第40話 取り扱い注意


「また、追加が現れましたね。ダージュ、大丈夫ですか?」


「問題、無いっ!」


 それだけ言って“光の剣”を振り抜けば、呆気なくコカトリスは蒸発する。

 しかし、不味いな。

 このままでは、討伐証明部位さえ確保できない。

 ただ倒しているだけだ。

 更に言うなら、シスターに言われた様な“制御出来ている状態”には程遠いと言って良いだろう。

 こんなもの、どうやったら制御出来るんだ?

 でも剣の柄を手に入れた時は、もう少し刃も小さかった筈。

 だからこそ、調整出来ない事はないと思うのだが……相変わらず、とんでもなくデカイ光の刃が発生している。


「こう、意図して使用すれば……勝手に合わせてくれる物が殆どなのですが。どうしても小さくなりませんか? 長剣やナイフを想像してみてください」


「やっている……筈なんだが。全く小さくならない」


 そんな事を言いながら振り回すが、やはり剣の大きさは変わらず。

 本当に不味いな、コレ。

 使い勝手も悪い上に、重さは短剣以下。

 とてもではないが、やはり剣を振っている感じはしない。

 もっと言うなら刃が大きすぎて、さっきからコカトリスが跡形も無く消え去っている。


「まさかここまで扱い辛い武器だとは……もしかしたら刃の方で調整していたのかもしれませんね」


「でも、刃の方は既にロッツォが……」


「つまり“ぶっぱ”するしかない剣に成り下がっている状態ですね。確かにコレでは、扱い辛いと感じて毛嫌いするのも分かります」


 いや、どちらかと言うとこの圧倒的な力、みたいなのが嫌いなんだけども。

 でもコレを使わないと解決出来ない問題にも巻き込まれるので、可能なら使いこなしたい……という気持ちが無いわけでもない。

 しかし相変わらず刃の大きさはそのまま。

 思わず溜息を溢してみれば、シスターの方からもため息が聞こえて来て。


「分かりました、もう良いですよ。そのまま殲滅しては、お仕事にならないでしょうから。それに……“ソレそのもの”を長時間使用するのは、あまり良くない事です」


 それだけ言って、シスターが俺より前に出て長剣を構えた。

 し、失望させてしまっただろうか?

 心配になりながらも、剣の光を引っ込めてみれば。


「他の“武具”の使い方を見せますね。これで少しは変われば良いのですが……もしも不可能であれば、ソレは“そう使う”他無い可能性もあります。使用者の実力に合わせて大きくなり続ける光の剣、制御も不可能となると……完全に殲滅兵器ですね」


 そんな言葉を残しながらも、彼女はマジックバックからいくつもの長剣を引き抜いて行き。

 抜き放ったそれらが、彼女の周りでフヨフヨと浮かんでいるではないか。

 お、おかしいな。

 浮遊魔法って、凄く扱いが難しいって聞いた気がするんだけど。

 一つの物に集中しながら、浮かせて正確に移動させる。

 それだけも結構辛いって妹は言っていたのだが、彼女の周りには十本近くの長剣が浮遊している。


「シ、シスター。それが……?」


「いえ、これらはどれも普通の長剣ですよ? 業物ではありますが。元々の魔術を私の“宝具”を使って調整している状態です。本来こういう武器は、持っているだけでも効果を発揮します。だからこそ、こういう戦い方も出来るようになるという事ですね。貴方の剣は、ちょっと……物理方面に特化しているようですが」


 なんて言葉を放ったかと思えば、シスターは一気に飛び出し。

 周囲に浮かんでいた長剣達が、彼女の周りをクルクルと回る様にして周回し始めたではないか。

 何だアレ、強そう。

 というか、近付く事すら出来なそう。


「覚えておきなさい、ダージュ。こういう道具というのは、あえて“使う”モノではないのです。自らの出来る事を更に伸ばしてくれる、そういう代物。その物を実際に使えば確かに強力な力になります、しかしながら普段から使うのは本来コチラ。貴方の肉体が普通以上に育ったのと同じです。しかし……もうちょっと剣の制御は出来る様になると良いですね」


 そんな事を言いながら、シスターは周囲に浮かぶ長剣を次々と相手に向かって発射していく。

 コカトリスは片っ端から斬られ、貫かれ、ねじ切られ。

 群れとも言える魔物達は瞬く間に殲滅されていく。

 あれなら、討伐証明部位も多く残っている事だろう。

 などと、感心していたのだが。


「ある程度は確保しましたから、今度は大剣を使ってみましょうか。体力的には、まだ大丈夫ですか?」


 不思議な事を言うシスターが、ふわりと俺の目の前に戻って来た。

 なんか、本当に浮いているみたいな戦い方だな。

 まぁそれは良いとして。


「体力……? いや、柄を振っていただけだから、消耗してはいない……けど」


「正確には生命力といいますか。この手の武器を直接使うと、著しく“何か”を消耗するのですが……コレといって、身体に違和感はありませんか?」


「特に、感じた事は無い……な。これまでも、今も」


 なるほど、だからシスターはそのまま“武器”を使わないのか。

 その影響だけを使用して、実物は懐にいれたまま。

 つまり俺が大剣を使っていたのは、ある意味正解だったと言える状況なのだが。


「フンッ!」


 もう一度剣の柄を振り、一振りで数体のコカトリスを殲滅してみれば。

 やはり先程と変わらない大きさの刃と、跡形も残らない相手。

 思わず溜息を溢しそうになってしまったが、やはりコレと言って身体に違和感はない……なんて思った、次の瞬間。


「う、うん?」


 少しだけクラッとしたかと思えば、視界がブレた。

 その場で立っていられなくなり、膝を着いてみると。


「これまで、今回の様に長時間“剣”を使った経験は?」


「ない……毎度、一振りだけして……すぐに仕舞っていた」


「であれば、コレも初体験ですか。いいですか? ソレがこう言った武器の反動です。しばらく休みなさい、ダージュ。初めてでは余計に“重い”でしょうから」


 シスターの声と同時に光の刃は消滅し、全身に脱力感が襲って来た。

 あぁ、コレ……駄目かもしれない。

 体力には自信があったのだが、そんな生易しいモノじゃない。

 疲れたとか、体力の限界という訳ではないのに。

 段々と意識が遠くなっていくのが分かる。

 魔力切れというのは気分が悪くなる傾向が強い、と聞いた事があったから多分それとも違うのだろう。


「シスター、すまない……俺は、その……」


「大丈夫ですよ、ダージュ。今はゆっくり休みなさい、後はやっておきますから。段々と慣れて行く筈ですよ」


 そんな言葉を聞いた後、ブツッと意識が途切れるのであった。

 やっぱりこの剣、副作用があるんじゃないか……嫌いだ。

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