第55話 裏切り者達


「どうだ!?」


 地面に激突する勢いで着地した俺達。

 イーサンも、シスターも、無事だ。

 急降下する際に散々剣を振り回したらしく、二人共今の長剣を捨て、新しい物を取り出していたが。

 しかし、相手は。


「まだ起き上がるのか!?」


 周辺に散らばった血肉さえも、徐々に集まり始めていた。

 不死身、まさにそう言って良い様な再生力だろう。

 だが。


「相手の魔力が尽きるまで、この個体は再生を続けます! でも跡形も残らなければ、再生しようがありません! ダージュ、使いなさい!」


 シスターの声が、聞こえた。

 なるほど、確かに。

 不死身とは言え、肉片も残らなければ無から有は作れない。


「ダージュ! 俺から言うのもおかしいかもしれないが……頼んだぞ」


 イーサンからも、そんな声を貰ってしまった。

 あれは、“ズル”だ。

 でもこれを使わなければ、他の人に被害が出るというのなら。

 俺は“反則者”であろう。


「来い……」


 そう言って掌を翳してみれば、光が溢れ、見慣れた剣の柄が出現する。

 対するは、必死で身体を修復しようとしている魔獣。

 空中で光の剣を振り回す訳にはいかなかったが、今なら相手は動けない。

 なら、今しかないのだろう。


「本当なら、ズルで勝ちたくはなかったのだが……すまない。顕現しろ、光剣こうけん!」


 振り上げた剣の柄から光が溢れ出し、やがて大きな光の刃を作り上げていく。

 それを構え、目を細め。


「すまない」


 もう一度だけ謝ってから、剣を振った。

 相手の血肉が全て消えてなくなるまで、出鱈目とも言える火力で、何度も。

 一方的であり、暴力的であり、まるで神に代わって相手の存在を否定しているかの様な光景。


「やはりどうしても好きになれないな、コレは」


 呟いた頃には……本当に、何も無くなった。

 この剣は、全てを無に帰してしまう。

 俺の偽善を、ただ人を守る為に他者を殺すという欲望を簡単に叶えてしまう。

 さっきまでは戦っていたのに、それさえも“意味の無い”モノに変えてしまう。

 だから、嫌いだ。


「……恨んでくれて良い」


 それだけ言って剣を収め、マジックバッグに突っ込んだ後。


「お疲れ様でした! 団長! 冒険者ダージュとシスタークライシスに、全員敬礼!」


 ダリアナさんの号令と共に、騎士団の皆が此方に敬礼して来る。

 驚いて振り返ってみれば、そこには。


「初めて、見せてくれましたね。ダージュさん、恰好良かったです」


 ニコッと笑うダリアナさんと共に、騎士団の皆様が微笑を溢すのであった。

 こういうのは、ちょっとズルいと思うのだ。


 ※※※


「宴でーす! 我々、若い衆が集められた騎士団で、鳳凰を討伐した宴でーす!」


「ほう、おう?」


 なにやらよく分からないが、今回の相手は結構凄い相手だったらしく。

 相手の巣を潰した後はそのまま騎士団にお持ち帰りされ、飲み会に付き合わされていた。

 俺、リーシェさんの所に戻って報告しないといけないんだけど……。

 そんな事を思いつつもダリアナさんに絡まれ、全く帰れない状況に陥ってしまった。

 この子、酒癖悪いな?


「ダージュさんが悪いんですよ!? 合同訓練の依頼を出しているのに、全然来てくれないですし!」


「あ、あぁ……すまない。ちょっと色々あって」


「何ですかあの剣! ビカーッ! ってなったあと、スパーン! って。凄いじゃないですか! アレが竜を殺した一撃ですか!?」


 完全に、酔っぱらっている様だ。

 俺の腕に絡み付き、逃がす気配は微塵も無い。

 そして回りの若い騎士達も、興味深々と言った御様子で俺に集まって来ている状態。


「ダージュさん! あの剣はどれくらい使っても大丈夫なんですか!? 魔力切れとかにならないものなんですか?」


「いや、その……連発したら暫く仕事を休む結果に、なった。だから、何度も放つのは、無理だ」


「ダージュさん! あの空中での大剣捌き、痺れました! お願いです、大剣の御教授を! まるで風に乗るみたいで、滅茶苦茶格好良かったです!」


「そ、それなら……そうだな、俺に教えられる事なら、全部教える」


 皆の声に頑張って答えていた訳だが、途中でイーサンが登場したかと思えば。


「お前達、主人公にはヒロインが居る物だろう? それを忘れちゃいけない。そういう奴は、馬に蹴られただけで死ぬぞ? あまりにも格好悪いなぁ、それは。いいのか?」


 やけに煽った様な口調で笑う彼の後ろを見た瞬間に、ビシッと身体が固まった気がする。

 コレは非常に良くないというか、体中から嫌な汗が出て来た気がする。

 なんたって……俺がまず報告すべき人達が、イーサンに続いて現れたのだから。

 何故、騎士団の宿舎に?

 とは思ってしまったが、多分今の様子を見てイーサンが直々に報告に行ってくれたのだろう。


「ダージュさん……」


「ただいま、戻りました……」


 視線の先に居るのは、呆れ顔のシスターと。

 涙目で此方を睨む、ギルド受付嬢のリーシェさん。

 そして何故か、妹のミーシャも居る。

 各々、違う感情を浮かべているらしく……此方としては、何と言い訳をしようかと迷ってしまうが。


「貴方は、冒険者ですよね? 何故私に、まず無事の帰還を知らせてくれないのですか?」


「……すみません、本当に。仕事が終わったと思ったら、すぐに此方に連れて来られまして」


「美人の女性騎士を侍らせ、貴方の帰還を待っている人たちは放置ですか。そうですか」


「すみません、お願いですから、話を聞いて下さい」


 物凄く怒っている御様子のリーシェさんから距離を置こうとしてみれば、腕に引っ付いたダリアナさんが酔っぱらった状態で付属されており。

 大きなため息を溢す、シスターと妹。


「相手を見ろ、そう言った筈ですよ? ダージュ。この状況なら、無事の帰還を知らせる相手は分かっていたでしょうに」


「兄さん……あのですね。状況は何となく察してますけど、まず声を掛ける人を選んでください。此方は、いつも心配しながら待っているんですよ?」


 二人から、今一度大きなため息を溢されてしまう。

 待ってくれ、コレはおかしい。

 俺はさっきまで、“仲間”と思える皆と戦っていた筈だ。

 だというのに。


「色男は苦労するな、ダージュ。骨は拾ってやる」


「「「お疲れ様です! ダージュさん!」」」


 皆から、笑顔で見捨てられてしまうのであった。

 コレはちょっと、おかしいだろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る