第66話 先輩から盗める技術は全て盗め


「リーシェさん! アイツは! “暴風”は!?」


「そうは言われましても、お互い活動時間が違うとどうしても……いつも日帰りという訳にもいきませんし。ランブルさんだって、今回の仕事に三日掛ったでしょう?」


「馬車で移動してますからねぇ! ちくしょう! 移動費と消耗品費でも結構痛手になっちまう依頼ばかりだ! もうちっとこう、デカい仕事を受けて稼がねぇと!」


「でしたら、コチラの仕事なんて如何でしょう?」


 朝早く、カウンター前でそんな会話が繰り広げられていた。

 前にダージュさんに勝負を挑んだ冒険者と、リーシェさん。

 見た目からして新人って事はないと思うのだが……やはり先輩冒険者でもあまり見たことはない。

 更に言うなら、周りの冒険者から気安く声を掛けられている雰囲気も無い。

 つまり、他から移って来た“腕利き”というのは本当みたいだ。

 詳しく教えてもらった訳では無かったけど。

 それからいっつも思うけど、冒険者って基本自らよりも上の人と絡みたがらないよね。

 というか、相手が声を掛けて来るのを待つというか。

 まぁ私達みたいな下っ端が、気安く声を掛けていたら……それこそ媚びを売っているとか噂されそうだけど。

 あぁ、そう言うのを警戒しているのかな、皆。

 などと一人で納得していれば、相手が急に此方を振り返り。


「何だい術師の嬢ちゃん、さっきからずっとこっちを見ているが。俺に何か用かい?」


 そんな声を掛けられてしまった。

 わぁ、凄い。

 こういうの、ダージュさん以外だと経験した事が無い。


「やっぱり視線だけでも、気付くものなんですね?」


「そらそうよ。誰だってジロジロ見られていれば、こう……何て言うんだ? 肌がゾワゾワすんだろ? アレの延長線上だ。って、あぁぁ……すまねぇ。嬢ちゃん後衛だもんな。こういう前衛の認識みたいなのは、流石にお節介か。どうしても前に立つと、そういうのに煩くなるんだ」


 そんな事を言いながら、軽く頭を下げて来る相手。

 おやおや、意外と絡みやすいタイプというか。

 普通に良い人そうだ。

 ちょっと軽そうだけど、他の「がっはっはっはー!」ってタイプの先輩ではなく、ダージュさんみたいな人柄なのかもしれない。


「意外と、良い人?」


「はい、俺は良い人です。なぁんて言って来る輩が居たら警戒しろよ? お嬢ちゃんは随分綺麗な目をしてるな、騙す人間の瞳じゃねぇ。気を付けろよ? そういう奴ほど、胡散臭いのに狙われるからな?」


 などと言いつつ書類にサインし、彼はさっさとギルドを出て行ってしまいそうになったが。

 ちょっとだけ、気になってしまった。

 “彼”と同じく、異質な感じがして。


「あの! 何を受けたんですか?」


「あぁ~なんだ、あんまり面白くない仕事だよ。安い癖に手間が掛かる、更には胸糞悪くなる可能性もある。女の子なら、止めておきな。ゴブリンの集落を潰す仕事だ」


 そんな事を言いながら、ヒラヒラと依頼書を揺らしてみせる槍使い。

 その彼に対して。


「どうも、私新人から抜けきれない程度の冒険者、フィアと言います。以前にもゴブリン退治の仕事は受けた経験があります。どうかその依頼に同行させては頂けませんでしょうか?」


 そう言ってニッと口元を吊り上げてみれば。

 彼はだいぶ不審そうな瞳を此方に向けながら。


「経験を積みたいって事か? 別にそういう意味なら構わねぇが……お嬢ちゃん、はっきり言うぜ? この依頼程度俺だけでもどうにでもなる、でもその報酬の半分を寄越せってお前は言っているんだ。更には、以前のゴブリン退治……何匹居た? 今回は規模が違うぞ?」


 威圧的な態度で、そんな言葉を貰ってしまったが。

 今なら分かる、多分この人……私の事を心配して、この言葉を言ってくれているのだ。

 ある人が、そうだったから。

 私を守る為に、私に“冒険者としてのいろは”を教える為に冷酷に戦って見せた剣士が居たのだから。


「私の報酬は三分の一。いえ、四分の一でも構いません。それから前回経験したゴブリンの数は……軍団規模。正確な数は分かりませんが、二百以上だったとは思います」


 なので此方も、ニッと口元を吊り上げてそう伝えてみれば。

 彼は、コチラをジッと見つめてから。


「……冒険者の武勇伝ってのは、基本数や強さを盛るもんだ」


「えぇ、この言葉のままでは“盛っている”でしょうね。私はその数を相手に出来る冒険者の“補佐”をしただけです。私一人で対処した訳じゃない、私だけなら絶対にやられていた。だからこそ、実力を付けたいんです」


 そう言いながら、真っすぐ相手を見返してみれば。

 彼は、クハハッ! と急に笑い始め。


「気に入ったぜ嬢ちゃん。俺は“一本角”なんて呼ばれているソロ専門だったが……今回はお前と組んでやらぁ。リーシェさん! 悪いんだが今回の仕事、この子と受けるわ! 書類書き換えておいてくれ!」


 相手が声を上げれば、カウンターに居るリーシェさんが苦笑いを浮かべ。


「了解です、ランブルさん。フィアさん、無茶などしないようにお願いしますね? では、いってらっしゃいませ」


「「いってきます!」」


 そんな訳で、私達は肩を並べて仕事に向かうのであった。

 早朝の仕事争奪戦に負けたというのに、コレはラッキーである。

 見ただけでも分かる“強者”と肩を並べて仕事が出来るのだ。

 盗める技術は、今の内から増やしておかないと。


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