VS大狼

「んだぁこのデカオオカミが!やんのかゴルァ!」

「喧嘩売ってないで攻撃!攻撃早く!バフは長くは持たないわよ!」


 木漏れ日あふれる森の中、木陰に隠れるインディと少し開けた場所に立ちはだかるテル。


 そして、その目の前には3.5mほどの白銀の狼…………大狼と呼ばれるモンスターだ。


 その大きさ以外は何の特殊能力も持たない普通の狼である。故にモンスターの危険度を表すランクでは、D級としたから二番目の値となる。


 因みに、D級はある程度戦闘に慣れたパーティーであれば楽に倒せる程度である。しかし、油断はできない……油断すればどんな猛者でも死ぬ。それが冒険者と言う職だ。


 その大狼は、ジリジリとテルと向き合い目その隙を伺う……大狼からしたら、訳の分からない言葉を喚き散らしている獣人だ。


 どうしたって警戒してしまう。


「へへっ……こねぇのか?ならぁ!」


 次の瞬間動き出すのはテルだ。


 テルは身軽さを活かして大狼の懐に接近すると、その鉤爪を鋭く尖らせてアッパーカットするように鉤爪を振るう。


 大狼はそれをすんなりとテルを飛び越えるように大きくジャンプして避けると、直ぐ様振り返り、今度はその牙むき出しの顎でテルを食いちぎろうとする。


「っしゃぁ!」


 テルはそんな大狼の顎から大きくジャンプする事で逃れる。


 すると、テルは近くの木へと乗り移り、また向かい側の木への乗り移り……こんな事を繰り返して、まるで猿の様に大狼を撹乱する。


 大狼は、動き回るテルをみて一瞬迷う。


 しかし、直ぐ様その巨腕を振りかぶり、お手をするようにある木々のの枝を纏めてなぎ倒す。所謂ダイナミックお手である。


 しかし、その跡地には何もいない……たしかに手応えはあったはず。


 その大狼の迷いは、首元に来る鋭い痛みによって振り払われる。


「はっはぁ!喉元貰ったぁ」


 そこに居たのは、大狼の喉元に文字通り牙を剥けて喰らいつくテルの姿だった。


 白銀の毛が、噛み千切られたことによって鮮血に染まっていく。


 大狼はテルを振りほどこうとして必死に身体をよじらせる。体を木にこすりつけ、テルをすり潰さんとする。


 しかし、テルは身軽さを活かして、大狼と木々に潰されぬ様に動き回る。


 こうなってしまえば、あとはどちらが先に体力が尽きるかの勝負だ……ここまでこぎつければ、ラーテル系獣人の勝利は確定した様な物だ。


 何せ……しつこさで言ったら、ラーテル系獣人は数ある人類種でも上位に名を連ねる程度には、しつこく、面倒で、意地のある性格だ。


 特に、テルは意地の張り合いは得意だ。

 

「はは!暴れんなよ!暴れるともっと痛えぞぉ!?」


 そう言って、テルは大狼の首元により深く爪を立て、牙を立てて齧り付いた。激しい血潮が飛び散り、木々を赤く濡らす。




「久々に見たけど……やっぱアイツの狩りってエグいわね。」


 インディは先端に宝玉のついた杖をテルへ向けたまま、事の顛末を伺う。


 ただ隠れている訳では無い…………テルへ攻撃と速度上昇の効果を持つ魔術、つまるところバフの技を送っているのだが、これはかなりの集中力が必要な魔術。


 インディが、ほんの少しかすり傷を追えば解除される危険性のある危うい物だ。


 戦場において、ほんの1割程度の速度や体力の低下は、致命傷になる。逆にほんの1割程度の上昇が、勝利へと直結する道筋にもなる。


 インディの役目は、そんなバフ・デバフをかける魔術師と言う、冒険者達は喉から手が出るほど欲しがる人材なのだ。


 それが、なぜ組むだけで危険と言われるラーテル系獣人と組んでいるのか…………それは、彼ら二人のみが知る事である。


 さて、やがて大狼は体力を失い、足を引きずって……その場にパタリと倒れてしまった。


 すると、返り血で血みどろになったテルが額の血を拭いながら大狼から降りる。


「ふぅ……よっしゃ!いっちょ上がり!」

「ッッッ!!……ふぅ、漸く気張らないで済むわ。」


 そう言ってインディは、杖から宝玉を外す……すると、宝玉はひび割れて砕け散ってしまった。


 この宝玉こそ、魔術師が魔術を使う為の媒体となる魔法玉だ、基本使い切り、半永久的に使用できる代物もあるが、そちらは値がかなり高い。


 一昔前は、いちいち詠唱が必要だったので、それと比べたら何倍も簡略化されている良い時代だ。


 インディが砕けた魔法玉を名残惜しそうに見ているると、テルが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「今日のは結構大物だったな!剥ぎ取りしようぜ!」

「そうね。きっと高値で売れるわよ!」


 モンスターの亡骸をどうするかは、基本討伐した冒険者の自由である。


 基本的には、剥ぎ取りを行って皮や骨、肉を売りに出すのが定石だ。


 魔術師や錬金術に学のある者はそちらに回すのもてだろう。彼らテルとインディは、素材を金に回す派だ。


「確かに今回は大物だから、稼げれば……!!」

「蜂蜜沢山買えるな!」

「いえ、私は魔導書が欲しいわね。新しい魔法も覚えたいし。」


 二人がそう言って夢を見ている……すると、不意にテルの耳に足音が入る。草場をくぐり抜ける音……それも複数だ。


「……インディ、来る。」

「っ!?」


 それは、他でもない獣人の五感から導き出される答え……野獣のそれと変わらぬ察知能力、それがハズレたことは無い。


 テルの言葉にインディが反応して身構える……すると。木陰から一匹の1.8mほどあるトカゲが現れた!


「っ!」

「うおるぁ!」


 テルは咄嗟にそのトカゲを鉤爪で切り裂くと、そのトカゲはあっけなくパタリと倒れる。


 そのトカゲの姿は、二足歩行で二本の後ろ足を器用に使い立ち上がる……まるで鳥とトカゲの合わせ子の様な姿だった。色合いは白……まるで鶏だ。


「チキンランクス……」


 チキンランクス、それもまたモンスターの一種。鶏とトカゲの合わせ子の様なモンスター。


 単独であれば危険度はE級……しかり、群れたときのコンビネーションはC級にも匹敵すると言われているほど厄介な相手だ。

 

 ……さて、今飛び出してきたのは一匹。チキンランクスは基本群れで行動すると話した。


 チキンランクスが一匹でいるのは、仲間とはぐれのか……先遣隊として送り込まれた時だけだ。



 次の瞬間、大勢のチキンランクスが草場から飛び出してきて、テルとインディをかこう。


「っ!こいつら……!」

「きっと倒した大狼を根こそぎ奪いに来たのね……」


 チキンランクスはその言葉に応えるように短い鳴き声を発して威嚇する、爪をトントンと地面に打ち付けて音を鳴らす………しかし、テルそのチキンランクスの威嚇に威嚇で答えた


「GRUUUUUUUUUU!!!!!」


 まるで獣人の声とは思えない獣の鳴き声。それに、チキンランクスは一瞬後退りする。


 だが、直ぐ様前に出ると大きく鳴き声を放って仲間達の方を無き頷き合い…………テルの後ろにある大狼を奪わんと飛びかかる。明日を生き抜く為に。




 

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