第67話 着々と進む、後輩の裏工作
「今日はちょっと、その……出来れば、討伐系で……デカイのを」
モジモジしながらそう言い放ってみれば、リーシェさんはクスクスと笑いながら。
「試し切りですか? 先日何やら、凄いのを貰っていましたもんね?」
「うっ!?」
完全にバレている。
というか行動原理まで周知されていそうで、ちょっと恥ずかしくもなるが。
それでも彼女はいくつかの依頼を差し出してくれた。
「あまり人的被害を出す魔獣ではないですが、ちょっと数が増えすぎてしまっているらしく。此方の駆除、というか数を減らすお仕事です。草食ですが、食欲旺盛なので。その身は食材としても重宝される物なのでなるべく綺麗な形で、マジックバッグ保管か処理済みの物を希望されている依頼です。どうします?」
「受けます!」
試し切りには、うってつけの相手ではないか。
相手には悪いが、草食ってる所を狩らせて頂こう。
そんな訳で書類にサインをしつつ、内容を今一度確認していれば。
「あぁ、そうそう。この依頼、件のレストランからなんですよ。オープンしたみたいですねぇ、何やら他国の珍しい料理を扱っているようで。リバーさん、でしたっけ。彼が料理長を務めているみたいですねぇ、行ってみたいなぁ」
そんな声が、正面から聞えて来た。
そうか、コレはリバーさんの所からの依頼なのか。
であれば、コチラとしても貢献出来て何より。
しかし、今はそういう問題ではなく。
「……あの、えぇと」
「あ、サイン終わりました? ではでは、書類上の不備が無いか確認させてもらいますねぇ」
すっごくニコニコしている。
物凄く笑顔で仕事をこなしている訳だが。
これは、多分。
言わなくてはいけない時なのだろう。
俺でも、それくらいは分かる。
「リーシェさん、その……仕事の後にでも、この店に……行ってみませんか? えと、リバーさんが務めている店というのも、気になりますし。何より、他国の料理です。ですので……」
「行きます! 楽しみにしてますね!」
思った以上にグイグイ来た。
カウンターから身を乗り出す勢いで、話に食いついて来た。
であれば、まぁ良いか。
俺も武器が試せて、納品相手も知り合いの所。
更には、その店に足を運べば依頼主にもリーシェさんからも喜ばれる。
と言う事は、全てが良い結末になると言う事。
「では、行って来ます……ね?」
「えぇ、いってらっしゃいダージュさん。お帰りをお待ちしてますね」
妙にニコニコしたリーシェさんに送り出されてしまう結果にはなったが。
まぁ、良いか。
今回は大人しい大型の草食動物の狩猟。
難しい仕事ではない、とはいえ本来は相手が肉厚の為“一撃で仕留める”というのは中々難しいのだが。
多分、この大剣ならいける。
そんな自信が、何処からか湧いてくるのであった。
あぁ、楽しみだ。
この剣を試すのも、そしてリバーさんのお店も。
こんな感情のまま狩られる側は溜まったモノではないとは思うが、コレも弱肉強食。
俺の胃袋に収まる為に狩られてくれ、野生動物たち。
と言う事で、気分上々のまま今回のお仕事へと向かうのであった。
※※※
「補助がおせぇぞ! しっかりしろ!」
「はいっ!」
「強化系の魔法を仲間に使った時は、戦闘中に効果を絶やさない様に注意しろ! この感覚の“ズレ”で仲間が死ぬ事もあるんだぞ! お前達術師は絶対火力であると同時に、前衛の生命線でもある! 覚えておけ新人!」
「すみません!」
戦闘が始まってみれば、良く分かった。
ダージュさんと一緒に仕事をした時は、かなり甘やかされていたんだ。
何をしても私に合わせてくれて、私に出来る範囲の仕事をくれる。
多分そういうタイプだったのだろう。
だが彼以外のベテランと組んで分かった。
私は、本当にまだまだだと言う事が。
新人同士や、中堅みたいない人と組んだ時とは違う緊張感。
更に相手が私に怒鳴って来る内容は、全て的を射ている。
他の人から言われた時には「術師だって万能じゃないっての!」なんて、言い返していた事情ですら。
彼は何故ソレが必要なのかを行動で教えてくれる。
もっと言うなら、しっかりと言葉にしてくれる。
ダージュさんの時に思った、“圧倒的な存在”の隣に居る訳ではなく。
ちゃんと“上級者”として教育してくれる様な姿勢。
この人、強くなる為には案外悪くないかも。
「そのまま補助を切らすな! 俺は前面三匹を狩る! お前は左右の牽制、出来るか!? 無理なら左側優先! 正面の次に右側なら俺が狩りやすい!」
「問題ありません! どうぞ!」
「うおっしゃぁぁぁ!」
彼がデカイ槍を構えて飛び出した瞬間、私は補助魔法に集中しながらも左側に居るゴブリン達に視線を向けた。
五匹……いっぺんに相手するには正直多い。
しかしながら。
「後輩が攻撃特化術師してるのに、情けない事言ってらんないわよねぇ!?」
