第31話 全て順調、とはいかないもので
村に帰って、負傷者の救護などを終えてから数日。
全てを領主に報告し、事態の重さを終わった後に理解したのか。
彼は“一応”追加報酬を出してくれた。
まぁ、本当にオマケ程度なモノだったが。
そして村長に関しては。
「今回も邪魔しおって! あのままロッツォに任せておけば、全て息子の功績となったものを! この疫病神が! さっさと村を出て行け!」
いつも通りだった。
一応ロッツォが剣を引き抜いた事で、彼の計画が正しかったと主張したらしく。
その為温情を掛けられた様だが、この事態を招いた張本人として村長としての立場を失脚する形となったとの事。
まぁ、ほぼ寝たきり状態になっている老人を追放という訳にもいかないと言う事なのだろう。
大きな街などでは極刑どころじゃない話なんだが、今回の事を知っているのは俺達と報告を受けた領主、そして本人のみ。
やっと剣が手に入ったと言う事で、村としては荒波を立てぬ様この事実を封印するという事になったらしい。
思わずため息が零れてしまいそうな事態ではあるのだが、こればかりはこの村の事を考えた領主の判断。
事態を招いた者の息子が剣の保有者と知られては、色々と問題があると言う事なのだろう。
この件も含め、やはり俺の事は邪魔でしかないらしく。
顔を見せた瞬間、怒鳴り散らされてしまった。
だがまぁ、俺達は調査隊。
ギルドには報告する事になるので、どうなるのかは分からないが。
恐らく今後ロトト村からの依頼などは、ギルドはより警戒する事になるだろう。
こればかりは、自業自得だ。
「だーじゅ!」
村長の家を出た瞬間、アバンの妹のノノンが抱き着いて来た。
俺よりそれなりに下……つまり、妹と同じ様な年齢だった気がするのだが。
今の彼女は、本当に子供の様な態度を取っている。
「こらぁノノン! あんまり引っ付いても困っちまうだろ? わりぃなぁ、ダージュ。戻って来てからずっとこの調子で……だーじゅだーじゅって聞かないんだよ」
続くアバンと、ニナさんの姿が。
妊婦の彼女は移動が厳しいのか、今は車椅子に乗っているが。
「……いや。すまなかった」
「謝るな、ダージュ。お前は、最善を尽くしてくれた。マジで村の英雄だよ」
クククッと、アバンは笑って見せるが。
どう見ても、ノノンの様子は……幼児退行、と言って良いのだろう。
現実から目を逸らす為に、心を病んだ。
だからこそ子供の頃みたいな態度と、現状の辛い記憶に蓋をしている状態。
「ノノン、大丈夫か?」
「ん! ゲンキ!」
「そうか、それは良かった」
それだけ言って、抱き着いて来る彼女の頭に掌を乗せてみると。
彼女は満面の笑みを浮かべるのであった。
少し前まで、ゴブリン達の子供を産む道具として使われていたのに。
思わずグッと奥歯を噛みしめ、視線を逸らしてみれば。
「ダージュ、どこか、痛い? 平気?」
随分としっかりとした言葉を上げながら、逆に俺の事を心配してくるのであった。
その光景に、思わず瞳に涙を浮かべそうになってしまったが。
「ノノンはな……まぁ、俺の影響ってのもあるんだろうけど。ダージュは剣が強ぇ、身体がデケェなんて、俺が嫉妬ばかり溢した結果……その、なんだ。お前を特別視しちまってな。あはは……わりっ、この状態になってからは、ずっとダージュの事を気にしてるんだ。多分、あんな状態でもお前に助けを求めていたんだと思う……ほんと、兄妹共々スマン」
そう言って頭を下げるアバンに、俺に対して心配そうな瞳を向けるノノン。
あぁ、そうか。
昔から、少し上手くやっていれば……俺が求めているモノがそこにあったのか。
「ありがとう、ノノン。ゆっくり休んで、もっと元気になってくれ。俺は戻らないといけないけど……」
そう言って彼女の頭に置いた手でグリグリと撫でまわすと、ノノンはブンブンと首を横に振り。
「ヤダっ!」
「うん?」
撫でられるのが嫌だったのかと、慌てて手を放してしまったが。
彼女はプクッと頬を膨らませてから。
「ダージュと一緒に居る!」
コレはまた、困った事になった。
※※※
「本当の事を教えてください、ロッツォ」
「何がだよ、ミーシャ」
件の剣を腰に刺したロッツォが、村の入口で誰かを待っていた。
分かっている、兄さんを待っているのだろう。
どう言うつもりなのかは、知らないが。
この人は、ずっと兄さんを敵視していたから。
「貴方が本当にその“剣”に選ばれたのかを、です」
「ハッ! 見ての通り。この剣が俺の腰にぶら下がってる時点で答えは出てるだろうが」
いつも通り、態度の悪い感じで語り始めた彼だったが……途中で、諦めた様なため息を溢し。
「別に、親父の言ってる事を全部信じてた訳じゃない。この村に厄災がー英雄がーってな、正直ここ最近は特に……馬鹿かって思える程固着してたよ。親父は、伝説ってヤツに」
「だったら……」
やはり、何かしら別の手立てで。
そんな事を思ってしまったが。
「でも、コレは間違いなく俺が引き抜いた」
「嘘です」
「本当だっての!」
反射的に突っ込みを入れ、思わず疑わしい瞳を向けてしまった。
しかし彼は、それさえも想定内だと言わんばかりにため息を溢して。
「義手だ」
「え?」
「この義手は、魔道具でな。普通とは違って結構自由に動くんだ。それに、親父が領主様に懇願して……かなり金を貸して貰ってよ。あぁ見えて、領主様は村人の為なら金を使ってくれるんだ。その結果、魔法対抗が強い金属で作られた。つまりこの腕は、俺にとって武器であり、盾でもある」
そう言って、彼は兄に切り落とされた片腕を上げ。
今では随分厳つい形になっているソレを、此方に見せて来た。
「まさか……反発する力をソレで抑え、無理矢理引き抜いた。と?」
「そんな簡単なモンだったら良かったんだけどな……ハハッ、この義手を使っても防ぎきれない程全身に激痛が走ったよ。前から何度も試してたんだ、でも抜けなかった。けど」
キッと鋭い表情を浮かべ、此方を睨むようにしてから。
彼は。
「お前達の戦っている所を見て、こんなのに負けてる場合じゃねぇって。そう思ったんだ。だからこそ、意地でも引っこ抜いた。俺もあの戦場に、そして……お前を、ミーシャを助けるんだって。そう心に決めて、俺は剣を引き抜いた。だから……これからは、俺と一緒に生きてくれないか? ミーシャ」
決死の覚悟、それくらいの雰囲気を持ちながらそんな言葉を紡ぐ彼に対し。
私は、緩く微笑んでから。
「いや、キモ。調子乗るな、イジメっ子。私はまだ許してないですから」
「……」
顔面蒼白となった彼は、無言のまま膝を折るのであった。
伝説の剣を引き抜いたからといって、どんな女でも堕ちると思うなよ?
過去の行いというのは、それだけ記憶に残っているんだからな?
と言う事で項垂れる彼を放置し、私は出発の準備の為に背を向けるのであった。
はぁ……全く、余計な事を。
刃の方は、もはや諦めるしかないか。
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