第26話 準備を進めろ
「ダージュ! 俺達にも手伝える事ってないのか!?」
アバンの言葉と共に、協力的な村人達による罠や迎撃武器の作成が始まった。
難しい物では無い。
落とし穴や、木を削った槍の様なモノだが。
「普通の武器として使うのは……多分無理だ、戦う事に慣れていない者が使うから。だからこそ、簡単で確実に相手を仕留められる様にする」
削って貰った木の槍を幾つも組み合わせて、柵の様な形にしたり。
悪足掻きとも思える唐辛子を詰めた卵爆弾などなど。
どれもこれも、戦う為の装備ではない。
しかし、守る為にはこう言った装備が非常に有効になる。
足止め、または突っ込んで来た相手がそれ以上踏み込めない様にする装備。
それらをひたすらに作って貰った。
協力的なのは、主に被害にあった人達。
自らの娘が、奥さんが、家族が。
そう言って、それらの製作に集中してくれた。
俺達もソレに取り掛かりつつ、作戦会議を続けていく。
「総力戦に備える。今から巣を見つけて、潰すには時間が足りない」
「村の近くで総戦力を正面から潰す……それは、可能なのですか?」
妹は不安そうな表情で、そんな事を言って来る。
正面切って闘えるのは三人のみ。
確かに普通なら村人を避難させ、俺達も一時撤退。
その上で増援を求めるしか手はないのだが……それをすれば、戻った頃には村がゴブリンの巣と化している事だろう。
つまり命以外の全てを失う結果になってしまう。
「いざとなったら、“光の剣”を使う」
「本当ですか!?」
出来れば、使いたくない。
でも今回予想されるのは、ゴブリンの大群。
百以上の数になっているかもしれないのだ。
だったら、一挙に殲滅するにはコレしかない。
俺の大剣ではどうしたって正面火力にしかならないが、あの剣なら……。
一振りするだけで、範囲的な殲滅兵器に代わるのだから。
「あ、あの……こう言っては何ですが、その“光の剣”? とやらは村長さんの家に置いて来てしまったのでは? 手元にない武装に期待するのは、少々無謀と言うか……」
フィアさんだけは、不安そうな声を上げて来るが。
妹は自慢げに微笑みを浮かべ、彼女に向かってピンと指を立てた。
「良いですか、フィア先輩。アレは聖剣、または魔剣と呼ばれる程のモノです。そして兄さんを使用者に選んでいる。兄さんが捨てようとしても手元に戻って来る程の、ある種“呪われた武器”とも言える存在です。つまり、兄さんが必要だと思い描きさえすれば」
「この手に戻る……と言う事だ。ロッツォがあの剣の使用者に選ばれていれば、話は変わって来るが」
「あんな奴が使用者に認められる訳がありません! 兄さんがあの剣の所有者。それは間違いないです!」
ふんすっと自慢げに胸を張る妹。
昔からだが、剣の事になるとこうして饒舌になる癖……なかなか直らないな。
やれやれと首を振りながら、村人と一緒に迎撃用の武装を作っていれば。
「出戻りとは、追放って言葉の意味が分かってねぇのかよ? ダージュ」
背後から、そんな声が聞えて来た。
声だけで誰なのか分かった。
忘れもしない、この棘のある喋り方。
相変わらず、俺の事を嫌っているらしい。
まぁ腕を切り落とした相手など、許せるはずも無いか。
「……ロッツォ」
「気安く呼び捨てにしてんじゃねぇよ、犯罪者が。人の腕を切り落としておいて、未だのうのうと生き残りやがって」
振り返ってみれば、記憶にある彼より随分と逞しくなった姿が。
俺が切り落とした腕は義手に代わっていたが、それすら武器になりそうな見た目をしている。
「言うに事欠いて、それですか。貴方は何も成長していない様ですね、ロッツォ。どこまでも自らの立場に胡坐をかいて、誰よりも偉そうな態度を取る。村から出てしまえば“たかが”村長の息子と言うだけなのに」
分かりやすく不機嫌になった妹が、俺と彼の間に立ちはだかった。
昔から、この子とロッツォは仲が悪かったからな。
致し方ないとは思うが……。
「ミーシャ、お前も相変わらずだなぁ。でも随分と小洒落た格好をする様になったじゃないか。今からでも頭を下げれば、嫁に貰ってやっても良いぞ?」
なんか、ロッツォがおかしな事を言いだしたぞ?
嫁? 嫁にすると言ったのか?
だってお前は、ミーシャが嫌いでイジメていたんじゃないのか?
だというのに、何故そんな発想になる。
「お断りですね、貴方みたいな“たかが”村長の息子なんて。顔から声から態度まで、全て私の嫌いなタイプです。そもそも散々イジメ抜いた相手に、よくまぁそんな台詞が言えるものですね。頭大丈夫ですか?」
えらく攻撃的な妹の言葉を聞いて、ロッツォは……なんというか、ちょっとだけ怯んでいる?
