第44話 この人とパーティ組みたい


「おっ前、またこれは……随分とボロボロにして来たもんだなぁ」


「……すまない」


「いつも通り、手入れはやってやるが……なかなかガタが来てるな、そろそろ新しいのでも作るか? こんなサイズ、他の奴は使わねぇから特注にはなるが」


「もしも時間がある様なら……検討してくれ。言い値で払う」


「がははっ! 相変らずだな。そんな事言われちゃ、ガッツリ金が取れる品を作らねぇとなぁ! いつも通り、形も素材もコッチで勝手に作らせてもらうぜ?」


「構わない。俺には……そういうセンスは、ないから」


 そんな会話をしながら、行きつけの鍛冶屋に大剣を預けた。

 お弟子さん方が、数名掛かりでえっほえっほと運んでいる姿を見ると、正直申し訳なくなるが。


「今日は随分と綺麗なのを連れてるじゃねぇか。お前の“コレ”か」


 ニヤニヤしながら小指を立てる店主に、思わず溜息を溢してから。


「違う。彼女は、俺の……担当受付嬢だ。今日は、色々あって一緒に来てもらっている」


「かぁぁぁ! この朴念仁が! 普通の女が、と言うか受付嬢が武器屋まで付き合うかよ! ちったぁ考えろ!」


 そんな声と共に、胸の鎧を殴られてしまった。

 そう、言われましても。

 物珍しいのか、リーシェさんは店内に入った瞬間色んな物に視線を送っているし。

 今では、レイピアやナイフの様な軽い武器を手に取って、何やら悩んでいる御様子だ。

 購入……するつもりなのだろうか?

 まぁ確かに、このご時世護身用の武器はあった方が良い。

 もしも購入するなら、俺からも多少は助言が出来るだろう。

 などと考えていたら、思い出した。


「店主。その……軽い武器を探しているんだが、何かあるだろうか?」


「なんだぁ? 普段あんなもんぶん回してるのに。気でも狂ったのか?」


 とても失礼な発言をする店主だったが、俺はバッグから剣の柄を取り出し。


「この重さで、武器を振るう感覚が覚えたい」


「……柄だけ。魔道具か?」


「それは、その……」


「あぁ、良い良い。詮索しようって訳じゃねぇ。しかしコレだけは答えろ、ダージュ。“この柄で”、戦おうとしてるのか?」


「……そうだ」


 はっきりとそう答えてみれば、相手は大きなため息を溢してから。

 一本のナイフを差し出して来た。


「正直に言うぞ? 普段大剣を使ってるお前さんが、こんな柄だけの装備で普通に戦うのは“不可能”だ。でも、どうしてもやるならナイフが一番近いかもな。ものスゲェ小さい武器で、その動き方に近付けた方が良い。この柄から、魔法の刃が出たとしても……お前さんじゃ、普段通りには戦えんだろう。どうしたって柄にしか重量がねぇのなら、扱い辛いどころじゃねぇ」


「正直……そこに、悩んでいたんだ……」


「なら、ナイフの使い方を覚えな。チンケな武器に思えるかもしれねぇが、多分扱い方としては一番近い。コイツの延長線上って事で、刃渡りに気を付けながら使えば良い。お前さんは、武器に実直だ。なら、コイツの使い方も極めてみるんだな」


 そう言って、やけに重い……黒いナイフを渡されてしまった。

 見た目よりも重量がある。

 それこそ、今渡した剣の柄と同じくらいには。


「コレを、貰おう。いくらだ?」


「いらねぇよ、持って行きやがれ。ナイフにしちゃ重すぎるってんで、ただの売れ残りだ。好きに使いな」


 ハッ! と盛大に笑いながら、彼からナイフを頂いてしまった。

 これはまた、お返しをしなくては。

 この店の従業員全員が楽しめるくらいのお酒……とかで良いだろうか?

 ここの店主は、それこそ酒好きだからな。


「ダージュさん、それは?」


 近づいて来たリーシェさんも、受け取ったナイフに視線を落としているが。

 なんと、説明すれば良いのか。


「練習用の、ナイフです」


「……他の武器も、使う様にするんですか?」


 これでも一応、使えるんですよ?

 ナイフとか、短剣とか。

 それこそ長剣だって、一応は。

 専門としている者程ではないにしても、色々と訓練した経験はある。

 まぁ彼女が俺の担当になってくれた頃には、大剣を背負った状態だったから。

 ソチラの印象の方が強いのだろう。


「ちょっと、やってみようかなって」


 あははと曖昧な笑みを残しながら、そんな言葉を返すのであった。

 会話が得意な人であれば、こういう所でも盛り上げられるんだろうな。


 ※※※


「あらダージュ、今日は随分と軽装……な上に、華やかな友人を連れているのね?」


「お褒めに預かり光栄です、“執行者”のシスタークライシス。普通のシスターとしての仕事もするのですね?」


「流石にソレは、噂に尾ひれ背びれが付いて泳ぎ回っている状態ですね。私達は、常に誰かを殺している訳ではないのですよ?」


「それは理解していますが……その程度しか情報が流れて来ないのは事実です。つまり、民衆の認識としてはそうなってしまうのも仕方ないかと」


「あはは、確かに。もう少し理解を深めないと、教会の暗殺集団みたいに見られてしまうかも知れませんね。しかし、コレも“仕事”です。組織と言うモノには牙も必要。その程度、ご理解いただけますよね? お嬢さん」


 とてもとても、攻撃的だった。

 両者共、バチバチにやり合っていた。

 思わず溜息を溢しそうになってしまったその時。


「おや、冒険者さん。またいらして下さったのですね。あ、もちろんお布施はいりませんよ? 前回随分と頂いてしまいましたから。ささっ、此方へどうぞ?」


 以前話をした神父様が、此方の会話に割り込んで来るのであった。

 正直、助かった。

 このまま放置すれば、二人はまた喧嘩しそうな雰囲気だったので。

 安堵の息を溢してみれば、相手は更に笑みを深め。


「本日は、どの様な御用件で?」


「ノノンの様子を……見に来ました」


「なるほどなるほど、ではご案内しますね? いやぁノノンさん、とても良く働いてくれていますよ? 根が真面目なのでしょうね。さ、コチラへ。そちらのお嬢さんと……シスター、年甲斐も無くみっともないですよ? 貴女程の強者が」


「……うるさいです」


 渋い顔を浮かべるシスターと、此方にウインクを返す神父。

 俺は今までに、これ程頼もしい御仁に出会った事があるだろうか?

 この人、どうにかして俺とパーティを組んでくれないだろうか?

 お喋り担当として。

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