VS鎧熊……と?
山の麓にあるとある森林……少し開けた場所にソレは居た。
全身は黒毛の熊……しかし、まるで鎧のように全身に灰色の硬質的な外骨格をまとっている。
大型……と聞いていたとおり、4mはある巨大な鎧熊だ。
普段はもっと山奥で暮らしているはずだが……それがこんな麓まで降りてくるとは珍しい。
インディ、テル、アローカ、ユナは茂に隠れ息を潜めながら言葉を投げかけ合う。
「あれが標的だな?」
「す、すごい大きいですね……」
「そうね……でも、まだ気づかれてないし、下手な動きをしなければ問題ないはず……」
インディがそう言って杖に魔法玉をはめ込む……すると、ユナが少し言いづらそうに指を差す。
「あのっ……あの獣人さん。もう……」
ユナが指差したのを見て、インディは恐る恐るその方向を向く……一応散々釘は刺しておいたのだが、それくらいで止まるようなやつではなかったらしい。
「オラッ!なんだこの熊野郎!やンのかテメェこの野郎!!」
そこには、バリバリに鎧熊に喧嘩を売るテルの姿があった。
「あぁぁぁ……あの馬鹿ぁぁぁぁ……」
「で、でも……すごい気を引いてますよ。」
確かに、鎧熊は飛び出して喧嘩を売りに行ったテルに対して。その巨腕を振り下ろす……が、テルはそんな鎧熊の攻撃を獣人の軽やかな身のこなしで避ける。
何度も何度も攻撃を避けられては、鎧熊も目の前の羽虫のような存在にイラついてきたのか、動きに繊細さがなくなってくる。
「おらぁ!」
てるは鎧熊に鈎爪で切り裂くが、その硬い外骨格に阻まれ肉まで攻撃は一切響いていないようだ。
一応、ある程度の魔法攻撃も完全に無力化できるほどの硬度を持つ外骨格だ。
強化無しの獣人の爪程度ではどうにもなるまい。
「ちっ……流石に硬いな……よっと!」
テルはまた振り下ろされる鎧熊の巨体を避けると、また鎧熊に対して爪を研いで襲いかかる。
鎧熊も、怒り狂ったようにテルに釘付けだ。
鎧熊……やはり外骨格や単純なパワーが優れる代わりに、おつむはそこまで良いモンスターでは無いらしい。
すっかりテルのペースに乗せられている。頭自体ならこの前の大狼の方が幾分か増しではなかろうか?
その見事なおとりっぷりにアローカは思わず感心する。
「なるほど……派手に煽って敵を惹きつける。自ら囮役を買って出るとは……中々にやるらしいな、あのラーテル獣人。」
「いや、絶対そういんじゃないと思う」
だが、そんなアローカの関心をインディはバッサリと切り裂く。
あの馬鹿……テルは兎に角ムカつくやつに喧嘩を売りに行っただけなのだ。それが偶々今回は良い方向に行ってるだけだ。
「そうなのか?……まぁ、どの道良い隙だ……インディ。俺にバフをくれ、攻撃力増強のやつでたのむ。」
「わかった。」
そう言ってインディはアローカのソールの履かれた脚に杖を向けると、魔法玉の魔力を触媒にアローカへ攻撃力増強魔法をかける。
すると、アローカは脚に独特な感覚を覚える。脚に妙な負荷がかかったような感覚だ、しかし動きは今までのものと変わらない。少し変な感覚だ。
「少し違和感あるかもだけど、我慢して。」
「問題ない。むしろ、攻撃増強と言うからにはもう少し負荷が掛かるものかと思ってた…………それじゃあ、行ってくる。」
そう言ってアローカは、茂みから足に力を込めてジャンプしながら鎧熊へと背後から近づく。そして……アローカは鎧熊の背に一撃加える。
「ぜりゃぁ!!」
アローカの入れた蹴りは、鎧熊の首元の外骨格に大きなヒビを与える。すると、テルは思わず声を荒げる。
「テメェ!何しやがる!俺の獲物だぞ!?」
「そうも言ってられん相手らしいぞ!」
すると鎧熊は雑談をした二人に向かってその巨腕を振り下ろすが、2人は咄嗟に地面を蹴って回避する……案外、息はぴったりだ。
と言うか、テルが増強魔法を使っていないのにあれだけ動けることにアローカは軽く驚いた。
「ユナ、狙えるの?……その、ジュウって奴で。」
「はい!大丈夫です……!」
