第17話 始まったら終わった


 大広間に走り込んでみれば、今まで大人しかったゴーレムたちが皆揃って動き始める。

 数も多い為、思わずその場で脚を止めて警戒しそうになってしまうが。


「ダージュ! 小さいのに構うな! アイツ等でも対処出来る!」


「……わかった」


 イーサンの声を信じ、俺達二人だけは一番大型の元へ。

 相手の正面まで到着すると、大きな個体がゆっくりと動き出し……。


「なん、だろうか? ……モグラ?」


「いやアルマジロという生物に近いな、他国で見た事がある。特に背中が固……いや、コイツの場合は全身が固そうだが」


 丸まっていた物体が頭を上げたかと思えば、おかしな生物を象った巨像。

 何やら似た生物がいるらしいが、俺は初めて見た。

 まぁ、全身が岩で出来ているので良くわからないが。

 あまり動きが速そうには見えない。


「さてダージュ、どうする? ゴーレムと言えば魔法か打撃、剣で挑めばすぐさま刃が零れるが」


「問題、ない」


 彼の言葉通り魔法を使うか、ハンマーなどの打撃。

 もしくはゴーレムの核となっている部分を探し出し取り除く、などが一般的な対処法。

 しかしコレだけ大きいと、流石に手間がかかるだろう。

 なんたって、俺やイーサンでも見上げる程大きいのだから。

 チラッと後ろへ視線を送ってみると、騎士団の皆様方は順当にゴーレムを対処している。

 ならば、俺達はコッチに集中して良さそうだ。


「先手を、もらう」


「どうぞ? ご自由に。期待しているぞ」


 やけに余裕の態度で、イーサンはそんな事を言いながら武器に魔法を付与している。

 いいなぁ、俺もあぁいう事が出来ればもっと簡単に倒せるのに。

 とはいえ今更泣き事を言っても仕方ないので。


「フンッ!」


 ゆっくりと動き出した巨像の前足、その関節部分に大剣の切っ先を突っ込んだ。

 そのまま大剣の腹を使って、力任せに引き剥がしてみれば。


「てこ……お前は、本当にそんな戦い方ばかりだな。疲れないか?」


 後ろから呆れた様な声が聞こえてくるが。

 バガンッと派手な音を立てて、相手の結合部が一つ外れた。

 魔力的な力でくっ付いた岩と岩、ただそれだけなのだ。

 だったら、外せない事は無い。

 魔法と言うモノは強力だが、“絶対”ではないのだから。


「俺には、これしか出来ないから……」


「いや、ソレが出来るだけで十分だと思うがな」


 そう言って飛び出して来たイーサンが、魔法付与された長剣を振り抜いてみれば。

 彼の方はスパッと綺麗に相手の身体を切断している。

 後ろの皆もそうだが、やはり騎士団というのは魔法の適性が高い人間ばかりだ。

 つまり、エリートの集まり。

 やはり俺は、彼等の様にはなれそうにない。


「固いな……度々付与を掛け直す必要がありそうだ。ダージュ、悪いが頼るぞ」


「……あぁ、問題ない」


 魔法に詳しくない俺でもそれくらいは知っている、アレ等は一つ一つの発動に多少時間が掛かるのだ。

 だからこそ、その時間を作るのが物理前衛の務め。

 俺みたいに武器を振り回すしか能の無い人間は、囮と盾、そして攻撃を一挙に担当する。

 あぁ、何かすごく久しぶりだ。

 こうしてちゃんと連携が取れて、“役に立っている”と思える戦闘は。

 フィアさんの時は、俺が出しゃばり過ぎてしまったからな。

 と言う事で此方も気分が高揚し、相手の首目掛けて大剣をブッ刺した。

 正確に言えば、岩と岩の間に切っ先を突っ込んだだけだが。


「随分と、遅い……な」


 フンッ! という掛け声と共にもう一度力を入れ、てこの原理で岩を引き剥がしてみると。

 俺の背後に、相手のデカイ首が落下してくる。

 しかし相手はゴーレム、頭を外した所で動かなくなるわけではない。

 そう思って、再び大剣を構えてみたが。


「……うん?」


 残った身体の方が、ガラガラと崩れていくではないか。

 あれ? てっきりまだまだ戦闘が続くと思っていたのだが……おかしいな、核が頭にあったのか?

 慌てて振り返ってみれば、残った頭を輪切りにしているイーサンの姿が。

 すると周囲のゴーレムたちも動きを止め、ボスと同じ様に崩壊してく。


「お前と組むと、こんな事ばかりだな。何事も呆気なさ過ぎて、部下の訓練にならん」


 呆れた声を上げつつも、満足そうな表情で武器を収めるイーサン。

 そして後ろの皆も、安堵した様子で武器を収めていくのであった。

 まぁ、ダンジョン産のゴーレムだし。

 ボスが居なくなれば、取り巻きも消滅するのか。

 こういう事も、ままある事なのは分かっているが。


「……弱かった」


「お前が言っても、説得力が無いが? 普通ならもっと苦戦する相手だ」


 そんな言葉を頂きながら、俺達はさっさと帰路に着くのであった。

 ダンジョンのボス、なんて言えばもっと大変なモノなのだが……まぁ、今回は騎士団と一緒だった訳だからな。

 周りが優秀だと、こういう事もあるのだろう。


 ※※※


「ダージュさん!」


 仕事も終わり、騎士団の宿舎から出ようと足を進めていた所。

 急にダリアナさんの声が聞こえ、そちらに視線を向けてみると。


「今回は、本当にありがとうございました。お陰で、皆怪我一つ無くダンジョンというモノを知る事が出来ました」


 彼女だけではなく、今回同行したメンバー全員が慌てて駆け付け。

 整列した後、俺に向かって敬礼していた。

 えぇと……凄いな。

 まるで俺が偉くなったかと勘違いしてしまいそうな光景だ。


「……いや、その。俺は、何も」


「まぁ、そう言うだろうとは思っていましたが。しかし勉強になりました、そして我々がまだまだ未熟だと言う事も、思い知らされました」


 別にそんな事はないと思うんだが……と反論したかったが、誰も彼も笑顔を此方に向けている。

 皆の表情を見て、思わず変な言い訳は引っ込めた。

 最初はアレだけ睨まれていたのに、今ではこうして笑って見送ってくれるのだから。

 なら、良いか。


「それで……ダージュさん、貴方さえよろしければ我が騎士団に入団――」


「……すまない」


 続く彼女の言葉を、間髪入れずお断りしてしまった。

 不味い、イーサンの時の癖が出た。

 とはいえ俺自身騎士団に所属出来るとは思っていないので、お断りするしかないのだが。

 それでも即お断りするのは、会話として非常によろしくない。


「そうですか……残念です。ですが、いつでも遊びに来て下さいね。貴方なら、大歓迎ですから。今度、稽古を付けて下さい」


「それくらいなら、まぁ……」


「約束ですよ? それでは……改めて。冒険者ダージュ殿に、敬礼!」


 彼女の声と共に、ザッ! という音を立てて、皆が揃った動作で敬礼してくれた。

 やっぱ、騎士団って凄い。

 俺も、こういう恰好良い存在になれたら良いのだが……無理だなぁ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る