第60話 キャラバンの護衛と、出会い
「たった三人だと!? ふざけているのか!?」
キャラバンのリーダーに、怒られてしまった。
しかしながら、妹が交渉を繰り返し。
更には今回の依頼主に提言したというリバーさんも加わり、多くの馬車が
出発する事となった。
かなり無理矢理というか、相手としては賭けも良い所なのだろうが。
「すみません、冒険者さん……嫌な思いばかりさせてしまって」
俺だけが歩いている中、隣を走る馬車から顔を出して来たのはリバーさんと息子たち。
とても申し訳なさそうな顔をしているが、コチラとして期待しているのだ。
「今回の仕事が上手く行けば……リバーさんの実績になる、とは本当か? 店長とか、任されるのか?」
そう問うてみれば、彼は顔の前で両手を振り回してから。
「店長なんて、とんでもない! 他国にあった料理を作ったら、珍しい料理の一号店を作ってみようかって話が出ただけです。でもまぁ依頼に関しては、俺がダージュさんを推しに推したばかりに……すみません」
「いや、成功させれば……その店が出来るかもしれない、だろう? なら、大歓迎だ」
兜の中でニッと口元を吊り上げ、大剣の柄を指先で叩いた。
やってやろうではないか。
この人が店長となる店を、最速で拵える。
そして俺は、彼の店に通う。
それだけで、十分なのだ。
と言う事で、全力で周囲に警戒していれば。
ほほぉ、コレはまた。
「ミーシャ、フィア。“お仕事”だ」
「了解です! 兄さん!」
「早いんですよねぇ、普通夜になってからじゃないですか?」
それだけ言いながら、二人が馬車の天井に上った。
そして、睨む先には。
「えっと……ゴブリンが、数匹? ですかね?」
「兄さん、他の獣とかは確認出来ますか? 出来るのなら、そっちも処理しますけど」
「いや、ゴブリンだけだ。フィア、頼む。ミーシャでは……その、仲間にも被害が出そうだからな」
「私だって調整できます! こう、あれです。仲間をギリギリ巻き込まない範囲で、こう……」
「すまない、フィア。頼む」
「了解で~す」
そんな訳でフィアが小型の魔法を連発し、キャラバンは止まることなく進んでいくのであった。
うん、順調!
この物資に被害を出さず、街に戻る事が出来れば。
リバーさんは店長となり、俺は気軽に踏み込める店が出来る。
何と良い事尽くしだろうか。
大丈夫だ、今回ばかりは“ズル”を使うつもりでいる。
光の剣は流石にアレだが、空を駆けるナイフは完全に使うつもりだ。
と言う事で。
「完全警戒で行く……二人共、頑張ってくれ」
「まぁ、良いですけど」
「了解でーす。とは言っても、ダージュさん程の索敵能力無いので、ちゃんと教えてくださいね?」
相手に出来る部分は頼る、それは冒険者の基本だ。
だからこそ……任せておけ。
今回の俺は斥候と索敵、そして防御と前衛を担当しようではないか。
そして全てを無事に街に送り届け、リバーさんに店を作ってもらうのだ。
「そ、その……冒険者さん。そんなに無理はせずに……」
「任せておけ、必ずやり遂げる。そして、店を持て。そしたら俺も……嬉しい」
「……はいっ! はい! 私は絶対店を持って、息子たちが大人になるまで売り上げを出してみせます!」
そう、それで良い。
ちょっとこっちの目的とは違うが、それでも相乗効果という言葉もある。
で、あるなら。
店が繁盛して、家庭が豊かになる。
彼が店を出して、俺が楽になる。
たったこれだけで人生は変わり、話す事の出来る友人が増える。
ならば、彼の野望を叶える他あるまい。
「前方から魔獣、そっちは俺が行く! 横から怪しい足音だ! ミーシャは防御を意識、警戒しろ! 攻撃はフィアに任せる!」
「その私に絶対攻撃させないみたいなスタンスは何なんですか!? 良いですけど、別に良いですけど!?」
「私は両脇ですね、了解です!」
そんな訳で、キャラバンに襲い来る魔獣と魔物を端から狩っていくのであった。
“空碧のナイフ”、と言ったか。
やはりコレは凄い、空を駆けるだけでも充分な効果なのに。
僅かな音や、匂いなども風に乗せて教えてくれる。
これまで以上に、というか各段に索敵が“楽”だ。
まさに、ズル。
しかし、今回は全力で頼らせてもらおう。
あぁ楽しみだ、リバーさんが作る飲食店。
俺でもフラッと寄れて、美味しいモノが食べられるのなら。
こんな仕事、苦労とも感じない。
というか、この程度何でもない。
「フンッ!」
「ハ、ハハッ……流石は少人数で護衛を受けた冒険者、それ相応の実力があると言う事だな? 正直、驚きだよ」
「引っ込め、危ないぞ。巻き込まれても、ギルドは責任を取らない」
出発前は此方に色々と文句を言って来たキャバランのリーダーが、引き攣った様な笑みを浮かべながら此方に視線を向けていた。
「す、すまない……馬車に引っ込んでいれば良いか? 足は……止めなくても大丈夫か?」
「そうしてくれると、助かる。絶対に、守る。だから、そのまま進め」
