即席パーティー。
テルにも鎧熊討伐についての話を通すと、インディ、テル、アローカ、ユナはギルドに併設された個室の応接室へと場所を移した。ここならどんな話をしても外の連中に聞かれることはない。
ここで行うこと……それは、鎧熊討伐についての作戦会議だ。即席パーティーならば、尚更こうして作戦を立てて足並みを揃えることが重要になる。
その為には、まず各々ができることを知らなければならない。
「えっと、先ず私から説明しましょうか。私は魔術師……増強系の魔法が得意。基本的には後方でサポートするのが仕事になるわ。」
「増強系の魔術師か……強いな。」
アローカは深く感心するようにそんな言葉をかける。ユナは小首を傾げて、テルは興味なさげにふわぁっと欠伸をする。
「あのっ……増強魔法ってそんなにすごいんですか?」
「凄いな、繊細な魔力捌きが必要だ……下手に魔力を込めすぎるとバフを掛けた部位が破裂するなんてのはしょっちゅうだ。」
「な、なるほど……」
「ま、代わりに攻撃魔法はからっきしなんだけどねぇ。」
そう言ってインディは自身の杖をそっと撫でた。続いて声を上げるのは、アローカだ。
「俺は先程も言った通り武闘家、グラップラーだ。基本的には相手の攻撃を避けながら蹴りを叩き込むのがやり方だ。」
「威力は?」
「鎧熊の鎧なら本気の奴を数発入れれば砕け散る。」
「……うそん。」
平然とそう言い放つアローカに、インディは呆れ気味に声を漏らす。鎧熊の鎧はそんな蹴り数発で壊れるような代物では本来ないのだが……こんな所で嘘をついてもしょうがないし、本当のことなのだろう。
「何分、剣も魔法も弓もからっきしでな。コレを鍛えるしかなかった。」
「……まぁ、それは私も似たようなものね。なるほど、納得。」
インディも攻撃や回復魔法は基礎的なものは扱えても、それ以上はからっきしだ。それくらいしか武器がなかった……それを鍛えるしかなかった。その状況はインディも理解できるものだ。
「……次は貴女ね。ユナ。」
「は、はいぃ!」
緊張しているのか上がり症なのか声が裏返ってしまうユナ……するとユナはビクビクしながら周りを見渡す。
「聞き耳なんて誰も立てんさ……魔機使いだって話は聞いている。」
「は、はいあの……コレを……」
そう言ってユナは抱えていた筒を包んだ布を解いてみせる。
すると、布の内側から現れたのは、トリガーのついた鉄筒……持ち手のあたりには魔法玉をはめ込む為の窪みがつけられた物だ。
簡単に言えば今のこの世界に本来存在しない物……『銃』がそこにはあった。
「こりゃまた奇怪な鉄筒だな。なんだ、こりゃ?」
「私も見たこと無いわ……」
「銃、といいます。」
「ジュウ?」
聞き慣れない単語に小首を傾げるインディとアローカ。ユナはおどおどしながら言葉をつづける。
「あのっ、魔法玉の魔力を触媒にして、この引き金を引くと魔法弾が放てるんです!」
「なるほどな。攻撃魔法を放つことに特化した鉄筒……と言う訳か。」
「また珍しい代物だけど……貴女、コレを何処で?」
インディがそう問いかければ、ユナは顔を真っ青にしてアワアワと慌てふためいていく……後ろめたい事がある……というよりかは、どう説明したらいいのかわからないといった感じだ。
「そのっ!えっと!あのっ!そのっ!」
「……まぁ、出会ったばりの人間に深く聞くのも野暮だな。」
「そうね……」
「そんで最後は……」
「ぐぅぅぅぅぅ……すぴぃぃぃぃぃ…………」
そこには、完全に寝落ちしているテルが居た。日向のあたりで気持ちよさそうに寝ている。
「……コイツは何なんだ?」
「……私のパーティーの主戦力。ラーテル系獣人のテルよ。」
インディはそう言いながらぐっすり寝ているテルへと近づき、容赦なく杖を叩きつける。テルはがふっ!と声にならない声を上げながら、眠たげな目をしながら立上がる。
