」
「遠慮しておく。お前が横にいても興奮はせん」
「もう!失礼ね。いいわ、おやすみ」
ウルフは部屋を出た。
「うるさいの居なくなったなー」
しかしなかなか寝付けれなかった。
「仕方がないな…」
ベットから出、書籍に座りまたさっきの本をペラペラめくると、手紙が挟まっていた。
「…叔父さん。俺はあいつを守れるのだろうか…」
クロは手紙を何度も読み返した。
夢を見た。小学生の頃だろうか。公園で数人のいじめっ子達にいじめられてた。
「ライダーだから強いだろ?」
「そうだ。俺らには向かってこいよ」
「あんなトカゲみたいな龍絶対弱いだろう」
ナイトはボロボロでうずくまっていた。明楽は必死に暴力に耐えていた。
「何やってるんだ!」
1人の青年が現れた。
「やべ!逃げるぞ!」
いじめっ子達は一目散に逃げていった。
青年はナイトを抱き抱え、明楽の元に来た。
「大丈夫か?傷口を手当てしてやるから、ベンチに座ってくれるかな?」
ベンチに座ると、青年は明楽とナイトを魔法で手当てした。
「これで大丈夫だ」
「…ありがとう…」
明楽はポツリとそう言った。ナイトは首をあげ、青年を見ていた。
「よかったら、これ食べる?甘くて美味しいよ?」
青年はポケットから包み紙を取り出し、中からたくさんの飴玉が出てきた。明楽は一個口に入れた。今でも覚えている。口に入れると一瞬で溶けていくが、優しい甘さが口いっぱいに広がり、心がどこか幸せになる感じになった。
「おいしい…」
「よかった。君は食べる?」
ナイトにも差し出したが、ナイトは食べなかった。
「まぁ、君は肉食だもんね。それはそうと、君たち大丈夫?」
明楽は俯いてしまった。
「無理に言うことはないよ。でも、君たち偉いね。本当にいい子達だね」
青年は明楽とナイトの頭を撫でた。ふと青年は懐中時計をみた。
「あっ…授業に遅れる。悪い。俺はこれで行くね。君たち、頑張ってね」
青年は去っていった。顔は覚えてはいない。でも、メガネをかけて今まで出会った人の中では、すごく優しい人だとこの時思った。
目を覚ますと、もう朝になっていた。滝の音がいつものように響いていた。
「明楽。おはよう」
ナイトが顔を上げた。
「おはよう」
ナイトの鼻を撫でてあげた。
「今日から学校もないし。のんびりしますか」
ナイトは体を伸ばした。明楽はベットから出、和服を脱いだ。
「ちょっと、体冷やそうかな」
明楽は滝の辺りに体を沈めた。すごく冷たいけど、ここちいい。朝だからか、スッキリする。
「…昨日のこと忘れる」
「それはよかった」
長い髪も洗い、滝の辺りから出た。
「ナイト。焚き火して」
ナイトは焚き火用の枝を加え、明楽の前に置き、火を吐いた。濡れた髪を絞り、タオルで体を巻いた。
「明楽。綺麗になったな」
ナイトは見惚れていた。
「どうしたの?急に」
クスッと明楽は笑った。
「いや。俺たち…もう大人なんだな思うと、早いな思って」
「私、一応まだ高校生よ。でも、龍はもう大人になる年齢だもんね」
「明楽はまだ自分が龍になったことないだろ?」
「まぁね。自分ではやったことはない。でも、今こうやって人間の姿だから、ナイトに乗れるし山道も散策できる。戦闘が起きたらすぐに行動取れるし。悪いことばかりじゃないよ」
明楽は和服を取りに行った。
「ナイト‥」
「どうした?」
明楽は和服に着替えた。
「学校行くまで、しっかり休もうと思う。それと、この時間大切にしたい」
「いいじゃないか。小学、中学なんていじめられるだけだったもんな。高校もだが。誰にも邪魔されずにゆっくり休もう」
ナイトは鼻を明楽に近づけ、甘えた。
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