第39話 正しい使い方
「着きましたね。他の仕事も受けている様ですが、帰りがけに寄って行けば大丈夫ですよね?」
「はぁ……はぁ……シスター、ちょっとだけ、休んでも良いか?」
走るだけでこんなに疲れたのは、随分と久しぶりだ。
しかしシスターは、息切れした様子一つ無い。
す、すごい……いったいどうやったら、こんな細身でこれ程の体力が付けられるのか。
俺も強くなった気でいたが、彼女には遠く及ばないとはっきり分かってしまった。
「では、三十分ほど休憩しましょう。お疲れ様です、ダージュ。本当に強くなりましたね」
クスクスと笑うシスターが、パチンッと指を鳴らせば。
周囲には風が吹き、周辺の落ち葉を吹き飛ばしてから目の前には焚火程の炎が現れた。
バッグから鍋や水筒やらいろいろ取り出し、休息の準備を始めている訳だが……。
今のは、魔法を使ったのか?
魔道具という雰囲気は無いから、多分そうなのだろうが。
え、あれ? 魔法って指パッチンでも使えるモノだったか?
「シスター、今……何を」
「ダージュは“光の剣”を嫌っていますよね? それはズルであり、努力など必要無い程の力を授ける存在。確かに、それは間違っていません。力に溺れ、努力を怠る者は少なくない。しかし力とは、道具とは“使い手次第”なのですよ。特別な何かを持つと言う事は、それ相応の責任が伴う。しかしソレを自覚し、高める事を止めなければ、この程度簡単に出来るようになります。強すぎる力だというのなら、貴方が相応に強くなれば良い」
それだけ言って、彼女はお茶を差し出して来る。
受け取って喉の奥に流し込めば……ふぅ、やっと一息ついた。
薬草の類を使っているらしく、じんわりと体中の筋肉が解れていくのを感じる。
「もしかして、さっきの魔法や、走る時の異常な速度も……」
「えぇ、その通りです。貴方は嫌がるかもしれませんが、この手の道具の所有者と言うのは、普通の人間では辿り着けない地点まで成長する。つまり、ある種の限界突破に繋がるという事です。そして私達は、そういう者達を“超越者”と呼んでいます」
超越者……なるほど、確かに。
薄々は感じていたが、俺の身体能力は異常な所まで到達している。
普通の努力だけでは、今の様な体力や筋力は手に入る事は無かったのだろう。
コレも剣のお陰。そう言われるのが嫌で、散々否定して来た訳だが。
「しかし努力しない者には、貴方の様な力は手に入らないでしょうね。あくまでも、“限界”というタガを外す為の鍵、と言うだけです。だから貴方は、何一つ恥じる事等無いのですよ? 今のダージュという冒険者の実力は、全て貴方の努力の上に成り立っている。だから、何度も言っている筈です。“頑張りましたね”、と」
ある意味、俺の中の枷が一つ外れた気がした。
確かに剣の影響もあるのだが、しかし今の実力は俺の努力が実った結果。
そう言って貰えて、凄く安心出来た気がするのだ。
「ありがとう、シスター……」
「いえいえ、どういたしまして。おかわり、要りますか?」
ニコニコと微笑みながら、再び薬草茶を注いでくれる彼女。
いつだってこうだ。
シスターは、本当に欲しい言葉をくれる。
俺に、道を示してくれる。
だからこそ、ずっと憧れていたんだ。
「シスターも、その……俺と同じ様に、“剣”を持っているのか?」
「えぇ、二つ程。しかし伝説の武器、英雄の道具などと呼ばれる代物……まぁ“宝具”や“宝剣”とも呼びますが。それは“剣”だけではありません。杖や鎧だってあるのですよ? 私が保有しているのは、剣とナイフですね」
「ふ、二つも……」
「ふふふっ、今度時間が出来たらダージュも二つ目を探しに行きますか? 道具が選んでくれるのなら、いくつでも保有出来るモノなんですよ?」
本気なのか冗談なのか分からないが、彼女はそんな事を言って笑ってみせた。
“光の剣”だけでも持て余しているのに……更に他の物も、だなんて。
正直、俺には考えられないが。
「収集家だったら、喜んで旅に出そうな話だな……」
「旅は良いモノです、ダージュも一度は経験しておいても良いと思いますが」
「俺は……臆病だから」
「それもまた、生き残る術です。臆病なのは、悪い事ではありません」
ホント、何でも肯定してくれるんだな。
叱られないって事は、間違っていない選択が出来ているという事なんだろうが。
それでも、この歳になって褒めてもらってばかりというのは……なかなか、ムズ痒いものだな。
※※※
コカトリス。
鶏の様な巨大な体に、大蛇の尾を持っている。
そして、毒霧。
普通ならパーティを組み、遠距離攻撃により蛇を潰してから、一気に近接戦で片を付ける。
その辺りが一般的な攻略法……なのだが。
「ダージュ、貴方の実力を見せて下さい。大剣の方はこの後でも確認出来るでしょうから……“光の剣”を使ってごらんなさい。ただし――」
妙な、条件を付けられてしまった。
光の剣の出力を抑える事、刃の大きさをこの大剣以下に抑える事。
だそうだ。
え、えぇと……? そんな事、出来るのだろうか?
などと思いつつ、言われた通り“剣”を使ってみれば。
いつも通り、とんでもない刃渡りの光が溢れ出した。
不味い、早速言いつけを破ってしまった。
「なるほど……ダージュ。貴方、“そっち”に関しては全く努力していないのですね……というか、意識せずその大きさなのですか?」
「コレ、嫌いなんだ……」
「はぁ、全く。好き嫌いするなとは言いませんが、それだって貴方の“力”である事には間違いないのですよ? 受け入れ、より扱える様に努力する。それだって、“強くなる”方法のひとつです」
などと怒られてしまったが、光の剣が顕現した事によりコカトリスには完全に気が付かれてしまった。
けたたましい鳴き声を上げながら、此方を威嚇して来るではないか。
「良いですか? 大いなる力というものは、そのまま振るえば厄災と同じです。しかし理性あるものが制御して使えば、その刃は多くの人を救う道具となるのです」
「このまま、コカトリスを叩き切るだけでは……駄目なのか?」
未だ馬鹿デカイ状態の剣を構えながら、相手を睨んでみるが。
俺の言葉に、シスターは溜息を一つ溢して。
「もしもコカトリスの足元に人間の子供が集まっていたら? 背後に民間人が居たら? 貴方は、その剣を一閃する事が出来ますか? まとめて斬ってしまうのなら構いませんが、それで良いのですか?」
そういうのが嫌だから、大剣を使って来た。
だがしかし、そういう事ではないのだろう。
この力を制御し、全ての状況に合わせて“この剣”を使いこなせ。
今まで避け続けて来た“コレ”と、今一度向き合えと言われている。
正直、未だに嫌いではあるのだが。
しかしながら、俺以上に魔剣や聖剣というモノに詳しい相手から教えが乞える。
この状況なら、きっと得るものはあるのだろう。
何よりシスターの教えだ。
だからこそ、嫌だ嫌だと言ってばかりはいられない。
とは、思うのだが。
「どうすれば、良いのか……それに、剣が……軽すぎる」
「そりゃ柄しかありませんからね。その武器を使った戦い方も、ちゃんと覚えなさい……今まで大振りで一発、それしかやって来ませんでしたね?」
不味い、全てがバレている。
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