第79話 とても大事なお話があります
何だかんだ色々あったが、数日後。
俺達はロトト村を後にする事になった。
結果として、ノノンは村の教会に勤める事が決まったという。
今の状態なら、問題なく聖職者として勤める事が出来るだろうという判断と。
何より、アバンの子を見た後から……凄く、柔らかい笑みを浮かべる様になったのだ。
そちらの面倒を見たいという本人の希望により、帰りの馬車からは乗員が一人減っていた。
「俺は、何か役に立てたのだろうか……」
どうしても、そんな言葉が零れてしまう。
だって実際の所、俺は彼女を預かってすぐにシスターを頼った。
ほぼ仲介をしただけになってしまったのだ。
これでは、アバンにお礼を言われても申し訳なくなるばかりだったが。
「冒険者さんは、人の繋がりってどう言う物だと思いますか?」
御者を務めている神父様から、そんな言葉を頂いてしまった。
人の、繋がり……か。
「貴方の友人と他の友人が仲良くなる、など。そういうのも面白いですよね。しかし今回の様なケースだってある。友人から預かった者を、生活の為に、どうしても仕方なく信頼できる人に預ける。それも、信頼関係があるからこそ。又貸し、なんて言われてしまえば聞こえは悪いですが。この件には貴方の生活だって掛かっているのです。だからこそ、相手はそこまで制限を付けるつもりでノノンを預けた訳ではないと思いますよ? 全ては結果です、過程で批判する人間程、浅はかなモノは無い。そして過程が褒められるのは、若い内だけだと言う事ですね」
「結果……それだけ言うと、仕事と同じだ」
「何が違うのでしょうか? 友人であろうと、求めるのは結局結果なのですよ。相手が友人であろうと、取引先であろうと。大人になれば、結果を求める。過程で褒める事は、大人同士であれば慰めにしか過ぎないでしょう。信頼とは、結局ソコに行きつくものです。そして失敗してもソレを認め、解決策を共に考えられる存在こそ友。失敗を無理やり“良い事”にするのは、友であっても悪友という存在でしょうね。それも悪くはないが、あまり良い結果には導かない」
「……貴方は、本当に聖職者だ」
「おぉっと、勘違いされては困ります。私は綺麗事を語る偽善者ではありますが、もしも本当に失敗した時には悪友にも変わりますよ? それだって、誰かの支えになる。例え良くない事だとしても、誰かの支えになるのなら。私は一緒に悪巧みの一つでも考えましょう」
そんな風に声を掛けてもらい、思わず笑ってしまった。
こういう神父は、今までに見た事が無い。
聖職者でありながら酒をたしなみ、綺麗な言葉を並べる癖に悪巧みにも付き合うなんておかしな事を言う。
本当に、色んな人が居るものだ。
「あ、そうそう。クランの話、忘れないで下さいね? 私だけ仲間外れにされては、この歳で拗ねてしまうかもしれません」
「もちろん、お願いしたのは此方です」
互いに微笑みを溢しながらも、ゆっくりと帰り道を進んでいくのであった。
※※※
街に戻り、聖職者の二人と別れた後。
ギルドで今回の報告をリーシェさんに済ませた。
が、しかし……今回はもう一つ相談したい事があるので。
「ダージュさん? どうしました?」
いつまでもカウンターから動かない俺を不審に思ったのか、リーシェさんが首を傾げる。
ちゃんと言葉にしないと、それは分かっているんだが。
クランを作るというのは、雇っている側からするとあまり喜ばれる事ではない。
簡単に言うと、“扱い辛くなる”と思われる事の方が多いのだ。
メンバーになるというのならまだしも、リーダーになると言い始めると……それはもう、ギルドからすると良い印象にはならないだろう。
今まで普通に働いて来た冒険者が、急に名目だけ対等な相手になり。
これからは違う組織として所属すると言い始めるのだ。
好印象を持たれる筈がない。
「えぇと……その、ですね……リーシェさんに、凄く、大事な話が……ありまして。今後に関わる、とても重要な話です。俺達の関係も、変わってしまうかもしれない様な……大事な、相談が。でも、ちゃんと言うって……覚悟を決めて、来たので」
「え、それって……え? あれ?」
「出来ればその、周りに聞かせる話でも無いので。二人で、話したいというか……」
「っ! すぐに応接室を準備します! それとも食事をしながら、とかの方が良いですか!?」
「えと……出来れば、すぐにでも話したい……あっ、でもギルド内で話す事でもないか……であれば、今夜、良いですか? 仕事が終わるまで、待っているので」
「はいっ! 残業など一切無しで終わらせますので! 待っていて下さい!」
何やら物凄くやる気を漲らせたリーシェさんが、残っている仕事を次から次へと片付け始めた。
相談の予約は入れたし、相手も話を聞いてくれると言ってくれた。
であれば、俺がいつまでもカウンターに突っ立っていては邪魔だろう。
と言う事で、安堵の息を溢しながらその場から離れてみれば。
「兄さんは、アレですね。緊張したりすると、相変わらず絶望的に言葉選びが下手ですね」
「え? 駄目、だったか? でもちゃんと、話を聞いてくれるって約束してくれたぞ?」
ミーシャからは、物凄く遠い目で見つめられてしまうのであった。
いや、でも今回は何も間違えていない筈。
今からリバーさんの店に、個室の予約を取っておかないと。
クランがどうとかなんて、相当な実力者かお調子者じゃないと発案しないからな。
周りに聞かれても恥ずかしい上に、彼女からお説教を貰ってしまうかもしれない。
だからこそ、慎重に事を進めなければ。
「はぁ……もう。リーシェさんには残念な思いをさせてしまうでしょうが、一応私は同行しませんからね? お話が終わった後に、せめて相手を楽しませてあげて下さい」
「……あぁ、クランの設立なんて相手からしても面倒事だろうからな。謝罪と共に、リーシェさんが楽しんでくれる様になんでも奢るつもりだ」
「そうじゃないんですよねぇ……」
何故か、もう一度大きなため息を溢されてしまった。
やはり、この問題は非常に大きい。
だからこそ、行動を起こす前の相談は絶対に必要なんだと、改めて思い知らされるのであった。
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