第74話 生臭聖職者
ガラガラと音を立てて馬車が進む中、俺は一人その隣を歩いていた。
乗っているのはシスターとノノン、そしてミーシャ。
御者に関しては、なんとノクター神父が担当してくれている。
二人して重要そうな人物が抜けてしまって良かったのだろうか?
なんて事を思い、少々不安になってしまったが。
「ハッハッハ、心配ご無用ですよ冒険者さん。今のシスタークライシスは執行者という立場ではありませんし、私も大した肩書きがある訳ではない。長く務めているというだけの、お喋りな神父でしかありませんから。それに、たまにはこういう小旅行も良いではありませんか」
のんびりと声を上げながら、ノクター神父はそんな事を言っているけども。
一応ロトト村にも残されている教会の状況を視察に行くんだとか。
何だかんだ言いつつ、しっかり仕事をしておられる。
「そんな事より兄さん、昨日もリーシェさんと食事に行ったんですよね? 何か進展はありましたか?」
そんな事を言いつつ、ミーシャが馬車の窓から顔を出して来る。
全く、毎度そんな事を聞いて来るのだが。
俺とリーシェさんでは、男女の何かなど有る筈も無いだろう。
という説明も毎度しているのだが、言う度にジトッとした瞳で睨まれてしまうのは何故だ。
相手は俺と違って人気者なのだ、俺の様な日陰者を選ぶわけがない。
それに立場というモノがある以上、リーシェさんだって軽率な行動は取らないはず。
と、今回も説明してみれば。
「そういう所が、ダージュの悪い所ですよ? ちゃんと言葉は交わしましたか? 相手の意図を汲み取りましたか? 自身の想像だけで分かった気になっていては、お相手にも失礼ですよ?」
おかしい、シスターまでそんな事を言い出してしまった。
これはまた、俺が何かやらかしているサインなのだろうが……しかし、昨日行った場所ではまずその手の話にはならないというモノで。
「騒がしい所、だったから……その、あまり深い話などはしていない。その場の空気と、食事を楽しんだだけというか」
「ちなみに、昨日はどこへ? まだ聞いていませんでした」
あぁそうか、昨日は食事の話云々より仕事の話を優先させてしまったからな。
ミーシャにも伝えていなかったか。
「傭兵達が、集まる酒場。ラガーと腸詰が旨いんだ」
「また行ったんですか!? もぅ……本当に。最初のデートの時もソコだったみたいですけど、普通に危ないですって。相手は戦争屋な上に、兄さんは冒険者なんですよ? 喧嘩になってもおかしくない環境に、リーシェさんを放り込まないで下さいよ。獣の檻に餌を持ち込む様なモノです」
「み、皆良い人達だぞ? 傭兵に誘っては来るが、無理矢理という事も無い。俺が行っている時は、喧嘩も無い」
「どうしてそういう所では普通に友達作れるんですか兄さん……あぁ、あれですかね。仕事が関わっていないからこそ、意外とウマが合うというか……」
妹には大きなため息を溢されてしまったが、あの酒場は良い所だ。
何より、料理が旨い。
荒っぽい味つけではあるものの、ちゃん“喰っている”と思わせてくれる様なパンチの効いたもの。
そういう料理に対しリーシェさんも結構興味を示してくれるし、美味しいと言って食べてくれたんだがなぁ……。
「そういう意味で“守っている”のは、ダージュらしいと言えるのかもしれませんけどね。毎度毎度、荒っぽい所に連れて行くものではありませんよ?」
「えぇと……そういう、モノか」
であれば今度は、またリバーさんのお店に行った方が良いだろうか。
いや、そもそも飽きさせない様に店を変えろと言う事か?
やはり、女性と出かけるのは俺には難易度が高いな。
などと思いつつ、思わず溜息を溢していれば。
「ハッハッハ、なかなかどうして、大変ですねぇ冒険者さん。しかしソレも、周りから関心も持たれている証明だと思って、新しい事に挑んでみるのも良いかもしれません。あ、それから……その酒場、今度私も連れて行ってくれませんか? ラガーと腸詰……私も気になってしまいまして」
「……是非、神父様もご一緒に」
よし、お喋り出来る人と食事の約束を取り付けた。
やはり昔に比べれば、ずっと成長したと言って良いのだろう。
とか何とか、一人納得してウンウンと頷いていると。
「兄さん、聖職者を酒の席に招くのはどうかと……」
「ぐっ!? 確かに……」
駄目か? そういう意味で、やはり駄目なのか?
チラッと二人の聖職者に視線を向けた結果。
何故か、二人共視線を逸らしている。
うん? それは、どういう反応だ?
「神は言いました、ある程度のお酒は……身体にも心にも良い、と」
「シスター? それは多分色々と違うというか、完全に酒飲みの台詞ですよ?」
「神はこうも言いました。お酒の席の会話って、楽しいよね。と」
「神父様まで……何言ってるんですか」
今度ばかりは、ミーシャの大きなため息が聞こえて来た。
最近の教会は、もしかしたら結構ルールが緩いのかもしれない。
だと、するのなら。
「では、その。神父様と一緒に店へ行く時に、シスターも……行くか?」
「可愛い迷える子羊からのお誘いとなれば、同行しない訳にはいきませんね。お酒が入らないと、話せない事だってあるかもしれませんし。ねぇ、ノクター?」
「まさにその通りですね、シスタークライシス。コレは冒険者さんの悩みを解決する為の糸口、神に仕えるものとして共にラガーを傾ける程度……いったい何の問題がありましょうか」
なんというか、良く分からないが……両者とも、酒好きだという事は良く分かった。
そういえばシスター。
前に“会話するならこうだ”と教えてくれた時、酒の席なら尚更とか何とか言っていたな。
会話の節々にヒントがあると、その時に気が付くべきだったのだろう。
やはり交流とは難しいものだ。
「だ、駄目だこの人達……」
ミーシャだけは、頭を抱えてため息を溢してしまった。
そんな会話をしながらも、馬車はゆっくりとロトト村へと近付いて行くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます