第61話 逮捕! 釈放!
衛兵に捕まりました、まだギルドに依頼達成報告もしていないのに。
でもまぁそうだよね、街中で武器を構えて、明らかに戦おうとしていたんだから。
思い切り溜息を溢しながら、取り調べを受けていれば。
コンコンと取調室の扉からノックが響き。
「失礼、ここにダージュが居るというのは本当か?」
イーサンが、顔を出した。
取り調べをしていた衛兵はビシッと敬礼し、彼は軽く返す。
そして続いて現れるのは女騎士のダリアナさん。
二人共制服に身を包んでおり、物凄くピシッとしている。
そんな二人が、俺を見てから大きなため息を溢し。
「何をやっているんだお前は……」
「ダージュさん、その……アレですよね? 犯罪行為をしようとした、とかじゃないんですよね?」
イーサンからは呆れた声を、ダリアナさんからは心配そうな声を掛けられてしまった。
でもまぁ、今の状況だと俺に言える事は一つであり。
「すまない、助けて……」
「お前は……何故戦闘になった?」
「まだ……戦闘、してない」
「そういう問題じゃない、馬鹿者。あぁもう良い、ここからの取り調べは我々が代わる。コイツとは昔からの付き合いでな」
それだけ言って、取り調べをしていた衛兵を部屋から追い出したかと思えば。
イーサンはドカッと席に腰を下ろしてから……制服の首元を緩め、滅茶苦茶ダレた。
「あぁぁぁ……今日も疲れた。ここからは気を張らなくて良いぞ、ダージュ。もう解放手続きは済んでいるから、話だけ聞かせろ」
そう言って、胸元から小さな酒瓶を二本取り出し始めたではないか。
片方を俺に渡してから、チンッと音がする程度にぶつけて来る。
相変らず、凄いなイーサン。
仕事中とそれ以外がハッキリしている。
「とはいえ、色々聞いておかないと不味いのは確かです。ダージュさん、貴方と武器を交えようとしていた冒険者は誰ですか? どういった経緯で戦闘を?」
こちらはちゃんとお仕事モードなのか、書類にペンを走らせながら俺に問いかけて来るダリアナさん。
「よく、知らないんです。帰って来たら、声を掛けられて。“勝負”をしようと」
「……つまり、貴方の噂を聞きつけてやって来た余所者。ソレが腕試しに来た、と」
サラサラとペンを走らせ、俺の言った事をメモって行くダリアナさん。
こういう空気、変な事が言えない気がして嫌いなんだよな……。
「あ、でも……彼も“俺と同じ”だと、言っていました。えぇと、何を持っているのかは、分かりませんけど。多分その関係で、俺の実力を計ろうとしたのかと」
そう呟いた瞬間、タンッと軽い音を立ててイーサンが酒瓶を机に置いた。
「つまり、“英雄の武具”を所持している者が、この街に増えたと」
「そう、だと思う。でも敵対しようって感じは、無かった。本当にただの力比べ。だから、彼の事も……解放してもらえないだろうか?」
だって、仲間になってくれる的な事も言っていたし。
出来れば彼も解放してもらえると、助かるんだが。
と言う事で、出来れば……という雰囲気で彼に視線を送っていれば。
イーサンは溜息を溢してから、もう一度小さな酒瓶をぶつけて来た。
お前も飲め、と言う事らしい。
そんな訳で酒瓶の蓋を開け、グイッと一気に飲み干してみれば。
「相手の事も、色々と調べている。ギルドにも人を送って調査している最中だ。本来ならそれら全てが終わるまで解放はされないだろう。だがまぁ……いいか。お前の頼みだという事で、どうにかしておこう。いいか? 貸し一つ、だからな?」
「すまない、イーサン。助かる……今度、お礼に行く」
「なに、本当にそういう存在なら、俺達にも関わって来る事だからな。アチラに貸しを作っておくのも悪くないさ」
それだけ言って、彼は少々悪い笑みを浮かべるのであった。
「知りませんよー? 団長、鳳凰の時も“報告なんぞ後で良い”って言って騎士団を動かしちゃったんですから。書類とクレームに埋もれても、助けてあげませんからね?」
「そこは副団長様も連帯責任だろうが」
「はぁぁ……全く、この人は」
なにやら前回の事も、随分と迷惑をかけてしまっていたらしい。
コレは本当に、ちゃんとお礼をしないと不味いな。
※※※
「だぁぁから! 別に殺し合いをしようとしていた訳じゃねぇって! 試合だよ試合! 戦う人間だったら分かるだろう!?」
「あーはいはい、喧嘩する奴は皆そんな事を言うんだよ」
「ちがぁぁぁう! 俺もアイツも、“英雄の武具”の保持者。だから腕試しするには同類じゃないと不味いだろ!? 互いの実力を高め合う為にも、相手を殺さない為にも!」
「あーはいはい、英雄英雄。試合なんぞと言っても、街中でやったら不味いのは分かるだろ? なぁんであんなところ武器抜いちゃったの。本当の所、喧嘩になってそのまま~って所だろ?」
「違うんだってぇぇぇ!」
何を言っても、相手が此方の話を信用する事はなかった。
そりゃそうだ。
俺は数日前にこの街に来たばかりだし? 初日と今日以外は仕事に出ていた。
だからこそ、ほぼ余所者。
ギルドに調査を出そうが、最低限の情報しか載っていないだろう。
更に言うなら、この街で実績を積み重ねた訳ではない。
であれば、信用される訳が無い。
下手すれば以前の街と連絡を取り合い、俺の事情が判明するまで投獄……なんて可能性だって。
とか何とか、絶望した顔を晒していれば。
「失礼、代わろう」
ノックと同時に部屋に入って来たのは、随分と立派な制服に身を包んだ男。
騎士か何かか?
