出会い

「「!?」」




音を辿り到着し、大きく開けた場所の草陰に身を隠したラークス達はその光景に驚きを隠せずにいた。




「なんだあいつは?」




音の通り初めて見るモンスターにノランは無意識に口が動いた。だが初めて見ただけで、自分たちがこんなにも驚くとは予想だにしていなかった。


そうその異様な形と大きさがラークス達の想定を超えていたからだ。


そのモンスターは黒色で覆われた5m並みのその分厚い巨体を6本の足で支えており、刃物のような鋭い長い腕をしていた。




「あのモンスターはブラックヴォイドエッジと言って、あの鋭い長い腕を刀のように使って攻撃してくる。切れ味は高く、この森の太い木を簡立単に真っ二つにできるらしい。危険度レベルは5に最も近い4。つまり今の俺達で勝てる確率は半々っていったところかな」




ラークスは勉強熱心でモンスターについてかなり詳しい。本にはモンスターの特徴や危険度、絵が記載されていることが多く、それをこういう時のためにしっかりと覚えていたのだ。モンスターの情報があるとないとでは、命を落とす確率が大きく変わるということをよく理解している証拠だ。




「まじか。それはなかなかヤバいな」




ノランはその危機的な状況に苦笑いした。




「そうだね。本来はもっと森の奥深くにいるはずなんだけどな」




何かおかしい。ラークスはそう感じ取っていた。




「まあいいや。まずはあの人をあいつから引き離そう」




だが考えるのは後からでいい。そう判断した。


モンスターの正面には片足を地面に着け、ボロボロな姿で息が上がっている1人の若い女性がいた。彼女は全身に黒い服を着ており、後ろで1つに束ねた白色の髪をより一層際立たせていた。手には1本の美しい剣を握っており、剣士だということが一目で分かるだろう。




「ああそれがいいな」




ノランはラークスの意見に同意した。


実際にラークス達の判断は正しい。


ボロボロな姿で片足を着けているといことは限界寸前だろう。あのままでは殺られる。安全な場所まで逃げることが最適解だと。そう考えていた。




「俺が魔法を放った時が合図だよ。


いくよノラン」




そう発するとラークスはしゃがんでいた状態から立ち上がり、杖をモンスターに向けた。




「アイス・スティンガー」




そう唱えると、杖の先端に半径約三センチ程の氷の長い円錐が一瞬で形成され、モンスターの頭目掛けてそれを放った。


そしてそれと同時にノランは右方向へ駆け出した。


そうこれは魔法を囮とした救出作戦だ。相手の意識を魔法に向け、その間にノランが素早く救出するというもの。


ラークスの魔法はモンスターの目の前まで真っ直ぐに飛んでいたが、それはモンスターにより一刀両断され、氷はパリンッと音を立ててて地面に落ちた。モンスターはラークスの魔法にすぐに気が付き、その右手の刃で見事に切り落としたのだ。


そして狙い通りモンスターは彼女から視線を外し、少し遠くにいたラークスを見て、目が合った。


その時ラークスは計画通りだと不敵に笑った。


そう奴はもう真下に来たもう1人の存在に気が付いていない。


だが次の瞬間




「ちょっと、誰あんた?離してよ!」




女性の甲高い声がモンスターの足元付近から聞こえてきた。


ラークスが何事かと、ふと下に目を向けると、そこには彼女を右手で抱えているノランと、足をバタバタさせ暴れている例の女の姿があった。




「おい、暴れんなよ」




あまりの暴れ具合にノランは動けない状態にいたのだ。




「えぇ。それは流石に予想外だよ」




世の中そう上手くはいかないものだ。


だが流石のラークスも焦っていた。本来はノランがとっくにここまで彼女を運んで来ている予定だった。だがあの騒しい女のせいでモンスターの意識が彼女にまた移ってしまい、2人の命が危険に晒されると考えていたからだ。


刹那




「!!」




モンスターの目線が下に向いた。


だがノランはモンスターの注意が自分たちへ移ったことに気が付いていない。




「ノラン、走って!」




それを察したラークスはノランに逃げるよう声を張り上げた。




「くっ」




ノランはラークスの怒号から危険な状況だと察し、視線を上に上げ、今の状況に完全に気が付いた。




「あんた。頼むから大人しくしててくれ」




「はあぁ?なんで私があんたの言うこと聞かないといけないの?」




ノランは大人しくしていろと命令しろと言ったが、女は言うことを聞かなかった。


そして




「やべっ」




相談している暇もなくモンスターが左手を振り上げた。




「はっ!