そんな訳で、キャラバンの前方で大剣を振り回すのであった。
こんなワクワクする依頼ばかりだったら、普段から楽しいのに。
※※※
「お疲れ様でしたぁ! 本日の護衛、完璧な仕事ですよ!」
そう言いながら、街に帰った瞬間リバーさんが握手と同時にペコペコ頭を下げて来る。
更には。
「重要な物資、または値の張るような代物の時は……貴殿らに依頼しようと思う。非常に、安心出来た。パーティ名は何と言うんだ?」
凄く立場の高そうな人が、コチラに対して声を掛けて来た。
こういう時、パーティ名をスパッと言えたら恰好良いのだろうが。
「すまない、固定パーティは……組んでいない。だからこそ、次の依頼があるとすれば、ダージュ、と。それが俺の名前だ」
「ダージュか、覚えた。大剣使いのダージュ、今後もよろしく頼む」
それだけ言って相手は握手を交わしてから微笑み、此方に背を向けてしまった。
でも、しっかり笑っていたのだ。
なら、成功という事で良いのだろう。
などと思いながら、彼等の物資を下ろす作業を手伝っていれば。
「アンタが“竜殺し”か……またの名を、“暴風”。ちょいと俺と付き合ってくれねぇかなぁ? 飯と酒くらいは奢るからよ」
そんな声が聞こえて来て、視線を向けてみれば。
あぁ、コレは不味い。
何故今まで気が付かなかったのかという程の、“強者”がそこには立っていた。
巨大な穂先を持つ、派手な槍。
シスターやイーサンが、自らの実力を隠すタイプだとすれば。
彼は、前面に押し出して来るタイプ。
それが、気迫だけで感じられた。
しかし無理に絡んで来た……という雰囲気も、無いな。
だったら。
「見て、分からないか? 今は積み荷を下ろしている、最中だ。その後なら……話を聞こう」
「おい! 俺も手伝う! どうすれば良いんだ!? さっさと指示しやがれ! その後勝負だ!」
構えを解いた相手はすぐさまマジックバッグに武器を仕舞い、コチラの仕事を手伝い始めた。
どうやら、凄く良い人の様だ。
「こっちの木箱は、あっちの倉庫に」
「あいよ! 分かった!」
「そっちの倉庫に、これを運んでくれ」
「よし来た!」
とういう感じに、物資の搬入が済んだ後。
彼は改めて槍を構え。
「これで大体終わりか……? いよしっ! “暴風”! 俺と戦え!」
仕事が終わればすぐさま武器を構えて来る相手。
いやぁ、恰好良いポーズを取っておられる。
しかしながら……困ったな。
ここまでこき使っておいて、こんな事を言うのは申し訳ないのだが。
「すまない……どうやら、人違いだ。俺は“暴風”じゃない」
「……」
沈黙が、訪れてしまった。
だって俺、暴風とか呼ばれた事無いし。
あるとすれば、“竜殺し”だ。
二つ名って意味では、結構影響力があったりするのだが。
俺にとっては、負の遺産という他無い。
と言う事で、首を横に振ってみれば。
「え、でも……“暴風”って冒険者は、こっちじゃ“竜殺し”って呼ばれているって……」
「あ、そっちなら呼ばれた事、あります。俺です」
そう言って頭を下げてみれば、彼は仕切り直したかの様に槍を振りまわしてから。
「やっぱりお前じゃねぇか! 俺は“ランブル”! またの名を“一本角”! 英雄の武器を保有者、ランブルだ! だからこそ、お前に勝負を挑む! もしもお前が勝ったら、言う事を聞いてやらぁ!」
そんな事を言いながら、恰好良く槍を振り回すのであった。
ほう、つまり。
俺の“剣”と同じ様な物を保有していると。
ソレは凄い、とてもすごい事だ。
でも俺は別に正規の方法で手に入れた訳では無いので。
「凄い、ですね。恰好良い、です」
「そうだろうそうだろう……ってちがぁう! お前も持ってんだろうが! 知ってんだぞ! こういうのは、気配でも分かるんだよ!」
などと突っ込みを受けながら、そんな事を言われてしまった。
困ったなぁ……光の剣は、それこそ“アレ”だし。
シスターから貰ったナイフは、今の所戦闘では“足場”としてしか使えないのだが。
「俺と、勝負しろ“暴風”。もしも俺に勝てたのなら、お前の仲間にでも何でもなってやるよ。殺すも使うも、お前次第って訳だ」
彼がそう言い放った瞬間、コチラも大剣を構えた。
今彼は、“何でも”と言っただろうか?
しかも仲間になると、そう言ったか?
つまりそれは、そういう事で良いのだろうか?
なら、やるしかない。
「相手になろう」
「ハハッ! そうでなくちゃな!」
歪んだ笑みを浮かべる相手に対し、コチラは物凄く真面目な視線を向けた。
だってこの人、さっき。
パーティを組んでくれるって言っていたのだから!
などと思いつつ、両者武器を構えていれば。
ピィィッと甲高い笛の音が鳴り響き。
「コラァ! そこの二人! 街中で何をやっておるかぁぁ!」
衛兵さんが、物凄く険しい顔で走って来たのであった。
あ、これは不味い。
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