第27話 殲滅開始
「……来たか」
ポツリと呟いてから、大剣を担いでアバンの家を出る。
外に出てみれば、随分と静かな夜の景色。
普通なら、違和感を持つ方がおかしいだろう。
しかしながら……静かすぎるのだ。
森の中に居るであろう獣や虫の声さえ聞こえてこない。
つまり、それらが何かを警戒していると言う事。
そしてそれは、彼等の領域に何者かが移動している事を意味する。
「ダージュ、俺達は……」
「仕掛けを、準備してくれ。合図と共に、動ける様に」
「分かった! 村の奴等にも伝えて来る!」
それだけ言って、彼は駆け出して大声を上げる。
ゴブリンが来た、そう言って村中を駆け巡った。
その声に合わせて、実家からミーシャとフィアさんも現れ。
「いよいよ、ですか。兄さん」
「任せて下さい。今回は、役に立ってみせます」
二人共杖を胸に抱き、強い意志を抱いている表情を見せてくれる。
であれば、問題はないか。
妹などは実戦が初めてなのだ、だからこそ余計に心配していたのだが。
「ご心配なく。言われた事は、全てやります。私は兄さんの駒だと思って、好きに使って下さい」
やけに頼もしい言葉を残す妹と、以前も組んだ事のあるフィアさんを連れて。
村はずれにある、背の高い草が並ぶ平原に来てみれば。
「……」
「居るんですか……? これは」
「何も居ない様に見えますけど……」
術師二人から、そんな不安の声が上がった。
しかしながら、間違いなく居る。
ゴブリンとは、獰猛で気性の荒い魔物。
そんな風に思われがちだが……実際の所は、臆病なのだ。
だからこそ、戦闘にならなければどこまでも静かに動く。
「良く見ていろ……アイツ等の目は、俺達よりも夜目が効く。だからこそ」
魔道具に明かりを灯して、平原のど真ん中に放り込んだ。
そして空中で炸裂するソレが周囲を照らし出してみれば。
「なっ!?」
「こんなに!? ダージュさん、コレ――」
「お仕事開始だ」
背の高い草に隠れたゴブリンたちが、光を当てられた事により一斉に立ち上がった。
子供の様な身長、土色の肌。
その数、およそ五十以上。
それらに向けて、背中の大剣を引き抜いてみれば。
「ダージュ! 人は集まった! 照らすぞ!」
村人を集めて来てくれたらしいアバンが、皆に指示を出しながら草むらに向かって光を向ける。
俺が使った魔道具では、精々数秒照らすのがやっと。
だからこそ、これは本当にありがたい支援だ。
やはり、仲間と言うのは頼りになる。
「……フッ!」
一息に踏み込み、手近な数匹を大剣で薙ぎ払ってみると。
相手も完全に臨戦態勢になったのか、ギャアギャアと騒がしい声を上げて草の中を走り出した。
「フィアさんは俺の援護、ミーシャは……特大のをお見舞いしてやれ。出来るな?」
「「了解!」」
指示を出してみれば、二人の行動は大きく分かれた。
この草原を見渡す様にして呪文を唱える妹と、俺の後ろに付いて短縮呪文を唱えつつ援護して来るフィアさん。
とても、頼もしい。
普段は一人だからこそ、こんな“楽”は出来ないのだが。
「ダージュさん! 幾つか私達を無視して村に向かう個体が!」
「アバン!
「まっかせておけぇ!」
声を上げてみれば、村人が一斉に縄を引いた。
しかし、何も起きない……様に見えるのだが。
「ハ、ハハハ! どうだゴブリン共! いくら夜目が効いても、草の中に隠れてりゃ見通しが効かなかったみたいなだな!」
彼等がロープを引いた先には、先のとがった槍の柵が穂先を上げていた。
しかし、背の高い草よりも低い位置。
だからこそ草に武器は隠れ、相手は自ら槍に突っ込んで行った状態。
自分達は相手より“見えている”。
そういう慢心が、この結果を招いたのだ。
「突っ込む! フィアさん、攻撃しながら付いて来てくれ!」
「は、はいっ!」
村人の安全が確保された事を確認してから、大剣を構えて戦場に突っ込んだ。
ミーシャの魔法が放たれるまで、時間を稼ぐ。
だからこそ、それまでは……“いつも通り”だ。
「ドラァァァァ!」
「何か欲しい魔法があったら言ってください! すぐに応えます、応えてみせます!」
「遠くの奴から攻撃してくれ! 牽制だけでも良い! 相手の足を止めろ!」
背後からはいくつもの攻撃魔法が連射され、俺の剣では届かない場所に居るゴブリンを片づけていく。
火球や風の刃が飛んでき、コチラを無視して通ろうとする相手を次々に傷つけていった。
やはりこの子、手数が多い。
落ち着いて対処出来る環境を用意してやれば、物凄く頼りになる存在だ。
お陰で、コチラは目の前の敵に集中する事が出来るのだから。
殺せ、全部殺せ。
どうせ、まだ本戦力じゃない。
だったら早めに片付けてしまわないと、本陣に対応できない。
だからこそ、余計な事を考えず大剣を振り回しながら殲滅を続けていれば。
「兄さん!」
「フィアさん! 俺達二人に全力で防御魔法!」
「りょ、了解!」
彼女を腕の中に納める様にして、身を低くしてみると。
遠く離れた場所から、妹の声が聞こえて来た。
「全て、焼き尽くします……これまでの罪を懺悔し、その魂を天に返しなさい! “炎獄”!」
ミーシャの言葉と共に、この一帯が全て炎に包まれた。
フィアさんが守ってくれなければ、とてもじゃないが俺達だって生き残れなかったであろう熱量に包まれ、轟轟と燃える炎は全ての草木を燃やしていく。
平原が、荒れ地になってしまった。
そんな感想を残している間にも、一体、また一体と黒焦げになるゴブリンは倒れ伏していき。
「ひ、ひぃぃ……ミーシャの攻撃魔法、冗談抜きでヤバイ領域まで達してますって……」
「妹は……この程度普通だと、いつも言っているのだが……」
「普通な訳ないじゃないですか! どれだけ術師のハードル上げるつもりですか!?」
フィアさんから、想像以上の御叱りを受けてしまうのであった。
なるほど、妹の能力は異常だったのか……。
術師というのは、隠し玉として皆こういうのを使えるモノだと思っていたが。
コレは少し、控える様に言った方が良いのかもしれない。
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