前衛に補助魔法を掛けながらも、左側に居たゴブリンに対して短縮呪文を唱え。
ひたすらに手数で攻めた。
あまりコッチばかりに集中して居られない、正面では前衛が頑張っているのだから。
だからこそ呪文を唱え続け、担当していた魔物を殲滅してから視線を戻してみれば。
「お疲れ、やるじゃねぇか。こんな乱戦で、術師が完璧な仕事をするってのは中々スゲェ事だ。大軍勢に挑んだってのも、嘘じゃないみたいだな」
カラカラと軽快に笑う彼は槍を肩に担いでいるが。
正面の三匹と、右から六匹。
その数を、私が担当した左側が終わる前に処理したのだ。
いやはや、ベテランと組むとコレだから……正直、自信が無くなってしまいそうになるが。
「おいおい何を溜息なんぞ溢してやがる。本当に良い動きだったぜ? 新人なんて呼ばれてるのが勿体ないくらいだ。もしも俺がソロを辞める時が来たら……絶対お前を誘ってやるよ」
やけに自信過剰の様子でそんな言葉を放つ訳だが。
私が彼に興味を持った理由、それはダージュさんに真正面から勝負を挑んだ相手だからに他ならないのだ。
どれ程の手合いなのか、そう言った意味も含めて。
だからこそ。
「あーはいはい、どうも嬉しいお言葉です。でも私は、実力が付いたらパーティを申し込もうとしている人が居るので」
「おぉっと、フラれちまったか。それもまぁ一興ってヤツだよな、ハッハッハ。んで、お前さんをそこまで夢中にさせる相手は何処のどいつだ?」
クククッと笑いながら、更に軽いテンションになる槍使い。
まぁ冒険者なんてこんなものだろう。
軽い雰囲気で、下世話な話なんかも織り交ぜたりして。
これが本当に受け付けられないのなら、冒険者などやっていられない。
そういう世界なのだ。
だからこそ。
「私は実力を付けたらダージュさんにパーティを申請しようかと思っています。貴方はこの街に来てから日が浅い様なのであまり意識してないかもしれませんが、“竜殺し”と呼ばれる冒険者です、貴方が喧嘩を売った相手です。周りからしたらドン引きされかねない事です。なので、もっともっと強くなる必要があるんです、強さとは戦って勝つ事。それだけではないと、彼から教わりましたから」
冒険者として心得というか、技術というか。
そういう意味で、私は全然まだまだだ。
だからこそ、もっと“大人”になる。
そこがまだ出来ていないからこそ、彼とパーティを組む事を拒んで来た。
今組んでしまえば、全て頼ってしまいそうで。
全部を全部、彼に判断を任せてしまいそうで。
そんなの、格好悪いじゃないか。
もしも彼が居なくなった時に、私という木偶の坊が出来上がってしまいそうで。
それらの意味を含め、色々と勉強していた訳だが。
目の前の彼は、予想外の反応を示した。
「お前“暴風”の知り合いなのか!?」
「……ぼ、暴風?」
すみません、知りません。
あ、あぁ~? 前にこの人と会った時も、なんかそんな事言ってたか?
勢いが凄すぎて、よく覚えてないけど。
「この街じゃ、“竜殺し”って呼ばれているって聞いた!」
「あ、ダージュさんです。というかこの前貴方が彼に勝負を挑んだ時も、近くに居ましたけど」
すみません、知っている人でした。
などと思いつつ、やけに迫って来る相手を見つめていれば。
「頼む! この通り! 前回失敗したから、顔合わせ辛いんだよ。仲介してくれ、な!? 急に勝負挑んだりしないから、せめて普通に話が出来る場所とか用意して……それで、ほら。依頼とか一緒にやったら実力も分かるだろ!? だから、な!?」
いや何が「な!?」なのかは知らないが。
とりあえずダージュさんを紹介して欲しいという事らしい。
まぁ、別に良いが。
でも……ミーシャがこの手の人嫌いだからなぁ……どうなる事やら。
いやうん、雰囲気は軽い。
でも結構実戦に関しては実直というか、ちゃんとしているので……交渉は出来ると思うが。
「あんまり期待せず、だったら……まぁ、何とか。声は掛けてみますけど」
「それだけでも良い! 一度しか“竜殺し”に会えてねぇんだ! アイツいつギルドに来るんだよ!」
何やら譲れない事情があるらしく、相手は私に懇願してくるのであった。
これだけ真面目に切望する相手なら……紹介しても、良いよね?
ダージュさんが「クソ迷惑なんで今後会わないで下さい」とか言わない限り、友達候補にしそうだし。
ミーシャに関しては分からないが……まぁ、ダージュさんが納得すればどうにかなるだろう。
と言う事で。
「紹介と仲介、承ります。なので、今回の報酬は五対五……は、言い過ぎですか。せめて六対四くらいに……」
「本当に仲介してくれんのなら逆で良い! お前に六やるよ! 俺は四で良い!」
「あらま、まいどぉ~」
この人、結構扱いやすいかも。
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