第63話 新しい相棒


「今回の依頼は……早く終わってしまった」


 これもまた、俺と同じく“残り物処理班”的な活動を始めたらしい冒険者のお陰なのだろうが。

 いやはや、あまり良い稼ぎとは言えないだろうに。

 でもこういう仕事もやらないと不味いのは確かな訳で、非常に……感謝だ。

 そんな事を思いながらギルドに戻って来てみれば。


「おかえりなさい、ダージュさん。お客様ですよ」


 笑顔で迎えてくれたリーシェさんから、そんな声を掛けられた。

 俺に、お客? 騎士団の誰かだろうか?

 などと考えながら、彼女が掌を向ける方向に視線を向けてみれば。

 なんか、“ある”。

 ギルド内の酒場、その壁際に布に包まれたデカイ物が立てかけられているのが見える。

 そしてそのすぐ近くのテーブルで酒を飲んでいるのは。


「……声を掛けてくれれば、取りに行ったのに」


 間違いなく、俺が剣を依頼した鍛冶屋の面々。

 もしかしてお弟子さん達を使って、えっほえっほと運んで来たのだろうか?

 いや、マジックバッグくらいは持っているだろうから流石に無いか。

 しかし、では何故ここで出した。

 完全に異質な空気が広がっており、早めに帰って来た冒険者達も、チラチラとソチラに視線を送っている。

 思い切り溜息を溢してから、彼等の元へと真っすぐ歩いてみれば。


「おう、ダージュ。勝手に始めてるぞ」


「いや、始めるも何も。せめて、もう少し目立たない所で……」


 何故この人は、いつもこうなのか。

 新しい武器を相手に渡す際、酒を飲みかわす。

 まぁオーダーメイドの様な品に限っている様だが。

 要は髙い買い物をしてくれた相手と一緒に、飲み会をするのだ。


「何を馬鹿な事言ってやがる。良い武器を仕入れたんなら、周りに見せびらかしてこそ冒険者だろうが。お披露目はもうちょっと人が集まってからだな、まだ時間が早くてあんまり人が居ねぇ」


「だから、俺の場合目立つと、逆効果……」


「おーい、給仕さん。コイツの分の酒も持って来てくれ!」


 ここに座れとばかりに席をバシバシ叩かれ、腰を下ろした瞬間にドンッと音を立ててジョッキが運ばれて来た。

 普通のサイズじゃない、宴会用かって程の馬鹿デカイヤツ。


「んじゃ、まずはお前の大剣の完成を祝して~カンパーイ!」


「か、乾杯……」


 テンションの高い鍛冶師達に囲まれ、ちょこっとジョッキを持ち上げてみれば。

 皆気持ちの良い飲みっぷりをかましていく。

 これは……もう結構酒が入ってるな?

