第4話
「ねえ、もし魔物が出たら俺のこと守ってもらえる?」
寝ている間は無防備だ。いくら詐欺レベルの能力付きマントと言っても、鋭い牙や爪のあるモンスターに襲われたらひとたまりもない。しかし、俺の期待したような答えは返ってこなかった。
『ピクシー、ヨワイ』
『バットビーストニモ、マケル』
バット、ということは、多分コウモリ型のモンスターなのだろう。洞窟なら、生息していておかしくない。
「これ振り回せばどうにかなるかな」
腰の銅剣を指して問えば
『タブン、ムリ』
あっさりとピクシーBは言った。お前は戦った経験もなさそうだから、そんな貧弱な剣を振り回したところで、飛んでいるものをまともに狙えはしないだろう、というピクシーの発言ももっともだ。あまりに正論過ぎて痛い。
「でも果物だけじゃ飽きるじゃん。別のものも食べたいよ。自分で狩れないなら、せめて町で食べ物買うくらいのお金が欲しい」
左右にリンゴを持って、俺はがっくりと項垂れる。リンゴはリンゴだ。何個あってもリンゴだ。
「……ん?」
リンゴ。ただのリンゴ。
……てことは、これ、アイテム的には『同じもの』扱いなのでは?!
ふと気付いて、俺はリンゴ同士をマージしてみる。2つのリンゴが1つにまとまる。現れたのは、先ほどよりも小ぶりなリンゴ。
「あれ? 小さくなっちゃった」
鑑定虫眼鏡で見てみると、エナジーアップルという名前が出る。味は通常のリンゴよりも甘酸っぱく、栄養価が高いようだ。あと、低級ポーション程度に体力回復効果があるようだ。
「お。成功!」
こうやって掛け合わせていけば、すごいリンゴになるんじゃない?
もうひとつエナジーアップルを作って、マージする。次に出来たのはグロウアップル。サイズは元のリンゴの大きさに戻った。表面がほんのりと光っているように見える。中級ポーション程度の体力回復効果に加えて、食べた者の視力を一時的に強化して暗視能力を与えてくれるらしい。
「これ、洞窟で便利なんじゃ?」
次を作ろうと思ったけど、手持ちのリンゴが少なくなってきた。マージは、量が減ってしまうのがやっぱり難点だ。高レベルの物を作りたかったら、素材が大量に必要になる。
興味津々という様子で俺のやっていることを見ていたピクシーたちが、外にリンゴがなっていると教えてくれたので、また素材になるリンゴを山のようにポーチにいれて洞窟に戻ってくる。
グロウアップル同士をマージして出来たのは黄緑色のスピリットアップル。これには体力回復効果はないようだけど、魔力を回復してくれるようだ。
まだ掛け合わせられる。続けて、エンチャントアップルという毒々しい紫色のリンゴが出来た。
「うぇ、これ毒リンゴ? やりすぎたか?」
香りはいいけど、食べるのは躊躇する。鑑定してみれば、魔力の完全回復と状態異常回復まで付いている。これで打ち止めかと思いきや、この上の段階があった。エンチャントアップル2つをマージして完成したのは――
「金リンゴ!!」
黄金に輝くリンゴだった。
「これ、めっちゃ高いんじゃね?」
鑑定結果は、エルダーツリーアップル。
・大きくて黄金色をした輝くリンゴ。食べた者の体力と魔力の完全回復、全ての状態異常を治療する。稀に一時的に自然と調和し、自然の力を操る能力を与えることもある。非常に稀少で、エルダーツリーという神聖な木からのみ収穫される。
という解説が表示された。
「おー! なになに? これ伝説の果物ってこと?」
『スゴイ』
『ハジメテミタ……』
ピクシーたちも驚いて、感激しているようだ。この世界の生き物が見たことないって言ってるんだから、やっぱりかなりのレアものだ。
「これ、売ったら金持ちになれるかな?」
『ッ、ダメ!』
『モッテルノシラレタラ、イノチネラワレル』
「そんなにレアなの?!」
これ以上はマージできないようだ。それにしても、すごいものを手に入れてしまった。食べるのはもったいないけど、簡単に売れもしないのなら保管しておくしかないだろう。どうしたものかと思いながらポーチにしまっていると、洞窟の奥から羽音が聞こえてきた。
時刻は夕方。コウモリたちの活動時間になっていた。
