第38話 暗黒化

伊藤博文は愛人に、山縣有朋の外見と軍人としての側面についてさらに詳しく説明した。


「彼は痩せた長身で、当時としてはかなりの背の高さを持っていた。五尺六寸五分、つまり171.2センチメートルだ。そして、上前歯が少し突出していたため、部下たちの間では密かに『反歯伯』と呼ばれていた。井上馨の見合いの際には、大隈重信の家の廊下で花嫁候補とぶつかって、前歯でけがをさせたというエピソードもあるくらいだ。」


愛人は、彼のユーモラスな一面に興味を持った。


「早くから長州奇兵隊や新政府軍の中枢を任され、軍政家としての役割を果たしていた山縣だが、彼自身が兵を率いて前線に立つことはあまり多くなかった。しかし、日清戦争では元首相として第一線に立ち、日露戦争でも満州軍総司令官就任を希望していた。その意識の強さから、『一介の武弁』という言葉を口癖にしていたんだ。彼は自らをただの武士として捉え、常に軍人としての責任を感じていた。」


伊藤は山縣の姿勢や考え方についても語り、愛人はその深い情熱に心を打たれた。山縣の人柄や過去が、彼の政治的な決断にどのように影響を与えたのか、彼女は考えを巡らせた。


 伊藤博文は、愛人の興味深そうな表情を見て、さらに山縣の魅力について語り続けた。


「彼の外見は奇抜ではないが、威厳があった。特に、彼の姿勢や物腰には強い自信が漂っていた。彼の一挙一動には、ただの軍人を超えたリーダーとしての資質が感じられたよ。」


愛人はその描写に引き込まれ、「それは彼の人柄にも影響しているのでしょうか?」と尋ねた。


「もちろんだ。山縣は自身の背景を理解し、常に謙虚であることを心がけていた。自らを『一介の武弁』と称することで、周囲への敬意を示していたのさ。彼は権力を持ちながらも、常に人々の声に耳を傾けようとした。」


愛人は彼の深い人間性に感動し、さらに伊藤に尋ねた。「彼のような人物がなぜ、そんなに多くの支持を得たのでしょう?」


「彼の実績と信念、そしてカリスマ性が大きかった。日清戦争での功績は国民に強い印象を与えたし、何より彼の軍事的なビジョンが日本の未来を描く上で重要だったんだ。彼の考え方は、多くの人々にとって希望の象徴だったからこそ、支持が集まったんだろう。」


愛人は深く頷き、山縣有朋という人物が持つ影響力の大きさを実感した。


「そう思うと、彼の人生は単なる成功物語ではないのですね。人としての葛藤や責任感があったからこそ、彼はあの地位に立てたのですね。」


伊藤は微笑み、「そうだ。彼の人生には多くの学びがある。私たちも、彼のように自らの信念を持ち続け、努力を惜しまない姿勢が大切だと思うよ。」と答えた。


二人は静かな時間を共有し、山縣のような偉人を通じて互いの思考を深めていった。


**時代背景:1890年**


1890年、日本は急速に近代化を進め、明治時代の終わりへと向かう激動の年であった。しかし、表向きの発展とは裏腹に、国家を支える者たちの心には激しい葛藤が渦巻いていた。そんな中、伊藤博文は長きにわたって国家の重鎮として君臨してきたが、ある出来事をきっかけに彼の心は次第に暗黒に染まっていった。


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**第一章:不敬事件の影**


1890年1月9日、**内村鑑三不敬事件**が日本を揺るがした。キリスト教信仰を持つ内村が、皇室を軽んじたとして激しく非難される。この事件を機に、伊藤博文は心の中で変化を感じ始める。天皇に忠誠を尽くしつつも、自らの意志で動くことができない立場に、不満が積もっていたのだ。


「内村の行動は許されざることだ…だが、自由な考えを許さないこの国も、果たして正しいのだろうか?」


伊藤の中で、次第に疑念が芽生え始める。


**第二章:帝国議会の焼失**


1月20日、**帝国議会議事堂が漏電によって全焼**。この出来事は、日本の政治に大きな混乱をもたらしたが、伊藤にとってはさらに別の意味を持っていた。


「これは天の導きだ。今こそ、我が力を思う存分振るう時が来たのだ…」


かつては国家のために尽力した伊藤だったが、彼の心には徐々に支配欲が強まっていく。焼け落ちた議会の跡地を見つめ、彼は新たな野心を燃え上がらせた。


**第三章:フリーザ化の始まり**


時が経ち、伊藤は周囲に対する態度を一変させる。人々に忠実に仕えてきた彼の姿は消え去り、その代わりに、彼は自らの権力を絶対視し、支配者としての姿勢を強めていった。まるで、ドラゴンボールの**フリーザ**のように。


「全ては私の思い通りだ。誰も私に逆らうことはできない。」


彼はすでに国家のためではなく、自らの欲望のために動き始めていた。


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**第四章:暗黒の覇権**


伊藤博文は強大な権力を背景に、次々と政敵を排除していく。5月6日、**第1次山縣内閣の総辞職**に伴い、新たに成立した**第1次松方内閣**でも、伊藤の影響力は衰えるどころか増す一方だった。


「私に逆らう者は全て排除する…」


彼の心はもはや、明治天皇や国家を守るためではなく、自らの帝国を築くために動いていた。


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**第五章:破滅への道**


だが、伊藤の支配欲は次第に暴走し、彼の周囲の者たちは恐怖し始める。特に天皇に忠誠を誓っていた元田永孚や佐々木高行といった保守的な側近たちは、伊藤の変貌に危機感を覚えた。


「このままでは、日本は彼の独裁のもとで滅びてしまう…」


天皇もまた、伊藤の暗黒化に気づきつつあった。かつて信頼していた無骨な正直者の伊藤は、もはや存在しなかった。


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**終章:天皇との対立**


ある日、明治天皇は伊藤を呼び出し、最後の問いを投げかけた。


「伊藤、お前は今、何のためにこの国を治めているのか?」


伊藤は笑みを浮かべ、冷たく言い放った。


「陛下、全ては私のためだ。私がこの国を支配し、すべてを掌握する。陛下であっても、その意志を覆すことはできません。」


その言葉に、天皇は愕然とした。かつて共に近代日本を築き上げた同志は、今や暗黒の帝王へと変わり果てていたのだ。


そして、その日を境に、日本は伊藤博文による独裁政権の支配下へと堕ちていった…。


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### 結び


伊藤博文の心は、欲望によって蝕まれ、国家を守る英雄から、力に溺れる独裁者へと転じていった。かつての栄光は消え去り、彼の名は恐怖と共に歴史に刻まれることとなった。


まるで、フリーザのように…。

 

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