アイス・スティンガー」




ラークスは瞬時にそれに気が付き、攻撃を阻止するためにモンスターの胴体へ魔法を放った。


モンスターは右腕を使い、それをギリギリのところで防いだが、態勢が崩れ、攻撃モーションが維持できなくなっていた。


ノランはそれを見逃さなかった。


暴れ馬を抑えつけ、ラークスの元へ全力で疾走した。




「アイス・レイン」




ラークスはモンスターが自分たちのことを見失うよう、そして直ぐには追って来れないようさらに魔法を放った。


モンスターには大きな石くらいの大きさをした氷がいくつも降り注ぎ、防御するので手一杯となっていた。




「助かったぜラークス」




そしてその間にノランは無事にラークスの元まで戻ることができていた。




「うん。それよりも早くここから離れよう」




あいつとは戦いたくない。


ラークスはそう思っていた。


しかし




「ちょっと。なんでこんなとこまで連れてきたの?あと少しで倒せたのにっ!」




と彼女が言った。


その言葉に2人は


((なんだこいつ))


と思わず顔をしかめた。


ただでさえ暴れて大変だったのにも関わらず、それでも助けたのだ。文句を言われるとは流石に腹が立つだろう。




「いい加減離してよあんた。今から倒しに行ってくるから」




「はあ?マジで言ってんのか?どう考えても無理だろ」




あまりにも無謀な行動をしようとする彼女にノランは呆れたように言った。




「ノランしゃがんで」




そんな時ラークスが口を開いた。


ノランはラークスと同様に素早くしゃがみ込み、茂みに身を隠し、言われた通り彼女を離した。


彼女はドサッと音を立て、うつ伏せに倒れた。




「もっと優しく降ろしてよ」




彼女は文句を言ったが




「ヤバいな。あいつキョロキョロして俺たちのこと探してるぞ」




「今動くと絶対にバレるねこれは」




と2人は今の状況をどう乗り切るか考えており、全く聞いていなかった。


モンスターは態勢を立て直しており、ラークス達は完全に逃げる機会を失っていた。




「ちょっと、無視しないでよ!!」




無視されたことに腹を立てた彼女は声を張り上げ、堂々と立ち上がった。




「ばかっ」




「・・・・・」




彼女のまさかの行動にノランは動揺し、ラークスは目を点にして絶句した。


そしてその瞬間




「キエェェェェェッッ!!」




モンスターは彼女に気づくと雄叫びを上げ、ラークス達に烈火の如き勢いで迫った。




「走るよ!」




ラークスの対応は迅速だった。


モンスターへ背を向け、森へ走り出したのだ。




「くっそ」




ノランはそう言葉を漏らすと、その後を急いで追い、女も




「え?ちょっと待ってよ!」




と仕方なく森の中へ全速力で入って行った。




「お前何やってんの?さては相当なバカだろ」




走り始めて直ぐにノランが口を開いた。




「え?もしかして私に言ってる?」




後ろにいた彼女は不思議そうな顔をしてそう返した。




「お前以外いないだろ」




「はあぁぁぁ!?私がバカ!?そんなわけないでしょ!!