「ふぁぁぁ……んぁ?なんだっけ?」
「大丈夫なのかこいつ。」
「大丈夫大丈夫、戦闘力は本物だから。それ以外?聞くな。」
アローカはそんなインディの言葉を聞いて若干不安になる……大丈夫なのだろうか、この即席パーティーは。
「しかし、ラーテル系獣人か。気性が荒くて喧嘩っ早い種族だが…………本当に大丈夫なのか?」
「……まぁ、その……手綱は持っておく。」
「すっごい不安だな!?」
思わずアローカも声を上げてしまう。当の本人のテルは何が何だかわからない様子で首を傾げるばっかりだ。すると、インディがテル言葉を投げかける。
「ほら、テル。貴方も自分の力について説明なさい……」
「爪と牙で急所を切り裂く。」
「シンプルでわかりやすいな。」
アローカはここまで来ると寧ろ関心すら覚えてしまう。……さて、これでそれぞれができることは分かった。後はコレを組み立てて鎧熊討伐へと向かうだけだ。インディが声を上げる。
「さて、ポジションはアローカとテルが前衛。私とユナが後衛になるわね。」
「は、はい。あの……私も、狙撃の方が得意なのでその方が有り難い、です。」
ユナもそう言葉をかければ、それぞれがうなずく。すると、アローカが声を上げる。
「まぁ的確だな……そうだ、インディ。お前のバフはどの程度の事が出来るんだ?」
「そうねぇ……攻撃増強、速度上昇、防御力増強、感覚増強くらいかしら、約に立つのは。三人程度なら好きな度合いに増強できるわよ?」
「なるほどな………………ん?嫌待て……はっ?三人同時にか!?」
三人同時に好きな具合にバフを掛けられる……そんな魔術師が冒険者にどの程度いるのだろうか?
増強魔法自体、先程も話題に出たとおり少しでも魔力の注入や操作加減を間違えれば、増強させた部位が魔力の負荷に耐えきれずに、ちぎれたり破裂したりするのだ。
「まっ、他の魔法は本当にからっきしだからね。バフ要員としてこのくらいは出来ないと!」
「……テルとやら、お前相当な相手とパーティー組んだな。」
「んあっ?あぁ、まぁな。すげぇ奴だよインディは。俺が知らないこともなんでも知ってるし。」
「それはアンタが物を知らなすぎるだけよ。」
バッサリと言い捨てるインディ。テルはその言葉に対してうなずく。
「おう、俺馬鹿だし、物知らねぇからな……まっ、その分コッチは力になれるぜ。」
そう言ってテルは自慢の鈎爪を見せつける……そんな様子を見て、インディは溜息をつく。
「まっ、私は攻撃ができないし、コイツは頭が使えない。私ができないことをテルがやって、テルができないことを私がやる。そんな所ね。」
「なるほどな。良く分かった。」
アローカも納得したように頷く。ある種の仕事人めいた考えだ……自分のやるべきこと、出来る事をやる。
他の分からない所はそれが出来るやつに任せる……それもまた、冒険者のパーティーの一つの形だ。
それが理想的か……と聞かれるとアローカは小首を傾げるが……少なくとも、テルとインディはそれで今までを生き残った。それが彼らの優秀さの裏付けだ。
勝ち残るべくして残ったのか、勝ち残ってしまったのかは定かではないが。
「……そうだな、まぁ。即席だがパーティーだ……仲良くやろう。」
「……そうね。」
「は、はい!」
「ん?あぁ?うん、そうだな。」
アローカの言葉に、それぞれ頷くインディにユナにテル……メイド服を着た女装趣味の男なのに、かなりマトモだ。というか、なんでメイド服なのだろう。趣味とは言っていたが……どんな趣味だ?
インディにユナなそんな事を考えて悶々とするのだった。
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