第89話 親玉
「報告、第三波……本陣が接近中です。先頭には……恐らく、“ドラゴンナイト”と思われる魔物が居るようです。その為、斥候部隊を撤退させませした」
騎士団の一人が、そんな声を上げて来た。
ドラゴンナイト……所謂、竜人か。
しかし魔物扱いされていると言う事は、人というよりは竜に近い状況なのだろうが。
この辺りも、結構曖昧なのだ。
もしもその者が知性有りと、共存できると判断されればソレは“竜人”となり。
逆に攻撃性が強く、言語を伴おうと共存出来ないと判断されればドラゴンナイトなんて名前で呼ばれ魔物とされる。
この辺りは、獣人だって同じ事。
人族で例えれば、一般人と犯罪者と分けられるようなモノ。
色々と生まれの違いなどはあるが、こういう事も度々発生するのが亜人種というもの。
とはいえ、ダンジョンが人族を生み出さないと決まった訳ではない。
だからこそまだ未確認である、という話に過ぎないのだが。
「ダンジョンの魔物達と共に居る、指揮を執っているというのなら……ダンジョン産の亜人か」
「そう言う者程ほど、扱いに困る……しかし、相手が協力的なら共に歩む事が出来る。だが、今回は……」
「無理、だろうな」
イーサンとそんな会話をしながら、徐々に周囲の霧が集まって来る谷底に視線を向けていた。
先程妹の攻撃により、一時的に霧が蒸発したのだが……凄いな。
少し時間が経てば、すぐに元通りか。
しかし本陣が来た、というのなら。
これまで以上の軍勢となっている事だろう。
そんなのが一気に攻めて来たらと思うとゾッとするが。
俺達の様な作戦を実行する相手を恐れ、部隊を離していたのだとすれば、ちゃんと頭を使って攻めてきていると言う事だ。
「この状況では正面から抑える他無い、と言いたい所だが」
「そろそろ次の仕掛けの時間って訳だ、旦那。いいぜ、準備は出来てる。なんせ俺等は戦闘に殆ど参加せず、下準備をずっと進めてた訳だからな」
カカカッと笑う傭兵のリーダーたちに視線を向けてから、無言のまま頷いた。
「恐らくソレが本陣だ。“仕掛け”は使い切って良い、合図と共に……頼む」
「了解! 行くぞお前等!」
元気な声を上げてから、傭兵達は皆散り散りになりながらも、谷の上から垂れ下がったロープを登っていく。
そして残されたのは、騎士団の面々と冒険者の俺達。
防衛ラインとしては、少々人数が足りないのだが……それでも。
「とにかく、タイミングが全てだ。傭兵達が“仕掛け”を使って、ミーシャがもう一度魔法。ソレが終わり次第すぐに飛び込む。俺達が交戦している間に、傭兵は撤退。畳みかける様にして、騎士団の突入。大物に関しては、先程の面々で取り囲む。そして……一気に決める」
「まぁ、順当ではあるが……どうしてもこの状況では細かい作戦が立てられないからな」
はぁ、とため息を溢すイーサンが周囲を見回してみるが。
確かに、既に先程同様とはいかないまでも、霧が立ち込めていた。
こんな状態では、単純な作戦でないと仲間を攻撃しかねない危険もはらんでいるのだ。
「“仕掛け”を発動、その後私の魔法で場を荒らして、兄さんたちが一気に突っ込む。それで大丈夫ですよね?」
「あぁ、頼む、ミーシャ。魔力は大丈夫か?」
「無茶でも何でも、やりますよ。“竜殺し”の妹ですから」
先程の大魔法で疲れている所申し訳ないが、妹にはもう一手やって貰わないと困る。
だからこそ、無理を承知でお願いしてみた結果。
ミーシャは迷うことなく頷いてくれたのだ。
「おい暴風、配置はさっきと同じで良いのか?」
「相手次第ではあるが……基本的にそのままで。だが、もしも……相手が予想以上に強かった場合。俺とイーサンはリーダーに掛かりきりになるかもしれない。その場合は、周囲をシスターとランブルに頼る事になる。騎士団からも援護してもらうが、フィアとミーシャは近距離から支援する形になるからな。二人を守りながらの戦闘になる可能性がある。いけるか?」
「ハッ! 誰に言ってやがる! と、言いたい所だが……なぁシスター、提案がある」
大槍を肩に担いだランブルが、シスターと向き合ってみれば。
彼はスッと頭を下げ。
「さっきまでの軍勢同様だった場合一人じゃ相手に出来ねぇ。マジで協力してくれ。固い奴が出て来た時は、俺が前に出る。しかしそうじゃ無い時は、頼って良いか?」
「お任せあれ、ランブルさんと言いましたか? 先程五人でやっていた事を二人でこなすのです。協力は惜しみませんとも。期待していますよ? 槍使い」
そんな事を言いながら二人とも頷いてくれた。
問題は、無さそうだ。
こちらも頷いて返し、正面を睨んでみれば。
「来たか……」
正面、霧の中から鎧姿の戦士に引き連れられた軍団が姿を現した。
一見フルプレートの人間に見えるが、間違いなくドラゴンナイト。
トカゲの様な尻尾を揺らしながら、兜のフェイス部分が開けば、その奥には鋭い牙が見える。
そして相手が手に持っている物は……俺と同じ、大剣。
しかしどこまでも野性的というか、動物の骨から作った様な見た目をしていたが。
「ミーシャ、やれ」
「了解! 騎士団の皆様、お願いします!」
彼女の声と共に俺達の前には再び防壁が出現し、更には。
「落とせぇぇぇ!」
叫び声と同時に、傭兵の皆が崖の上から大量の岩を投下する。
人間からすれば、一抱えはありそうなサイズ。
ソレが頭上から降って来るのだから、相当な被害は出る。
更に言うのなら、アレだけ居た傭兵団が総出で作業に掛かっているのだ。
谷底が埋まってしまうのではないかと言う程の勢いで、岩の雨が降っている訳だが。
しかし、それだけでは全滅は望めない。
「ミーシャ! 荒せ!」
「承知しました! 吹き荒れろ、風よ! 暴風よ、全てを呑み込め! 石の礫すら脅威とする程に、この場に居る全てを蹂躙せよ! 限界突破“ストーム”!」
彼女が魔法を行使した瞬間、先程投下された岩が宙を舞った。
それこそ竜巻でも起きたのかという程の風圧に晒され、投下された石達が風に乗り周りの物を巻き込んでいく。
魔物の頭を砕き、胸に刺さり、風が弱まれば再び上空から落下してくる。
傭兵達は撤退し、騎士団が作る防壁にもガツンガツンと石礫が突撃してくるが。
それでも、目を逸らさず相手を見据えていれば。
「臆病者ガァァァ! 戦え、オレト、闘エ!」
大剣を構える竜人が、勝負を挑んで来た。
ほぉ、なるほど。
相手も相手で、戦士と言う事か。
で、あるのなら。
「ミーシャ、もう良い。出る」
「しかし、兄さん」
「大丈夫だ、任せろ」
それだけ言って、大剣を抜き放った。
俺に合わせて、周りの皆も武器を構え始める。
さぁ、始めようか。
「勝負だ、竜人」
「卑怯ナ、人間風情が! 俺が、根絶やしにシテヤル!」
そんな言葉を吐きながら、残った相手の面々が一気に突っ込んで来る。
では、やろうか。
ここからは“いつも通り”だ。
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