思わず疑わしい視線を向けてしまったが、彼はフッと微笑を溢してから。
「ダージュに感謝する事だな、若造。今日はベッドで眠れるぞ」
「はぁ? 解放してくれるって事か?」
何やらおかしな事を言いだした相手は、釈放に必要な書類をテーブルの上に放り投げ。
「いいか? 今回はアイツの言葉があったからこそ、見逃してやる。しかしこの調子で何度も問題を起こせば……分かっているな?」
先程とは違い、やけに鋭い気配を向けて来る相手の男。
思わず背筋がゾクッとするような、“強者”の気配。
コイツ、ヤベェ。
もしかしたら何かしら持っているのか、それとも実力だけでここまで上り詰めたのか。
どちらにせよ、戦ったら絶対に苦戦する相手だ。
「ダージュって……あの“竜殺し”だよな? アイツは、そんな事が出来る程立場が高いのか?」
だとすれば、少々期待外れというか。
生まれも育ちも良くて、その中で優秀な人間というは腐る程居る。
それは当然の事だ。
ガキの頃から旨いモンが食えて、勉強する環境もあって。
本人が努力を怠らなければ、全てを環境が揃えてくれるのだから。
でも俺みたいな平民は、自らの力だけで上り詰める他無いのだ。
だからこそ、少しだけガッカリした気になってしまったが。
「いいや、アイツは何の権限も位も持っていない。あるのは、“実績”だけだ。それがあるからこそ、国の上層部でさえアイツの事を常に視界の端に納めている。ある日この街に訪れた村民であり……今では、ただの“冒険者”だ」
こちらの思考を読んだかの様に、彼が放ったその言葉に。
再び、ゾクリと背筋が震えた。
ク、ククク……最高だ。
俺が思っていた以上に、あの“暴風”はすげぇ存在だ。
元々何も持っていない、俺と同じ平民。
だというのに、実績だけでこんな奴まで言う事を聞いてしまう程に“強者”。
更には国から目を掛けられているのに、“冒険者”を続けている。
つまり、強さにしか興味が無いって事だ。
立場だの貴族との付き合いだの、あんな物は強くなる為には不要。
この手に持った武器だけを頼りに、上へ上へと進む存在。
まさに、俺が望んだ姿。
その完成形が、目の前にあるって事だ。
「そうかい……そうかい! なら、早い所お礼にいかないとなぁ!」
「……それは構わないが、街中で暴れるなよ?」
「了解したぜ、偉い人。もう出て構わないのかい?」
「あぁ、いいぞ。お疲れ、もうココに来ない事を祈るよ」
そんな言葉に見送られ、俺は取調室から足を踏み出した。
あぁくそ、結構遅くなっちまったが……流石に今からギルドに行ってもアイツは居ないか。
だったら明日だ、明日ギルドで顔を合わせて、勝負する。
他の“所有者”とかち合った事はない、だからこそ楽しみだ。
いったいどれ程の強者なのか、どれ程の人間なのか。
少しだけしか話せていないから、明日会うのが楽しみで仕方ない。
「クククッ! 待ってろよぉ、“暴風”」
歪んだ笑みを浮かべながらも、街中へと踏み出すのであった。
あっ、今日の宿どうすっかなぁ……。
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