第49話 後輩のお手伝い
教会にノノンの様子を見に行ったら、随分と忙しそうにしていたのですぐに帰って来た。
つまり、暇だ。
「ギルドにでも顔を出すか……それともイーサンの所にでも行ってみるか……」
妹からは休めと言われているが、ゴロゴロしてばかりでは逆に落ち着かない。
ソロじゃ無ければ仕事をしても良いなんて言っていたが、何という難題を吹っ掛けて来るのか。
というかアレか、妹も今日は休みな訳だし。
ミーシャと組んで仕事をすれば良いじゃないか。
なんて想像してみたが、多分納得してくれないだろうなぁ……。
思わず溜息を溢し、鍛冶屋に顔を出してみようかと歩き出した所で。
「あれ? ダージュさん。珍しいですね、こんな時間に、こんな所で」
「……フィア?」
街中で、フィアが声を掛けて来た。
周囲にパーティメンバーの姿はなし。
随分と中途半端な時間なのだが、今日は休日にでもしたのだろうか?
でも装備はいつも通りだが……なんて事を考えていれば、俺の視線に気が付いたのか。
彼女は気まずそうにポリポリと頬を掻いてから。
「あぁ~その、前の仕事でちょっと失敗しまして。下準備からやり直しというか……色々と入用で。どうにか安く済ませる為に、露店とか回ってる所です」
「貸そう、か? どれくらい、金が必要なんだ?」
「いやいやいや、そんな事までダージュさんに頼ってばかりじゃ駄目でしょうに」
「最初は……そう言うものだと思うけど。何が、必要なんだ? 安い店とか、紹介出来るかもしれない」
そう言ってみれば、彼女はプルプルと震え始め。
その場でバッと頭を下げた。
「そっちはお願いします! 心当たりがあればで良いので、教えてください! ちょっと今回は洒落にならないくらい金欠なので!」
「そこまで……あの、本当にいつでも声を掛けてくれ。食事だって、ウチに来てくれて良いんだぞ?」
「いやいやいや、そこまで寄生したら駄目ですよ。ちゃんと“パーティ”として機能する所まで実力を付けたら、私からお願いしますから。おんぶにだっこじゃ、冒険者は早死にするって言いますし。実際ダージュさんと一緒に組んで、私自身もそう実感しました」
いつも通り、そんな事を言われてしまう。
前回だって、十分役立ったと感じてしまうのだが……アレでは駄目なのだろうか?
まぁ彼女なりの拘りがあるようなので、コチラから何かを言う事では無いが。
とはいえ、今は。
「まぁ、いいか。それで、必要な物は?」
「えぇとですね、私なりに考えた必要な物のリストが……」
そんな事を言って、バッグから欲しいモノ一覧が掛かれた用紙が出て来る。
ふむ……これは。
「今回は、採取系か」
「そうなんですよ。報酬が良かったので受けたんですけど、調べれば調べる程色々必要で……討伐系に比べたら安全かなって思ったのに、大誤算です」
そう言って、依頼書も見せてくれた。
書かれている採取リストは、確かに珍しい種類が多い。
薬草と一口に言っても用途によって様々な物が必要になる上、見つける事が出来ても下手な扱いをすれば使い物にならなくなるという事もある。
一見地味な仕事に見えて、意外とこういう依頼をこなせる人間は少ないのだ。
その辺り、新人は結構“やらかす”者が多い。
「ふむ……確かにコレは、報酬は良いが。新人だけだと、苦労しそうだな」
「あぁ~やっぱり分不相応な仕事でしたかね? 報酬額に飛び付いた人達と一緒に組んだんですけど、グダグダになっちゃいまして。残ったのは私一人……物自体は大体分かるので、いけるかなって思ったんですけど」
「というより、依頼の選び方……かな」
「と、言いますと」
そもそも専門家が、意味も無く素人にこんな仕事を頼む筈がない。
相当能力の高い冒険者が居る、などの場合だったら指名依頼という形を取るだろう。
では今回の様な場合、普通だったらどういう形式になるか。
一番多い形は、護衛。
依頼主も冒険者達と同行し、採取は自らの手で行う。
守ってもらいながら、貴重な植物などは専門的な知識を持った者が扱う。
そうせずに、全て冒険者に任せているとなると……。
「な、なるほど。それで、全部任せている場合は?」
「素人では踏み込む事さえ難しい場所、コレなら仕方ない。もしくは……その、こういう事は、あまり言いたくはないが」
「すみません、めっちゃ気になるので教えてください」
依頼主を疑ってしまう様で非常に申し訳ないが、実際多いのが。
「どうしても、素人仕事。だから、状態が悪いなど理由で……報酬の減額とか、普通にある」
「ぬがぁぁぁ! つまり、安く買い叩く為に全部こっちに任せてるって事ですか!? どうりで妙に報酬が高い訳ですよ! うっわ、性格悪っ!?」
「妙に報酬の高い仕事は、裏があると思った方が良いぞ」
と言う事で、もだえ苦しむ彼女を連れて安く品を買えそうな店に案内するのであった。
まぁこういう仕事も、一応やり様はあるのだが……果たして、彼女が納得するかどうか。
物を揃えた後にでも、聞いてみるとしよう。
※※※
「本当に助かりました……ありがとうございます、ダージュさん。ギリギリ予算内です」
「なら、良かった」
多くの物品を胸に抱えたフィアが、安堵の息を溢しているが。
依頼内容からすると、多分まだ穴があると思った方が良いのだろう。
「提案なんだが、その仕事……俺が手伝おうか?」
「いやぁ、そうしてくれると安心感は段違いなんですけど。毎回困った時に頼っちゃうのも……アハハ」
まぁこればかりは、経験者に頼ってばかりでは不味いというのは分かる。
成長する為には、多くの経験や失敗を積み重ねないと。
そういうフィアの姿勢は正しいのだが。
「多分その依頼……そのまま行くと、赤字になりかねない。沢山、買っただろう?」
「んなぁ!?」
そうなってしまうと、当然生きていく事すら出来なくなってしまうので。
こればかりは先輩として、手助けしておいた方が良いだろう。
「ち、ちなみに……何故、そう思われたのでしょうかぁ……先輩……物知らずな新人に、知識を……」
物凄くプルプルしている。
何かもう、怯えた小動物みたいになってしまった。
絶望しかない、みたいな。
「一つだけ、回収の難しい物が、リストに入っている。目的はソレで、後はオマケ。なんて言われたら、依頼成功とは認めないかもしれない。一応リストの物全てを集めるのが、仕事だから。非がある以上、こっちも強く出られない。それで他の物は、捨てるよりマシだからって、安く買いたたくとか。実際ある」
「ぬがぁぁぁ! どこまで性格悪いだこの依頼主ぃぃ!」
「あくまでも、そういう事もある。っていうだけ。確定じゃないけど」
でもまぁ多分、その線が強いと思うが。
明らかに一つだけ難易度が高い物を混ぜ込んでいるから、余計に質が悪い。
とはいえコレも経験、仕事選びまで全てギルドや先輩が教えてくれる訳ではないのだ。
ただし、困った時には手伝ってあげる事は出来る。
「もう、色々とお金使っちゃいましたよぉ……前回の分も合わせると、満額支払われないとお財布がぁぁ」
他の面々は、もしかしたらコレに気が付いて手を引いたのかもしれないな。
だったら彼女にも教えてあげれば良いのに、とは思ってしまうが。
そこはまぁ固定のパーティでもない限り、自分の財布優先なのだろう。
「明日からで良ければ、手伝う。それから一応、減額されない方法が無い訳じゃない」
「すみませんダージュさん今回もお願いします! 本当に毎回毎回頼ってばかりで申し訳ありません! 先輩助けて下さい!」
もはや泣き出しそうな勢いで、早口になったフィアが必死に頭を下げて来るのであった。
新人の時は、やっぱり大変だよね。
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