バサバサと大きな羽音を立てながら襲ってくるバットビーストたちの攻撃を、身体を丸めて防ぐ。銅剣を振り回してみたけど、ピクシーたちの言う通り、宙を飛んでいるコウモリ型のモンスターにはかすりもしなかった。
「あーッッくっそ! 数多すぎ!!」
バットビーストの攻撃力自体はたいしたことないようだ。だが、あまりに数が多い。洞窟から抜け出そうにも、攻撃を避けるためにしゃがんでしまった今、今度は起き上がることさえできなくなっていた。ピクシーたちもマントで覆って、なんとかやり過ごそうとする。
だが、攻撃の手がやむことはなくて、徐々に自分の身体にダメージが蓄積されて行っているのを感じていた。
「うわ、ヤバいかもこれ、え、俺ここで死んじゃう?」
最悪すぎる。人生が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
『……オトリニナッテルウチニ、ニゲテ』
「はぁ!? なに? 聞こえない!」
『タノシカッタ』
助けてくれてありがとう、という言葉が耳元に響く。え? と思って顔を上げると、ピクシーたちがマントの下から飛び出していくところだった。
「ちょ、ま……! お前たち弱いんだろっ! なにやって――」
『ニゲテ!』
なに? 助けてくれるの? 確かにさっき、魔物から守ってほしいとか言ったけどさあ!
小さな身体で、ピクシーたちはバットビーストに立ち向かっていく、しかし、あっという間に羽根はボロボロになり飛ぶことも出来なくなって地面に落ちた。
「なにやってんだよ、もう!」
せっかく助けたのに、これじゃ意味がない。自分の盾にするために助けたわけでもない。ここで死なれたら、気分が悪すぎる。
「どけ! どけって!!」
体当たりしてきて、噛んで、引っ掻いてくるバットビーストの攻撃をマントで防ぎながら、地面に力なく転がっているピクシーたちのもとに駆け寄る。彼女たちに覆いかぶさるようにして守りながら、呼吸を確かめる。弱い。でも、まだ生きてる。
「待ってて、大丈夫、まだ万能薬あるから――」
『ナンデ、ニゲナイノ』
「見捨てろとか、無理言うなってぇ」
うわ、痛そう。さっきの冒険者たちにやられてた時よりもボロボロになってる。
「モンスター同士で攻撃とかしあうなよ」
俺は万能薬をポーチから出そうとする。だが、バットビーストたちの攻撃の手がやむことはなく、少しでも身体を上げると隙間から入ってこようとするから上手く取り出せない。
「くそ、薬、薬さえあれば……」
『モ、イイ』
『ダイジナクスリ、ムダニシナイデ』
手の中でピクシーたちの息が小さくなっていくのがわかる。ダメだ、ダメだ、このままじゃ――思わず彼女たちを抱き締める。俺の手の中で彼女たちの身体が触れ合って、そして……
『……え?』
「え?」
『あ……進化、した……』
「へ?!」
手のひらほどの大きさだったピクシー二匹が融合して、倍くらいの身長のモンスターに進化していた。ボロボロだった羽根も綺麗に治り、さっきよりも比重は大きくなって、より鮮やかな色で七色に輝いている。
――え、この世界、モンスターも同一アイテム扱いなわけ?
目を白黒させている俺をキッと睨んだ元ピクシーは
『どいてて』
俺の手から飛び立つと、バットビーストたちに向けて火球を打ち出した。1つ1つは小さいけど、それでも何個も群れに打ち込まれたバットビーストたちは驚いたように洞窟の奥に逃げ帰っていく。
しばらく様子を見ていたが、戻ってくる様子はない。それでも万が一を考えて、俺たちは急いで洞窟を抜け出した。少し行ったところに木のうろもあるというので、そこを目指しながら俺の目線の少し上を飛んでいるモンスターを見上げる。
「……助かったぁ……っていうか、なに? 進化? 魔法使えるんじゃん」
『フェアリートは、魔法も得意なの』
俺の周りを飛んでいるフェアリートという名前のモンスターは『まさか進化できるなんて思ってなかった♪』と言ってご機嫌そうにくるくると宙を舞った。
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