第76話 少しずつ変わっていく
本当に、強くなった。
ロッツォが打ち込んで来る一撃は、しっかりと俺の急所を狙って来る。
そして何より力も強く、剣の効果もあり油断していると怪我をしそうだ。
あれからも、ずっと頑張っていたのが分かる。
シスターが言っていた、こういった武器は上限を外すのだと。
なら彼がこのまま頑張り続ければ、どこまでも高みに上っていくのだろう。
そんな事を思いながらも、攻撃を大剣の腹で凌いでいく。
「チッ! やっぱり通らねぇか!」
「こればかりは、経験の差……かもしれないな。だがロッツォの剣は、基礎がしっかりしている、悪くない」
「ハハッ! お前から褒められる日が来るとはな!」
ニッと口元を吊り上げながら笑うロッツォ。
以前戦ったランブルと比べれば、正直雲泥の差があると言って良いだろう。
しかしながら、彼は“英雄の武器”を手にしたばかり。
だったら、まだまだ伸びる可能性はある。
そして何より、いつまで経っても“諦める”という気持ちを持たないのが素晴らしい。
冒険者……というか、戦う人間全てに言えるのかもしれないが。
自らよりも強敵に出会った場合、そこが最初の難問なのだ。
俺では勝てない、相手は自分より強い。
そう感じてしまった場合、心が折れる事の方が多い。
そうなってしまえば、すぐさまその人物は狩られてしまう事だろう。
しかしながら、ロッツォはとにかく負けん気が強かった。
いくら攻撃が防がれても、自らの膝が笑う程動き回った後でも。
絶対に“負けない”という姿勢を保っている。
コレは……戦士にとって、凄い事だ。
魔法で高火力を見せられて自信を喪失したのなら分かる。
俺みたいなズルを使って、大火力を見せられても同じ現象が起こるだろう。
彼は、それらを目の当たりにしている筈なのだ。
更に言うなら、前衛同士の戦いで全く剣が届かない状況。
実力差がハッキリと見えてしまえば、すぐに諦める者の方が多い。
だというのに、彼は挑み続ける。
“光の剣”を使っていない状態の俺に対し、自らの一撃が一切届かなくても。
それでもなお立ち上がり、剣を構える。
間違い無い……ロッツォは、これからもっと“伸びる”剣士だ。
「俺が使っているのは大剣だ。だからこそ、大振りで攻めても簡単に防がれる。しかしスピードでも勝てない以上、他の方法で攻める必要がある。考えろ、ロッツォ」
「確かに……どっから攻めても、通る気がしねぇ。反応速度でも、動きでもお前に勝てねぇ」
「なら、違う戦い方を試せ。ロッツォと俺の武器が違う以上、欠点も利点もある。ソレを生かす幅広い戦い方を身に着けろ。そうすれば……そこらへんの魔獣なんかには、絶対負けない。何がどう有利なのか、どこがどう不利なのか。ちゃんと、考えるんだ」
「不利、有利……」
ちょっと、楽しくなって来てしまった。
少し前にランブルと対人戦をした影響だろうか?
武器が違うなら、こう攻めろ。こう攻められたら、俺は苦しい。
ではそれにこちらはどう対処するか、対処した時に、相手はどう反応するか。
そういうのを考えるだけでも、結構楽しいものだ。
「もっと細かく、レイピアみたいに……相手が大剣だからこそ、細かい動きの方が対処し辛い……とか?」
「試してみると良い」
ニッと、口元を吊り上げた。
そうだ、もっともっと考えろ。
自らの生きる道を模索し続けろ。
それこそ戦う者の宿命であり、俺みたいな分かりやすい相手と挑んだ時に気が付ける事。
本来の長剣とは使い方が違っても、相手に勝てればソレで良いんだ。
形は大事だが、型に嵌り過ぎない事だって大事なのだ。
「……来い!」
「お、おうっ!」
叫んでから突っ込んで来たロッツォの刃が、一瞬だけ輝いた気がした。
そして……気のせいで無ければ。
「ぐっ!?」
やはり、さっきより“不可視の刃”が伸びている。
以前見たホブゴブリンを倒した時より、ずっと長い。
突きを繰り出した瞬間に形を変えたかのような、不思議な感覚。
多分コレが、“光の剣”に残された刃の部分の“調整”の力なのだろう。
「今のは、驚いた」
「平然と防ぎながら言われてもな……でも、コツは掴んだ気がする」
そんな事を言いながら、両者共笑って武器を構えた。
次の瞬間。
俺達の周りには炎が巻き起こり、ロッツォの周囲には何本もの長剣が彼を取り囲む様に空から降って来た。
「そこまでです……フラッと居なくなったかと思えば、油断も隙もありませんね。殺しますよ?」
「ロッツォ……私は悲しいです。まさかお話もしっかり聞けない大人になってしまったとは。昔の貴方は、もう少し素直でしたのに」
などと言いながら、武器を手にした妹とシスターが。
しかも両者共、とても良い微笑みを浮かべているのだ。
これはぁ……あれかな? 二人共、勘違いでブチ切れられておられるのだろうか。