それに、なんで私たち逃げてるわけ?私はあいつを倒したいの!!」




彼女はバカと言われたことに怒り、どうしても倒したいと2人に訴えた。




「そもそも、何でそんなに倒したいの?あいつかなり危険だと思うけど」




ラークスは今も木を薙ぎ払いながら迫ってきているモンスターを指差しながら問いかけ




「今日あれを倒さないと今月分の家賃が払えないの」




と彼女は答えた。




「あぁ。そういうことね」




ラークスは1度だけこの寒い時期に家賃が払えず家から追い出されたことがあり、とても辛い日々を過ごしたという苦い思い出がある。必死になるのも頷ける。そう理解した。


そして




「しょうがないね。手伝ってあげよう」




ラークスはそう決断した。




「マジ?」




ラークスの選択にノランは思わず聞き返した。




「うん。このまま逃げても追いつかれそうだし。


それに1人で戦わせたら死ぬでしょ確実に」




以外にも足が速いモンスターと彼女の怪我具合からラークスは結論を出していた。




「なに?手伝ってくれるの?もしそうなら嬉しいけど、あんた達実力はあるの?お願いだから足だけは引っ張らないでよね」




「こいつ」




ノランは彼女のその傲慢な態度にイラっとしたが




「大丈夫だよ。俺は中級魔法まで使えるし、ノランの剣の腕も中級だから」




ラークスは自分達にはあのモンスターと戦うに相応しい実力が十分にあることを彼女に冷静に明かした。




「へぇ中級ね。結構やるじゃん」




魔法、剣術にはそれぞれ階級別に振り分けられており、下から順に初級、下級、中級、上級、超級、特級、極級とある。一般的に下級を完璧にすれば一人前、中級は騎士団隊長レベル、上級以上は努力だけでは決して辿り着けない領域と言われている。




「そんなお前は一体何級なんだ?さぞ凄いんだろうな」




彼女の上から目線な態度に、ノランは少し煽るように質問した。




「え?私も中級だけど」




「・・・・まさか同じ階級であんな言い方をするとは」




ノランは信じられないという表情をした。




「何言ってんの?私の方が百万倍強いんだから当たり前でしょ」




さらにその言葉からノランは、彼女の頭の悪さに憐れみを込めた視線を向けるほどになっていた。




「2人とも。喧嘩は後にして、あそこへ行くよ。


ここだと分が悪い」




ラークスは左側に見えた開けた場所を指差した。


間合いに木が多いここは獲物が振りにくく、こちらが不利になるとラークスは考えたからだ。




「分かった。


行くぞバカ女。付いてこい」




「さっきから、バカじゃないって言ってるでしょ!」




「2人は本当に仲がいいね」




「「どこがだよ!!」」




そういうとこじゃない?


とラークスは言おうとしたが、また喧嘩が始まるかもしれないと心の奥底にしまったのだった。




ーーーーーーーーーーー




「ラークス何か作戦はあるか?」




開けた場所の真ん中に着いた3人は逃げてきた方角を見ていた。




「作戦は特にないかな。状況に応じてそれぞれ動くって感じ。


でもあるとすれば、あいつの右腕が削れてるってことかな。


あと頭の上あたりが急所らしいよ」




モンスターが魔法を右腕で防いだ際、氷と共に組織の一部が飛び散っていたことをラークスは見逃さなかったのだ。




「おっけい。助かるぜそういう情報。


分かったかあんた?」




ノランは彼女のほうをチラッと見た。




「大丈夫ちゃんと聞いてた。右腕と頭でしょ」




以外にも人の話を聞いていた彼女に、人の話はちゃんと最後まで聞けるんだなと、ノランは少し安心した。




「来たよ」




ラークスがそう言うと、森の中から重々しい足音を響かせながら奴が姿を現した。




「そういえば、君の名前を聞いてなかったね」


全員が戦闘態勢に入った時、ラークスが何か思い出したかのように言った。




「あ、確かに」




「はあぁ。しょうがないから特別に教えてあげる。私の名前はエデン・リーベルト。


因みにあなたがラークスで、あなたがノランでしょ」




エデンは自信満々に言ったが




「逆な」




見事に間違えていた。




「ま、まあいいでしょそのくらい。


・・・私が一番乗りだあ!」




エデンは恥ずかしかったのか、何もなかったかのようにモンスターに突っ込んでいった。




「おい!勝手に行くなよ!


あぁもう。ラークス援護頼むぜ」




そう言うとノランは慌てて剣を抜いた。




「もちろん」




ラークスが微笑すると、ノランもモンスターへ走っていく。


ついにブラックヴォイドエッジとの戦闘が始まった。

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