第73話 不安は多いが


「ただいま戻りました……」


「お帰りなさい、ダージュさん。きょ、今日は一段と元気が無いですね……」


 ギルドに帰って来た途端、リーシェさんから困った様な笑みを頂いてしまった。

 今回の仕事はいつも通り、一人。

 つまり考える時間が沢山あった訳で、暇が出来る度に色々考え込んでしまった挙句……思考がドツボに嵌った。

 簡単に言うと、マイナス方面に極振りされてしまったのだ。


「いくら考えても、俺はパーティを諦めた方が……合理的なのかなぁって」


「そ、そんな事ないですって! 冒険者さんがやる気を高める事だって、立派な目標の一つです。ダージュさんがパーティを組んで、これまで以上に元気よく活動してくれるなら、私達も嬉しいわけですし」


「でも、今の生活だと……報酬を等分したら」


「うっ! それはまぁ……確かに。でも新人さんとかだと、等分されても一人でやるより安全で、尚且つ稼げるわけですから~って、新人と比べても仕方ないですよね。すみません……」


 相手を困らせてしまうのは分かり切っていたので、コチラとしても申し訳ないが。

 どうしても今の俺の活動方針は、パーティ向きではない。

 何度考え直そうと、そういう結果に行きついてしまうのだ。


「ホ、ホラ! 今からクヨクヨしても仕方ないですし、フィアさんみたいに貴方と組みたいと言ってくれる人だって現れてますから! もしも今後方針を変えて、もう少し稼げる仕事選びをするというのなら、いくらでも相談に乗りますから。ね? ですから今日はもうご飯にでも行って、嫌な事は忘れてしまいましょう! 私も付き合いますから、今回はお酒でも一緒にどうですか?」


「はい……そうします」


 ため息を溢しながらそう答えてみれば、リーシェさんは何やら拳を握っていた。

 えぇと、どうしたのだろう。

 などと考えつつ首を傾げていると。


「女性と二人での食事も慣れて来た御様子ですね、ダージュ」


 後ろから、クスクスと笑う声が聞えて来た。

 ハッ! そうか!

 前回はランブルとかフィアも居たからあまり気にしなかったが、今回はまたリーシェさんと二人になってしまうのか。

 だとしたら、ちょっと不味い気が……。


「今からお断りを入れるのは、流石に失礼だと思いますが?」


 そんな追加攻撃を仕掛けて来る後ろの相手。

 思わず振り返ってみれば、そこには。


「シスターと……ノノンも、今日は来たのか」


「来たよー!」


 柔らかい微笑みを浮かべているシスターと、同じく修道女の格好をしたノノンがギルドにやって来ていた。

 執行者としての仕事は受けないと言っていたから、また別口の依頼だろうか?


「いらっしゃいませ、シスタークライシス。本日はどのような御用件で?」


「会話を邪魔してしまって申し訳ありません、リーシェさん。ダージュと、そしてミーシャ。二人に対して、私の方から指名依頼を出そうかと思いまして」


 俺を挟んで、二人共仕事の話を始めてしまったが……俺とミーシャに指名依頼?

 討伐系だったら、最初からミーシャを巻き込む可能性は少ない気がする。

 だとすると教会の手伝いとかだろうか?

 なんて事を思いながらも、後ろから依頼書を覗き込んでみれば。


「コラ、ダージュ。まだ受理されていない依頼を覗き込むのは失礼ですよ」


 普通に怒られてしまった。

 まぁ確かに、無粋だったかと反省しながらノノンの相手をしていると。


「はい、ギルドとしては問題ありません。しかしながら……ちょっと報酬が多過ぎる気がしますけど」


「そこはホラ、孫にお小遣いをあげる感覚といいますか」


「シスタークライシスの外見で孫と言われましても……なんか違和感が凄いですね」


 そんな会話が聞こえて来たので、改めてカウンターの方へと振り返った。

 すると。


「ダージュさん。ミーシャさんと共に、シスタークライシスとノノンさんの護衛のお仕事です。行先はロトト村、お願いしても大丈夫ですか?」


 一瞬村の名前を聞いた瞬間ビクッと反応してしまったが、ノノンを連れてとなると……もしかして。


「ノノンの状態も、随分と安定してきました。それに話を聞く限り、アバンの奥さんの出産も済んでいる頃でしょう。なので一度、ノノンを兄である彼の下へ連れて行こうかと思います」


 やはりその手の話だったか。

 ノノンを預かったのは俺だというのに、ずっとシスターに任せきりだったからな。

 断れるはずも無く、すぐさま頷いて見せた。

 しかし、問題となって来るのは。


「だが、俺は……あの村から追放されている。それに、向こうからの依頼という訳でもないが……ついて行っても、大丈夫なものだろうか?」


 ここだけは、不安が残る。

 以前ロトト村に向かった時も、村長はあの調子だったし。

 息子のロッツォが仕事を引きついだと言っても、彼にも嫌われたままだ。

 そう考え、少々苦い顔を浮かべていると。


「もしも問題がありそうな場合は、ダージュは村の入口で待機していて下さい。そちらもしっかりと“お話”してきますから」


 クスクスと微笑むシスターの顔に、少々影が落ちている様にも見えた。

 あぁ、これは……ロッツォと村長、相当お説教されるヤツだ。

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