4章
第92話 不穏
「おはようございます、ダージュさん。こちらがダージュさんのクランにお願いするお仕事です。期間などは其方の都合とすり合わせ、お早めにお返事いただければ助かります」
微笑みながら、リーシェさんから差し出される資料の束。
という訳で、クラン……組めました。
非常に呆気なくというか、順調すぎる程で怖いくらいなんですけど。
更に言うのなら、リーシェさんが滅茶苦茶ニコニコしている。
怖いくらいに、営業スマイル。
「あ、あの……」
「はい、何でしょうか? クランリーダーのダージュさん? そろそろクランの名前を決めてもらえると、コチラとしてもありがたいのですが」
凄く、他人行儀だ。
「やはり、駄目だったでしょうか……」
「何が、でしょうか?」
ニコニコと微笑む彼女に対して、コチラは引きつった笑みを浮かべてしまった。
以前とは関係が違う、だからこそこれも当然なのかもしれないが。
「俺は……リーシェさんと、関係を悪くしたくありません……だから、その」
呟いてみたが、彼女は微笑んだまま。
そして。
「ギルドからの依頼の確認を。貴方は一応、まだ冒険者でもあるのですから」
「あ、はいっ!」
そういって彼女から渡された依頼書を確認していれば。
冒険者の訓練、他パーティと討伐依頼の同行。
薬草採取の現場講義から、生意気な新人の更生等など。
始めたばかりの事業だが、本当に色んな内容の仕事が与えられた、これまでに無い様な物まで。
仕事が貰えている以上、何も問題はないと言えるのだが。
「あ、あの……それで、何を怒っているのでしょうか?」
「怒っているというか、なんというか……」
ムスッとした顔を浮かべながら、リーシェさんがそっぽを向いてしまったが。
しばらくして。
「今日、夜に予定を開けておいて下さい」
「あ、はい……夕食、でしょうか?」
「お酒も飲みます」
「ほどほどであれば……まぁ」
と言う事で一度書類の束を持ち帰る事になってしまった。
未だ本拠地としての建物とかは持っていないので、一旦登録地は我が家に設定したが……これも、早めにどうにかしないとなぁ。
皆が集まれる場所、という意味ではクランのホームとして広い場所を手に入れなければ。
緊急時に人が集まれる場所が無いのでは、話にならない。
というか、普段でも会議の一つも出来ないのは問題だ。
「建物かぁ……俺が用意すべきなんだろうけど、最近金遣い荒いなぁ……俺」
ぼやきつつも、こんな早くから帰宅する事が何より違和感。
何か、仕事辞めちゃった人みたいな気分だった。
※※※
「おや、タイミングが良かったようですね」
「ノクター神父?」
自宅に戻ると、玄関前に神父様が立っていた。
あ、もしかして早速クランとして動いてくれているのだろうか?
そうだよね、組織を作ったのに俺何も指示とか出して無いし。
メンバーからすれば、結局どうするの? って話になるよね。
「すみません、俺が不甲斐ないばかりに、メンバーの方から動かせてしまって……」
「ハハハッ、別に指示の催促に来た訳ではありませんよ。しかしせっかくクランに入らせてもらったのですから、何かお手伝いが出来ないかと参上したまでです。留守だったのでギルドに顔を出してみようかと思ったのですが、丁度良い。少々お邪魔してもよろしいですか?」
「あっ、はい! 助かります! 今鍵開けますね」
慌てて玄関の扉を開けて、我が家へ神父様をご招待していると。
「ダージュ、丁度良かった。俺もお邪魔して問題ないか?」
「イーサン? 珍しいな」
今度は騎士団長様まで顔を出したではないか。
何か、凄いな。
皆タイミングよく集まって来た。
そして男性陣ばかりというのも珍しい。
俺としては、気を使わなくて良いので非常に助かるのだが。
「俺としても、助かった。イーサンも入ってくれ。今、神父様と今後について話そうと思っていた所だ」
「ハハッ、やはり皆考える事は一緒か。後は冒険者組の二人が来れば、代表格は揃うんだがな」
「おやおや、教会側の代表が私とは……後でシスタークライシスに文句を言われてしまいそうです」
そんな会話をしながら、皆をリビングに集めてから……あ。
「ノクター神父、珈琲でもよろしいですか?」
「おぉ、良いですねぇ。私も珈琲は大好きです、ありがとうございます」
いつもの癖で珈琲を取り出してしまったが、コレはちゃんと聞いておいた方が良いよな。
前に何も聞かずに、リーシェさんに珈琲を出してしまった事もあったし。
と言う事で、神父様から許可も頂いたので三人分の珈琲を入れていく。
それこそイーサンが居るのだから、今の内に色々教わっても良いのかもしれないが。
まぁ、とりあえず今は話が先だ。
「お待たせ、しました。どうぞ」
「ありがとうございます、良い香りですねぇ」
「なかなかどうして、腕を上げたものだな。前にお前の珈琲を飲んだ時は、ここまで香りが立っていなかったからな」
「豆を焼くところまで、そっちでやってくれるから……だな。そこからやろうとすると、どうしても焦げ臭くなってしまう」
「あとでそっちも教えてやるさ。だが今は、クランの話が先だ。これは……ギルドからの依頼か?」
皆で珈琲カップを傾けながらも、机に置かれた書類に軽く目を通していく。
そして。
「ギルドからの依頼、そして騎士団からの依頼……あぁ、コッチの依頼は殆ど訓練だから、まだあまり気にしなくて良い。ノクター神父の方からは、何かあるか?」
「教会としては、そうですねぇ。今の所忙しい話はありませんが、各所の……こう言っては何ですが、あまり“お金が無い教会”に対し支援を考えています。とはいえお金を集める手伝いを、という訳ではなく建物の修繕などですかねぇ。人が多ければ、一気にこなせるのかなと」
「ふむ、それなら時間が空いた時にウチの騎士団から人を出そう。若い連中が多いから、役に立つはずだ。自らが守っている存在を改めて認識するというのも、良い刺激になるだろう。そう言った実績を作り、協力者を各地で作って行けば、間違いなく今後に繋がっていく」
何か、俺が喋らなくてもどんどん話が進んでいく。
二人共凄いな、やはり。
頭の回転が俺とは桁違いだ。
本来なら俺も何かしら喋らないと不味いのだが、二人の会話が終わらない。
「冒険者の戦闘訓練、これに関してもウチと合同でどうとでも予定は組めるだろう。生意気な新人の更生というのもあるが……ハハッ、これに関してはウチの“鬼の副団長”直々に教育してもらって、フォローは神父に任せる形が良いかもな。飴と鞭だ」
「おぉ、そういうのなら得意ですよ? ではその役目、私にお任せあれ。薬草採取の方に関しても、授業という形なら教会の方で対処いたしましょう。私もそれなりに知識もありますし、シスタークライシスはハイエルフだ。植物の扱いに関して、彼女の右に出る者はいないでしょう」
わ、わぁ……いっぱいあった仕事が、どんどん分担されていく。
あれ? これ俺必要?
なんかこの二人、というか二つの組織が組んだらもはや何の問題も無い気がして来てしまったのだが。
「さっきから呆けているが、ダージュ。お前は一番忙しくなるぞ」
「え、あ、そうなのか? なんか、俺に出来る事が何もない気がして来た所なんだが……」
「馬鹿を言っていないで、コレを見ろ」
そう言って差し出されるのは、やけに豪華な封筒に包まれたお手紙。
蝋封に記された家紋を見てみれば。
「うぐっ!? これって……王家」
「あぁ、パーティーの招待状と今回の件に関する褒美だな。ちゃんと受け取っておけよ? 受け取らない、与えないというのは両者にとって悪い環境を招く。それから、前回の位や表彰を断ったのだってかなり不味い行為だったんだが……今回はお前の事を考慮して、その手の話は出さないと約束してくれた」
「正直、そっちは助かる……しかし、パーティーに行くのか……また置物に擬態して……」
痛い、心が痛い。
あんな華やかな場所に、また行かないといけないのか。
前回は招待状だけ持って、鎧姿のまま参加したからな。
出来れば門番に「なんだその恰好は!」とか言って門前払いして欲しかったのだが。
そのまま王様の前に通されてしまったのだ。
思い出すだけでお腹が痛くなる。
「馬鹿者、無理に決まっているだろう。お前が主役になる上に、個人での参加ではないんだぞ。諦めてパーティー用の服でも用意しておけ。お前の功績を称え、褒美を与える。それと同時に、お前がクランを作ったと言う事をお披露目する形になるだろう」
「ぐっはぁ……」
不味い、逃げ道が無くなった。
やばい、ヤバイぞコレは。
俺がそんな席に参加して、何が喋れるというのだ。
ろくな反応だって絶対返せない、むしろ緊張で死んでしまう。
プルプルしながらその場で震え始めてみれば。
「だが、陛下もお前の性格は知っているからな。同行者に制限無し、としてくれたらしい。安心しろ、ダージュ。クランのお披露目という意味もあるんだ、俺も同行する。それから出来れば、教会側からも人を用意して欲しいんだが……構わないだろうか? ノクター神父」
「それはもう、よろこんで同行させて頂きます。なかなか華やかな場所に足を運ぶ機会などありませんからねぇ」
良かった、今回は二人も同行してくれるようだ。
コレで会場ぼっちは避けられる。
なんて、思ったのも束の間。
「それからな、ダージュ。綺麗所を一人準備しておけ。クランメンバーで無くとも構わないが……せっかくのお披露目パーティーに男三人では恰好が付かん」
「え」
無理です。
「あぁ、そういう事なら私はシスタークライシスと一緒に行く事になりそうですねぇ。それで構いませんか?」
「えぇ、もちろんです。騎士団からは、副団長のダリアナを同行させます」
まって、本当に待って。
俺の場合はどうしたら良いの?
ミーシャかフィアのどちらかを連れて行けば良いのだろうか?
でも二人共、見た目がとにかく若いからな……俺が少女趣味とか思われたら、悪印象になってしまいそうなんだが。
「だから言っているだろうが、ダージュ。クランメンバー以外でも構わないと」
「あの受付嬢さん、リーシェさんにお願いしてみては如何でしょうか? もうこの際、クランにも勧誘してしまいますか?」
二人からは、そんなお言葉を頂いてしまうのであった。
絶対無理だってぇ……。
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