第28話 意外な助っ人
「やったなダージュ! これで――」
「まだだ! 出て来るな!」
勝利したと勘違いしたらしいアバンが此方に駆け寄って来ようとした所で、平原を抜けた先の森で何かが光ったのが見えた。
不味い。
「弓兵が出て来たぞ! 皆下がれ! ミーシャ、防御魔法!」
「了解です兄さん!」
「ひ、ひぃぃ! ダージュ、助けてくれぇぇ!」
片手にフィアさんを抱えながら、尻餅を着いたアバンに走り寄って大剣を盾の様に構えた。
くそっ、なかなかどうして。
さっきのは斥候、というか此方の戦力を計ろうとしただけか。
やけにあっさり片付いたから、もしかしたらとは思ったが。
残りは此方を観察した上で、本腰を入れて来たらしい。
矢どころか、投石や木を削った様な槍の類も降って来た。
村から奪った物だけではここまで武器が揃う事もないだろう。
その上使い方も理解しているとなると、やはり頭の良い個体が存在し他のゴブリンを教育したのだろう。
「アバンをミーシャの後ろまで下げたら突っ込む! フィアさん、行けるか!?」
「大丈夫です!」
剣の腹にガツンガツンと色んな物を受けながらも後退し、アバンが皆と合流したのを確認して。
改めて、大剣を正面に構える。
「村人の防御はお任せください!」
「ダージュさんと私に、簡易ですが防御魔法と矢除けの加護を掛けました! いけます!」
二人の声を聞いてから一つ頷き、一気に駆け出した。
様々な物が飛んで来るが、剣を盾にしたまま突き進む。
俺の特攻に焦りを見せたのか、攻撃が此方に集中したのが分かった。
が、しかし。
この大剣が、その程度でどうにかなると思うな。
更に言うなら、コレで良い。
もっとだ、もっと俺に攻撃して来い。
その分、他への攻撃が減るのだから。
「うおぉぉぉ!」
雄叫びを上げながら森の中に突っ込み、木々さえ薙ぎ倒す勢いで大剣を振り抜いてみると。
数匹程度はまとめて駆逐する事が出来た……が。
「多いな……」
視界が悪いが、そこら中で何かが蠢いている気配がする。
全て平原に引っ張り出せるのなら何とかなるだろうが、森の中では些か戦い辛い。
とはいえ泣き事ばかり言ってはいられないので、とにかく走り回り気配のする場所にひたすら大剣を叩き込んでいれば。
「お待たせしました! 支援します!」
遅れてやって来たフィアさんが、森の中に向けて視界を確保する為の光魔法を放つ。
助かった、いくつも光があるので木々に遮られた状態でも良く見える。
そして森の中へと飛び込んだ事により、今度は相手の方が攻撃し辛い状況に陥った。
と言う訳で、一気に殲滅速度を上げていくと。
「っ!」
「な、何ですかコイツ等!」
森の奥から今度はデカイ個体が現れ始めた。
ホブゴブリン、ゴブリンナイト、ファイターなどなど。
色々な呼ばれ方をするが、要は近接戦に特化して、身体が大きく成長したゴブリンたち。
戦闘力は、これまでの小さな個体とは比べ物にならないと言って良いだろう。
「細かいのを頼む! 無理をせず、自分の防御最優先! 牽制でも良い!」
「でっかいのは!?」
「……俺がやる!」
周囲の弓兵を彼女に任せ、大きなゴブリンへと走り寄ってみれば。
数は……十体、多いな。
しかもそれぞれ手に武器を持っている。
斧に、剣、そしてそこら辺の木を引っこ抜いた様なこん棒。
体の大きさは俺と同じくらいと言う事は、2メートルに近い。
コレだけでも結構な脅威だというのに。
「厄介な……」
その十体が、連携した様に動き始めるではないか。
まるで俺を取り囲むかのようにして、周囲に展開し始めるゴブリン。
とはいえ、相手を待ってやる必要も無し。
一気に飛び込み、大剣の切っ先を相手の顔面に叩き込んだ。
「まずは一匹」
ゴブリンが突き刺さったまま大剣を振り回し、死体を他の個体に投げつけた。
怯んだ隙にそのまま接近、二匹目の胸に剣を突き刺していく。
「二匹目!」
しかしながら、相手も馬鹿ではない様で。
此方の剣が仲間に深々と突き刺さった所を確認してから、一気に三体が攻め込んで来た。
「ダージュさん!」
普通に考えたら、絶体絶命も良い所だろう。
だが、これくらいなら“慣れている”。
「うおおぉぉぉぉ!」
切っ先が突き刺さったままの大剣を無理やり捻り、刃を横にしてから身体ごと回転させた。
一周グルンと回る様な、あまり格好の良い剣技ではないが。