 このペースに合わせていたら、剣を見る前に酔いつぶれてしまうかもしれない。

 そして、それ以上に重要なのが。


「金額は?」


 バッグから、スッと財布を取り出してみれば。

 相手は大きなため息を溢してから。


「おっ前は全く、今は気持ち良く飲んで、明日請求書見て頭抱える所までがお約束だろうに」


「それは、ちょっと。でもそんな金額に……なったのか?」


「言い値で払う、そう言ったよな? だから、こっちも随分と贅沢に素材を使ってみた。ホレ、金額見て腰を抜かすなよ?」


 悪戯を企んでいるであろう笑みを浮かべて、彼は此方に請求書を差し出して来た訳だが……なる程、確かに。

 普通なら、彼の言った通り腰を抜かして頭を抱える程の金額だ。


「白金貨2枚を超えたか……」


「薄っすい反応だなぁオイ。んで、大丈夫なのか?」


「あぁ、問題無い」


 普通の仕事、と言って良いのか。

 平均的な庶民の収入が大体月に金貨三枚。

 金貨の価値の十倍、ソレが白金貨。

 つまり、請求書に書かれている金額は一般的には髙い買い物になる訳だ。

 しかしまぁ、良い武器というのなら驚く程でもない。

 魔法効果を付与された人造魔剣の様な物であれば、お値段はこんなもんじゃなかっただろう。

 これで以前と同じ、ただの鉄の塊だったら結構なぼったくりなのだが。

 まぁこんなにデカイ物を作って貰っているだけでも、手間賃は弾む他無い。

 それにこの店なら、それだけでここまで吹っ掛けて来る事はないだろう。

 果たして、贅沢な素材というのは何を使ったのやら。


「まだ、見せてはくれないのか?」


「少なくとも、今の二倍の目撃者は欲しいなぁ。良い武器ってのは、称えられてナンボだ」


「いや、だから……」


 俺としては、すぐにでも持ち帰って人目を避けたい所なのだが。


 ※※※


「さって、そろそろ良いだろう!」


 しばらく飲んで騒いでを繰り返していた彼等だったが、徐々にギルドに人が集まって来た頃を見計らい、そんな大声を上げた。

 あぁ、嫌だなぁ……こんな事をすれば、周りの冒険者達は自然と視線を向ける訳で。

 というか俺が長居していた影響もあり、今日のギルドは非常に静かなのだ。

 鍛冶屋の店主の大声が、良く響く事響く事……。


「さぁさぁ見て驚け、コイツが“竜殺し”ダージュの新しい相棒。そこらの魔獣なんぞ一刀両断。魔法でさえ跳ね返す……かもしれない、極上の一品だ! おらテメェら、その目ん玉に焼き付けな!」


 随分な謳い文句を言ってから、彼は剣に巻き付いていた布を取り去った。

 そこから出てきたのは。


「……オイ」


「ぬははは! ちょっとした遊び心だよ!」


 真っ黒い大剣が、姿を現した。

 いや、まて。コレは何の材料を使ったんだ?

 本当に黒い、あとデカい。

 しかも剣の腹には古代文字の様なモノが掘られており、何か赤く発光している。

 そんな物を見た周りの冒険者達はゴクッと唾を呑み込んでから、スッと距離を置き始めた。

 うん、分かる。何か禍々しいもん。

 呪われた武器ですって言われても、多分納得してしまう様な見た目。


「かぁぁ、何だ何だ? ここの冒険者共は、見た目だけでビビっちまう腰抜けばかりか? おうダージュ、一発振ってみろよ」


 などと言いながら、俺を立たせて剣の前まで連れて行く店主。

 いやぁ……うん、作った本人としてはココで周りからの「おぉっ!」みたいな反応を期待していたのだろうが。

 使う人間と、剣の見た目が問題なんですよ。

 とはいえ作って貰ったからには使うので、諦めて剣の柄を握ってみれば。


「……え? 軽い。いつもの大剣よりも、ずっと」


「ダッハッハ! そうだろうそうだろう? しかしこりゃ大剣だ、重さを全部奪っちまったら攻撃にも差し障る。だからこそ“ある程度”、に収めた訳だが……ダージュ、これに何が使われているのか分かるか? ヒントは切れ味だけを求めるなら、全部ソレでも良い素材だ。正解したら、少しだけ割り引いてやるよ」


 楽しそうにそんな事を言って来る店主だったが。

 こんなの、見た目と色に騙されなければおおよそ見当は付く。

 多分この剣に混ぜ込まれているのは。


「ミスリル……しかも、かなりの量を使っているんじゃないか?」


「大正解だ竜殺し。攻撃に必要であろう重さを残し、取り回しの良さに考慮して最大まで突っ込んだ混合武器。しかも表面に彫ってあるのは、古代文字の……まぁ“おまじない”ってヤツだな。魔術的な効果はないが、古代の魔法やら何やらの呪文は不思議が多い。もしかしたら、何かしらの“加護”ってヤツが貰えるかもしれないぜ?」


 後半に関しては、あまり期待出来そうにないが。

 いったい何と掘ったのか……今度シスターにあったら、解読できるか聞いてみよう。

 多分コレを作った本人は教えてくれないので。


「しかし、何故黒い」


「俺の趣味だが? だが安心しろ。表面に塗ってあるだけだから、使ってればその内削れて落ちる。だが中から出てくるのは、お前さんが使っていた鉄色の大剣とは訳が違うぜ?」


 それに関しては、今後のお楽しみという訳か。

 という訳で、ブンッと縦に一振りしてみれば。


「うん……良い感じだ。これならいざという時、片手でも振れるかもしれない」


「いや、流石に片手じゃ……あぁでも、お前さんならいけるのかもな」


 相手からは若干呆れた目を向けられ、周りからはドン引きした様な瞳を向けられてしまったが。

 しかし、コレは良い物だ。

 ミスリルを大量に混ぜてあるというのなら、今まで以上に頑丈で、刃こぼれも少なくなるだろう。


「割引は……しなくて良い。凄く、気に入った」


「そうかい。んじゃメンテの時にちぃっとだけ安くしておいてやるよ」


 そんな会話をしながら新しい大剣を手に馴染ませるのであった。


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