剣の檻に囲まれ、ジリジリと周囲から焼かれる状態のロッツォは……既に涙目だ。
「ダ、ダージュ……」
「大丈夫、だ……と思う! 任せろ!」
一旦大剣を背に戻し、ロッツォと二人の間に立ちはだかるのであった。
怖いけど、滅茶苦茶怖いけど。
「兄さん? 今は“偽善”を発揮する場面ではありませんよ?」
「ダージュ、お退きなさい。私はその子と少々……いえ、じっくりとお話があります」
すまんロッツォ、無理かもしれない。
お話があると言いながら、ボキボキと拳を鳴らしているシスターが特に怖いので。
※※※
事情は話したのだが、ロッツォは連れて行かれてしまった。
なんかもう可哀そうになるくらいに怯えていたのに、ニコニコと笑うシスターは彼の襟首を掴み。
「物事には順序というものがあります、貴方の気持ち優先で動いてはいけないんですよ? 良かったですねぇ、今回は相手がダージュで。これまでの行動を鑑みて、他の人だったら即斬られていても文句は言えません」
そんな事を言いながら、ノクター神父が待つ教会へと引っ張られていった。
スマン、ロッツォ。
俺では力不足だった。
と言う事で、その場に残された俺だったが。
「安心して下さい、兄さん。シスターもそこまで徹底的に懲らしめるつもりではありません」
「ほ、本当に? アレでか?」
「私としては、徹底的に……それはもう心が折れるまでやって欲しいですけど」
体罰、という程でもないが。
そういうのを受けた事がある。
基本的に言いがかりだったり、事実無根であったが為にシスターと話すだけで済んでいたのだが。
本当に失敗して、それでも非を認めなかったりした場合。
俺の場合は基本正座とかお説教で済んだが。
他の人がシスターの本気の“お説教”を受けると、しばらく聖職者の様に優しくなって不気味に思った記憶も少なくない。
だがまぁ今回はノクター神父も居るのだ、そこまで酷い事にはならないだろうと予想を付けて、安堵の息を溢してみると。
「ロッツォが、兄さんの追放命令を取り消す様訴えたそうです。過去は変えられないとしても、今現状兄さんは、この村に出入り自由となりました」
「……ほう?」
そんな事をしてくれていたのか、ロッツォ。
好きでもないが、嫌いでもない。
そういう曖昧な存在だった彼だが、今少しだけ好きの方に気持ちが寄った気がする。
「だからと言って、許したりしないで下さいね? 元々はアイツのせいで、兄さんは追放されたんですから。マイナスが0にほんの少しだけ戻っただけです。当時の大人達だってそうです。兄さんだけではすぐに許してしまいそうで、正直心配です」
などと言いつつ、妹は此方の肩をポコッと殴って来るのであった。
まぁ、確かにそうかもしれない。
ロッツォという存在が居なければ、ここまで狂わなかったのかもしれない。
未だに俺は、この村で暮す事が出来ていたのかもしれない。
でもそれは全て“かもしれない”なのだ。
だからこそ、今更言っても仕方のない事な訳で。
「あぁもう、どうせ兄さんならそんな感じになると思ってましたよ。だからこそ、兄さんの分まで私はこの村を恨みます。これだって私の自由であり、権利です」
「だが……しかしな」
「兄さんはチョロいんですよ、チョロチョロです。何か良い事が有ったら全て許してしまう様な、そんな人間です。だからこそ、貴方の代わりに怒る人が必要なんです」
「そういう、ものか?」
「そういうものです。なので私にお任せください」
「す、すまない……」
どうにも納得出来ない所はあるものの、確かに妹の言う通りかもしれない。
過去アレだけの事をされたロッツォと剣を交え、ただ“楽しい”と思ってしまった。
あまり後先考えないというか、その場限りの感情で左右されやすいというのは妹の言う通りなのだろう。
「すまなかった……」
「いえ、それも兄さんの良い所ではありますから。聖人ではなくとも、偽善だと言われても、誰かを恨むという行動を嫌う。傍から見ると少々心配にはなりますが。あ、それから……えっと、村には入れるみたいですし。行きますか? ロトト村。アバンさん達も、待っていますし」
そんな事を言いながら、妹はオズオズと俺の籠手を引っ張り。
故郷へと踏み出していくのであった。
自らの意思で故郷に入る、今までの経験からしたら……相当勇気のいる事だが。
「アバンの子供……無事生まれたのか?」
「えぇ、とっても元気です。それに私たちの両親も……その、兄さんと合いたがっています」
「あぁ、えぇと……何を話したら良いのか」
妹に手を引いてもらいながら、ゆっくりと。
俺は自らの意思で、追放された過去のある故郷へと踏み込んでいくのであった。
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