それでも、集まって来た奴等は全て真っ二つに切断される。
「これで……半分終わった」
「す、すご……」
フィアさんの声を聞きながらも再び剣を構え直し、改めて周囲を確認してみるが……まだ、結構居るな。
ホブと呼べば良いのか、デカい個体は残り五。
細かいのは魔法で対処してくれている為、徐々に減っては来ているが……しかし、多い。
やはりどうにかして平原におびき出したい所――
「兄さん! フィア先輩! 戻って下さい!」
遠くからミーシャの叫び声が聞こえ、二人して一気に退却。
俺達の姿が森から飛び出したのを確認した瞬間。
「光が見えている位置に“人質”は居ない! 派手にやれ!」
「了解! 引っ張り出します! “
ミーシャの魔法により、空からは光の槍が降り注ぐ。
本当に雨の様に、しかも森の奥から手前に向かって降り注いでくるではないか。
その攻撃から逃げる様にして、当然ゴブリンたちも必死で平原の方へと走って来た。
「よくやったミーシャ!」
「いやいやいや、だからおかしいですって! あの子の攻撃魔法どこかおかしいですって! 何で殲滅系の大魔法ばっかりなんですか!」
森から溢れ出し来るゴブリン達を正面から叩き潰していく。
どの個体も、慌てて平原に駆け出して来るので狩るのも楽だ。
やはりパーティとは素晴らしい。
術師が二人いるだけで、こんなにも戦闘が順調に進むのだから。
などと考えながら、平原のど真ん中でひたすらに大剣を振り回していれば。
「くはははっ! 苦戦してるみてぇだなぁダージュ! 後は任せてくれても良いんだぜ!?」
うん? と首を傾げて、思わず振り返ってしまった。
そして、視線の先に立っていたのは。
「……ロッツォ?」
「見ろ! 親父の言った通りだ!」
彼の手には、確かに“あの剣”が掴まれていた。
しかし、柄が違う。
新しく取り付けた物なのか、随分と真新しいモノと組み合わさっているが……刃は、確かにあの丘に刺さっていた物に見える。
つまり。
「本当に……抜けたのか?」
唖然としながらも大剣を振り抜き、迫るゴブリンを片づけていれば。
「うっしゃぁぁ! 英雄譚の始まりだぜぇぇぇ!」
大声を上げるロッツォが、皆の制止を無視して戦場に走り込んで来た。
その勢いのまま片手で長剣を振りかぶり、ホブゴブリンに対して振り抜いてみると。
「おっしゃぁっ!」
「……ほぉ」
スパッと、綺麗に相手を切断しているではないか。
特別何かの魔法的効果が発動している様には見えないが、それでも何の抵抗も無く真っ二つになるゴブリン。
物凄い切れ味。それどころか剣の長さに比べて、切断された箇所の方が長い様に見える。
つまり、何かしらの効果が発生してる。
長剣の見た目に騙されて回避しようとすれば、そのままスパッとやられてしまう訳か。
「ハッ! 俺が新しい英雄って事だよ! お前はとっとと下がって――」
「……半分、任せる。行くぞ」
「俺に命令してんじゃねぇよ! つぅか下がれって言ってんだボォケ! こら、待て! 勝手に攻め込んでんじゃねぇ!」
やけに騒がしいロッツォだったが、まだまだゴブリンは居るのだ。
であれば、手が増えるのは良い事だ。
「……俺は右、ロッツォは左を頼む」
「るせぇ! 俺に命令すんな!」
口は悪いが、一応俺の提案に乗ってくれるらしく。
二人で一斉にホブゴブリンを両断した。
「ハッハァ! 楽勝!」
「八……これで九!」
「てめぇ! そりゃ俺の獲物だ!」
「あと一匹、居る」
「そっちは俺が貰うからな! 手を出すんじゃねぇぞ!?」
なんて事を叫びつつ、ロッツォは長剣を構えて最後のホブゴブリンに向かって走っていった。
昔に比べて逞しくなったとは思っていたが……なるほど、なかなかどうして。
真剣に剣術を学んでいた様だ。
そして、あの様子を見るに。
「凄いな……ロッツォ」
彼は、あの剣に選ばれたと言う事なのだろう。
事故で柄を手に入れてしまった俺とは違って、彼は真っ当な状態で“光の剣”を手に入れた。
それは、凄い事だ。
彼の父親がやった事はアレだが……それは、彼には関係ない。
「……負けていられないな」
思わず口元を緩めてから、もう一度俺も戦場へと飛び込んで行くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます