第50話 後輩のお手伝い 2
と言う事で、翌日。
珍しく早い時間にギルドへとやって来た。
ちゃんとミーシャからも許可を貰ったし、武器は予備を使う事になるが本格的な討伐依頼ではないので問題無し。
と言う事で、ギルドの扉を押し開いた瞬間。
やはり沈黙が広がり、皆の視線が此方に向いた。
うむ、今日も気まずい。
「あ、ダージュさん! 今日はお願いします!」
そんな空気はものともせず、フィアが此方に駆け寄って来るではないか。
相変らず君は凄いな、こういう所では俺の方が後輩だよ。
「おい、フィアの奴また“竜殺し”と?」
「楽して稼いでるんじゃないかって、ちょっと噂になって来てるよな……前にも装備貰ってたし」
ヒソヒソと、そんな声が聞えて来た。
やはり、こういう噂が立ってしまうのか……。
こればかりは俺が全面的に悪いので、彼女には謝罪する他ないだろう。
「すまない……こうならないよう、気を付けていたつもりだったんだが……」
そういって頭を下げてみれば、彼女はキョトンとした顔をしてから。
「あぁ、この嫉妬の嵐ですか? 気にしたって仕方ないじゃないですか、全然問題ありませんよ。どうせこんな事言われるだろうか、私自身強くなろうとしてる訳ですし。むしろすみません、いつも助けてもらってばかりで」
「い、いや……俺は……」
「はいはい、この話はコレで終わりにしましょう。何を言われようと、仕事は仕事。どうしても失敗になりそうな仕事に対して、“これも経験だ~”って笑うだけの先輩より、ソレを教えた上で手を貸してくれるダージュさんに頼った。結局私の我儘に付き合ってくれただけなんですから、気にしない気にしない」
なははっと気楽に笑いながら、入って来たばかりの俺を外へ外へと押し出していくフィア。
彼女なりに、この空気を長引かせない様に気を使ってくれたのだろう。
いやはや、本当に申し訳ない。
「パーティの申請は……済んだのか?」
「朝一でリーシェさんに説明して、臨時パーティ扱いにしてもらったので問題ありませんよ~。流石はダージュさん、“彼ならそうするでしょうねぇー”とだけ言ってサクッと終わっちゃいました」
展開が早い、助かる。
と言う事で早速、彼女の受けた仕事に取り掛かるのであった。
ここまで気を回してくれているのだ、格好悪い所は見せられないぞ……俺。
※※※
「結構近場でも揃うんですね……まさかこんなに早く集まっていくとは」
「でも、扱いを丁寧にしないと、買い叩かれる。こうして、根を傷付けない様に……土ごと」
「一つ一つ麻袋にいれる、と。あ、こっちは湿り気が必要なんでしたっけ?」
「そう、だからそれは専用の袋に……昨日買ってた筈」
森の中へと突き進んだ俺達、今の所採取は順調。
当初はフィアが背負って来たデカイバッグに入れて持ち帰るつもりだった様だが、それでは確実に状態が悪くなる。
と言う事で、俺のマジックバッグに次々と薬草や花の類を放り込んで行った。
「便利ですよねぇ……マジックバッグ。私も欲しい」
「金が溜まったら、まずコレを買った方が良い。厳しければ、ダンジョンへ行って自分で探すというのも手だが……」
「ダンジョンは流石に、自信無いです……」
「であれば。まずは地道に、だ」
まだ余っているからあげる、なんて言っても間違いなくこの子は受け取らないだろう。
以前の装備品を受け取ってくれたのは、ソレが無いと仕事が出来ないから。という意味合いが強い。
だからこそ、今でも愛用してくれている様だ。
プレゼントした本人としては、やはり使ってくれるのは嬉しいものだ。
「さて、もう少し奥に行く。今度はおそらく、少し戦闘になる」
「了解です!」
そんな訳で森の奥へ奥へと入って行けば、やがて随分と湿気の強い場所に辿り着き。
木々のせいであまり光の届かない泉へとやって来た。
そこに居るのは。
「あ、あのダージュさん……あれ何ですか? 猪の背中からキノコ生えてますけど」
草に隠れながら、フィアの口から嫌悪感のある声が漏れた。
まぁそれもその筈、見てくれは非常に悪い生物が数匹ゆったりと動いているのだから。
簡単に言うと、キノコに思い切り寄生された獣。
「あれも、採取リストに入ってる素材だ。地面に生えている事もあるが、生物から生えている物の方が上質だ」
「う、うげ……」
「直接触ったり、胞子を大量に吸い込んだりするなよ? 稀に人からも生える」
「いや怖っ!?」
と言う事で二人して装備を整えてから、そのまま近付いて行く。
こちらに気が付いても威嚇してくる様な事は無く、のそのそと動きながら水を飲んだりしているが。
その首に対し、スパッと長剣を振り下ろした。
普段大剣を使っているからこそ思うが……切れ味凄いな、長剣。
思い切り使ったら、簡単に壊れてしまいそうなのは怖いが。
「いつもの大剣じゃないんですね?」
「あまり強い衝撃は、採取に影響する。あと、いつものは修理中。フィアは氷なんかの魔法を使って、一撃で仕留める事を意識してくれ」
そう指示を出せば、その場に居た猪の頭に次々と氷柱を発射していくフィア。
うん、やっぱり術師としてはもう優秀と言えるレベルなんだよな。
冒険者としての知識を蓄えれば、十分前線で戦える状態。
あとはまぁ、本人の気持ち次第という所なのだろうが。
「えぇと、コッチの妙に高かった袋を被せて……根元から切っちゃって良いんですか? もいだほうが良いんでしょうか?」
「切れ味の良いナイフで、なるべく根元から切る。斬ったらすぐ袋を閉じるのが、コツだ。捥ぐと……余計な物まで付いて来て状態が悪くなる」
「う、うげ……想像しちゃいました」
先程までは怖がっていたり、気味悪がっていた様子もあったのだが。
指示を出せば次々とキノコを回収していくではないか。
いやぁ、肝が据わったというか、強くなったというか。
「終わりました!」
「じゃぁ、使った刃物は良く洗って。服にも胞子が付いているだろうから、そっちはココを離れてから洗おう」
「了解です! あ、でも最後の一つ。“ローバーの蔦”というのが、まだ採取出来てませんけど……別の場所ですか?」
「大丈夫、目と鼻の先にある」
それだけ言って、適当な小石を近くの細い木に思い切り投げつけてみれば。
「なっ!? なんっ!?」
「アレが、ローバー。トレントの一種だけど、結構移動する個体」
石をぶつけられた木が、ウネウネと凄い勢いで動き出した。
普通のトレントなら、もっとゆっくり動くので対処は楽なのだが。
生憎とコイツは、攻撃が結構速い。
そして、一番の問題は。
「ダージュさん!」
「大丈夫……良く見ていてくれ」
相手は普通のトレントと違い、“動く木”と言うだけではなく。
身体から蔦を伸ばして、鞭の様に攻撃してくるのだ。
しかも、かなりの速度で。
コレが新人では採取が難しい一番の理由。
可能な限り蔦を伸ばした状態で切り落とさないと、正直売り物にならないのだ。
更には斬り取らずに本体を倒してしまった後だと、まるで死後硬直の様にすぐさま固くなって回収できないというおまけ付き。
切り離してしまえば使える、というのもよく分からないが……素材として使うのなら、この方法しかないのだ。
死んだ瞬間に毒素でも回るのだろうか?
魔物とは不思議な生物が多いが、コイツもまた厄介な相手という訳である。
まぁ、採取としてという意味でだが。
本体としては……正直弱い。
「こうやって、近付いて、カウンターで蔦を落とす」
「いやマジですか!?」
「術師の方が、多分対処しやすい。火は使わない様に、蔦だけを狙って。大丈夫だ、落ち着いて対処してみろ」
数本蔦を切り落とし、回収してからフィアの元に戻ってみれば。
彼女は真剣な表情で杖を構え、相手の攻撃を静かに待ち始めた。
やってみろ、と言われてすぐに出来る新人は少ない。
だからこそ、失敗しそうなら前衛として守るのが俺の仕事になる訳だが……果たして。
「っ! 短縮呪文!」
「落ち着け、大丈夫だ。相手の攻撃は分かっている、なら……考える事が大事だ」
襲い掛かって来る蔦に焦ったのか、フィア慌てて攻撃を放つが。
見事に、外した。
まぁこればかりは仕方ない、予想していた事だし。
と言う事で、襲って来た蔦を長剣で切り落としたが……コレはちょっと短すぎて買い取りは厳しいかな。
「考える事……相手の遠距離攻撃は蔦だけ。なら!」
「そう、それで良い」
敵の攻撃は始まる前に、そこら中に魔術を展開させていくフィア。
術師というのは、速攻が出来ない事が多い。
そして相手の方が速いと分かり切っているのなら、事前に準備しておけば良いのだ。
これこそ術師の強みであり、俺達剣士には出来ない事。
「来るぞ」
「了解っです!」
再び伸ばされた蔦が此方に襲い掛かって来た瞬間、周囲に準備されていた魔術を一斉に発動させる彼女。
それはもう見事なまでに、手数のごり押し。
当たらないのなら、当たるまで撃てば良いじゃないと言わんばかりの一斉攻撃。
その際ローバーも巻き込み、魔物も殲滅してしまった訳だが。
討伐の前に切り落とした蔦は、十分すぎる程の数が地面に転がっていた。
「上出来だ」
「い、いやったぁぁぁ!」
そんな訳で蔦を全て回収した後、俺達は森から引き返していくのであった。
キノコの胞子がとにかく気になったのか、フィアが川に飛び込む勢いで水浴びをするという事態も発生したが。
まぁコレだけ状態の良いモノが、しかも大量に手に入ったのだ。
依頼主が、減額交渉なんてする余地も無い事だろう。
ホント、上出来だ。
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