チッと舌打ちを溢してから、再び此方を睨んで来た。
何故俺を睨む。
「生憎と、俺の肩書きはソレだけじゃなくなる。“光魔法”の適性有りと鑑定結果を受けた、しかも結構高位の鑑定術師にだぞ? だから――」
「だから、あの剣が使えると? 馬鹿じゃないですか? これまで剣を抜こうとした人にはそういう人が五万と居たんですよ? そもそも“適性有り”というのは、本当に言葉通りなんです。何の努力もしなければ、適性があっても光魔法が使えるようにはなりません」
「なっ!? うるさい! 俺が努力していないとでも言いたいのか!?」
「なら、今すぐ引っこ抜いて来たらどうですか? なんでこんな所で油を売っているのか理解しかねますね。そもそも光魔法の適性なら、私にもありますし。多少珍しい適性があると分かって浮かれている所悪いですが、貴方程度の才能なんて街に行けばそれこそ吐いて捨てる程居ますよ?」
「くっ! だが他の場所での事例を聞いて、親父が準備しているとも――」
もはや完全に口喧嘩になってしまった。
なんだか昔の光景を眺めているかのようだ。
このまま手を出したりすれば、その時は俺が仲裁に入らなければいけないだろうが。
相手も成長したのか、今のところ手を上げる様子は無い。
「剣を抜くには条件がある、親父はそう言っていた。つまり手順と方法さえ分かっていれば、間違いなく俺が――」
「村に訪れる危機的状況、その瞬間にこそ貴方は勇者の様な存在なれる。とか言われたんですか? はっ、馬鹿馬鹿しい。いい歳してそんな妄想ばかり、恥ずかしくないんですか? 街では貴方と同年代が、毎日勤勉に働いていますよ?」
完全にミーシャに論破されているロッツォが、ギリギリと拳を握り締めながら再び俺を睨んで来た。
いや、だからこっちを睨まれても。
でも実際、ミーシャの言っている事は事実だ。
今ロッツォがどういう仕事を担当しているのかは知らないが……まさかフラフラしている訳じゃないだろうな?
だとすればちょっと……こんな俺でも、少々痛々しいモノを見る感覚になってしまうのだが。
「あのロッツォって人、ミーシャの事が好きなんですね?」
「……え?」
隣で黙々と武装を作っていたフィアさんが、急にそんな事を言って来た。
どうしたらそんな発言が出て来るんだと言いたくなってしまったが、彼女は呆れたため息を溢してから。
「男の子が好きな子にちょっかい出すアレですよ。あの歳になってまで、というのはちょっと頂けませんけど」
「で、でも。ミーシャは昔ロッツォにイジメられて……」
「ソレしか関わり方を知らなかったんでしょうね、良くありますよ。ダージュさんはどうだったんですか? 子供の頃とか、好きな人とか居なかったんですか?」
もはや二人の事はどうでも良くなったのか、フィアさんがやけに期待の眼差しを此方に向けてくるのだが。
好きな子、というか好きな相手か。
そうだな……そもそも俺は人と喋るのが苦手だったから、あまりそういう経験はないのだが。
「村に居た、シスター……子供心に、憧れを抱いていた」
俺が口下手な影響もあって、そこまでお喋りしたという訳ではないが。
それでも、ちゃんと話を聞いてくれる人だった。
「おぉ! まさにっていう感じですね! 優しいお姉さんシスターに憧れていたと! その人は今どこに!?」
「いや……その、俺が追放される前に村を出てしまったが……忙しい人、というか。本来は偉い立場の人だった、みたいだ」
やけにぐいぐい来るフィアさんから身を引きつつ、視線を逸らしてみせたのだが。
その先に、ジト目の妹が待っていた。
「兄さん、その話……初耳です。ホレていたんですか? シスターに。好きだったんですか? 確かに綺麗な人でしたもんね。それならそうと、私に教えてくれれば協力だってしましたよ」
「いや、その……別に。話すような事でもない、というか。ホレた何だの話じゃない、憧れだっただけだ」
いつの間にコッチに戻って来たのか、ロッツォの相手はもう良いのか。
そんな疑問を持ちながら、彼の方へと視線を向けてみると。
多分、会話の途中で放置されたのだろう。
何やら中途半端にパクパクしながらミーシャを見つめているロッツォの姿が。
そして。
「フ、フン! あの剣を使うのは俺だ! 見てろよ、ダージュ!」
それだけ言って、背中を向けられてしまった。
流石にコレはちょっと可愛そうというか、アレだ。
捨て台詞って、初めて聞いた。
とはいえ、彼の片腕を見ると……どうしても、謝罪の言葉が浮かんでしまうのだ。
今回は、言い逃してしまったが。
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