すると、続いて攻撃を仕掛けるのはユナだ。インディはユナに感覚増強の魔法をかける……文字通り五感が鋭くなる魔法だ。
すると、ユナは自身の銃を胸に抱き寄せて一言呟く。
「ライフルモード、起動。」
ユナの一言に反応するように、ユナの銃は銃身の長い……所謂スナイパーライフルへと変形する。勿論、この世界には本来ない代物だ。
ユナはスナイパーライフルにつけられたレンズ……スコープ越しに鎧熊を見る。狙うのは鎧熊のひび割れた外骨格。
ユナは静かに息をついてタイミングを見計らう……しかし、ユナはいつもよりも遥かに相手のスピードがスローに見えた。
これが、インディの感覚増強の魔法の力かと、思わず息を呑む。
しかし、感心するの後だ。
ユナは狙いを定めて鎧熊の首元にできたひび割れた外骨格に銃身を向ける。
「……まだ……まだ……まだ……ここ!!」
そう言って、ユナは引き金を引くと、ユナの銃の先端から青白い光球が飛び出す。放たれた光球は、徐々に針のように収束圧縮され、鎧熊の傷口にクリーンヒットした。
次の瞬間、首元の外骨格は内側から破裂したように破損し、ポロポロと外骨格が地面へと落ちていく。すると、テルが動き出す。
「貰ったぁぁぁぁ!!」
「っ!?おい!」
そう言って走り出すのはテルだ。
テルはアローカの静止を押し切って鎧熊へと突撃すると、テルは鎧熊の身体をよじ登って飛び上がり、その鎧熊の首元……外骨格の禿げた部分にその鈎爪を突っ込んだ!
激しい血しぶきと、鎧熊の叫び声が舞う。
鎧熊は背中に張り付いたテルを離そうともがくが、それよりも早くテルはその首元にさらに深くかぶりつき肉をえぐり取る。
……食らったのは首元、急所だ。その部分の肉を鈎爪に削り取られ、噛みちぎられれば否が応でもダメージを食らう。
テルはある程度やりきったと感じると、鎧熊を足蹴にして離れる。その様子にアローカは小首を傾げた。
「どうした?」
「喉元食いちぎった。俺の勝ちだ。」
「随分とエグいやり方だな……」
アローカは呆れ気味にそう呟いた……茂みではそのスプラッタでグロテスクな状況にユナが少し吐きそうになり、インディがそれをたしなめていた。
「うっ……おえっ……ご、ごめんなさ……」
「いいのいいの、貴方もしかして割とルーキー?刺激強かったわよね。」
インディも、さすがに身内がやらかしたのもあって申し訳無さそうにユナへ声を掛ける。
鎧熊は苦しそうにもがくとやたら持ったらに木々をなぎ倒したり岩を砕いたりしたが、それも数分で終わり……やがてその場に倒れ込む。
アローカは呆気ない終わりに静かに呟く。
「……やったな。」
「っしゃ!」
アローカとテルはガッツポーズを取る……すると、二人は咄嗟に何かの気配を感じ取った……まるで毛穴が開くようなそんな感覚だ。恐怖……警戒……身体がそうしろと信号をだしている。
「んだ……なんか……」
「……感ずいたか?なにか、妙な……」
すると、茂みからインディとユナが出てくる。その瞬間、開いた毛穴が痺れるような感覚をテルとアローカは感じた。てるは思わず声を上げる。
「インディ!出るな!」
「えっ?」
「……?」
「ちぃ!」
……咄嗟だった。
アローカは咄嗟にユナの前に飛び出す……すると、その脇腹を透明な触手のようなもので貫かれる。
「ぐっ……がぁ……!?」
「アローカさん!?」
ユナが思わず叫ぶ……すると、その場に静かなる声が響く。若い男の声だ……
「……庇われたか。まぁ良い。」
すると、突然その場に現れる……まるで、ないもなかったところに色が塗られ、絵が描かれるようにその場に現れる。サイバネティックな鎧と兜を纏った人間がそこにはいた。
その普段は決して見ることができないような鎧……それが、魔機だと言う事は容易に想像がついた。
「……さて、そこの女。魔機を置いていくか、ここで俺に奪われるか選べ。」
魔機を纏った男は、そう呟くのだった。
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