様子のおかしい奴ら
……ラーテル系獣人とパーティーを組むのは多大なるリスクがかかる。確かにラーテル系獣人自体は生身では中々の能力を秘めている。
その硬いゴムのような皮膚は、野生動物やモンスターの牙は通さない。その鋭い鈎爪は、相手を切り裂くのには十分な威力を持っている。スピードも並の人類種以上。
獣人であるからには、それなりには鼻や耳も利く。冒険者には、良い旅の仲間になる。しかしラーテル系獣人の喧嘩っ早さは、それらの長所を覆す程の短所だ。
ラーテル系獣人は、どんな相手にも果敢に挑む勇気をもっている。
道端の子兎や輸送中の豚から、大地を駆ける大熊から空を飛ぶドラゴンにまで、あらゆるものに挑んでしまう。
勇気があると言えば聞こえは良いが、その勇気は蛮勇に近い物だ。
それは、ラーテル系獣人種族全体の特徴……無論個人差はあれど、そのすべてが往々にして蛮勇を持っている。
モンスター達からすれば面倒な相手だ……勝てない相手ではないが無駄に強いからまともに戦えば深手を負う。
野生化において重要なのは、どれだけ労せず獲物を獲れるかだ。モンスターも野生動物もそれは変わらない。
だが、一度襲われたからにはやり返さねばならない、野生下で舐められたらそれは死と直結するからだ。
その異様な好戦的気質故にラーテル系獣人と組んだ末に、その習性に巻き込まれて命を落とす冒険者も多い。だからラーテル系獣人はソロでいることが多い。
しかし、そんなラーテル系獣人であるテルは違った。テルはインディと言う相棒を見つけ、共に狩りをしているのだった。
■■■
……この地で魔獣を狩る事や、人からの依頼を聞いて冒険に出て生計を立てる者達の事を冒険者と人は呼ぶ。
どちらかと言えば狩人のほうが意味合い的には近いだろうに、冒険者と呼ばれているのは、かつてこの地――ハルディアが未開の土地だった際に、その土地を開拓する冒険者がこの仕事のルーツとされているからだと言われているからだ。
そんな冒険者の集まり、冒険者の依頼を受ける施設の事をギルドと言う。そんなギルド内に併設された酒場で、二人の人物――ラーテル系獣人のテルと、人間のインディ・ケルタが顔を合わせながら食事をしていた。
テルは何処かバツが悪そうにしながら皿に乗った蜂蜜の塗りたくったパンを口に含んでからインディへと声を掛ける。
「インディ、悪かったって……機嫌直してくれよ。」
「……ちっ。」
インディは口汚く舌打ちをする。テルはその様に文句も言えずに目を細める……言い訳無用。悪いのは自分だとわかっているからだ。
今回、本来の任務は薬草を取るだけ……確かに危険地帯だったが、それだけの任務のハズだった。
それを、テルが道端で寝ていたワイバーンに喧嘩をふっかけたせいでえらい目にあったからだ。
なんとか逃げ切り薬草も手に入れ、任務は遂行できたが……終わり良ければ全て良し、なんてセリフで流すことはできない。
ワイバーンと言えば危険度A級。毎回討伐の際には死者が出るほどの相手だ。そんな相手にテルは喧嘩を売ったのだ、同伴者としては生きた心地がしない。
「……ラーテル系獣人が喧嘩っ早いのは知ってるけど、恐れ知らずにもほどがあるのよアンタの一族」
「そんな事言われても…………俺ら真っ当に生きてるだけなんで。」
「決して真っ当じゃないわよ!?真っ当じゃあ!!」
インディはそう言ってテルを小突く。テルは目を細めてその小突きを甘んじて受け入れる。
…………これでもテルはインディによって躾られている方だ。普通のラーテル系獣人ならばこづかれたらその指を食い千切る。物騒である。
「はぁ……さて、テル。次は明日の事について考えるわよ。」
インディの言葉を聞くと、テルは顔を明るくして言葉をあげる。
「久々に討伐系の依頼を受けるか!?」
「無し!……と言いたいけれど、安全で割の良い依頼は討伐系以外取られてるのよね……」
冒険者たるもの、時折モンスターを退治する依頼を受ける事もある。しかし、どうせなら安全な依頼で食い繋げるのならそれに越したことはない。
だから、払いの良い……例えばこの前の薬草を入手するといった収集系の依頼はあっという間にほかの冒険者に取られる。
討伐系の依頼は、払いこそ良いものが多いが相応に命の危険が伴う…………討伐の依頼を受ける者は、余程腕に自信がある者か、様子のおかしい者だけだ。テル?当然後者だ。
「討伐相手はD級の大狼、まぁテルに私がバフを掛ければ全然倒せる相手ね。」
「って事は!?って事は!?」
「……行くわよテル!腕の見せ所!」
「いよっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
普通ならどんな相手でも討伐依頼と言う時点で、ある程度の覚悟が必要となる。
どんな相手でも、相手を殺しに行くという時点で、殺されるという可能性があると言う事だ。採取系の依頼ですら命がけなのに、討伐系の依頼なんて命を立てた箸の上に置く様な物だ。
……しかし、そんな討伐依頼を嬉々として受け入れる者もいる。そう言う奴らはどんな理由があろうと大抵様子がおかしい。
「へへっ……大狼かぁ、デカいしやりごたえあるんだよなぁ!へへへ……!!」
「はいはい。その代わり途中で他の変なモンスターに喧嘩ふっかけないでよ。」
このギルドでは常に見られる見られる光景だ。
だからこそ、ギルドの皆に思われていることがある。
(((変な奴ら……)))
変な奴ら……そう、変な奴らなのだ。
テルはラーテル系獣人の例に漏れず様子がおかしいし、インディも正直ラーテル系獣人と組んでいるだけで様子がおかしい…………しかし、それでも彼らは生き残っている。
それだけで彼らの優秀さを説明するには、十分な理由だった。この命懸けの冒険者と言う職業では……なおさらに。
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